第6章本当は誰にでも出来ることpart3
主人公はトラブルを引き寄せやすい。
それ自体は悪いことじゃない。
ただ、、、、対処できないの大きさのトラブルが訪れた場合はそれは主人公の器に寄る。
起きた事件は小説で描くならあまりに『薄い』事件だ。
たまたま幽霊屋敷に連続殺人犯が潜伏していて
たまたま俺達を探して警察が幽霊屋敷に捜索しに来て
たまたまいた俺達を人質に取った
そして朝日奈柚季の器で対処しきれる量を超えていた。
「ぐすっ・・・ぐすっ・・・」
泣き喚かないように俺が必死で楓の口を押えていた。
子供だったけど、、、そうしなきゃいけないことは分かってた。
ドシャンと何かが倒れる音がした。
連続殺人犯は明らかに冷静ではなかった。
「どこ行ったクソガキ共!」
「「「!??」」」
三人が息を同時に吸う。
それほど遠くない場所で野太い声が聞こえていた。
結び目が緩くて少しずつ抜け出して、、、ようやく近くの部屋のタンスの中に逃げ込めた。
それが出来たのは朝日奈柚季のお蔭だった。
大人の意識を欺いて
自分たちに怒りの矛先を向けさせること無く
ここまで逃げ込めた。
でもそれで限界だった・・・・・
「ひぐっ、、、ひぐっ、、、」
朝日奈柚季はもう足が動かなくなってしまった。
ただそれでも泣き叫んで場所がばれないように自分の口だけは自分でしっかりと塞いで。
・・・・・俺が出来たことは彼女も自分の方へ抱き寄せることだけだった。
「さく・・・ちゃ・・・」
「・・・・大丈夫、きっと助け・・・来る・・・」
この状況に陥った時の俺があと少し、、、あと少し成長していれば・・・・
何度そう思ったことか。
せめてスーザ先生から剣を学び始めたあの頃の俺が
せめて中学生の頃の俺が
せめて今の俺が
あの場所にいたら彼女達を救いだせたはずなのにと
でもあのときそこにいたのは大好きな女の子の口を塞いで、その姉を励ましつつも・・・本当は一番泣きたくなっている弱くて泣き虫な俺だった。
ガシャン
「「「ひっ???」」」
さっきよりも音が近づいて来ている。
・・・・分かってた。
こんな場所いつまでも隠れてなんていられないって。
それでも動けなかった。
もう動く気力なんて残ってなかった。
水もまともに摂ってなくて頭がフラフラする。
駄目なのに、、、、まともな思考も出来なくなっていた。
全身はぬめっとした汗が張り付き、喉は逆にカラカラで。
「・・・・二人とも、聞いてくれる?」
「ひっぐ、、、ひっぐ、、、」
「・・・なあに?」
楓は胸の中で泣きまともに話が出来る状態じゃなかった。
でも、、、柚季はきちんと話すことが出来た。
俺は周りにあの男がいないことを確認してから、提案をする。
「二人だけでも外に、、、俺が囮になる。」
「・・・・・だめ」
柚季が首を振る。
けど俺も引かなかった。
「かけっこは俺が一番早い。一番いい提案をしてるはずだよ・・・このままここにいたら・・・駄目だ。」
「・・・・・・・動けるの?」
「・・・・・・・・・・」
柚季は全部わかっているくせに敢えてそれを聞いてきた。
俺は思わず大声で反抗しようとして、、、そんな体力もなかったので掠れた声になった。
「じゃあどうするの、、、このままじゃみんな死んじゃうよ?」
「・・・・私が行く」
「・・・・・・・・俺より震えてるじゃん」
「・・・・そっちに関しては大丈夫」
「?」
朝日奈柚季はそう言うと、、、ちょんと触れるくらいの口づけを俺の頬にした。
柔かく小さな唇が湿り気を残した頬。
