第2章海の民の生き方part3
今までとは違う生活が始まった。
アリアとティアラは今まで通り雷の勇者捜索だが、俺は主にワイズファミリーの抗争手伝いである。
本当になにしてるんでしょう、最近の僕・・・
「ひいいいいいいっ!」
「何で黒さんがここに来てんだよおっ!??」
「目を合わせるだけで呪いかけられるぞ!」
「・・・・・・・」
しかも抗争に顔を出すだけで、勝手に相手が降参するんだが。
ワイズファミリーやドンジョルノファミリーが余程面白おかしく俺の話を広めてくれたのだろう。
マフィア間では黒さんが顔を出した戦場では必ず敵対した構成員が全滅するとかいう噂まであるらしい。
いや、俺どんだけだよ。
「こういう戦いは気が抜けるでござるな・・・」
「そりゃあな」
海民連合の実質的な権力者になりつつあるワイズファミリーと龍人の郷は俺を仲立ちにした同盟関係を結んだらしい。
ワイズファミリーは海民連合内での手厚い待遇を『商業7条』に準ずる効力を持つ魔法契約を用いてまで誓い、龍人の郷としては斬龍がわざわざ顔を出すくらいの戦力の協力を約束する。
普通はこんな利害も報酬も無視した同盟なんて有り得ないのだが、俺が生きている限りは絶対にこの関係を続けていきたいとリアンは豪語していた。
「せっかく久しぶりの戦場でござるのに・・・・」
「ワイズファミリーとしては顔だけ見せてくれればそれでいいらしいし甘えさせてもらおうぜ?」
斬龍としては少し不満のようだが、今の所ワイズファミリーと龍人の郷の関係は良好といっていい。
「黒の兄貴ぃ!こいつ等、降伏してきたんですがどうしますか!?」
「・・・・え、好きにして?」
「分かりました!縛ったままライキンポートの海に沈めてきます!」
「ちょっと待てえええええっ!?」
とまあ、こんな感じで基本的は毎日血なまぐさい。
ワイズファミリーの抗争やら何やらを手伝ってその代りに情報収集するだけ簡単な話だったはずなのに、毎日SAN値が削られそうな毎日である。
「お疲れ様です、黒の兄貴!斬龍の兄貴!」
「「「「「「「「「お疲れしゃっす!」」」」」」」」
「・・・ども」
マフィアのくせに堂々と表通りに構えたワイズファミリー本部。
今日頼まれた仕事は全て終わったので、今日は帰ると連絡を入れに来たのだった。
一斉に礼をする魚人の若い衆たちに、礼を返す。
「黒の兄貴!斬龍の兄貴!リアンの兄貴はこちらです!」
「あ、はい」
明らかに年上の人に兄貴呼ばわりされるのも慣れたものだ。
屋敷の中ではなく案内されたのは庭。
プールが設置され、大きなテーブルには食物が大量に並んでいた。
リアンは俺達を見るなり相変わらずの平身低頭である。
「どうも黒の兄貴、斬龍の兄貴!日頃の感謝を込めてささやかながらの晩餐を企画させていただきました!」
「ほう、、、酒はあるでござるかな?」
「勿論上物を用意させていただいてます!」
「では甘えさせてもらうでござる、サクラはどうするでござるか?」
「ああ、、、アリア達が待ってるかも・・・」
「こちらから連絡を通すことも出来ますが?」
「甘えるべきでござるよ、サクラ・・・美味そうでござるし」
斬龍の眼線既に食事にロックオンしている。
・・・・・・・まあ、確かに美味そうだ。
どれもこれもが胃を強烈に揺さぶる良い香りだ。
「じゃあ、俺もお言葉に甘えて」
「うす!」
「何飲みます!?」
「じゃあ、果汁水を」
「拙者は適当な地酒を」
わざわざリアンが注ぎに来てくれる。
どうやら三人だけの晩餐らしい。
ご苦労なことだと思いつつ、グラスを受け取った。
「「「乾杯」」」
すっと喉にとおった。
