第3章NPCには戻れないpart3
次話からは、間違いなく爽快な感じにしていけると思っていますのでお付き合いください。
中学二年の2学期、俺は朝日奈楓に恋をしていた。
彼女は俺の幼馴染であり、俺の初恋の相手だった。
家が近所という事もあり、俺と彼女は家族ぐるみで仲が良かった。
朝顔もこのころは可愛いもので、『かえでねーちゃ』、『さくら』・・・と呼んでくれたものだ。
今では、『楓さん』、『おい』であるが。
・・・あれ?昔も今もあんまり変わってない?
まあ、俺は幼馴染として子供のころから彼女の側でずっと過ごして来れた。
幼稚園児の時から既に頭角を現し始め、リーダー格であった。
小学生の時は、探偵紛いのことをしていた。
中学生の頃は、小5からし始めたバスケで才能を発揮していた。
そんな彼女という一輪の花に惹かれる人間は多数いた。
今思うと、俺はこのころちょっとした中二病にでもかかっていたんだろうなと思う。
その頃の俺は、フェッシングの競技で才能があった。
ぶっちゃけ、全国大会で表彰受けるぐらいのチートがあった。
そんな俺だったから、彼女の周りのライバルとまともに張り合えるなんて、幻想を抱いちまったんだろう。
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「桜ちゃん、帰り?」
部活帰りに偶々、朝日奈楓と出会った。
珍しいことに、彼女は今日はうるさい蠅が着くこともなく、一人で帰っていた。
「ああ、一緒に帰るか?」
「そのつもり」
彼女のそんな笑みにちょっとドキッとしてしまうのはしょうがないことである。
彼女のことを意識し始めたのはいつからか・・・
彼女の容姿に惹かれたのか、彼女の正義感な内面に惚れたのか。
それすらあいまいになっているほど、俺は彼女に昔から惹かれていた。
ラノベとかで、幼馴染に強がってしまう男はたいてい振られるルールにのっとり、彼女とは仲のいい幼馴染みを続けてきたが、もうそろそろ一段階踏み込みたいなんて気持ちがあった。
「なあ、楓?俺、生徒会にはいろうと思ってるんだ。」
「え?生徒会?」
彼女は、俺のそんな軽い言葉に、ん?と首を傾げた。
「ああ、生徒会の活動は元々良く手伝ってるし、生徒会長って響きからしていいじゃんか!」
「へえ、いいんじゃない。応援してるよ!」
彼女はふわりとほほ笑んだ。
そして、その笑みを見て、改めて俺は決心した。
俺は生徒会長になって、彼女に告白すると。
生徒会選挙は俺が最初から有利だった。
有力な対立候補はおらず、俺は文武共に優秀。
しかも、先生受けもとても良かった。
それだけじゃない、応援弁士に前生徒会会長がやってくれている。
この時点で、もう俺の勝ちは決まっているようなもんだった。
主人公が場さえ乱さなければ。
朝日奈楓はあるバスケ部部員の応援弁士をすることになった。
その言葉だけで、無名のノリだけが良いやつが一気に最有力候補に上りあがった。
俺の陣営も、マニフェストの最良化などといった対策を講じてみたが勝てるわけがない。
皆、誰が学校を良くできるかじゃなく、ただの人気で選び始めたのだから。
最後の選挙活動である、演説会。
最初に、朝日奈とその最有力候補が行うことになった時、その歓声の大きさ。
そして、その後の他の演説に対する早く終われよムード。
何だよ、、、そんなに朝日奈楓の存在は大きいのか?
お前ら、何見て票入れるつもりだ?