思いもしない出来事に目を白黒していると、彼女はえへへと無理矢理作った笑みを見せた。
涙で真っ赤に腫らした目、紅潮した頬、、、、朝日奈柚季はこんな状況でも俺を元気づけようとしていた。
自分だけじゃなく俺までも気遣っていた。
・・・・・・・・自分だって怖くて怖くて仕方ないくせに。
なのに笑っていた。
「お母さんが言ってたけど好きな人とちゅーするとげんきになるってほんとだね。」
「・・・・・・柚季ちゃん」
「じゃ、、、行くね」
「ちょ、、、」
キイッと扉が押し開かれ、、、タタタと奔る小さな足音。
そしてドシドシと重い体重を乗せた足音が彼女の小さな足音を追っていった。
「行くぞ!」
「・・・・うん」
朝日奈楓の顔を見ることが出来なかった。
大好きな女の子の目の前で他の女の子とキスをしたこと。
他の女の子を危険な目に合わせたこと
彼女がどんな目で俺を責めるのかと・・・・そう思って怖かった。
だからせめて、、、責められる量が少しでも小さくなればと・・・
出来ることは一刻も早く助けを呼びに外に出ることだった。
そこから先の記憶はない。
お巡りさんの話だと二階の窓から飛び降りてきて慌てて受け止めたらしい。
何でそんな状況になったのかは分からない。
思い出したくない。
ただ、、、、俺達の体は『誰か』の血痕がこびりついた手に一度掴まれた跡があったって後から聞いた。
俺達を人質に取った連続殺人犯はその後、車に乗って強引に包囲網を突破。
その車には柚季も乗っていたらしい。
一時間以上のカーチェイス。
そして運転ミスをした車は・・・・・大破し炎上した。
俺の罪は弱かったこと。
主人公を一度自分の弱さで殺してしまったこと。
だから俺は今度こそ主人公になる必要があった。
強く大切な人を守れる主人公に。
主人公になれないことはわかっても、、、朝日奈楓を守れる存在に必ずなって見せる。
それが俺たちのためにあの時飛び出してくれた朝日奈柚季への贖罪だ。
私の罪はあの時嫉妬したこと。
おねえちゃんが桜ちゃんにキスするところを見て思わず思ってしまった。
『お姉ちゃんなんて死んでしまえって』・・・そしておねえちゃんは死んでしまった。
桜ちゃんの好きだったおねえちゃんは死んでしまった。
だから私の贖罪は桜ちゃんの好きだったお姉ちゃんに私がなること。
周囲の為にもっとも頑張れる人になること
たとえ大好きな人の為になれなくても、、、それがおねえちゃんの再現になるなら私はそれを取る。
桜ちゃんが好きだったおねえちゃんを私が少しでも再現すること。
そうすれば桜ちゃんはおねえちゃんを忘れない・・・・そしてそれがあの時私に桜ちゃんを譲ってくれたお姉ちゃんへの贖罪にも大好きな人を死なせてしまった桜ちゃんへの贖罪にもなる。
たとえ本当の『朝日奈楓』がいなくなっても・・・・名前こそ違えどその本質は『朝日奈柚季』で在り続ける。
朝日奈楓は大人になろうとして、、、結局幼く未熟な朝日奈柚季を真似てるせいで、成長できず大人になれなくなった。
だから周りに子供みたいな正しい我儘・・・実現不可能を強いることになる。
そして彼女が好きで憧れているから、、、同じく大人にならない俺、如峰月桜。
いつの間にか朝日奈楓が好きなのか、、、彼女がなろうとしている『朝日奈柚季』に惚れているのか、、、わからなくなってしまった。
俺は、、、、彼女からの好意を真正面から受け止める自信を無くしてしまった臆病者だ。
「・・・・・・・・・・・・聞いたことがない」