強い飲みごたえなのに、味はスポーツドリンクのような甘さで少し酸っぱい・・・ああ、これ飲んだことあるな。
斬龍と一緒に早速飲み比べを始めていたリアンがニヤッとこっちを見ていた。
「たしか、タンドリーチキンと一緒に飲む奴だったっけ?」
「美味いでしょう?マッテルニっていう果実を蜂蜜水につけたやつなんですけど、それの上物が入ったんすよ!」
「たしか、、、ハニーマッティって奴だったよな?・・・これとならタンドリーチキンと一緒に食えそうだ」
「せっかくだしどうですか?」
自家製なんすよ実はと皿に切り分けられたタンドリーチキンを差し出される。
いつもは敬遠するのだが、、、、脂の滴り、香草の香り・・・涎が出る。
初めて食った奴とはランクが二つ三つは違う肉を使っていることが素人目でも分かる。
ああ、、、、、食ってみようかと思えるくらい美味そうだ。
「いただきます!」
口に含んだ瞬間、ビリビリっと強い辛みが口をノックする。
しかしハニーマッティで整えられた舌はじわじわとそれを旨みに変えてくれる。
うん、、、、うまっ!!
辛さが旨みに変わるだけでこんなに旨く感じるものか!?
口中に溢れる脂にまで幸福感を感じてしまう。
タンドリーチキンは今まで罰ゲーム感覚だったけどこれからは変わるかも・・・
もちろん揃えられたタンドリーチキンもハニーマッティも一流のコックが調和を考えて用意したからこそだと思うけど・・・
「いつもこんなに旨いもの食えるのか、マフィアって職業は・・・」
「転職を本気で考えるところでござるな・・・」
「はっはっは!まさかぁ、黒さんに斬龍さんが来るから用意したにきまってるじゃないですか!これでも用意に結構金かかってるんですよ?」
酒がまわってきたのか、リアンは少し砕けた話し方になっている。
飲み比べしている斬龍が平気な顔でタンドリーチキンをつついているから、少し無理して龍のペースに付き合ったせいだろう。
だというのに彼は酔い覚ましとばかりに酸味の強そうな果実にそのままかじりつき、もう一杯と言い出す。
「おおっ、いい飲みっぷりでござる!」
「キキキ、、、もう一杯ご一緒します!」
「ハハハッ、楽しいでござるなあ!」
酔ってるくせに、とことん飲むようだ。
大人の付き合いって奴は大変なのなと思いながら、ハニーマッティを口に含む。
日本から持ってきてしまった習慣だが酒は、中級冒険者昇格の祝い以降は飲んでない。
酒を飲まないのは考えてみれば当たり前のことだが、酔っ払って楽しそうにしている二人を見てると少し寂しく感じる。
「ふう・・・」
「お注ぎします」
「ああ、あんがと・・・っておお!?」
いつの間にか露出度の高い踊り娘の服装をした少女が俺のグラスにハニーマッティを注いでくれていた。
思わず胸元や腰に目線がいってしまうのを必死で耐える。
それがおどおどしてるようにでも見えたのか、少女はくすっと笑った。
「すいません、急にお声をおかけしてしまい。私、人魚のパンドラと申します。」
「・・・・・・人魚?」
流れるような金の髪に、美少女を見慣れた俺ですら一瞬引きつけられるような容姿。
確かに人魚に見間違われるかもしれないが・・・・・色白のきれいな脚がついてるじゃないかと思わず首をかしげてしまう。
「自由に変化できるのです。」
「へえ」
なるほど。
「てか、どうしてここに?」
「今日は歌い手としてリアン様にお呼びいただいたのです。」
「・・・・・いつの間に」
ほらと彼女の視線を追いかけると、プールの中央に少しずつ水のように流動するステージが作られ始めていた。
パンドラと同じく人魚たちが音楽器をチューニングしていた。
音楽団的な、、、、感じかな?
