第5章鎖を砕け、運命を変えろpart1
目が覚めた瞬間には、自分のすべきことが分かっていた。
「え、ちょ!?」
「あんがとな、ミル。助かった。」
「あ、うん・・・」
身体を起こし、身体中に刺さる針を引き抜く。
ミルに礼を一つしてベットから抜け出そうとした俺の前に一本の剣が突き出される。
「忘れ物だ。」
「・・・おう」
トツカは俺がどこに行くのかを聞くこともなく、『葉擦れ・変染態』を突き出してくる。
まっすぐに俺を信頼してくれていた・・・だからその剣を俺に手渡していた。
か細いくせにすごく重い愛剣を抱え病室を出た。
「ま、待って!」
「待たない、ついて来い。」
アリアが何か言おうとしているのを無視して俺はまっすぐと『彼女』がいるはずの部屋へと向かう。
脚が治ってないせいか若干引き摺り気味・・・右目も使えないせいで遠近感も掴めない。
・・・・・・てか、魔術使えばいいか。
「『曇感知≪サーチ≫』」
ねっとりとした微量の黒雲が混ざった風が王宮中を通り抜ける。
手に取るように分かり始めた道をただただ進む。
「ど、どこに行くんですか!?」
「シノンのとこ行く前に、サニア引きづり出す。」
「・・・眠ってる間、外のこと分かってたのか?」
「まな。」
よろよろと歩く俺を見かねたのか、トツカとアリアがそれぞれ俺に肩を貸してくれた。
礼も言わずに彼らに身をゆだねる・・・・彼らは俺を止めなかった。
いや、、、、止めても無駄だとわかってくれたのか?
まだ早朝のせいか、空気が淡白く見える。
そして寒い。
・・・・・一晩中看病してくれた皆にはお礼じゃなく謝罪でもなく行動で示す。
だから全部終わってからだ。
「ツバキ、桜」
「はい」
「なんだ」
先に先にと進みながら、ついてきているはずの二人に声をかけた。
足は止めない、声だけで確認をとる。
「止めんなよ?」
「・・・・・・はいはい、お前はいつもそうだしな」
「・・・・・・・今回だけですよ」
桜は呆れのこもった声で、ツバキは納得してなさそーな声で返事をする。
でも、二人ともわかってくれていた。
俺が『主人公であること』が『どういうことか』を
そして同じく、銀髪の俺の大好きな少女が心配してくれてるのか、『分かってるはずなのに』わざわざ忠告してきた。
「どうするんですかその体で・・・・魔力以外ほとんどボロボロじゃないですか」
「加害者がよく言うぜ、、、でも嫁に心配されるほどじゃないから心配すんな。」
「・・・・・・・あなたと話せば話すほど私は自分が分からなくなります。」
「それ全て、、、一つも間違ってないさ。」
「・・・・?」
「嫌悪も好意も、、、俺自身抱いてる。アリアがそうでも間違いないさ。」
俺は我儘で、、、そんな自分が嫌いで好きだ。
そして俺は主人公だ、、、我儘を通すことには、、、責任が伴うことを知っている。
だから今は・・・・・・
「全部王国のゴタをこの数日中に片付ける。その後はアリアの番だ。」
「・・・・・」
ビクリと肩が動き、俺の横顔を見ようと
アリアの体温は俺の知っている体温より少し高かった。
そして肌が少しだけ紅潮していた。
そして期待半々、見極めるかのような目を俺に向けていた。
・・・・・上等だ。
「未来の旦那様から・・・・一時も目を離すんじゃねえぞ。」
「っ!?」
答えを聞かずにアリアの貸してくれた肩を振りほどき、後ろへと押した。
バランスを崩すほど動揺した彼女をツバキが慌てて受け止める。
答えは聞かなかったし、反応を見てからかうつもりもなかった。
いつまでも肩を貸してもらうのは情けないと、トツカの支えもここでやめる。
後、数歩でサニアが籠る部屋だ。
『曇感知≪サーチ≫』で確認したから分かるこの扉の先に今も泣きじゃくる小さな女の子がいる。
泣かせちゃいけなかった女の子がいる。
