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異世界でもう一人の俺が暴れすぎてキチガ○と呼ばれている件について  作者: 浅き夢見む氏
第六部:この種の名は咲いて花になるまで分からない<雷の勇者編>
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第1章君が隣にいることは幸せと呼べることpart1

『海民連合』

大陸のほぼ南端にある水棲種族が主な人口を占める国だ

海に接する場所が多いせいか空気が少し粘るように感じ潮の香りが強い。

一番大きな特徴だが大陸全体の気候はもう冬だがこの地域は『南国の楽園』と称されるほど年中海水浴を楽しめるほど暖かい。

そんな国で何をしてるかという話だが、、、、


人気のない海岸。

白い雲で造られたパラソルと机。

美少女二人に見守られながら、半袖半ズボンの俺は魔力を手の平に集める。

そして


「『曇感知≪サーチ≫』」


・・・・・・基礎の『曇の網≪ネット≫』を含めてこの系統の魔術を何回使ったことだろう。

周囲の動きを五感以上の精度と広さで把握してくれるので普段から使用している魔術だが、人探しの為にこんなに何度も使わされる羽目になるとは。


黒雲を薄めて無色の色に弱めてから遠くへ遠くへと飛ばす。

目的地は帝国。

一気に大量の情報を脳に詰め込んでくらくらしながら、地図に『見つからず』と記していく。

同じ机ではぐったりした様子のティアラとちうちうジュースを口に運んでいるアリアの姿が。

ちなみにティアラとアリアはお揃いのワンピースを着ていて羨ましい。


「なあなあアリアさんやい」

「何ですか?」

「帝国の中に雷の勇者が潜んでないかを探るのは分かる」

「はい」

「でも、思うんだよね・・・・」

「何がですか?」

「こんだけ広いこの国をしらみつぶしに人探しってやっぱ無理じゃね!?」


人口いくらだと思ってるんだ、馬鹿野郎!

てか、今まで大人しく従ってきた俺のBAKA!

しかもわざわっざ海民連合から帝国に向けて、しっかも無色の雲にしてから飛ばすせいで物凄く効率が悪い!

アリアはそんな俺の文句を聞いてため息をついた。


「はあ、、、元はといえばあなたのせいでしょう・・・黒雲を見るだけで今あそこの国は大パニックになるんですから・・・」

「う゛っ・・・・・」


俺が『曇脈展開Typeγ(ガンマ)』で大暴れしたことによって何が起きたかは、帝国をしらみつぶしに探っている俺が一番分かっている。

あれしか手段がなかったことも、守れたものもあることも知ってるし、、、後悔はしていない。

・・・・・・・・・・・・これ以上考えるのは止めよう。



「・・・・けどさあ」


俺は地図に目を落とす。

帝国の隅から隅まで雷の勇者の潜伏先を探っていくのだが、三人の曇の魔術師が参勤交代のごとく朝から晩まで網を張りまくっているというのに未だに帝国の十分の一も捜索は終わっていない。

帝国全部捜索終わるまで何日かかることやら・・・

アリアも眉をしかめ同じことを考えたのだろう、それでも・・・と彼女は強い目で俺を見かえしてきた。


「雷の勇者が国外へ逃亡したという情報が無い限り、今はこうするしかないんです。」

「・・・・・・・・分かったよ」


アリアに言われなくてもこうするしか手がかりがないことは分かってはいるが、、、かなり無茶だ。

最初のころは文句を言いでもすれば『じゃあ、手伝わなくテいいヨ!』とかいう余裕があったはずの桃色髪の妹弟子は無茶して魔力を切らしグダっと机に伏せているくらいだし。

アリアも表面上は疲れを見せてはいないが元々魔力量の少ない彼女のこと、かなりつらいはずだ。


こういう時こそ魔力バイパス持ちの俺の出番のはずなのだが、、、、最近桜とのバイパスが不調で全然機能していない。

俺の魔力は暴走魔力をふんだんに含んでるので作業には困ってないけども、、、、何か変なことが起こってないといいが。

本当ならすぐにでも何が起こってるか調べたい。

しかしなあ、、、よっぽどまずい状況下ならツバキか王国の誰かが連絡を寄越してくれるはずだし、、、魔力が人よりも多い俺がここを離れるとこの二人が酷い無茶しそうで怖いし・・・今はどうにもできないのが現状だ。


