第4章昇って来た階段が崩れていく音がするpart2
例え優子さんに折檻を受けたとしても俺は働かなければならない。
だってガチでヤバいんだもん。
きしむ身体を動かして、生徒会メンバーからの虫を見るような目から心を奮い立たせる。
・・・少し被害妄想かもしれない。
優子がそういう目で見てくるから皆がまたかという目で俺を見てくるだけだった!
「・・・被害妄想じゃないじゃん!」
「うわっ、いきなりなんだ!?」
「・・・・・・わるい」
つい自分に突っ込みを入れてしまったら隣の伊月が物凄く驚いてしまった。
今日も今日でお仕事だ。
特に今日は予算編成のための部活動の実態調査、伊月会計を相棒に学校中を駆けまわる。
というのも、鷺ノ宮は一部活であろうともそれなりの予算が出る。
それをいいことに幽霊部員を使って部活してないくせに部費だけ多くもらおうとするのも出てくる。
幾度かはこうやって実態調査をおこない、部活動をきちんと行ってるかを点検しなければならないのだ。
・・・・といっても古畑情報でだいたいのことは分かってるから実態調査を行ったというアリバイだけで
良かったりする。
そういうわけでさっさっさと済ませてしまおう。
「小型の部活だけ回っとけばいいな」
「小型だけ?」
「古畑情報に間違いがあるとは思えねえけど、ミスがあるとしたら2,3人しかいない部活だしな」
「ミスか・・・古畑さんにそんなのがあるとは思えないけどな」
「ま、大型中型ならサボりとかそういうの目立つけど、少人数制の部活は逆に目立たないからな・・・情報集めるのが難しいから」
予算編成表から大まかな部活を省いてまず向かうのは・・・
「手芸部」
「・・・っ!?」
「やっぱそこはいいや」
「ほっ・・・」
「・・・・・・・・」
「な、なんだ!?」
「いんや・・・・」
そういえば手芸部にはトラウマあったなコイツ・・・・そこは後で俺が行けばいいか。
となると確認しなくちゃいけない部活はディベート部に琴部にミステリーサークル研究部。
伊月にどれが良いと確認ついでに見せると彼女は首をひねった。
「あれ、、、どの部活も既定の人数の五人を超えてないな」
「最高学年抜けちゃって足りなくなったんだよ。」
「ふうん、、、部活としてはどうなるんだ?」
「部活動自体は既に認定されてるから存続できるけど、小型分類だから予算にかなりの制限がかかる。それに残ってる部員が卒業したらすぐに廃部になる。」
「・・・・・そっか、寂しいな」
「まあ、、、、そな」
俺が所属している新聞部も古畑さんが来るまでは中型と小型を行ったり来たりしてて、予算的にいつも苦しかったどころかいつでも廃部の危機のラインを行ったり来たりしていたらしい。
それでも古畑さんが来るまではきちんと活動してたんだからやっぱり先輩たちはすげえよ。
「じゃ、好きなの選び?」
「琴部」
「うし、行きますか」
部室棟文化エリア
そこの中でも隅の隅。
畳みのある部屋でも大きな部屋は中型部活の茶道部にとられたせいか、あてがわれてるのも小さな小さな部室だった。
「さて、、、、実態調査って具体的には何をするんだ?」
「ばれないようにこっそり様子うかがうくらいでいいらしい。」
「そうか」
ふすまを少しだけ開く。
どうやらちょうど部活中らしい・・・・琴の前で正座した少年が一人。
そしてその少年を見守るように二人の少女が息すら忘れて見守っている。
部長らしき少女が時を見計らって掛け声をかける。
「ハッ!」
少年はその声を聞くや否やカッと目を開き、姿勢全てを琴に向ける。
そして連続して奏でられる弾き音。
軽く打たれたり時には重く溜めて打たれたり、、、独特の高速リズムで奏でられていく。
数人しかいられないくらいの小さな畳部屋、日光すらあまり入らない小さな部屋。
そんなことお構いなしに奏でられる曲が心を強く打つ。
「・・・・すげえ」
「うん・・・・けど・・・」
伊月が襖に手をかけ思わずキシキシと歪ませる。
・・・・・・・いまは落ち着け。
そう言いたかったが俺も俺で落ち着けなかった。
でも二人とも『今』は音をたてたくなかった。
空気を張り詰めさせる程の強烈な音。
息を吸うことさえ忘れる程の暴力的に訴えかけてくる音。
いつまで続くか分からない、考えたくもない。
そう思いながらも息苦しさは流石に感じる・・・・もう駄目だ!
