第5章鎖を砕け、運命を変えろpart2
「ガルが・・・あそこまで笑うのはシノンが生まれた時以来だ。」
「はあ、、、はあ、、、そうなんすか」
どこまで行っても王宮そっくり。
ガルブレイク・エルリングスの心は王宮にあるんだろう。
そこに大切な人たちは皆いたから・・・だからこそ彼の最後の魔術は・・・・彼の心を最も強く表した魔術はこうなったんだろう。
壁も草木も何もかも
鎖で作られた迷宮
恐らくこれの本来の目的は王国に仇名すたった一人の人間をここで確実に仕留めるためだろう。
つまりこれから脱出できない以上、ガルブレイクさんから認められることはない。
そして雷の勇者を倒すことも出来ない。
勇者でない俺が勇者であるかを見極める舞台には、、、、最適だ。
―マスター、、、あと数分もいれば、、、、体が崩壊します。早めの対策を。-
「付き合わせて、、、悪かったな」
―いえ、、、、望んでここにいますから―
ツバキの声が弱弱しい。
俺の内臓が沸騰しないように必死で雲を操っているからな。
まるで電子レンジみたいな場所だ。
どこにも逃げ場がない。
汗がこぼれる前に蒸発し、皮膚が焦げて動かしにくい。
爪が紅く発光して肉を焼く。
黒い髪が熱を籠らせ、頭皮を焼く。
鎖の敷き詰められた道が靴を焼く。
空気が隙あらば俺の気管を焦がそうとする。
何もかもが熱く、、、逃げ場なんてどこにもない。
熱を籠めようと思ったら本当は狭い方がいい。
なのに本物の王宮並のこの広さは矛盾していた。
熱が籠るほどの広さじゃないはずなのに、、、、目の血液が一瞬で沸騰するほどの熱が俺を焼いている。
目を閉じ黒雲で保護して、、、、ようやく失明の危機を防いでいるほどに。
「顔はガルに負けるが、ガル以上に尖ってるなお前!」
「はは、、、、そうかい・・・」
―マスター、、、?-
分かってる、、、、ただの幻覚だろう。
目が使えないし、『曇感知≪サーチ≫』もそこには何もないと判断している。
けれども、、、、俺の眼の前には、、、おそらく一人の女性がいた。
シノンによく似た、、、それでいてシノンよりも過激そうな一人の女性が。
誰かと言うのは敢えて聞かなかった・・・大体わかるし。
その女性は俺の胸をこつんと突く。
そして心地よい声で笑うように声を上げる。
「シノンもいい男を選ぶじゃないか」
「本人からはまだ、、、、了承もらってないですが」
「ガルは認めてるんだから、、、、強引にいってしまえ。」
「それでも彼女の口から聞きたい。」
「そうか、、、、、なら今は私が替わりに言ってやる。」
「・・・・・」
「セシル・エルリングスは、、、サクラ=レイディウスをシノン=エルリングスの伴侶として認める。」
「・・・・・・・・・・」
「やる気でたか?」
「シノンとそっくりな声でそう言われたら、、、、やる気出さないわけにはいかんしょ」
「・・・・・・シノンとあの人を頼む。どっちもいろいろと不器用だから。」
「ええ、、、、」
―マスター!―
・・・・・・どうやら熱の波に呑まれて一瞬気を失っていたらしい。
鎖の床の上で倒れ伏していた。
目の前には鎖の壁・・・・・そうか、ここまで来たところで力尽きたのか。
あぶねえ、、、、あと少し気絶が長かったら死んでたな。
「つ、、、、『曇震双撃≪ツイン・インパクト≫』」
凶暴な音を周囲に撒き散らし、鎖の壁を奥へ奥へと突き進ませる。
砕き、切り崩そうと進んでいく二重の震撃。
たわみたわみたわみ・・・・・そして『跳ね返る』
軋ませはした・・・・少しは傷がついたはずだ。
けれどもガルブレイク・エルリングスの心を表したその鎖は砕けなかった。
自分への怒りの焔、、、そして必ず王国と家族を守るっていう誓いの鎖が、、、鎖の強度にそのまま繋がっていた。
象徴的であればあるほど魔術は極めて強くなる。
ガルブレイクさんにとってこの鎖一つ一つが
そしてこれらの鎖一つ一つで作られた王宮こそが
大切なんて言葉では語れないくらい大切なんだろう。