「そりゃそうだよ、、、、誰も思い出したくないから」
朝日奈楓の母親はあの日から全ての朝日奈柚季の痕跡を消した。
そして朝日奈楓もそれを当然のように受け入れた。
朝比奈楓の父親だけはそんな彼女たちをやさしく見守りつつも、命日の日だけは彼女たちに黙って黙祷しに出ていく。
そんな家にやって来たのが朝日奈冬夜。
知らなくて、、、、当然だ。
「じゃあ、、、、僕が好きなのは、、、、姉さんにとっては、、、つらい記憶で作られた、、、姉さん?」
「・・・・難しく考えんな、朝日奈さんが『主人公』になったのは確かにあの事件がきっかけだけど遅かれ早かれああなってたから」
「・・・・・・・・・・・」
朝日奈柚季のせいで目立ってなかっただけで、よく考えれば彼女は昔からあんなんだった。
いつでも正しくて、いつでも明るくて、いつもキラキラ笑っていた。
俺の好きな彼女は少し歪んでしまったが、それでも昔からああだった。
なのに冬夜が唇をかみしめ葛藤する。
・・・・話すんじゃなかったな。
俺が言いたかったのは、、、朝日奈楓が俺を好きだってことじゃなく、、、彼女が今でも『朝日奈柚季のために』俺を好きでいようとしてるだけで・・・本当は俺を好きかどうかも怪しいって話なだけだ。
だから俺も彼女が『彼女で在りつづけようとする限り』その気持ちに応えることはできない。
たとえどんなに俺が彼女を好きでも、、、、彼女自身が偽りの気持ちを抱いているなら、、、、それに応えるのはアンフェアだ。
「だから、、、、俺に劣等感を抱くのは間違ってる。」
「・・・・・・・・・・」
「第一、お前が来てから朝日奈一家は明るくなった。」
欠けていたものとは違うピースだったかもしれない。
それでも家族が増えたことであの家は、、、以前の明るさを取り戻した。
俺がいくら頑張ってもできなかったことをその身一つでやり遂げたお前のほうがスゲえんだってことをもう少し自覚したほうがいい。
朝日奈冬夜はすごいやつなんだって・・・・・自覚したほうがいい。
「ま、、、、朝日奈さんを渡すかは別の話だ」
「・・・・・・・お前は・・・・」
お互いに拳を再び握り合う。
傘は数度の切り合いで駄目になり、幾度か小手を叩かれた際に落としたナイフは遠くへと蹴り飛ばされたからだ。
「お前の言いたいことはわかった・・・・・そしてお前が意外とフェアな奴だってわかった。」
「そりゃどうも」
「でもやっぱり気に食わない!」
「だろうなあっ、、、よっと!」
肘打ちをブローに叩き込み、逆にその肘の痛点に肘を叩き込まれる。
足を狙われまた的確に壊されて、、、お返しに鼻に頭突きを叩き込んでやった。
そしたら頭皮にがぶっと噛み付かれ肉を少し食いちぎられたが、その際に足をエグイ音がするくらい思いっきり踏んづけた。
髪の毛を引っ掴まれ逃げ場のない状態で顔に一撃を食らった。
その腕を足を、、、抱え込んで足を払いコンクリートと頭をごっつんこさせてやった。
首に足が巻き付き、的確に頸動脈を絞めてくる。
気が遠くなるがその前に股間をひん掴゛んでクラップした。
ざまあみろとお返しにと思ったら蹴り上げられた。
「テトロドトキシン?XらIい!!?」
「?gOkいぞ(∩´ぎ㊤ぶQほ@!!?」
お互いにもんどりうって地面を転がる。
それでも跳ね上がるようにすぐに復活したのはまだ敵が起きているから。
目の前の敵が倒れ伏すまで・・・・絶対に負けたくないから。
だから、、、、、絶対に相手が地に膝つけるまで、、、、、戦いは止まらない!