人魚を見るのは初めてだが、屈強な船乗りたちが里心ついてしまうくらい素晴らしい歌声を奏でるとは聞いている。
「まだ準備がかかりますのでそれまで有名な黒様とこの機会にお話ししたいと思いまして」
「あ、、、ども」
酒も飲まずに手持無沙汰なのを気を使われたのかもしれない。
・・・・・・・とはいえ話す話題がすぐに見つかるというわけでもない。
「あ~なんか食います?」
「いいんですか!?じゃあご一緒にいただきます!」
そういって彼女はタンドリーチキンを皿にとって持ってきた。
ブルーハワイのような淡い青のカクテルも持ってきてはいるが、俺みたいにハニーマッティなんか持ってない。
「喉痛めませんか?」
「人魚の喉は龍並に頑丈ですから。それに私は海民連合育ちですからこれくらいの辛い物を食べた後のほうが調子がいいんです」
「へえ、、、すげえ。」
「じゃあ、いただきます」
「あ、はい」
グラス二つが合わさり、カツンと鳴った。
「わあ、こんなに美味しいタンドリーチキンは初めて!」
「本当にそのままで食えるんすね・・・」
言葉の通り、彼女は実に美味しそうにタンドリーチキンを食べ始める。
スカイみたくガツガツっと味も気にせず食べるのではなく、しっかりと味をかみしめて。
辛い物の旨みを知ったばかりの俺としてはすげえと思うばかりである。
「そんなに驚いた顔で見つめられると照れちゃいますよ、黒様!」
「・・・てか、黒様とか呼ばなくても大丈夫っすよ」
「そうはいきません、黒様に対して」
そもそも黒さんってのは悪口に近い気もするんだが、、、彼女はそこは譲れないと首を振る。
そんな彼女の眼にはマフィア共同様、俺への尊敬が垣間見える。
「・・・・・・・そんなに褒められたことはしてないっすよ?パンドラさんみたいな美人に様付けされるようなことはした覚えが一切ないし」
「・・・・・・・・・・・だからですよ」
「へ?」
「パンドラ!」
「いけない、そろそろ行かなくちゃ!」
聞き返そうとしたら、彼女は音楽団に呼ばれたのか立ち上がる。
喉を整えるためか、景気づけか、、、ぐっとカクテルを飲み干すと俺に笑いかけて来る。
「聞いていてくださいね?」
「あ、、、はい」
約束ですよと一言残して彼女は慣れた足取りで駆けていきプールに飛び込む。
いつか夢に見たかのような人魚が、水中から飛び出した。
「美人だろ、黒さん」
「・・・・ああ」
斬龍が丁度厠にでもたったのか、酒臭い雰囲気をまとったリアンが俺の横に座った。
くいっとグラスを傾けながら、リアンはニヤニヤしている。
「俺もそうだが、彼女も黒さんが救った一人なんだぜ?」
「え、、、、俺のキ、キチガイな行動で?」
「いやあ、寧ろ褒められた行動でだよ」
「・・・・・・想像もつかんわ」
「キキキ、、、ドンジョルノファミリーの財産を没収した後、持ち主が分かるものは奪われた人に返してっただろ?」
「ああ、、、、そんなこともしたっけ」
再起不能にするために家財道具纏めて奪ったのはいいが金に困ってるわけでもないし、借金の証文から奴隷までと処分に困るものも多かった。
だからどうせ人から無理矢理奪ったものだろうと持ち主がはっきりと分かるものは返却していったんだ。
それでもあまりにも額が大きすぎるし、返す人も多いから作業自体は信頼できる公営ギルドの職員に委託したままだった。