とはいえ、参ったな・・・・・俺の最大魔術が通らないとか。
『曇震双撃≪ツイン・インパクト≫』が現状最大の威力だ。
相性だけなら『曇の雨雨≪スコール≫』だが、ただでさえ水は蒸発するこの世界。
第一剣へし折られたあの時よりも強力なこの鎖たち並の魔術じゃ、、、、まず無理だ。
「ツバキ、、、、、信じてくれないか?」
―嫌です―
「コントロールできる魔術じゃあ、、、魔法陣級魔術は打ち破れない」
―今度失うのは左目ですか?それとも両腕ですか?-
「ああ、、、、、分からない。でも、、、、今の俺は魔法陣級魔術使えないからさ・・・・意地を通すにも無茶をするしかない。」
―おかしいです、、、怖かったんですよ・・・マスターがいなくなったらって・・・・起きないし・・・ずっと・・・・-
ああ、、、、ごめんな。
でも、、、、、俺は今ここで意地を通したい。
ツバキを泣かせることになっても『主人公』を通したいんだ。
―こんなに英雄が苦しいなんて、、、兄様からは知らなかった。知ってたら、、、、止めてました。―
「ああ、、、、、そうだな・・・」
この魔術は本当は簡単な術。
黒雲がへばりついたものを引き千切るだけ。
一つ一つのその雲は弱く小さい、、、ただその魔術の数が膨大なだけ。
鎖は万能だ。
押しても引いても簡単に斬れるものじゃない。
けれども多くの力には耐えきれない、楔一つだけを狙ったダメージにはいずれ耐えきれなくなる。
この術は何千もの何億もの方向から纏わりついた黒雲が一斉に『引っ張り』『引き千切ろう』とするだけの術。
ただそれだけの術。
しかし黒雲の魔術、、、『俺が』使う魔術であることがその魔術をまるでミキサーに放り込むのと同じ状況を導き出す。
億もの刃が常に荒れ狂う世界に放り込むのと同じ状況を導く。
表面だけを削るから、、、、その物体の硬度なんて関係ない。
黒雲の嵐は結界すらも瞬時に引き千切り、分解する。
この世界に放り込まれて、、、、生きて出ること叶わぬ。
この術を使われた時点ですでに敗北。
そんな術だ。
「本当は・・・・鎖を砕くだけの術だったんだがなあ・・・」
―いつのまにか、、、、マスター自身を象徴する術になりましたね―
「ああ、、、、何もかも立ち塞がることを許さない、、、俺だけの魔術。」
守りたい皆を守るためなら人に向けることを厭わない覚悟の術
たとえどれだけ相対する相手の誓いが固く重くても必ず砕く俺の誓い
絶対に・・・・・俺の我儘を通す術。
「分かってたんだよ、、、我儘を通すには、、、覚悟がいることは」
この術が暴走するのは・・・俺の迷い。
術を向けた相手が必ず死ぬことを知っているから・・・・ずっと迷っていた。
この異世界に来て、、、、ここが現実を知ってもなお、、、、ずっと誓った『不殺』。
桜の今後を考えて絶対に駄目だと決めていた。
けども、もし・・・・
シノンをサニアをアリアを守れなかったら・・・・
自分の決めた覚悟のせいで失ったらと・・・・・
その怖さを知ってしまった。
「桜・・・・・多分・・・・・お前への遠慮を今まで以上に無くすと思う。」
―気にすんな、主人公であるために必要なんだろ―
「・・・・・・・・流石は重要NPC。話が早え。」
―嫌味か、コラ―
―兄様もマスターもアホ―
「敬語もなくなるほど呆れられた・・・・・」
―俺もか・・・・・・-
相変わらず最後の最後まで馬鹿話。
けれどもこれほど信頼できる自分自身ともいえる彼と彼女。
これからも頼るんだ、、、、これくらいが丁度いい。
「覚悟決めた・・・・お前らには先に言っとく。ありがとう。」
ーーおう!!!ーー
黒雲を全て体から放出する。
そして世界を埋め尽くすかのように荒らしていく。
まるでこの世界の秩序を『主人公』が荒らしていくかのように。
『主人公のルール』で埋め尽くしていくかのように
立ち塞がるもの、、、何もかも、、、、すべてを打ち倒して。
「『流れ重なる』『幾重もの曇の流れ』『俺の主人公たる』『証を刻め』」
出来るはずだ、、、恐怖はない!