「・・・・サニア」
「いまさら起きても遅いよ!」
外が騒がしいことから悟っていたのだろう。
怒りの声が扉を通して聞こえてきた。
・・・・そうだよな、怒ってるよな。
掠れて小さいけど、許さないって・・・・絶対に許さないって
本当なら自分が犠牲になるだけでよかった。
それがいつの間にか大好きな姉のような存在と、獄炎の勇者が争うことになった。
そしてこのままでは止めることもできずにどちらかを必ず失う。
誰よりもやさしいサニアが耐えれるはずがなかった。
そうだな、、、俺が我儘した結果が、、、、これを招いた。
「『曇の一撃≪ショット≫』」
「「「「ええ!?」」」」
だが、時間ねえから。
魔力が回復しているお蔭で魔術だけは絶好調だ。
固く閉ざされたはずの扉は千切れ跳び、光が部屋へと流れ込む。
ひっくひっくと扉がこじ開けられたことも気づかずに、小さな肩が動いていた。
クッションに白く長い髪をうずめるようにしていた。
声は掠れ、俺の罪がどれだけ彼女を苦しめたか
謝ったら楽だろう。
抱きしめればサニアを大事にしている気分になるだろう。
聞こえのいい言葉を並べれば、少しは響くだろう。
「サニア、行くぞ」
でも、今すべきことは・・・・・そうじゃなかった。
もう何も見たくない、何も考えたくないと目をつむり泣いて考えることすら放棄する。
そんな状態になってでも俺は彼女を外に引きづり出そうとしていた。
「いやっ!」
「・・・お前の運命・・・見届けないと後悔するぞ」
「離してっ!もう何も見たくない!」
「・・・・・・・・」
「いやっ!」
前衛と後衛、男と女。
殴られ、蹴られ、噛みつかれ・・・
痛くはないし、譲る気もない。
ひきづるだけだ・・・・今もシノンが戦ってるはずの場所まで。
「サクラ、、、嫌がる女の子を連れだすなんて聞いてませんよ!」
「・・・・・・シノンが戦ってるのは俺とサニアの為だ。」
「それがどうしたんですか!」
「なら、その場に行かないなんて不誠実な真似はぜってえにさせねえ」
「!?」
あまりいい顔をしてなかった周りにも聞こえるように・・・・
サニアの顔をがしっと掴んで叫ぶように言葉を叫ぶ。
「力がないから悔しい・・・何もできない自分が情けない・・・分かるよ・・・分かるさ!」
「・・・ひぐっひぐ・・・・」
「それでもサニアは逃げなかっただろ、自分の運命から!」
「・・・・う゛ん」
「なんで『今』逃げるんだよ!今、、、運命の変わり時を前にして!」
「・・・・だって゛・・・」
分かるさ、、、サニアは優しい。
自分が傷つくよりも自分の為に人が傷つくほうが嫌だって
目の前で大事な人を失うほうが嫌だって
でも・・・・
「今まで運命から逃げなかった自分を・・・・お前自身が否定するなよ!」
「・・・・・やぁ・・・やだぁ・・・」
「シノンですら、、、俺ですら、、、、周りですら見たくない現実から逃げださなかった、、、サニアは強いんだ、、、、最後までそうであれよ、、、自分をこんなつまんねえところで落とすな!あと少しで救える瀬戸際で、、、最後の最後なんだぞ!がんばれよ、あと少しだろうが!」
「私は、、、、、」
「あ゛ん?」
サニアがここで初めて顔を上げた。
そして・・・・・・・・・・掠れ声ながら・・・・・叫んだ。
「怖かったけど、、、、皆に心配かけたくないから、、、、笑ってただけだった!」
「・・・・・・・・・」
「毎日眠るのが怖かった!明日にはもう・・・・だめかもしれないって考えるだけでも怖かった!」
「・・・・・・・・・」
「でもでもでも!」
「・・・・・・・・・うぐっ!」
みぞおちに入った拳はちんまいサニアのくせに意外と深かった・・・・
体が弱ってることもあるけど、サニアも内在型身体強化使えるようになってる!