それでも持ち主の分からない金や財産は公営ギルドの発展にと寄付することになり、借金の証文に関しては全て白紙にすると看板を設置する羽目になったりと余計な手間がかかったなあ・・・・
「あの娘の父親は友人に騙されてとんでもなく悪質な高利を掛けられた借金の証文に判を押しちまってな?もう少しでドンジョルノのボスに身売りされるところだった。」
「・・・・・・・」
「けども黒さんがドンジョルノファミリーを潰し、借金の証文を白紙にしてくれたことで今日もあの娘は笑えるってわけさ」
「・・・・・・・・・本当にそんなつもり一切なかったんだ」
「いや、、、、尊敬するさ。誰もが出来ることじゃない・・・・行動することも・・・・自分の利益を無視して人の為に動けるところも・・・・・・俺達は・・・・そな・・・とこ・・・に」
言いたいことを言い逃げするかのように・・・言い返す間もなくすうと眠ってしまった。
椅子にぐだあっと倒れるように眠ってしまっている。
酔い過ぎだってのとため息をつき、グラスに手を付けた。
アラン達が俺を尊敬するのはマフィアとしての理想の姿を見ただけじゃなかったのか・・・・
でも俺のこの考え方は・・・・・主人公というよりは当たり前のことをしただけでここまで尊敬されるほどじゃあないんだよな。
俺だって戦士としての力量も、経済的な余裕も、その両方がなければ同じことが出来たか・・・そして実際にそうしたかは分からないし。
「眠ったでござるか?」
「お、戻って来たのか?」
「気を遣わせてしまってるようだったでござるしな」
自分に合わせて飲んでくれてるの気づいていたらしい。
斬龍は呑み直しとばかりに大瓶を担いで来ていた。
「いやあ、、、それにしても良い宴でござるなあ。主催者の心意気が良く現れているでござる」
「そな」
斬龍が席に着くのを待っていたのか、弦楽器が静かに音を奏で始めた。
「おっ、音まで用意されているのでござるか?」
「歌い手までいるらしいぜ」
「それは楽しみでござるな、、、龍人の郷ではあまり音楽は発達しておらぬゆえ」
海民連合の住人、、、海の民となるのだ。
いやでも龍人の郷も音楽が流行っていくだろう。
屋敷に響き渡る、この音のように。
住民達の陽気な気風も、清濁併せもったかのような音の重厚さも備えた立派な音が必ず。
海の民が住む街、、、私達はここで陽気に暮らしている。
あなた方を歓迎しますそう言われているかのような曲が鳴り響く。
そしてパンドラが音が終わりに近づくにつれてステージの中心へと近づいていった。
その足取りに合わせ曲調が一気に変化する。
さっきまでは和やかな音だったのに、心を掻きたてるかのような早い曲調に。
なのに少し悲しい音に。
彼女はその音楽に身を揺らしながら、、、息を大きく吸い込む。
そして彼女の声を響かせた。
ああ愛しき人よ、私はここで歌います。
旅人のあなたよ、私の心を奪ったあなたよ。
私はここで歌っています。
私の元を旅立つあなたを見送る私は笑っていましたか?
自分ではよく分かりませんでした。
あなたの瞳を見ることが出来ないくらい、悲しかったから。
今どこにいるの?
あなたを待ち、歌う私のこの声は今にも掠れて消えてしまいそう。
外は寒く、あなたの肌が恋しい。
あなたはどうですか?
私を想っていてくれていましたか?
もし想ってあの時去ったなら何故帰ってきてくれないの?
もし愛してくれていたのなら何故私の側にいてくれなかったの?
何故、、、私に期待をさせるようなことをしたの?