言葉を、、、今の自分を、、、自分の『主人公』を信じるだけだ!
「『積乱曇≪ミキサー≫』」
ガルブレイクさんがいくつも言葉を重ねたのに対し、俺の詠唱は二七文字。
けれどもここに・・・俺の全てを込めた。
俺の誓い全てを込めた。
だから、、、、、満足だ。
黒雲が幾重にも交差し、巻き上げ、流れていく。
そして鎖を削り、壊し、道を開く。
魔力を込め、魔力を練って、すべて道を開くことに集中する。
・・・・・・そして開けた視界の先に俺は見たかった景色を見た。
サニアもアリアもシノンも
トツカもミルもミミアンも
ガルブレイクさんも女王陛下もゼノンも
その目には今までにない生気が宿っていた。
『生きる意志』が宿っていた。
‐ギルドカード‐
サクラ=レイディウス
16歳 ホモ・サピエンス
上級冒険者
「ん?・・・・いつの間にか16になってら」
「え、、、本当だ。おめでとう。」
日本ほど年齢にこだわる世界じゃないので特に感慨はないが・・・まあ、少しだけガルブレイクさん達と同じ『大人』ってやつに近づけた気がして嬉しい。
あの戦いから数日後のことである。
皆で飯を食っていたらいきなりサニアが髪が伸び過ぎとぶちぎれた。
そしてなんだかんだでサニアが髪を切ってくれているのだが、時間が意外とかかってる。
あまりに手持無沙汰だからしばらく見てなかったステータスを確認していたら、意外なことが分かった。
そしてその下を見て、少しだけ悲しそうな顔をした。
「・・・・フェデラの表記無くなっちゃったんだ」
「まあ、サニアが抜けてスカイも抜けて・・・・もう実体すらなかったしな。」
「ぶう・・・・・」
不満そうな顔をしながらも彼女の表情は柔らかい。
そして俺の背中にいきなり全身を預けてきた。
ひんぬーのくせに地味に柔らかい部分が当たってむず痒い。
ちょっとドキドキしているとサニアは俺の体にもたれかかりながらもごもごと愚痴って来た。
「・・・頑張ってっていえばいいのか、ありがとうって言えばいいのか分かんないよ」
「・・・・・どっちも間違いだよ。それよりそろそろ終わりか?」
「ええ、どういうこと?」
「それより早く、時間かかり過ぎだっつの」
「もう、、、、おにいさんの髪ばっさばさだから・・・」
頭が軽い・・・サニアのお蔭で見れる髪形になっていた。
鏡の前の俺は右目もしっかりついている。
ミル特製の魔道具の義眼のお蔭で一見は普通の顔だ。
眼帯の方がカッコいいんだが、、、まあ嫁さん(仮)たちが気にするしなぁ。
髪を切ってくれた礼を言ってサニアの部屋を後にする。
つっても夕飯時にはまた一緒に飯食うし行ってきますっていうほどじゃないんだが・・・旦那としては様式美だな。
「じゃ、行ってくる。」
「うん、、、、いってらっしゃい。」
「おう・・・・サニア」
「なに?」
「愛してるっていうんだよ、そういう時は」
「・・・・・ぃ・・・る」
「今日はそれでいいよ」
「・・・ばかっ!」
鋏が飛んできたから慌てて逃げた。
さて、今日も土木工事しますか・・・・・
王宮の中はどこか不完全燃焼って感じになっている。
まあ、俺のせいなんだが・・・今はいいか。
王宮内では黒の勇者といえども魔術厳禁なのでゆっくり外へと道を進む。
「サクラ」
「お、トツカ・・・・『葉擦れ』はどう?」
「・・・・・・復元は無理だった」
「そっか・・・直してくれたばっかりだったのに悪いな」
少し炭で汚れた顔のトツカが風呂にでも行く途中だったのかばったり出会う。
鍛冶服姿のトツカは寧ろ申し訳なさそうに俺の謝罪に返事をした。
「オオラさんなら・・・打ち直せた筈だ」
「・・・・いやあ、この戦い持ってくれただけでも十分だよ」
「・・・・・俺の気が済まねえんだよ」
「じゃあ、俺の新しい剣・・・トツカが打ってくれよ」
「最初からそのつもりだっ!」
「あ、そう・・・・」
風呂に入るつもりだったはずだろうに鍛冶場へとまた走っていってしまった。
世界の自分が知らないものを見たがってたくせに王国まで来て鍛冶場にこもる。
トツカ自身が望んだこととはいえ、少し不憫だ・・・・
「ま、、、、暇になったら連れ出すか」