戦士として比べるとまだまだだが・・・・聖女として魔力コントロールが完成したようだ。
「それでも仕方ないって・・・・逃げたらダメだってわかってた・・・・だから我慢してただけ!私しかできないんだもん!」
「うん、、、、分かったからその拳は、、、、うぐっ!?」
「なのになのになのに!」
「うぐっ!うぐっ!うぐっぅ!?」
「大事な人を守るために我慢してたのに!私ができることをしようと思ってたのにぃ!」
「ごめん・・・なさ・・・・いっ!(半泣き)」
「お兄さんのせいで守りたい人たちが・・・・・戦ってる!こんなに悔しくて自分を嫌いになったのは初めて!」
いつの間にかマウントポジションをとられぼっかぼっか殴られる。
温厚で優しいサニアちゃんはどこに行ったの!?
病み上がりの俺の体から鳴らしてはいけない音を叩き出しサニアは怒る。
シノンをどこか彷彿とさせるその動きに、ガチの恐怖を抱くのに対し仲間からの助けは来ない。
「おお、いいパンチ」
「サニアさん、動けたんですね・・・」
感心したかのようにトツカと椿はうんうんと頷く。
「・・・ばーか」
アリアは呆れた様子でため息をつく。
いや、助けてくれてもいいんだよ!
「「「「「「「「聖女様・・・・・・」」」」」」」」
「!?」
「おお、、、、やっと来たか」
サニアがしまったって顔で俺の上から立ち上がる。
で・・・・そのついでに俺の腹部を一度強く踏みつけた。
目を泳がせて、冷や汗を流し、、、サニアはいつの間にか集まっていた聖十剣たちを見た。
・・・・・・流石だな、聖十剣達は。
俺が常人じゃあ気づけないくらいの魔力量の網を張ってたのにそれに気づいてここまで来たのか。
「・・・・・じゃ、行くか」
「・・・・・何であんなに分かりやすいメッセージを?」
サニアの豹変ぶりで聖十剣達は皆、混乱している。
彼らを代表してゼノンが訝しげに聞いてきた。
そりゃあゼノンクラスならなあ・・・・でも『ゼノンや聖十剣クラスで』ようやく感じ取れる魔力量だったはずだ。
「ある程度の力量持ってる奴は全員見ておいて欲しかったからな」
「いや、そうじゃなくてさ・・・・・」
「・・・?」
ゼノンは寝癖のついた頭をぽりぽりと掻きながら、困った顔になる。
「『この魔力を感じ取った者、、、、今すぐ来なければ○○ス』的な魔力だったじゃないか」
「・・・・・・・・・・ニュアンスは間違ってないけどさ」
ボボルノやジョージはともかく、聖十剣達の俺を見る目が・・・・まるでキチガイを見る目だった。
ああ、、、、『勇者』からどんどん遠ざかっていく。
ま・・・・と、俺は気を取り直して立ち上がる。
「説明は後だ。ついて来い、、、、あんたら全員見届ける権利も義務もあるはずだ。」
聖十剣、仲間達、サニアにアリア。
この一か月、、、サニア達が王国を逃げ出してからを含めば一年以上続いたこの戦いの結末を。
この王国のこれからを決定づける転機点を見届けなければならない人たちはもう集まった。
・・・・いや
「・・・・俺が気に食わないらしいな」
「!?」
影からこっそり様子をうかがっていた少女がピクリと動く。
・・・・俺の雲をある程度妨害していたみたいだがそれだけ殺気ぶつけられりゃあ気づくっての。
アリアが驚いた声を上げる。
「ティアラ、どこに行ってたんですか!?」
「・・・・・・」
アリアが話しかけても、頬を膨らませ答えない。
けども敵意を持って俺を睨む。
・・・・・・ま、俺も同じ立場ならそうだろうよ。
「お前の兄弟子として納得させられるだけの力・・・見たくないか?」
「・・・・・・」
「ついて来い。」
シノン、、、、本当にお前が相棒で良かったよ。
戦ってるのがシノンじゃなかったら間に合ってなかった。
状況を整える時間が絶対に足りなかった。
戦場に立つのは俺とガルブレイクさん。
誰もが始まりの瞬間を待っていた。
ところが・・・・・・・すぐに始まるものかと思っていたが、ガルブレイクさんはまず俺に尋ねてきた。
「なぜ、、、聖女様を?」