分かってた、本当は分かってた。
それがあなたの優しさだったって。
それでも私はあなたが好きだった。
嘘でも抱きしめてくれた
ああ愛しき人よ、私はここで歌います。
旅人のあなたよ、私の心を奪ったあなたよ。
私はここで歌っています。
「「・・・・・・・・・・」」
短い歌だった。
けども歌に吸い込まれていた。
彼女の歌声が見事すぎて、、、、曲に歌詞に余りにも心が惹きつけられて。
たった一人の歌い手に世界が塗り替えられるかのような衝撃を受けてしまっていた。
斬龍が気を取り戻したかのように手を叩く。
俺も斬龍に負けじと必死で拍手を送った。
パンドラは俺達の様子を照れた笑顔で受け、、、ぺこりと一礼した。
外から彼女の歌を聞きつけてファミリーの人間たちが集まって来た。
そして何曲ものアンコール。
いつの間にかリアンまで目を覚まし、騒がしい宴会になってしまった。
下手くそな男だらけの大合唱に斬龍と呑みに自信のある男たちとの呑み比べ。
挙句の果てには模擬戦まで、、、斬龍がそれならばと俺を探すものだからこっそり逃げ出したのだった。
「たく、、、酔っ払いどもめ」
「やっぱりここにいたんですね、黒様」
「!?、、、、パンドラか」
「ふふっ!」
宴会から抜け出て、人目のつかない場所に木陰に隠れたはずだった。
なのにパンドラにすぐに見つかってしまった。
まさか連れ戻すつもりかと思ったが、彼女は俺の横にちょこんと座るだけだった。
酔っているのか、、、ツンとした匂いがした。
けども表情は柔らかかった。
「どうでした、、、私の歌は?」
「すげえ良かったよ、、、特に最初の恋の歌。胸が凄く締め付けられた。」
「あれは悲恋の歌なんです」
「どんな情景だったんだ?」
「さあ、、、、地域に歌だけ伝わってるものなので詳しくは・・・・だから想像することにしてるんです」
月明かりが木陰を掻き分けて彼女の笑みを照らす。
人魚だからか、彼女の歌を聞いたからか、、、一層彼女を綺麗だと思ってしまっていた。
「歌う時は出来る限り自分と同じ状況を想像するようにしてるんです。出来る限り自分の本当の心を込められるように。」
「・・・・・・・・・・・・どんな状況なんだ?」
「好きな人がいた、、、けどもその人の隣にはもうその人にふさわしい人がいた。けども諦められなくて、、、その人に告白してしまう。結局恋は成就せず、、、その人とは二度と会うことがなかった。けども彼女はその人を想って歌を歌い続ける・・そんな感じです。」
「・・・・・・・そっか」
答えなかった。
詳しく聞かなかった。
聞いたら俺は優しくしてしまうから。
無責任なことを言って、、、無責任なことをしてしまうだろうから。
「そろそろ、、、戻る」
「・・・・・私はもう少し涼んでます」
「・・・・ああ」
ざわざわと騒がしい場所へと脚を進める。
振り返らなかった。
優しくすることは逆に彼女を傷付けるから。
海の民はメソメソと泣きはしない。
高潔で、、、強いから。
追いすがったりなんてしない。
どんな時でもプラス思考で
明るい笑顔を心掛ける
明るい言葉をかけてくれる
それは彼女も同様だった。
「また・・・・うた・・・きいてくれますか?」
「・・・・・おう」
でもせめて、、、それくらいの約束はしてあげたかった。
それから二週間。
海は青いままだった。
もう一度話すとかそんなことも出来ないまま、彼女が所属する楽団は新たな街へと行ってしまった。
それで良かったのかもしれない。
あの綺麗な声を聴くたびに、、、顔を見るたびに、、、俺は好きだと心から宣言した彼女達を裏切ってしまうだろうから。
「・・・・・・・・・・・」
「どうしたんですか、サクラ?」
「なんも・・・・俺は幸せだなと思ってな」
「変なサクラ」
「ここ2週間ズット、、、、てかイツも変ダよ」
「・・・・・・・・・・・」
「サクラが言い返さないなんて(ぼそぼそ)」
「悪いものデも食べタンじゃない?(ぼそぼそ)」
久しぶりに抗争がないということで、捜索の方に手を回していた。
雲を飛ばしつつ、帝国を探る。
集中はしているし寧ろいつもより効率が上がってる。
なのに頭の片隅で、、、いまさらどうしようもないことを考えてしまっていた。
「・・・・・・・はあ」
「サクラ、、、、大丈夫ですか?」
「・・・・・・・・・・・はあ」
「もう手遅れですね・・・・マフィアと過ごしたせいで精神が摩耗したとか(ぼそぼそ)」
「元々マフィア寄りだったでしょ?(ぼそぼそ)」
さっきから聞こえてっからなそこの師妹よ。
でも、怒る気になれないのはアリアに対しての若干の後ろめたさがあるからだろう。
過ちを犯してないとはいえ、、、揺れてしまったことを。
「・・・・・・・・・・」
ベランダでぼうっとしてしまう頬に潮の香りがする生温い風が当たり、、、後ろへと流れていった。
この風を、、、どんな気持ちで彼女は感じているのだろうか?