俺は俺で今日はいよいよ『土木工事』しなきゃいけないし・・・・
明日だな、うん。
気を取り直して道を進む・・・・と今度はシノンと出くわした。
いや、、、、見つかった。
「王宮を出るなら、女王陛下に挨拶しに行くのは常識だっ!」
「・・・・えぇ?『土木工事』したらすぐ戻るのに?」
「何が『土木工事』だ・・・・・」
シノンが呆れたようにため息をつく。
青髪の彼女は少しだけ表情が柔らかくなった。
やっぱり味方が増えたことが大きいと思う、皆に認められたことが大きいと思う。
もう誰もシノンのことを弱いだなんていわない。
皆、強い者として接する。
ただ・・・・・・どちらかと言うと後ろ盾が俺だってのもあるけど。
冒険者ギルドの時もそうだったがシノンの評価が見方によっては下がってるんだよなあ・・・・
聖十剣たちが俺を怖がるようになってから、なんか王国の兵士たちまで俺と目が合うだけで震えている。
・・・・いや、俺が悪いのは分かるけどさあ。
「・・・・あ」
「どしたん?」
「お前の格好が・・・・」
今の俺の格好は王宮を出歩く服ではなく、どちらかというとお忍びで外に出る服だった。
女王陛下の前に出る服では断じてない。
もうシノンさんったら・・・・仕方ないんだから
「会えないなら、会わなくていいな」
「・・・・・・そうかな?」
「・・・・・・・・会った方がいいか」
「ああ」
シノンは柔らかい表情を見せるようになった。
心が穏やかになっているからだ。
そしてその表情のまま、俺の首筋に『霜葉・無唱』を突き付けその背後に鎖を浮かせるように・・・やだ、俺の嫁さんコワすぎ!
「でも、どーすんの?今から取りいくの?ガルブレイクさん先に行ってるから時間はそんなにねえんだけど」
「むう、、、、兄様の服一枚剥ぎ取るか」
「いきなり何!?」
ちょうど通りかかったゼノンがシノンから漏れた殺気に反応してビクッと後ずさった。
まあ、、、魔術禁止の王宮で抜剣+獄炎魔術だしな。
そりゃあ驚くか。
ゼノンは早速シノンをド叱りし始め、シノンは涙ながらに俺を睨む。
・・・・俺のせいにすんなよ。
そう言いたかったがゼノンはお叱りを早めに済ませて、謁見の間を示した。
「女王陛下が待ってる・・・恰好は良いから速く行くことだね。」
「・・・・・え、この格好でもいいの!?」
「特別だよ・・・・そっちの服の方が後の服が映えるだろうし」
「「え?」」
「ごほん・・・いいから」
ゼノンに押されるがままに、謁見の間を潜る。
謁見の間・・・女王陛下が常にいる場所。
普段は数人は必ず官がつくその場所で、そこにいたのは女王陛下とミル。
ミルの抱えた手荷物が気になるが・・・女王陛下は凄くご機嫌なようで来い来いと手招きしてきた。
どうやら俺の服装気にしてないみたいだ・・・
「女王陛下ただい
「そんなのいいから、これを・・・ミル!」
「ええ・・・?」
シノンのスパルタ教育で何とか形にした正式な礼をあっさり打ち切ってミルの抱えた手荷物を俺に手渡してくる。
「さあ、開けてみろ!」
「は、はあ・・・・」
どうやらシノンにも同じものを用意してあるみたいで、女王陛下はとてもとても嬉しそうにはしゃいでいる。
その様子はまるで子供だ・・・
俺が強烈な希望を見せてから女王陛下も今までの重荷が少し外れたのか、いままでより明るい笑顔を見せるようになった。
もしかしたらこれが彼女の本質なのかもしれない。
「ほら、いつまで持ったままにするつもりだ?」
「「は、はい!」」
急かされたので急ぎ気味に包みを開く。
白を基調としたロングコートだった。
デザインはシンプルながらもたまに王国のシンボルカラーである赤や金色の差し色が入れられ、一目見いただけでまさに王国の戦士が見に纏う服って気がした。
「これは・・・・魔道具?」
「『王国・白装≪コート・ホワイティア≫』・・・・着てみてくれ。」
新装備か・・・・・でも俺は『黒曇衣≪コート≫』に『内在型身体強化』と自分で間に合ってるんだがと思いつつ身に纏う。
「軽いな・・・・・」
「うん・・・・それに心地良い」