シン
そう思った瞬間に音が急ブレーキをかけるように止まった。
息を荒げて呼吸を繰り返す。
凄い音を聞いていたんだと改めて思い返していると部長さんが満足げな顔でパチパチ手を叩く。
「うん!これならクリスマスに間に合うよ!」
「はあ、、、はあ、、、ありがとうございます。」
どうやらクリスマスにチャリティ―でもするのか?
それに向けた演奏か・・・・音楽とクリスマスは例え和音でも合うしな。
もう一人の少女が流石ですと満足げな息を吐く。
「『記憶蘇るかな』と始めさせたのに一か月でここまでなんて!」
「うん、才能だねこれは」
「いえ、、、美織お嬢様に極めろと命令された以上、中途ではいけませんから」
「・・・・あ、相変わらずだね」
部長さんが少し引き気味に笑う。
どうやら部長さんと新入部員二人らしい。
そして新入部員はお嬢様とその侍従ってやつか・・・・うん、遠回しすぎるな。
藤堂勝海に卯生月美織だ。
一年生は入部義務があるからと選んだんだろう。
とはいえ、、、、藤堂勝海の侍従っぷりがヤバい。
元々のハイスペックが全て侍従としての実力発揮に使われてしまっている。
「ふう、、、」
「勝海さん、まるで昔から琴を弾いてたみたいでしたよ」
「ええ、、、卯生月家に侍従として生まれてから教養として一通りの音楽機器は扱わされましたので」
「・・・・話がつながってないなあ?」
「脳が違和感を排除してますね、これは」
「いやあ、、、琴を弾くと思い出します・・・卯生月で過ごした幼少期のころを」
まるで人が変わったかのように穏やかな勝海の顔。
そんな彼を見てると今の方が幸せなのだろうかと思ってしまう・・・・・いや、幸せじゃあないか。
アイツはかつて言っていた『一生怠惰に暮らしたいんだ』と
そんな彼が真人間みたいな今の生活を受け入れるはずがない!
声をかけるべきかと迷っていると堪忍袋の緒が切れた伊月が先に行動してしまった。
「なんでこんなところにいるんですかァ-ッ!」
「あれ、、、伊月葵さんじゃないですか?」
「い、伊月会計に女タラシ!?何でこんなおんぼろ部活に!?」
「あらら、、、今日は賑やかになりそうですね」
伊月が藤堂勝海に飛び掛かるその様子を卯生月美織は流石なものであらあらと笑って見守っているが、一般人の琴部部長は仰天した様子で後ずさる。
何か後ずさるついでに聞きづてならないことを言っていた気がするが、、、取り敢えずは。
「兄様!?なにが幼いころから音楽機器を一通り学んできたですか!あなたは今まで剣とパソコンしか触って来なかったでしょう!?何をカッコいい過去を捏造してるんですか、あなたは自分の家族から逃げ出した引きこもりのクズニートだったんですよ!?自分の過去から逃げないでください!」
「落ち着いて下さい、伊月さん。私と同じ名前で生き写しの勝海さんはもういないんです・・・受け入れられないのは分かります。けれど人間は失いながら生きる生き物、、、受け止めてあげた方が故人のお兄様もお喜びになるはずです。」
「こんなこと受け止められるかァ-ッ!」
「ちょっと落ち着いブハッ!ボエッ!ナハッ!」
流石に鳩尾を連続で殴り始めたあたりで羽交い絞めにして引きはがした。
「あら、如峰月さん」
「フーッ、フーッ!」
「・・・・・(ガタガタガタガタ)」
「・・・・・どうも卯生月さん」
取り敢えずこの伊月をどうにかしないと落ち着いて話は出来そうにない。
「部員は申告通り三人に変更、活動もきちんと行っているようですしそれに伴って部費がこれだけ増えます。」
「うわあ、これだけあれば琴の手入れもきちんとできます!畳の新調も!」
「良かったですね、部長!」
「「・・・・・・・・・」」
部長と卯生月が手を取り合って喜んでいる中、伊月藤堂兄妹は緊迫していた。
俺が仕事をしながら首根っこを掴んでいるからいいものの手を離したら飛び掛からん勢いの伊月。