「・・・今日のノルマはどこまでだったっけ?」

「そうですね、、、、取り敢えずはここまで」


指さされた地点を確認する・・・・・なんだ、あと少しじゃないか。

アリアと喋って疲労感も紛れたし、、、最後まで出しつくすか。


「『曇感知≪サーチ≫』」


手の平に創造された核に自然魔力が纏わりつく。

ここに来て季節が一巡した。

黒雲を出すのにも慣れたものだ。






上級クエストを合間合間にこなしてるおかげで、金銭面にはそれほど困っていない。

ほぼ南国の気候で観光地になる港湾観光都市ライキンポート。

そこで一等級の宿屋に泊れるくらいには経済的に余裕がある。


「あ゛あ゛あ゛っ!ジュース飽きた、水飽きた!」

「茶を飲めばどうですか?・・・それともまだ飲めないんですか、、、子供舌は直した方がいいですよ?」

「緑茶が呑みたい・・・カテキンを俺は欲しているんだ。」

「ふウん、兄弟子のそれはモう病気ダネ」


ニ、三日のうちは出される食事の美味さだとか、外から見える絶景だとか、ベッドの柔らかさだとか楽しんでいたがなんかもう慣れてしまった・・・贅沢って恐ろしい。

美味い料理も飲み物も飽きて米と緑茶を体が欲している。


「異世界に来てそろそろ一年たつけど本当に緑茶ないんだな・・・・ここも」

「また訳の分からないことを・・・・」


今日の作業は終了として、三人で食事をとっていた。

話す内容も人に聞かれると少し不味いので貸し切りで場所を取っていた。

最後の方は俺が終わらせたお蔭か二人とも体力が回復し、顔色が良くなっていた。


夕食はほぼ終わりかけで、二人の女性陣の為に大量の氷菓やパフェっぽいものが並べられていた。

アリアもティアラも嬉しそうにそれを摘まんでいる。

目が飛び出す値段のそれらだが、彼女達の食べてる様子は頬が緩む。

俺も少し摘まんでいたが、今は本を読んでいた。


「あ、ティアラ!それ後で食べようと思ってたのに!」

「へへへっ!早い者勝チだよ、師匠!」

「もぉ~~~~!」


ああ、、、和む。

お父さんにでもなった気分だ・・・・

ティアラの執拗な監視のせいでアリアとはイチャイチャゼロだけど、こういうのも悪くない。

・・・・それに今更恋人みたいな付き合いは心臓がもたない。


トクン


それに心臓が跳ねすぎるとシノンに感づかれそうだ。

浮気してるな、あの野郎って・・・・・

俺の魔力を吸って起動している『心合わせて』は今日も正常通り彼女の鼓動を届けてくれる。

ずっと着けているせいか彼女が何をしてるかもなんとなくわかるようになってきた。

俺の心臓の音を向こうの彼女も聞いているのだろう、少しだけ鼓動が早くなった。


「ひひっ!」

「何か面白いこと書いてありました?」

「いんや、、、ただの思い出し笑いだ」

「「?」」


本を閉じる。

異世界の歴史についての本だったと思うが中身は殆ど頭に入って来なかった。

アリアとティアラが競うように食べていたせいか、机の上はほぼ空になっていた。


「さて、、、そろそろ日課をこなしますか」

「ティアラ、今日も頼むな。」

「別に兄弟子ノ為じゃないヨ!」

「相変わらず可愛げのない奴・・・・」


三人そろって立ち上がる。

ティアラに声をかけたが、そっぽ向かれてしまった。

アリアはフォローするかのように俺に声をかけて来る。


「この娘もいろいろあるので、怒らないであげてください」

「いや、、、怒ってねえよ?」

「・・・・(ぷいっ!)」


これ見よがしに小さな少女はアリアの後ろにタタタと駆けて隠れてしまう。

寧ろ初めての妹弟子だし、普通に仲良くなりたいんだが。

・・・・まあ兄弟子だけど何も教えられないが。


宿を出て、街の外へと駆けていく。

流石に夜になれば俺の黒雲も目立たなくなるからだ。


帝国の新たな国境についての大陸全体の反応についてだが、王国は帝国での謎の超巨大な黒雲は自然災害だという見解を発表している。