身に纏った瞬間、ふわりと風が流れた気がした。
そして春が近いとはいえ気になっていた肌寒さを感じにくくなっていた。
寒熱に耐性があるのか・・・・・・まるで絹でも着てるみたいに体にもフイットしている。
いや、このコートの効果はそれだけじゃない。
『王国・白装≪コート・ホワイティア≫』は俺の魔力を自動的に引き出し、、、、黒い♦マークをふつふつと浮かべていく・・・・・少しゼブラにも見えるな。
シノンの場合二種類の魔力を持っているせいか赤と青がうまい具合に、混ざっている。
外見の変化も驚きだが、それよりも驚きなのは・・・・・
「これ、、、外装型身体強化?」
「しかも『黒曇衣≪コート≫』よりも変換効率高いな・・・・・」
「それなら今までより簡単に『二重混合型強化≪ミックス・アップ≫』出来るだろ?自動的に『外装型身体強化』をするから、『内在型身体強化』だけに集中出来るはずだ。」
「・・・・・・・おお!」
もうよほど追いつめられた時か『曇脈展開≪クラウド・アクセス≫』中しか、実戦で使う機会はないかと思っていた『二重混合型強化≪ミックス・アップ≫』がほんの少しの魔力コストで可能になってる!
少し動いてみるだけで、その違いがよく分かる!
「ありがとう、ミル!」
「礼は材料提供してくれた女王陛下に・・・」
「ありがとうございます!」
「ふふん、、、メインの素材はメルキセデクの天使の羽根。更には各自の属性に会わせて素材を変えている。サクラの方は『曇の種』、シノンの方は『獄炎の種』に『雪崩の狩人』の素材を使ってるからな。」
「「『種』!?」」
アリアとガルブレイクさんが協力したのかと驚く俺達を前に満足げに笑う。
「いい師匠と・・・いい父親に恵まれたな。話をしたら、すぐに協力してくれた。」
「おう!」
「・・・はい」
「二人のお蔭で何とかこの二着は完成したんだ。二人にも礼を言っておくんだよ。」
ミルと女王陛下にきちんと礼をして、その後に早速新装備で出ることにした。
「シノンはどうする?」
「私は、、、、、」
未だシノンとガルブレイクさんの仲は気まずいらしい。
まあ、、、、一時は復元不可能だったし急に仲直りできるとは思ってないが。
それでも、、、、ニ・三回話し合えば仲直りできるはずだ。
「『動く曇道≪オート・ステップ≫』」
「・・・・・・いってらっしゃい」
「おう」
ま、、、、、時間は沢山あるんだし、、、気長に行こうぜ。
途中でツバキを拾ってガルブレイクさんが待つ王国と帝国の国境へと辿り着く。
ガルブレイクさんは馬を近くの木陰で休ませ、自分もその近くで腰を落としていたが俺の姿を見ると腰を上げた。
「お疲れ様です、ガルブレイクさん」
「ああ、、、、そのコート」
「ええ、女王陛下から・・・・シノンも嬉しそうでした。」
「そうか・・・・・」
ガルブレイクさんはそれを聞いて少しだけ口元を緩めた。
・・・シノンの前でもそういう顔みせてやりゃあ良いのに。
すれ違いの中で出来なくなっちゃったんだろうなあ・・・・
ま、、、、今日はこの人にダメ出しに来たわけじゃない。
『土木工事』しに来たんだから。
「さて、、、、桜」
「おうよ」
「・・・・・・本当にするんですか?」
「これが一番楽だしな」
桜に顕現してもらい、ツバキが俺の傍による。
ガルブレイクさんは椿と同じ少し不安げな様子だ。
・・・・・一応俺も少し不安なので聞いておく。
「最終確認なんすけど、攻めてくるのが雷の勇者だけなら何とかなりますよね?」
「・・・・ああ、帝国軍の邪魔さえなければ何とかなる。倒すのは無理だが、戦場を維持するだけなら」
「流石ガルブレイクさんだ。」
かつて勇者に聖十剣十人がかりでようやく戦場を維持出来ていたと聞いていた雷の勇者相手にそこまでできると断言できるなんて。
頼もしい、、、、本当に頼もしい。
なら・・・と作戦どおりに作業を再開する。
桜が魔力バイパスを無理矢理こじ開ける。
そして自分の魔力を俺へと強引に渡してくる。
本来俺の魔力が枯渇した時に手渡すはずの膨大な魔力を無理矢理俺に詰め込んでいく。
「う、、、うぷ、、、、」
苦しいお!僕もう駄目だお!