そしていきなり鳩尾を数度殴られ昏倒させられた伊月兄は、部屋の隅の隅にまで移動して出来る限り伊月と距離をとろうとしている、、、涙目で。
エリート引きこもりでありながらも、かつては剣の道を生きた男とはとても思えない。
「・・・本当に人格変わったのな」
「あれから数か月、、、医者もお手上げと・・・・」
「いや、アンタのせいだからね?」
卯生月が痛ましそうな顔で俺の思わず出た言葉に返事を返してくるが・・・加害者だろアンタは。
年上かと思っていたが卯生月は同学年らしい。
ついでに言うと藤堂勝海は引きこもり期間が長すぎて俺達と同じ学年として入学になった。
その辺も伊月の怒りに触れているのだろう。
「てか、どうして琴部に?」
「やったことのない音楽をさせてみたら勝海さんの記憶に少しは変化が出るかなと」
「変化ってお嬢様・・・私の記憶は少しも『誤り』なんて有りませんよ?」
「フーッ!」
「ひいっ!?」
「「「・・・・・・・(なんだこの状況)」」」
どうやら一度距離をとった方がいいらしい。
お騒がせしましたと未だに兄がいろいろと許せないと暴れ出す伊月の首根っこを掴んで歩き出そうとすると卯生月が声をかけてきた。
「そういえば如峰月と皐江月で縁談が纏まるそうですね、おめでとうございます。」
「・・・・・・なんだと!?」
「ちょ!?」
「誰と誰が見合いだったとは詳しく聞いてませんけどおめでたいですね。古参の如峰月に新興の皐江月・・・この二家が結びつけば・・・・・って如峰月さん!?」
「オラアッ!」
「ぶh・・・・」
伊月の怒りが全て俺の鳩尾へと叩きこまれた・・・・
伊月の奴・・・散々暴れてどっかに行きやがった。
古畑さんをこれ以上怒らせると社会から排除されるので、必死で足を動かしてミステリ研と手芸部を回った。
ディベート部は体力的に無理・・・・・・また今度。
取り敢えず明日から頑張ろうと外へと足を進めていく。
「兄様、どうしたんですかそんなボロボロで」
「・・・・椿か」
椿と美術部の連中だった・・・・帰り道か。
中途入学当初は俺や生徒会に入り浸りがちだった椿も、ミミアンとの出会いから美術にはまりそっち関係の人間関係を独自で作るようになった。
てか、元は俺ってことは・・・俺自身にも美術への興味あんのかな?
・・・・・・・想像つかないわ。
「これから美術部の皆さんと外で夕食をとろうと思ってたんです。」
「そっか、気をつけてな・・・・そいえば清廉君は?」
「副部長なら追試の勉強です」
「また引っかかったのか・・・・」
いろいろ他の部活の様子とかを同じ部活動をしてる者からの視点から聞いておきたかったが仕方ない。
てか夏のころからの反省を少しは活かせよな、あいつも・・・
美術部の連中(特に女子)が俺を見てヒソヒソ話してるので早めに離れた方がよさそ・・・泣いてもいい?
「じゃ、気をつけてな」
「はい、兄様も」
手を振り別れるが・・・・同じ帰り道になるのはまずい。
あまり自分の良い噂聞かないしね!
椿の為にもお兄ちゃんとして気を回すか。
表門から帰ろうとしている彼女達とは別の道を。
裏門の方を通ろうと道を変える。
「・・・・・・・・椿も随分友達増えたみたいだな。」
サクラにはない細かい心の機微を読む力が強いせいか椿は人付き合いがうまい。
特に俺をM・Mなどと非常に厨二的な呼び名で呼ばなくなってからは、『自分の』人間関係に気を使うようになったし彼女自身の人となりもあって非常に人望が集まっている。
うん、椿はもう大丈夫だな。
寧ろ心配する側のはずの俺の方が心配されてるしな!
若干泣きそうになりながら整備も何もされてない道なき道を進む。
・・・・なんだかんだで久しぶりだな裏門使うのも。
裏門が段々見えてきた。
・・・・・あれ?
今だ遠目に見える程度だが、『異世界に通じる』壮麗な門に見える。
・・・・また使えるようになったのか?