被害国が内乱中で、黒雲も人が起こしたものとはとても思えない規模から今の所俺の起こした事だという議論には至ってはいない。


けども黒の勇者が黒雲を使うことは既に周知の事実であり、疑いの眼を向ける人は確かにいるはずだ。

よってここは王国ではないが黒雲を使う所を見られるのはあまり賢いものではない。

俺が黒雲を用いて起こした問題がそのまま王国に、、、ましてはシノンやサニアにまで迷惑がかかる可能性もある。

帝国を探るときもそうだが、曇を使わなければいけない時も出来る限り威力はかなり落ちるけども無色か白に弱めてから出すようにしている。


「さて、、、ここらへんでいいかな?」

「ええ、、、周囲には誰もいないみたいですし」


周囲を魔術で軽く探ったアリアが首肯する。

ライキンポートの街明かりがギリギリ周りを見渡す手助けをしてくれるくらい離れた海辺の岩場。

少々暴れるには足場が不安定だが、足場がないなら雲を踏む。

曇の魔術師(俺の場合は曇の奇術師だが)とはそういうもんだ。


「さて、、、今日はどっちが相手してくれるんだ?」

「今日はティアラです」

「おっけ」


『葉擦れ』も『常識外』もぶっ壊れるは、『王国・白装≪コート・ホワイティア≫』もツバキも王国だし桜とのバイパスは不調だしで完全な弱体化状態ではある。

しかし替わりと言っては何だが、新たな力を手に入れてもいた。

普段は魔法玉を入れる腰のポーチは現在『大魔法玉』の『白』しか入れてないので余裕がある。

空いたスペースに突っ込んだものを俺は取り出した。


「ど~~~~~ん~~~~~の~~~~~た~~~~~~~ね~~~~~~~!」

「「・・・・・・・・・」」


青い猫型ロボットさんをリスペクトしながら叫んだ俺の姿を二人してじとおっとした顔で睨んで来る。

・・・・・・ちくしょう、桜なら危険だから止めろとかツッコんでくれるのに!

身内ネタは分からないとマジで何してんのだからな!


気を取り直して手の平に挟んだ白いガラスのカケラのような種をピンと空へと跳ね上げる。

俺の前で相対していたティアラも同じように空へと種を跳ね上げた。

お互い曇の種に自然魔力を巻きつけていく。

種の魔術師にとって『親』のみが生み出すこの種は非常に重要な物だ。


時に自らの武器の素材となり

時に魔法陣級魔術には必ず必要になり

時に魔力のタンクになり

時に種の魔術師の魔術を強化する核になる


「やっぱ自前の核を使うより魔術が通るな・・・」


反則技の『曇脈展開』や『嵐曇魔術』と比べると流石に操作も威力規模も劣るが、自前の核を使う時よりも魔術が使いやすい。

雷の勇者対策の一環でアリアやティアラと種による魔術に慣れるための模擬戦を行っている。


種を使い慣れすぎると、本来の技量が伸びないからと頻繁に使うのを禁じられているが凄く便利だ。

普段はとてもじゃないが怖くて出来ない、身体の中に黒雲を流すことまで簡単。

今更だが、、、『劣化・曇脈展開≪マイナス・アクセス≫』とでも呼ぶべきか?

本家より強化度合いは六割弱。

頭がそれ程キチにならないので寧ろ戦闘に関してはちょうどいいけど。


いつもより少し薄めの黒い静脈が全身に広がる。

黒雲を身体に巡らせているのに、落ち着いている。

こうなるとαというよりはβの劣化版かな?

ぐっぱーと感触を確かめていると、ティアラの方も準備が済んだようだ。


「『曇突くばかりの大男≪a towering giant≫』!!!」


種を中心に集まる茶色の雲が見上げんばかりの大男になっていく。

強い力をひしひしと感じさせるその巨体から声が轟く。

ティアラめ、、、魔力も回復しきってないくせにこんな大物を・・・


「ティアラ、魔力は大丈夫ですか?」

「ダイじょうぶダヨ!」

「なら、いいでしょう」

「良くないよ!?」


本家の身体強化ですら押し負ける拳と言う名の猛威が肌を掠めながら通り過ぎる。

突風のような猛攻撃をほぼ経験に則った直感で避けていく。

これ、、、、当たったら死ぬ程痛い奴です!