「自分の運命から彼女には逃げてほしくなかった・・・・最後まで逃げない彼女でいてほしかった。そうじゃない彼女は俺の好きなサニアじゃないから。」
「・・・・・・我儘な奴め」
「よく言われるよ」
調子に乗って引き連れすぎたかもしれない。
聖十剣達どころか仲間たちまで連れてきてしまったのは理由あってのことだ。
けども外面だけ見たらどんだけ引き連れてきてんだ、見せもんじゃねえぞって話だろう。
・・・・・・ガルブレイクさんが怒りではなく呆れた顔なのでよかったが。
そう、、、この状況下でガルブレイクさんは『俺に』怒っていなかった。
「・・・・あのギャラリーは?」
「聖十剣達は『知るべきだ』と思ったから呼んだ。後の奴らは俺の都合。」
「そうか・・・・」
ガルブレイクさんの・・・・・・・表情は無表情。
・・・・・・ようやくこの人が理解できた。
この瞬間まで理解できなかった部分、、、違和感がようやく少しだけ晴れた。
そして尊敬を以てこの人と戦える。
「ガルブレイクさん。」
「・・・・・なんだ?」
「『三撃戦』でどうですか?」
「・・・・・・構わないが、先は?」
「もちろん、ガルブレイクさんから」
「そうか」
ガルブレイクさんは首肯すると距離をとろうと少しずつ離れていった。
俺も同じく。
『三撃戦』とは冒険者間の正式な決闘で使われる方法だ。
最大の技をぶつけられても耐え、相手に同じように最大の技をぶつける。
そして二撃で決着がつかない場合、三発目はお互いの技をぶつけ・・・撃ち抜いた及び立っていた方が勝ち。
単純明快で勝敗がはっきりしやすいため好まれ易いのだ。
―まさか通るとは・・・・・-
「俺は『曇脈展開≪クラウドアクセス≫』中つっても、怪我のせいであんまりうまく動けんしな・・・ガルブレイクさんの方もシノンと戦った後だし、、、少しは消耗あるはずだしな」
―・・・・・提案したのはこちら側ですが、後手の方が不利なんですよ?―
「わーってる」
愛剣に銀色の流鉄を纏わせ、刀に変える。
残念ながら今の俺の曇魔術では初撃を受け流せないから・・・・これに頼る。
いつかはなんとかするけれども今は友人達の力を借りる。
「頼むぜ『葉擦れ・龍染態』・・・・」
ずしりと腕に響く重さ。
重さを重視する剣術は使わないが、やっぱり重い剣は頼もしい。
・・・・限界まで使っちまってごめんな。
そしてまた頼っちまう未熟な俺でごめん。
「『鎖に込める鼓動』『鎖に宿る熱』」
一言一言が、、、響く。
歴戦の戦士が本気で魔術を練っている。
熱も魔力も迫力も、、、、ガルブレイクさんの心が籠っていた。
「『この鎖は自らの意思』『一つ一つの楔は重い想い』」
「後悔はしてない、、、、けど、俺はやり方を少しだけ間違ってた。」
「『波動熱鎖』」
投げつけられるように放たれたのは、槍のような先端が具えられた巨大な鎖。
貫通力を高める為に先端にこれでもかと纏わりつく・・・膨大な熱。
周囲から魔力を集めすぎていて高熱に、それでいて圧密しきれなかった魔力が空気を歪める異質な力となっているのがここからでも分かる。
やっぱすげえよ・・・・
魔力操作技術、魔力の密度、詠唱技術。
何から何まで敵いそうにない。
ずっと戦ってきたこの人は本当に強い。
―来ますよ!―
―刀身でずらせ、、、、無傷は無理だ。-
「まず王国の誰もが認めているアンタに認められなきゃいけなかったんだ、、、『斬技ー黒橙銀』!!!」
剣の専門家からの有り難いアドバイスを受けながら、こちらが放つ防御技は俺が放てる最強の剣技『斬技ー黒橙銀』。
攻撃こそ最大の防御というじゃないか、その技ごと真っ二つにしてやるつもりで斬りつけた。
頭部を狙われて放たれた凶弾だったがため、橙色の刀身を壁にして目にしてしまう。
禍々しい歪みがじりじりと・・・・・ゼノンの『虹蛍光』すら真っ二つにした刀を蝕んでいっている。
刃をじわりじわりと・・・・せっかくトツカが鍛え直してくれたのに・・・あっさりと。
『内在型身体強化』によって銃弾すらスローモーションに見えるかもしれない動体視力が作り出す視界の中で、、、俺は冷や汗を流し『体を自分から宙に浮かした』。
スギャギャギャギャギャ!