使えるんなら使えるに越したことないけど・・・・確認だけしとくか。
裏門へと進む足を速めようとした瞬間、携帯が鳴った。
「・・・・古畑さん?」
どうやらトラブルがあったらしい。
俺にしか解決できそうにないからすぐに一度生徒会館に戻って欲しいと・・・
鷺ノ宮構内にいて良かった・・・・表門から出ようとしてたらもう電車乗ってたぞ。
ったく・・・・・裏門に背を向け急ぎの用らしいからと走り出す。
そんな俺の姿を陰からこっそりと見つめる二つの瞳。
俺はそれに気付くことはなかった。
「良い子のみんなあ、元気~~~?」
「「「「「「「「げんきいいいいいいいい!」」」」」」」
ああ、朝日奈さんの声はやはりいい!
げんきいいいいいい!の声が少し良い子じゃない野太い声が混じっている中でも、彼女の澄み渡る声はどこまでも届く。
ああ、、、朝日奈楓まじ天使!
そんなことを考えながら俺はアップをしていた。
昨日急に呼び出されて任された仕事は部活動のチャリティー活動の助っ人だった。
鷺ノ宮高校の全部活動による鷺ノ宮高校と同経営の老人ホーム及び幼稚園の人達へのクリスマスチャリティー。
殆どの部活は強制参加というチャリティーの意味を間違っている、鷺ノ宮の評判の為だけの行為だがこれはこれで意外と評判が良い。
で、そのチャリティーの中で特に人気が高いのがヒーローショー。
剣道部、空手部、柔道部、功夫部とメジャーな格闘部たちによるガチの迫力ある演技が魅力なのだが、ボス役が張り切り過ぎて骨折+靭帯キレるという大惨事に。
しかもその様子を間近で見てしまったお姉さん役が気絶+トラウマ。
こうなるとそう簡単に代役を見つけられるわけがない・・・・とはいえヒーローショーは目玉だから今年は無理ですってわけにはいかない。
ということで白羽の矢が立ったのが生徒会。
お姉さん役として朝日奈楓!
多少のことではメンタル崩さない図太さを持ちながら超越美少女的相貌と声!
まさしくヒーローショーのお姉さん役としてぴったりだ!
誰だってお姉さん役は美人が良いしね!
そしてボス役として俺こと如峰月桜。
多少の攻撃では死なない生命力と高い敏捷性。
まさしくボコられ役としてはぴったりだ・・・・おいちょっと待て。
逃げ出そうとしたら古畑さんが『囁いてきた』のでこうしてアップをしている・・・不本意だ。
ヒーロー役ならまだしも悪役だってのがさらにやる気を下げてくる。
まあ、、、、ヒーローなんてそれには似合わないけどさ。
吹奏楽部による明るめのBGMの元、朝日奈楓が軽く『良い子のお友達』と喋っているようだ。
・・・・・・朝日奈親衛隊らしき大きいお友達が最前列に垣間見えるんだがまあいいか。
幼児たちが怖がってるなら、戦闘ついでに客席なだれ込んでブッ飛ばせばいいし。
「副会長、出番やで!」
「え、もうかよ・・・・・」
台本まだ読んでないのに・・・・
追試で殆ど参加できていなかったはずなのにちゃっかりと監督の座についていやがる清廉君がそんな俺の耳にイヤホンをつけてくる。
「そうやと思ってイヤホンや!指示や台詞はこれで指示するし、その通りにするんやで!」
「・・・・えぇ!?俺イヤホン指示に良い思い出ないんだけど!」
「時間ないんや、さっさと行き!」
「って、おい!?」
強引に着ぐるみ頭を被らされ、尻を蹴飛ばされる。
会場によろよろと押し出された俺に照明がガッと当てられる。
眩む視界が段々慣れてきて目に飛び込んで来るのは人人人の視線・・・・うわ、緊張してきた。
「あ、あなたは怪人ホオヅキ!どうしてここに!?」
朝日奈さんが大袈裟に驚いた表情で後ずさる。
そういや彼女はしょっちゅう演劇の主役張らされたりとこういうことは慣れっこだったな。
嫌に堂に入っている。
―聞こえるか、如峰月?―
NPCである俺にはそんな経験あるはずもなく、そんな俺の唯一の命綱であるイヤホンから清廉君の声が聞こえる。
―緊張しとるみたいやな、、、取り敢えず一発かましたり、、、ワイと合わせるんやで・・・いくで!―
息を吸い、彼の声に合わせて大声で叫ぶ。
「ハーーーッハッハッハ!怪人ホオヅキただいま参上!そこの可愛い女め!俺のセ○レにしてやるぞ!」
「・・・・ふえぇ!?」
「「「「「「「「「「如峰月、貴様ァ!」」」」」」」
朝日奈さんが赤面しながら力の抜けた声を出し、大きいお友達達がぶちぎれる。
・・・・・・っておい!?