足元がぐらつく中、、、泣いてるやつもいた。
俺は、、、、無感情にただ読み上げた。
前生徒会長がこんなバカなことってないよ・・・とか言ってたが、俺としてはなんとなく納得している部分もあった。
元から、世界からの愛され方が違っていたのだ。
容姿
才能
人気
性格
運
そんな彼女は、まさしく世界という物語における主人公だったんだ。
そして、おれは特別なんかじゃない。
彼女のライバルとしてすら扱われることもない。
彼女の行動の『結果』『被害』として扱われるただのNPCじゃないか・・・
名前すらえがかれない、ただの文の描写。
それが、俺だ。
恥ずかしい、、、自分が恥ずかしい。
調子に乗って、生徒会長に立候補した自分も
ちょっとフェッシングが上手いぐらいで自分を特別だなんて思ってしまったことも。
誰かが自分を馬鹿にしてる気がする。
誰かに笑われてる気がする。
誰かに見られてる気がする
誰かに
お前では彼女と釣り合わないといわれてる気がする。
俺は駄目だ
自分が、バカにしてた彼女に群がる蠅は俺でもあったんだ。
『生徒会長になったら彼女に告白する』
そんな青春っぽい甘酸っぱい言葉ですら今の俺には
『生徒会長になりでもしなければ、俺は彼女に釣り合わない。』
そんな言葉に変換されて誰かから笑われている気がしてしまう。
そうして、自分が作った自分が簡単にぶっ壊されて、NPCである今の俺は作られてしまった。
それから、大体二年かな?
俺が彼女を朝日奈さんと呼び、彼女が俺を如峰月と呼ぶようになった。
彼女はさらに輝く太陽になり、主人公になっていった
俺はなんとなくその太陽から離れていき、主人公と疎遠になった。
彼女が生徒会に所属し、逆ハーハーレムを築き上げた
俺はその様子をただ傍観するようになった。
彼女はバスケで全国制覇を成し遂げた
俺はフェッシングに対していまいち気持ちが乗らなくなり、、、妹は俺を軽蔑した。
これはNPCが自分はNPCだと気付いただけのただのお話。
笑いたかったら、笑えばいいさ。
彼女が大きく感情をころころ変える一方で
俺は感情を抑える方法を学んでいったんだから
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「ちっくしょー、かっこわりい。」
俺は、自販機の前のベンチでコーラをガンガン飲みながら、気をまぎらわしていた
こういう嫌なことを思い出した時に人は酒でも飲むんだろうが、俺の場合は未成年なんで溜め込むしかない。
コーラと自販機パンをガジガジしつつも、心の荒立ちは一向に収まる気配を見せない。
・・・てか、これ以上食べたら体が絶対に太るだろうな・・・
「はあ・・・」
こんな楽しい毎日があるんだろうかと言っちゃえる異世界と比べて、なんて悩みの多い現実か。
「よう、少年。コーラ、一本もらっていいかな?」
「んあ・・・古畑さん。」
手に持ったペンをクルクルと回しながら彼女はにこりと笑った。
細身で背が高めな彼女は新聞部のエースらしい。
頭の上に掛けられた色付きサングラスがきらんと反射する。
一応2年の先輩なんだが、彼女は先輩っぽい感じがしないんだよな。
引っ張るっていうより、面白そうなこと大好きなその性格で引きつけるタイプだからな。
とはいえ、俺が言うのも申し訳ないがそんなに可愛いとか美人とか言う感じではなく、おれとおなじNPCとかに分類される人じゃないだろうか。
そんな彼女はにった~と満面の笑みを浮かべて、俺の隣に座った。
「な、な?面白い噂聞いたんやけどどうなん?」
彼女は慣れた手つきで、ペンを耳に飾り付けた。
「噂?」
「鬼畜メガネ攻めとか、孕んだとか」
「・・・面白がってますよね?古畑さん」
古畑真琴
彼女は悪戯が大好きな困った先輩だ。
ニヤニヤした彼女はごめんごめんと言って、二本目のコーラに手を付け始めた。
けっこう、グルメなこの人は妙に良く食うし、飲む。
何で太らないのか、疑問である。