体の血管すべてがパンパンに膨らむかのような・・・
体の器官全部がぷっくうううううと膨らんでいる幻覚を感じる。
てかもうはち切れる!?
いや、、、、実際は強い嗚咽感を感じる。
ただでさえ満腹なところに無理矢理詰め込むようなもんだからな・・・・
「だ、大丈夫か?」
「大丈夫です!桜、、、、もっと早く詰め込んで、、、、気持ち悪いぃ・・・」
「無茶いうな、急に注いだら破裂するぞ冗談抜きで!」
「は、破裂・・・・」
「く、苦し゛い゛・・・」
「マスターはいつもしまりませんね!」
「い、今は身体をつつくな・・・・・ちょっとの刺激で破裂する・・・・」
「レイディウス・・・・お前はどこぞのびっくり人間だ?」
ガルブレイクさんの呆れた視線に反応してる余裕がない。
『・・・・・もう限界だ』
それを十回ほど繰り返し、もう気持ち悪さで意識を保つぐらいまでいってしまっている時になってようやく桜からGOサインが出た。
「おし、全部注ぎ込んだぞ!」
「『曇脈展開Typeγ』!!」
待機していたツバキに急いで触れる。
血管がブチ切れるんじゃないかと言うくらいの痛みを伴って、身体を伝ってツバキへと。
信じられないくらいの勢いでツバキを黒雲へと変えていく。
曇の魔術は種の魔術の特性をもっとも受け継いだ魔術だと思う。
核を創り出し、周囲の魔力を集めて大きな黒雲を形成する。
よってより大きな規模魔術を使うには方法は簡単だ。
一つは『曇脈展開≪クラウドアクセス≫』のように操作を極限まできわめてより沢山の周囲の魔力を集める。
そしてもう一つはより大きな魔力を集められるように、初期投資魔力を多くして最初の核を大きくする。
今俺は俺だけじゃなく桜の分までツバキに注ぎ込んでいる・・・・最初の魔力を強くし、最初の核をより大きくする。
桜の分をどう使うかで『曇脈展開≪クラウドアクセス≫』は派生する。
『曇脈展開Typeα』が従来通りの『曇脈展開≪クラウドアクセス≫』だとすると
ガルブレイク戦で使ったのは『曇脈展開Typeβ』。
ドン・クラークの『狂竜化』のコントロールを参考に、桜の分の魔力を全て理性の維持に回す。
当然使用後の副作用もない。
いつも通りの精神状態でありながら『曇脈展開≪クラウドアクセス≫』並の大魔術を使用できる。
一番使いやすく、周囲への被害も起こさない・・・?
一方今回使うのは『曇脈展開Typeγ』
サクラも桜も全ての魔力を戦闘に回す『最強』の『曇脈展開≪クラウドアクセス≫』
・・・・・・敢えて欠点をあげるなら
「ブハヒャッはアアアアアアアアっ!」
ーーもう、しーらねっとーー
「・・・・・本当にびっくり人間か、お前は」
「ぶひゃあああはああああ・・・・これでいいんすよぉ!」
「・・・・・・・そうか」
ガルブレイクさんが頷く、俺も無駄に二回頷く、、、、イイネ!
さてと、、、これ以上ないってくらい最高にハイ!ってやつだアアアアア!
別に気分最高潮でもやるべきこたぁ、忘れてねえ!
国境線を新しく引き直すんだろぉ!?
―間違ってはないですけど・・・・―
―『最強』の『曇脈展開≪クラウドアクセス≫』=『最強』の『キチガイ』ですね、ありがとうございま~す-
「キチガイぃ?だれがぁ?」
ーーええ・・・・・・ーー
・・・・どうやら俺の評価が低いみたいだなぁ!