何を言わせるんだ清廉!?
―緊張解けたやろ?感謝しいや~-
いやいや、俺この後殺されるんですけど!?
そんなことを抗言する前に、清廉君が一喝してくる。
―しゃんとせえ!―
・・・・・!?
―周りをよく見てみい・・・・―
清廉君に言われた通り周囲を見てみる。
らんらんと目を輝かせて俺を見守る幼児たちの姿・・・・その目は真剣そのものだった。
―あの子達は本気でこのヒーローショーを見とるんや・・・・それをお前は自分が後から殺されるのが嫌だとか言うて糞みたいな演技するつもりかいな!―
いや、、、、お前はいいよな、、、、蚊帳の外で、、、、
―あの子たちの眼を見て、、、、、これはヒーローショーだって糞みたいな演技できるんかいな!自分の心に聞いてみい!―
・・・・・・・分かったよ!
やりゃあいいんだろ!次は何すりゃあいいんだよ!?
―それでいいんや、如峰月・・・まずは俺の女にしてやるぞ的に抱き寄せえ!―
「フハハハハハ!女よ、こっちに来い!」
「きゃっ!?」
や、柔らけえ・・・・・・
特に胸とか尻とか触ってるわけじゃない。
腕を抱き寄せただけなのに彼女の柔らかさを感じてしまう。
それに着ぐるみと言ってもウエットスーツ的に薄いものだから抱き寄せたことで彼女と密着してしまう。
「「「「「「「「覚えてろよおおおおおおっ!」」」」」」」」」」」
「黙れ愚民どもぉ!強き者のみが望みのものを手に入れられるのだ!ファッハッハ!」
―いいで、如峰月・・・・最高や―
監督からお墨付き出たわ・・・・何だよコレ
「ほ、ほうづきくん、、、力つよいよお・・・」
「あっ、、、ごめ
―気ぃ抜くなや!―
「うるさい、もっと強く抱きしめてやる!」
「ひゃあんっ!?」
ああ、、、、もう何やってんだろ俺・・・・
朝日奈さんの少しだけ膨らんだものを感じ取れるくらいぎゅうぎゅう抱きしめる状態だし
大きいお友達たちが幼児たちがいなかったら絶対に殺しにかかってくるだろう状況だしで
しかもそんなことお構いなしに監督は満足げだし
何故かこんな状況でも幼児たちは真剣に見てるし・・・
「ほほぉづきくん・・・・」
朝日奈さんはなんか顔がゆるんでるしぃ!!!!
それどころか若干自分の方から体近づけてるよ、これ!?
だって俺苦しくないように力を徐々に抜いてるはずなのに彼女との距離が少しも離れないもん!
着ぐるみじゃなかったら特定の部分が膨張してるのばれちゃってたよ絶対!
これはさっさとヒーローに来てもらわないと俺が社会的にヤバい・・・・
未だにどこかぽうっとしている彼女に、彼女にだけわかる囁き声で呼びかける。
「あ、朝日奈さん・・・・ヒーロー呼んでっ!」
「ふぇ?」
「ヒーロー呼ばんきゃヒーローショーじゃないでしょ!」
「ふぇ?」
「もう、駄目だコイツ!」
清廉君に陰ながら目配せを送ると彼は分かったと頷いて近くのスタッフに指示を出す。
その瞬間物凄い粉圧を伴って一人のヒーローがビシッと現れる。
溢れる幼児たちからの歓声、そしてガチで俺をボコボコにしてしまえと叫ぶ大きなお友達たち。
いつの間にかマイクを持った清廉君が実況を始める。
「おおっと、攫われそうになっているお姉さんを助けに現れたのは正義のヒーロー、サギノミヤン!」
「・・・・・・・・だっさ」
思わず本音が出たが、清廉君に睨まれたので慌てて台詞を読み上げる。
「はっはっは!よくぞ現れたな、サギノミヤン!」
「・・・・・・・・・・・・」
「え?」
サギノミヤンは不気味なことにポーズを解くとゆっくりとこっちに歩いてくる。
しかもとてもゆっくりと、何も言わず・・・・・・幼児たちも大人たちも俺ですら黙り込んでしまう。
清廉君はそんな空気を悟ってかスタッフたちに指示を出して速攻で対策を練る。
「おおっと怪人ホオヅキは手下たちを連れてきたようだ!」
「で、であえ、であえええええっ!」
「「「「「「イーッ!」」」」」」
もう台詞とか関係なくガチで助けてくれと叫んだ声に反応し俺とサギノミヤンの間に多数の戦闘員が現れる。
それにもかかわらずゆっくりと歩いてくるサギノミヤン!