ギイイイイイイイイイイイイイイン!
ガリガリガリガリ!
バキキキキキキ!
一瞬意識を飛ばしてしまった。
けど、、、、、、出し惜しみしてたら死んでいたかもしれない。
―そうですね、、、黒雲を全て体に納めてるマスターを吹っ飛ばすなんて・・・-
ああ、、、、、でも、、、耐えきった。
「はあ、、、、はあ、、、、はあ」
鎖が刀を引きずりながら宙へと跳ね上げた。
ごうっと大きな熱風が一瞬目を閉じさせる。
次に目を開けたら、ちょうど俺の傍に『残骸』と呼んでも差し支えない剣が降って来た。
「・・・・・うへぇ」
兆候はあったけども・・・・遂にか。
いや、よく耐えきってくれた。
ドロドロに溶け、ひん曲がって・・・それでも俺の体にまでダメージを通さなかった。
本当に最高の剣だったよ・・・・ありがとう。
「ガルブレイクさん、次は俺の番だ。」
「・・・・・・・・もちろんだ。『獄炎鎧』」
かつて『曇脈展開≪クラウドアクセス≫』で魔術をぶつけてもぴんぴんしていた彼の鎧。
ガルブレイクさんはそしてそのまま待つ。
・・・・・・・・静かに。
「なあ、、、、なんでシノンとの戦いで最後避けなかった?」
「・・・・・・・・・・・」
「シノンを・・・・勇者にするつもりだったか?」
「・・・・・・・・・」
「アリアと戦ってから、、、、ずっと種がうずくんだ。」
「・・・・・・・・・・・」
「もしかしたらって思うんだ、、、、アリアは教えてくれなかったんだが、、、、種の『親』と『子』が戦って『子』が『親』を殺したら『親』になるんじゃないかって」
「・・・・・・・・・気づいたか」
黒雲を震動させながら、言葉を続けた。
言っておかねばならないことは今言っておかなければ絶対に後悔するだろうから。
三撃戦には実は暗黙のルールがあったりする。
一撃、二撃はお互いがお互いの力を試し合う機会で、お互いを対等と認め合う場だ。
意地をぶつけるのは、、、本気で争うのはあくまで三撃目。
だから二撃の間で会話をしておくことは無粋じゃない。
「ガルブレイクさんは自分を父親としてふさわしくないと思ってるかもしれないが、俺は今になってようやくそれを否定できるよ。」
「・・・・・・・・・・」
「王国を守るためなら非情になれる自分を押し殺してでも、、、、娘を殺さない道を選んだ。」
「・・・・・・・・・・」
「シノンがシノンであるために、、、自分は邪魔だって、、、、考えた。」
「・・・・・・・・・・」
「俺を信じることも出来るはずなかった・・・・それでもシノンが信じる俺を・・・・信じてくれた。だからシノンの限界を引き上げて、この先俺達が作る未来に自分は邪魔だと消えることを選んだんだろ?」
「・・・・・・・・・・」
肯定しなければ、否定もしなかった・・・・言葉では。
でも魔力の派長で大体のことは分かる。
そのとおりだと・・・・・
「そもそもシノンの父親なんだから、不器用じゃないはずはないと思ってた・・・・けども娘以上に不器用だとは思わなかったよ。」
「・・・・・・・・・・」
「あんたはまだ必要だ・・・・・だから俺の一撃で死んでおこうなんて考えないでくれ。」
「・・・・・・・・・・」
「俺がシノンを幸せに出来るかを・・・・・後の二撃で見極めさせてやる。」
『葉擦れ』があの状態ないじょう、もう刀身で震撃を集中させることは出来ない。
だから放つのはあくまで拳から打ち出す拡散した衝撃。
けども・・・・
「『曇震双撃≪ツイン・インパクト≫』」
「!?」
両手から『曇震伝波≪ドンシン・クロッシング≫』を撃ちだす。