「ティアラ!こっちはまあだまだ試運転なんだから加減しろ!」

「ヤダよ!」

「たく、、、、」

「GAAAAAAAAAAA!」


よく見れば精悍な顔つきの大偉丈夫『曇突くばかりの大男≪a towering giant≫』

とてつもない巨体のくせに俺の速度についてきやがる。

『曇の壁≪ウォール≫』を張れば砕かれ、拳をぶつけ合えば吹っ飛ばされる。

ティアラのドヤ顔が腹立つ・・・・


「ドラアッ!」

「GAAAAAAAAAAA!」


物は試しと膝を蹴りこんでみるが、相手は雲なので凹んで元に戻るだけ。

・・・・・・・物理無効とかなんなんだよ、マジで。

しかも


「ぶへっ!いっだああああああっ!?」


お返しにと膝に蹴りを叩きこまれる。

冗談抜きで膝がへし折れるかと思ったわ!

耐えようとせずに蹴りに力を合わせて飛ばなかったら、本気で足が千切れ跳んでた!


「ティアラアアアアアッ!????」

「ふん!」


もう許さねえ、あの妹弟子!

俺が回復魔法効かないの知ってての狼藉だな!?

こうなりゃ意地でも『曇突くばかりの大男≪a towering giant≫』ぶっ倒してやる・・・

いくら物理無効といえど粉々(・・)に砕けば効くだろうよぉ


「となりゃあまずは・・・・」


種を用いた高速展開で人工的に速さを造り出す。

地面をこっそり這っていた黒雲が誰もが気づかない程度に膨れていく。

俺の真正面では『曇突くばかりの大男≪a towering giant≫』が必殺の拳を振りかぶり俺へと放つ。


「「!?」」


術師とその相棒が同じ表情で固まる。

そりゃそうだ、有り得ない体勢で俺が高速で後退したんだから。

『動く曇道≪オート・ステップ≫』

その魔術の本来の用途は高速移動ではなく、運ぶ魔術。

有り得ない体勢からでも高速移動を可能にし、相手の虚をつく俺の第三の足。


「・・・・・・・・・」


まあ、アリアには読まれていたみたいだが。

視界の隅に俺達二人の様子を頬杖つきながら眺めるアリアの姿が視える。

どうやら彼女の眼から見て、満足いく戦いではないようだ。


「待てッ!」

「GAAAAAAAAAAA!」

「誰が待つか!」


虚をつけたのはせいぜい数瞬。

ティアラを肩に担いだ『曇突くばかりの大男≪a towering giant≫』は俺の『動く曇道≪オート・ステップ≫』よりも奔いらしい。

土煙を上げながら距離を縮めてきやがる・・・・・・


「おい、ティアラ!俺はともかく魔力そろそろ切れかけだろ、無茶すんな!」

「ウルサイっ!」

「えぇ・・・・」


黒雲が思わず追い付かなくなるくらいに道を作るペースを速めているというのに、ティアラは執念というべき魔力の絞り出しで俺に追いすがってくる。


「『魚雲≪cirrocumulus≫』!」

「うわあっと、この局面で!???」


ティアラが曇属性の杖『ツインターボ』をブンと一振りした瞬間、黒雲の道がいきなりずたずたに引き裂かれる。