「ああ、そういえば聞いたよ?文化祭実行委員会の盛り上がりがいつもより弱いんだって?どうなんそこんとこ?」
「新聞部、、、っていうよりは、真琴先輩の耳が早いって感じですね。」
「で?なんか、ネタあった?」
「残念ですね、古畑さん。黄金比生徒会長に古畑さんにだけは内情を話すんじゃないと昨日言われたんですよ」
「・・・あの、乳の化け物め。やっぱり、シャットアウトしてたか」
古畑さんはニヤアと悪い笑みをした。
この学校で最も、恐れられてるのはこの人であると言ってもいい。
アクティブ系逆ハー主人公が超警戒するほどには。
「それはそうとさ、文化祭危ないのはまずいよね。」
「・・・シャットアウトしてるんじゃなかったんですか?情報?」
「アーッハッハッハ!私に、常識は通じないって。で?やっぱり、少年が朝日奈さんになんか行ったのが原因なんだよね?」
「あんたって人は・・・全部わかってたんすか?」
「それよりも、、、困った事態になってるね?」
「、、、まるで俺に危機感を植え付けたいみたいな言い方ですね。さっきから。そんな言い方してるの気付いてます?」
「もう、君って人は・・・本当にNPCめざしてんの?と・に・か・く!文化祭ってのは多くの議論を重ねることと準備をしっかりこなしていくことの二つが大事なんだよ!それの重要人物が朝日奈楓なの!」
「・・・?むしろ、スムーズに行ってると思いますけど?」
「回りくどい!まるで、伏線が多すぎる小説みたいな会話じゃないか!君!ここは現実なんだよ?」
・・・仕方ないなあ。
ちっちっちと指を振る彼女にため息をついて俺は自分の考えを話す。
「朝日奈派と黄金比派の争いは初っ端の見た目的には問題ありまくりだけど、やる気も意見も出しやすい場だったってことですか?」
「いいねえ。黄金比派だけだとあの人だけの意見しか通りにくいから余計に皆がイエスマンになっちゃうんだよ。なにより、自分で取り組んだって気持ちが無いとやる気って出ないもんだからね。経験上だけど」
「ふーん、で?」
「君がその腐った根性叩き直すか、朝日奈楓を復活させるか選びなさい。」
いつの間にか、コーラの束は無くなってしまっていた。
如峰月桜と古畑真琴は本題を話せば、だべるような関係ではない。
あっさり二人とも立ち上がり、お互い別の方向へと向かう。
記事的に『良い文化祭』の方が新聞の記事にしやすいとか、そんぐらいの気持ちで彼女は俺にそんなことを言ったのだろう。
本気で言ったわけじゃあないんだろう。
NPCである俺は、人を引っ張ることなんてできるはずはない。
俺と彼女は釣り合わないんだから・・・
また、朝日奈さんを説得というが、それは俺が言ったことを間違ってたと認めて謝んなきゃいけない。
それは絶対に嫌だ。
自分がNPCであることは俺が一番分かってしまってる。
しかも、回想してしまったせいで余計に強固なものになってるんだ。
だって、自分の好きだった娘にまたそれを気づかされたんだぞ!?
幾らなんでも、虚しくて滑稽すぎる。
・・・自分の誤りを認めなきゃならないぐらいなら、文化祭なんて。
「ちっ」
胃に溜まったコーラと雲の種の『思い出し痛』が反発してるのか妙にうずいて痛かった。
こんな恥ずかしい自分なんて、、、無くなっちまえばいい。
こんな現実に、、、価値なんて、、、あるんだろうか。
ぷちんっと、何かが弾ける音がして、俺と『俺』をつなぐ糸が切れてしまった。
体から急に力が抜け、感覚的にぐんぐん引き離されていくのを感じ取っていた。
そして膜のようなものを突き抜けたかと思うと、ドンっと何か大きなものに突き飛ばされた。
ああ、、、俺は『この世界』に拒絶されたんだな、、、となんとなく分かった。
この感覚も随分慣れたものだ。
だって、今日に限ってはもう30回目なんだから。
異世界にいて、目覚める時のパグはほんの2,3秒。
俺が、精神的に疲れるまでは何度でも門をくぐれることは俺が一番良く分かってる。
別の入り口から入り、また裏門をくぐる。
俺には、どちらが現実なのか既に分からなくなってきていた。