「「らああああああああああああっ!!!」」
「二人ともおおおおおっ、何やってるのおおおおおおおっ!」
いや、、、、、もう一つ止められる方法があった。
朝日奈楓の・・・・・・一喝。
「二人とももっと仲良くしきゃ駄目でしょ!」
「「・・・・・・・はい」」
「特に如峰月君は朝顔ちゃんの時といい、年下との仲が悪過ぎるよ!お兄ちゃんなんだからしっかりしないと!」
「はい・・・・」
「へっ!」
・・・・冬夜、貴様。
朝日奈さんの見えないところで聞こえないように鼻を鳴らす。
「聞いてる!」
「はいはい、聞いてますよ・・・・」
「もう!・・・冬夜!さっきから話聞いてないの知ってるからねっ!」
「ひいっ!?」
「ふくくくっ・・・」
「もう二人ともどうして仲良くできないのおおおおおおおっ!」
・・・・こんな感じの流れが幾度も続いている。
朝日奈楓が腰に手をやりムキーッてなってる姿は正直可愛くて和むんだが、多分一時間近く正座させられてて正直もう足の感覚がない。
形だけでも朝日奈さんの前で仲良くやってる姿を見せられりゃあいいんだが、なんか仲良くできないんだ。
そんなお蔭でこんな目に合っている。
「・・・・・・・はあ、、、、もういいよ」
「「ほっ」」
「(ギロッ)」
「「ふかああく!深く!反省いたしましたぁッ!」」
「もう、、、怒ってるんだからね私・・・」
「「・・・・ごめんなさい」」
もう怒り過ぎて逆に涙目である。
流石に一時間も経つとアドレナリンも切れ、体の節々も痛くなる。
しかもそんな時に限って朝日奈さんの怒る顔と自分が殴った相手の顔を見る羽目になるのだ。
流石に思う、、、やり過ぎたなあと。
「二人とも私にとって大事な存在なんだから・・・・無茶しないで」
「「はい・・・・」」
「帰ろう、、、、二人とも立てる?」
「「・・・大丈夫」」
うん、大丈夫。
脚が小鹿のように震えてるし
動こうとするたびに足が痺れと言うよりは 痛みが走る。
てか、、、、
「「やっぱ立てないッ・・・・」」
「しょうがないなあ・・・・二人とも肩貸して・・・」
「「かたじけない・・・・」」
朝日奈さんの肩を支えに立ち上がる。
流石に立つと少しは痺れはとれるが・・・・脚は上手く動かない。
「っとっとと・・・・二人ともこういうふうにすると大きくなったね?」
「・・・・そう言えば」
「・・・・そうかな?」
朝日奈さんと並んで立ってみると流石に自分の成長に気付かされる。
幼稚園児くらいの頃は同じくらいの背丈だったのに、今では俺の方が明らかに背が高い。
と、、、冬夜から責めるような視線を感じる。
僕より背が高くても図に乗るなよと・・・・・
いや・・・お前は中学生なんだから俺より背が低くてもいいだろうに。
「さて、、、帰ろっか」
「うん」
「・・・・・」
取り敢えず帰ろう。
明日になったら、、、、全部一からやり直そう。
改めて分かったこの気持ちに今までで感じ取った想い、、、どちらも嘘じゃない。
喧嘩して本当に俺以上に朝日奈楓を大切にしてる人と争ってみて改めてそれが分かった。
それだけでも収穫だ。
問題は・・・どの気持ちが一番大事かってことだ。
今はまだわからない。
けども、、、、少しだけ自信が湧いた。
絶対に俺の気持ちは固まるって・・・・・
今日は帰ってしっかり寝よう。
そして謝ろう。
伊月に無責任な希望を与えてしまったことを
優子に不必要な言葉を投げかけてしまったことを
冴突師恩に偽名を語ってしまったことを
うん、、、明日から
そう、、、明日から
「?」
脚がうまく動かなかった。
感覚鋭敏化で引き絞られた感覚は確かにそれを認識していたはずだった。
なのに俺が出来たことは彼女と彼を背中に庇うことだけだった。
公道を横切ろうとしていた。
光が見えた。
運転手が居眠りしているのが見えた。
なのにアクセルを踏み込んでいるから、、、十分人を殺せる速さを保っていた。
最初にそれに気付いた俺は二人を突き飛ばそうとした。
光が見えた。
けども、、、、足がこんな時に限っていう事をきかなかった。
庇うことしか出来なかった。
背中に衝撃が走った。
光が見えた。
衝撃が彼女と彼にまで伝わった。
トラックが俺の体を崩壊させていく。
彼女も彼も守れなかった。
紅い光が見えた。
誰かの血飛沫が目にかかったんだろう。
体が宙を舞っていた。
ぐちゃぐちゃの肉片が見えた。
光なんて見えなかった。
だって光が見えるなんてありえない。
俺は死んだんだから。
また守れなかった。
光が見えた。
柚季ちゃんごめん。
もう、、、体が動かない。
みんなごめん。
もうそれしかいうことが出来ない。
意識が、、、続かない。
エピローグに閑話一話で終わります。