道が無くなることでバランスを崩した俺へと向かって突き刺さらんばかりに茶色の雲魚の群れが迫ってくる。

地面にあらかじめ仕込んでいたのか、、、うかつだった。

『動く曇道≪オート・ステップ≫』が引き裂かれ、まともに機能しなくなってしまった。

ただでさえ負け気味だった速度が、、、、更に押し負ける。


「使う気なかったのに、、、『二重混合型強化≪ミックス・アップ≫』!」

「出たネ!」


本来なら『王国・白装≪コート・ホワイティア≫』を使うべきだが、無いからとか言ってられない。

『黒曇衣≪コート≫』を纏い上げた速度で、繰り出すのは攻めの蹴術。

専門外だが剣がない以上、仕方がない。

ビチビチビチっと地に魚を叩きつけ、蹴り切れない分は文字通り脚で躱していく。


「ドンだけ仕込んでたんだ・・・?」


数え切れない魚群の群れ、地からまだまだ這い出る魚群の群れ。

避け、蹴るその合間にも巨人の拳を避けなければならない。

『曇の沼≪プール≫』に『曇靭紐≪クラウド・ワイヤー≫』に『曇の壁≪ウォール≫』と、、、並の魔術で妨げられるもんじゃないな・・・・・うっとおしいしどかそう。


「ティアラ、デカいのいくから気をつけろ!」

「っ!?」


ティアラが俺の拳に溜まる魔力量で感づいてくれたのか、『曇突くばかりの大男≪a towering giant≫』に自分を宙へと打ち上げさせる。

・・・・あれだけ遠くなら巻き込まないな。


「『曇震伝波≪ドンシン・クロッシング≫』!!!」


本当なら『曇震双撃≪ツイン・インパクト≫』を使いたかったが、用意するのに時間が掛かる。

本家なら多分余裕で出来たろうが・・・・・使えるだけマシか。

ツバキいつもありがとう、いなくなってからお前のありがたみを感じてるよ・・・・


『劣化・曇脈展開≪マイナス・アクセス≫』での発動とはいえ俺の使える魔術でも屈指の魔術。

空気が歪むのが肉眼でも感じ取れ、そして歪みが魚の群れを雲の巨人を吹っ飛ばしていく。

ようやく息を整える時間が出来た。

撃ちだした拳を降ろし、息を整える・・・そしてそろそろと考える。


「・・・・・・『きのこ曇≪mushroom cloud≫』」


土からボンっと大きな雲のキノコが飛び出し、ティアラをポイんっと受け止める。

絶妙なバランス感覚で地面に着地したティアラは杖を構え直し、俺を睨みつけた。


「「・・・・・・・・・・・・」」


まだまだやる気みたいだな、、、負けず嫌いめ。

『曇突くばかりの大男≪a towering giant≫』はまだまだ元気そうだ。

・・・・・やっぱり『積乱曇≪ミキサー≫』使わないとケリつかないな。

コストが大問題だしコントロールもまだ甘いので出来れば使いたくないが、『曇震伝波≪ドンシン・クロッシング≫』でも『曇突くばかりの大男≪a towering giant≫』を粉々に出来ない以上仕方なさそうだ。


・・・・・・ティアラも同じことを考えているのか?