震動のスピードを調整することで心臓を起点に別時間で撃ちだされたはずの二つの震動は
全く同時に両拳から。
二つの震撃が空気を震わせ、たった一人の人間を喰らおうと迫る。
相互干渉しより巨大な力を以て、、、、集中し収束し
一方ガルブレイクさんがしたことは・・・・腕を前に突き出すだけ。
そして言葉を紡ぐだけ。
「・・・・・いいだろう」
バシュン
空気を震わせていた『震動』が空へと打ち上げられた。
そして空で花開く。
花火のように音をたて、空気を振るわせる。
嘘だろ、、、、、拳で弾いただけ?
前までは一応吹っ飛ばされてたじゃん。
『曇震伝波≪ドンシン・クロッシング≫』の強化型を真正面から受け止めて、被害といえば鎖の鎧の全壊。
けれども身体は無傷。
・・・・・・・本当にバケモノだ。
「・・・・・・ははっ」
「・・・・シノンを守る器か・・・・・もう一度だけチャンスをくれてやる。」
ガルブレイクさんの眼に強い光が戻っていた。
俺の技にか、俺の言葉にか・・・・どっちでもいい。
三撃目になってようやく彼は俺を争うべき者とした。
そして、、、、、、、認めるべきかをこれから試す。
「・・・・・・完全に蚊帳の外ですね。」
「・・・・・・・・・・・・」
同じ種の魔術師であるはずなのに、違うレベルであることを実感させられていた。
獄炎の勇者、そしてサクラ。
どちらも既に『種の魔術師』の限界を超えている。
「オカシイよ!」
「・・・・え?」
「曇の魔術じゃナいよ、アレ!」
「・・・・・・・まあ、そうですね。」
ティアラはそうは思いたくないみたいで、首をブンブン振って否定する。
雲から生み出された震動一つで勇者の鎧を全壊させるサクラの魔術はもう曇の魔術の域を越えている。
一つの終着点が間近に迫っているのだろう。
私の下で基本から曇の魔術を学んできたティアラには納得できないはずだ。
自由にさせた方が強くなることは分かっていた。
見越して、、、速めに彼をココノハ村に置いていった節がある。
私が教えるよりも自分で気付くほうが彼の成長は早いし、それを裏付けるだけの才能を持っていた。
でも、、、サクラがあそこまで至っているとは思わなかった。
そしてあの時のサクラはやはり加減してくれていたんだろうと思う。
「でも、、、、まだ足りません。」
「・・・・・・・シショウ?」
私の闇を背負うつもりなら、、、、それでは足りない。
見せて下さい、、、、そして信じさせてください。
こんな私でも、、、、あなたは救ってくれると。
まるで語るようにガルブレイクさんは謳う。
勇者の語る物語を皆が聞いていた。
そして感じていた、、、、彼の心を埋め尽くす鎖が軋む音を。
「『王国に勇者が一人』『なにも守れず』『自分の命を捨てることさえできず』」
「・・・・・魔法陣級か」
足元が光っている。
・・・・・・・いつの間にやら魔法陣を地中深くに仕込んでいたらしい。
どうやらガルブレイク・エルリングスの全てをぶつけてくるつもりのようだ。
俺が勇者を越える器か示せ、俺を信じさせてみろと、、、、力を示せと周囲の魔力を伝って訴えかけていた。
「俺もガルブレイクさんも・・・・シノンが好きだ。」
「・・・・・『今では戦うことしかできない』」
ガルブレイクさんは少しだけ咳き込むと、詠唱を再開した。
彼が絶望を謳うなら、俺は今だけは幸せを謳おう。
今、気付けた幸せを過剰に装飾して、まるで最大の幸せのように。
「だからガルブレイクさんは俺と似ている。」
「『気づいたときには』『守れなかった』『抜け殻一つ』」