そしてどんな歌を歌っているのだろうか?
前途ある彼女には、、、、海の民に似合う明るい歌を歌っていてほしいと思う。
「黒の兄貴!大変だ!」
この甘酸っぱい感情はいずれは掠れて消えてしまうだろうが、優しい記憶の一つになるのだろうと思っていた。
優しい記憶の一つとして俺の中に積み重ねられ、、、薄れていくものだとも。
そしていつまでも彼女は幸せな歌を奏で続けると。
けれども、、、、、俺のそんな細やかな、、、、そんな小さな願いは叶わなかった。
数日前に雷の勇者による凶行があった。
そしてその街でパンドラのいる楽団が講演をしていた。
街にいた者全員が雷で消し炭にされたと・・・リアンの口から聞かされた。
自分の中で結論もつかないまま、俺の知らないところで全て終わってしまっていたのだった。
すぐに現場へ向かった。
そこは・・・・・・地獄だった。
アリアはトラウマを思いだし吐き出した。
ティアラは泣きだした。
俺は、、、、、何故か頭が冴えわたってしまった。
ここで感情をぶらせば、自分が何か恐ろしいモノになってしまうと分かってしまっていた。
こんな時、、、桜と相談できれば、、、、少しはマシだったかもしれないが、、、、こんな時に限って桜と話すことは出来ない。
それどころかアリアとティアラという守るべき者が側にいた。
大切な者を失う怖さを知った俺は、、、、二度とこの気持ちを味わうまいと怯えていたからこそかもしれない。
俺は冷静に『曇感知≪サーチ≫』を広げたが、、、、雷の勇者は地上にいなかった。
全力で広げた黒雲の網は、、、、雷の勇者が近辺にいないと示していた。
海でも渡ったか?
空にでも住んでいるのか?
いくら考えても答えは得れなかった。
ワイズファミリーが近辺の調査を念入りに行う中、、、その理由は遅くはなったが判明した。
雷の勇者の最新の虐殺が行われた日、、、近くに浮遊都市が物資補給の為に地に降りていたと。
雷の勇者がそこに向かったかは分からないが・・・・・・可能性は十分にあった。
それぞれが気持ちの整理のつかぬまま、、、俺達は空へと
空を飛ぶ『暗黙』の中立地帯、ミリュシオン魔術学院に向かうことになった。
「・・・・・・・・」
一人、彼女の墓前の前に立っていた。
そして大きく息を吸って、、、彼女の歌を歌ってみた。
彼女の気持ちが少しでも分かるんじゃないかと。
けども何一つ感じ取れることはできなかったし、あの時傷つけてしまったであろう彼女の心の痛みを少しでも胸に残すことは出来なかった。
「・・・・・・・・やっぱ気持ちには応えられない」
墓前にかける言葉では無いことは重々承知していた。
けども
言わずにはいられなかった。
「その代り雷の勇者は地獄に引きづりこむ、、、、絶対に仇は討つ」
海が泣いているのか、、、、ポツリポツリと雨が降り始めた。
「後、、、下手くそな歌でごめん。安らかに・・・・・眠ってくれ」
お蔭で視界がはっきりしねえよ、ちくしょう。