でもそれもまた・・・・イィ!
興奮するねぇ!この感情は何だろう!
ーー変態ーー
「ち・げ・え、、、ねえZE!」
ーうっわ、もう近づいてほしくねえ・・・ー
ーていうかもう麻薬か覚せい剤でもやってるんじゃないですか・・・?ー
「ふおおおおおおおおおおおおおおっ!下半身がむず痒い・・・・脱ぐか!」
ーー脱ぐなっ!?ーー
まあ、、、、脱ぐよりも暴れたい気分だし、、、、HERE WE GO!?
「『動く曇道≪オート・ステップ≫』!!」
宙へと黒雲の道が打ち上げる。
その浮遊感が心地いい!
「ぶひゃあああはああああ!暴れ狂え『積乱曇≪ミキサー≫』!」
黒雲の奔流が『嵐曇の極一撃≪オーガ・ストーム・マグナム≫』ですらか細く見える程の奔流が地面を削る。
そして後には何も残らない巨大な谷。
王国と帝国の国境をそのまま抉る深い深い常識では考えられない谷。
膨大な魔力の放出
それに反応できたのは何人いただろうか・・・
いや、反応だけなら誰でも出来るはずだった。
だが、、、まるで魔力災害が起こったかのような、その巨大な魔力の移動は人々の気を失わせた。
驚きが意識を失わせるほどの驚きを引き起こしていた。
それでも動けた者達は帝国側にもいた。
開戦準備により集められていた猛者たちがいた。
その彼らも動けなかった。
視界に映った光景が信じられなかったから。
「『曇の洪雨≪メガ・スコォォォォル≫』!!」
地味に強化された喉から発せられた言葉。
たった数文字の言葉が表した現象が信じられないものだったから。
皮膚がカサついた。
喉が渇いた。
目がひりついた。
最初はそんなものだった。
地面が渇いた。
沼地が干からびた。
動物も木々も乾いた。
洗濯ものが燃えた。
オカシイと気付くまでに数秒かかった。
溜めてあったはずのコップの水が空へと消えていった。
帝国のあらゆる水が・・・・失われた。
そしてその一方で気付くものがいた。
王国と帝国の国境線へと・・・帝国の都市・市町村から搾取されたあらゆる水が空を飛んで向かっていくのを
そして脱水症状でふらふらの頭の民たちが、、、階層関係なく気づく。
王国が遂に帝国に牙を・・・・剥いたのだと。
本気で争う気なのだと。
「もし最初から『曇脈展開Typeγ』とやらを使われていたら・・・・・私どころか女王陛下ですら・・・・」
「ぐごおおおおっ、、、、ぐがあああああっ」
「・・・・・・・・・・・」
雷の勇者が妨害しに来た場合の護衛としてガルブレイクはここにいた。
その為に全てを見ていた。
目の前には谷が出来ていた。
渓流が出来ていた。
もう大陸を二つに分けたと言っても過言ではない、常人では絶対に越えられない渓流が出来ていた。
そして渓谷の底は轟々と・・・帝国中から搾取した黒雲の混じった水が渦巻いていた。
あの流れは・・・・どうなっているかは知らないが半永久的に続くだろうと思った。
何より・・・渓谷は軍では越えられない。
橋をかけるには深すぎるし、幅も広い・・・難易度が高すぎる
第一、王国兵が妨害する。
渓谷の底を降りようものなら、、、、黒雲の渦で溺れ死ぬだろう。
空を飛ぶ者もいるだろうが、、、、王国魔術師隊の良い的だ。
「・・・・・・何て奴だ」
物理的に帝国から雷の勇者以外攻めてこられないようにしてしまった。
正直、冗談半分で聞いていた。
当の本人は『土木工事』と簡単に言っていたが・・・・一瞬でやってのけたことはその言葉で収まるものではない。
サクラ=レイディウスは・・・・これから世界中から注目される。
今までの注目がなかったかのように。
そんなことも知らずに副作用でぐがああああっと眠りこける少年を見る。
幸せそうだ、、、、その寝顔は。
やってのけたことを実際に見てないものが見たら嘘だろと・・・言いきるはずだ。
「隠すべきか・・・・今日のことは」
彼の為に・・・・そうするべきと思った。
まだ早い、、、そうまだ早い。
まだ精神が安定していない彼は利用されることへの耐性が足りない。
世界中から注目されることの怖さを知らない。