「シノンをここまで泣かせた自分自身への怒りが一番大きいはずだ。」
「『魂なきその抜け殻は』『盲目のまま』『剣を振るう』」
「・・・・だから俺はガルブレイクさんを本当に尊敬する。」
「『守りたかったものが何なのかも』『忘れてしまった』」
「そしてこれからはあんたと二人でシノンを守れることに凄い安心感を覚えてる!あんたもだろ、ガルブレイクさん!」
「『今後ろにあるものが』『守りたいかも』『振り向いて』『確認できない』『したくない』」
空気が燃えている。
宙が燃えている。
沼地が沸騰し、地盤が溶けていく。
そして全てが鎖へと再錬成されていく。
「これが終わったら、、、、それを考えると俺はワクワクしてる!あんたはどうだ、ガルブレイクさん!」
「『今の私は』『彼女が残した』『残した残滓を追うだけの』『人形』」
「女王陛下に俺にゼノンにガルブレイクさん!これだけ揃ってて帝国に脅威を覚えてるのか、まだ!?」
「『私の過去は』『敗北の過去』」
「聖十剣に俺の仲間達!アンタが背負ってきたものはもう一人で背負うもんじゃなくなってる!それをアンタが一番気づいていたはずだ!」
「『私の今は』『過去の残滓を守るだけの人形劇』」
「こんなにすげえ奴らが一同に揃ってて、、、アンタの前に揃ってて、、、それでもアンタは絶望を謳うのか!?少しもワクワクしないのか!?」
「『私の・・・・・未来は・・・・
「こんだけ明るい未来があるんだ!これからは明るい未来しかないんだ!サニアが笑って、シノンが笑って、、、そしてアンタも笑う!俺が欲しい未来にアンタは必要なんだガルブレイクさん!」
「『・・・・修羅の・・・・道・・・・
「あんたの全部を尊敬する!けれども・・・・・
「『非道が作る・・・・
「シノンを笑わせられないアンタ『だけ』は否定させてもらう!」
「『王国の意思そして幻影』」
「シノンの父親だろ、しっかりしろよおおおおおおお!!!」
詠唱が終わったのか。
ガルブレイクさんは・・・・・顔を上げた。
もう、、、、俺とガルブレイクさんしかいなかった。
鎖で再現された王宮。
その庭園には二人の人間しかいなかった。
『絶望を詠唱した男』と『希望を叫んだバカ』。
けれどもお互いをお互いが対等だと思っていた。
だから本気で詠唱したしだから本気で気持ちを訴えた。
だから今こうなっている。
「・・・・・・ありがとう、少しだけ『人』に戻れた。」
「・・・・・・全部終わったら、呑みに行きましょう!」
彼を理解しかけた俺でもようやく分かるくらいの笑みを浮かべていた。
熱で空気が極端に歪み、もう声さえもまともに届かない。
けれどもお互いを理解しかけていたから言ってることは分かっていた。
さあ、魅せてやる!
主人公の生きざまを!
ガルブレイク・エルリングスの人生を否定してでも、貫く我儘を!
そしてシノン・エルリングスへの愛を謳おう!
王国の幸せを・・・・未来を一瞬でもいいから・・・信じさせよう!
幸せは希望から導かれる。
そして希望がなくちゃ皆、生きることが出来ない。
だから俺が希望を担う。
それが出来ると皆に信じさせてみせる!
ガルブレイクさんが手を止めて目で訴えかけていた。
いいのか、死ぬぞ・・・・と。
俺は頷いた・・・・・アンタに信じてもらうには必要なことだ・・・本気できてくれと。
ガルブレイクさんは笑った・・・・・もう認めつつあると・・・・だがお前は納得しないだろうなと。
「『王国・熱鎖煉獄』」
そしてガルブレイクさんは見えなくなった。