彼女の周囲に今まで以上に雲が集まっている。

『曇突くばかりの大男≪a towering giant≫』でケリがつかない以上、彼女も奥の手を使ってくるつもりかもしれない。


黒雲を意識的にかき混ぜていく。

本家ほどではないが、同じ『曇脈展開』の名を担う強化技。

規模は小さくなるだろうが、術自体は発動出来る。

ただ・・・・・・怪我させないように気をつけないとな。

殺す覚悟と大切な人を傷つけることは全く別の物だし。

ほぼ同時に詠唱が始まる。


「『わが名ハ曇の召喚師』『我ノ呼びカけに応えよ』『契約二従いココに顕現しろ』『入

「『流れ重なる』『幾重もの曇の流れ』『俺の主人公たる』『証を

「そこまで」

「「!??」」


俺と妹弟子の間を遮るように白雲がなだれ込んできた。

詠唱も中断され黒雲も茶雲も霧消してしまう。

『曇突くばかりの大男≪a towering giant≫』に『劣化・曇脈展開≪マイナス・アクセス≫』も集中が切れ、術式自体が解けてしまった。


「・・・・・・ふう」

「もう、、、何で邪魔スルの、師匠!」

「二人ともやり過ぎです、止めるのは当たり前でしょう・・・・」


安堵の吐息と共に疲れがどどっと押し寄せる。

『種』による『劣化・曇脈展開≪マイナス・アクセス≫』では強化が程々なので後遺症が無い。

手の平で萎んでいく使い捨ての曇の種を眺めながら、まだまだ慣れないがやっぱり便利だなと思った。


ティアラはまだまだ暴れ足りない(俺を苛めたりない)ようだが、アリアのことを誰よりも慕う彼女は矛先を綺麗に納めた。

アリアは師匠としてか、見物客としてか、仲裁者としてか・・・講評にもならない簡潔な感想を述べ始めた。


「ティアラ、、、サクラみたいな変態的な魔力回復速度を持ってないんですから模擬戦で本気を出さないで」

「師匠と違って、種に計画的二魔力を溜めてるヨ!」

「う゛っ・・・・」


アリアは図星をつかれて表情を硬くさせる。

ティアラは幾らアリアでもそこは譲れないとばかりに顔を背ける。

たまに年相応だな、ティアラは・・・

同じことを思ったのか仕方ないなあとアリアはお姉さんらしくそんなティアラをくすっと笑う。


「サクラは本質能力なしでもティアラと随分と戦えるようになりましたね」

「ま、、、『種』有りでしかも止められなけりゃ奥の手使う所だったけど」

「それでも随分成長しました」

「おお・・・サンキュ」


他の曇の魔術師と模擬戦をしているせいか、曇の魔術への理解が随分と深まってきてる。

公国に龍人の郷に王国にと今までの戦いでの成長という下地があってこそだが。

アリアのアドバイスも以前旅してた頃より頭にすっと入ってくるし。


「ただ雷の勇者と戦えば一分も保ちませんね」

「・・・・・上げて落とすな」


アリアがこういう時に限って輝かんばかりの笑みを向けて来る。

そしてどさくさに紛れてティアラがあっかんべえと舌を出している。

アリアに見えないように巧妙に・・・少しイラッとした。


「身体に雲を流すのはいいアイデアですけど、剣がない以上身体強化に力を入れすぎるのは得策じゃありません。決定打になるはずの『積乱曇≪ミキサー≫』の発動も若干遅れてますし。」

「・・・・・う~ん、それな」


ティアラクラスの相手と戦いながら『積乱曇≪ミキサー≫』みたいな高難易度魔術の発動はなかなか難しい。

相手の足を止める術式があればいいんだが、、、ドン・クラーク戦の時みたく壁も拘束も相手によっては意味をなさないからな・・・・


「現状これ以上の爆発的な術式構築速度の向上は見込めなさそうだわ。寧ろ敵の足を止める効果的な術式はないか?」

「う~ん、、、あるにはあるんですけど・・・・サクラが使えそうな術式は無いですね」

「マジか・・・・・・」

「それにそういうのはティアラの方が寧ろ詳しいから教えてもら

「やっ!」

「・・・・・・だろうな」

「ハハハ・・・・でもティアラの『ひつじ雲 ≪altocumulus≫』なんかいいんじゃないですか?」

「ううん、、、魔力は応えてくれなかったな。何度か見たが」

「やっぱりそうですか・・・ティアラは特別ですしね」


ティアラは曇の魔術師だが、俺やアリアとはベクトルが少し違う。

彼女の本質能力は『召喚術』、自らの雲を媒体に契約した召喚獣の意識を降ろす召喚師なのだ。

本来は火や水を媒体にしミニイフリートやアクアスリープを召喚するのだが、彼女の本属性が『曇』であるため『曇突くばかりの大男≪a towering giant≫』や『ひつじ雲 ≪altocumulus≫』になっている。


因みに精霊属性の魔術や本家の『曇脈展開』同様、魔術の操作は召喚獣が一部負担してくれるので他の魔術師よりも魔術の威力規模が強いし応用が効く。

もちろん彼女自身のセンスがあってこそだが。


とはいえそういう系統を俺の魔術で再現するなら催眠術になるな。

もうほぼ忘れかけとはいえ現代知識を活かすなら真っ暗な部屋で本当に小さな光見つめさせるとかが凄く効果あるらしい。


「・・・・・アリア」

「なんですか?」

「黒雲の中に意識が遠くなるほど長時間、人を閉じ込められる術式ってあるか?明かりは蝋燭一本ぐらいの光が差し込むくらいにしたいんだけど」

「「・・・・・・・・・変態」」

「ちがっ!?」


しばらくキチガイで変態扱いされた・・・・・

次話も明日十九時。

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