だから・・・・・今はこの彼の偉業は隠すべきだ。
そう思いながらも体は動いていた。
女王陛下にしかとるはずがない最高位の敬礼を眠る少年に取っていた。
跪き、そして手を胸に当て、、、、、彼の偉業の結果を噛みしめていた。
「・・・ありが・・・・とう。これで国は・・・救われる」
「ぐがああああああっ」
「うっ・・・う゛っ・・・・」
驚きを越えて、感謝をして・・・ようやく頭が理解していた。
雷の勇者は確かに強敵だ。
しかし彼と自分なら必ず撃退できると分かっていた。
そして聖十剣達なら人間同盟だろうが、英雄連邦だろうが必ず退けられる。
女王陛下が出陣するまでもなく・・・・・・
ようやく・・・・ようやく希望が見えてきた。
絶望の中を歩いてきた・・・・そして更なる絶望へと沈み込もうとしていた。
それが当たり前だと思ってすらいた。
そんな自分たちを間違っていると否定してくれた。
このまだ15、6の少年が・・・・国一つを敵に回してまで・・・・否定してくれた。
守るべき娘を敵に回し、、、、守るべきもう一人の娘の命を奪おうとまでしていたこの私を見捨てないでいてくれた。
そして最後の最後を間違えずに済んだ。
「あり、、、、がとう」
「ぐがあああああああっ」
安心の涙、嬉しさの涙、回顧の涙・・・・もう泣いてる理由が分からない。
・・・・・未来の息子が眠っていて良かった。
こんな情けない姿を見せなくて済んだ。
「お、ようやく認めたな」
「!?」
声がした方向を見る。
・・・・・・誰もいなかった。
『熱感知≪サーチ≫』で周囲を探っていたはず、、、だからそこには誰もいるはずがなかった。
けれども・・・・視界の先には彼女がいた。
出会ったあの時の姿で
あの時と同じ自分にだけ向けてくれる笑みで
・・・・・・・彼女がそこにいた。
「ガル・・・よく頑張ったな。」
「セシル、、、、シノンは元気だ・・・・元気なままでいられた。」
「お前が護ってくれたからだろ・・・・知ってるんだぞ?」
「・・・・・・・え?」
セシルは何も知らないと思って・・・と唇を尖らせる。
「シノンが王宮を出てから常に監視の目を置き、休日はたとえ国外でも魔道具を使って転移してでも様子を見に行ってただろ?」
「・・・・・セシルには・・・・・敵わないな」
「うん、ガルは私の最高の夫だ!」
「セシル、、、、、セシル!」
「きゃっ!?たく、、、お前はいつも強引なんだから・・・」
抱きしめた、、、、その感触は確かにそこにあった。
かつてそのままの、、、感触と体温だった。
「ガル、、、、時間がないから簡潔に言う。もう私はこの世にいれないから・・・その分ヒナを大事にしてくれ」
「・・・うん・・・・うん、うん!」
「けれども、、、、『一番』私を愛してくれ。」
「・・・うん、、、、うん!」
「・・・・・・・・もう自暴自棄になるなよ、私の勇者様。」
「・・・・セシル、愛してる」
「私もだよ、ガル・・・・・・・・
気づけば地に顔を伏せ眠っていた。
幻覚だった・・・・のだろう。
しかし、、、、彼女の意思を感じていた。
「・・・・大丈夫、もう君に心配はかけないよ。」
空に向けそれだけ伝えた。
他に伝えたいことは全て伝えていたはずだから、、、それだけで十分なはずだった。
遠くから笑い声が聞こえた、、、耳に残っていたのかもしれない。
十年間ずっと、、、、彼女の声が。
ようやく迷いなく進めると思った。
彼女に感じてた愛も、私を置いてったことへの恨みも全て・・・・納められると思った。
十年以上進んでいたようで進めなかったこの道を・・・進めると思った。
「もう、、、行くね」
もう耳に声は残ってなかった。
だから振り向かなかった。
帰るべき場所に待っている人たちがいるし、やるべき物事も山積みだった。
それでも・・・・精神はこれ以上ないくらい満ち足りていた。
希望が足を引っ張っていた。
ガルブレイクが眠るサクラを置いてったままだったことに気付くのは、王宮に戻ってからのことだった・・・・・・・・・