どこのホラーヒーローから来ちゃったんだよ!
「い、行けええッ!」
「「「「「「イーッ!」」」」」」
戦闘員たちが一斉に襲い掛かる。
そして
「「「「「「「「「「「「え?」」」」」」」」」」」」
・・・・・一瞬で倒れ伏した。
おいおい、、、、演技だろ?演技で倒れたんだろ?
サギノミヤンの手には何故か『見慣れた』カッターナイフが・・・・・
「清廉君、、、、、」
―逃げろ、如峰月!今連絡来たんやけどそいつの中に入るはずの奴が昏倒させられとるって!―
「如峰月、、、、コロス、、、、、」
「ヒイッ!?」
朝日奈さんを会場裏へと逃がしながら第一刃を何とかしゃがんで躱す。
・・・・・・ガチで首元狙ってきやがった。
てか、、、、、こいつ。
「くそぉ、、、、相変わらず身のこなしだけは一流だな・・・・」
「朝日奈義弟!?」
「えっ、中の人冬夜なの!?」
朝日奈さんが今更、我を取り戻したようだが遅すぎるッ・・・・・
既に第二刃、第三刃と振り降ろされている。
幼児たちはヒーローが到底使うべきでない道具を使っているのに大興奮・大盛況なのは『何なの!?』とつっこみたいところだがそんなこと言ってる場合じゃない!
「何でここにいるんだよ!」
「姉さんの貞操の危機を感じ取っただけだ!」
「お前のアンテナは凄いな!?」
ブオンブオン振り回される凶器
だが所詮はカッターナイフと思っていたら朝日奈義弟の手が腰に・・・・
「サギノミヤンソード(真剣)!」
「ちょっと待てえ!?」
取り押さえようと延ばした腕を慌ててひっこめる。
引っ込めなければ間違いなく斬られていた・・・・・
あの細い体のどこにそんな力があるのか・・・・・分からんっ!
―如峰月!これを使うんや!―
そんな言葉と共に放り投げられた物を掴む・・・これは?
「おおっと卑怯にも怪人ホオヅキが手にしたのは・・・・」
「エアガンじゃねえかッ!?」
思わず地面に叩きつけてしまった。
―おい、スティール缶にも穴を開ける改造銃なんやぞ!丁重に扱え!―
バカ野郎!こんなもん使ったら流石に子供たちドン引くわっ!?
第一朝日奈さんの義弟に対して暴力振るえるわけねえだろっ!
―でもそうこうしてる間に目の前に白刃が・・・―
ちょっ!?
少し考え事してる間に目の前にはサギノミヤンソード(真剣)が
「如峰月君!」
「どおりゃアアアアアッ!」
「死んでたまるかアアア!」
「「「「「「「「「「「おおおおおおおっ!」」」」」」」」」
・・・・・・サギノミヤンソードを白羽取り出来てしまった。
うっわ感覚鋭敏化全開でやってみたら出来ちゃったよ・・・・・
俺、、、、段々人間離れしてるなあ・・・・
もぎ取るようにして刃を引き離し、サギノミヤンの手に届かない方向へと転がす。
「くそおおおおっ・・・・・」
「・・・・どうしよう、これ」
正義のヒーロー、サギノミヤンが武器を取られて戦う気力を失くし跪く。
そして大丈夫?とお姉さんが駆け寄るのは悪役のホオヅキの方・・・
俺の体を抱き付くようにペタペタ触る彼女を見て大絶叫する大きいお友達たち。
なにより正義のヒーローが負けてるのに何故か大興奮の子供たち。
「「「「「「「「「「ホオヅキ!ホオヅキ!ホオヅキ!」」」」」」」」
「大丈夫、桜ちゃん!?」
「「「「「「「「「「「「「「くそおおおおおおおおおおっ!」」」」」」」」」」」」」
「こうして怪人ホオヅキによって鷺ノ宮の平和は守られたのでした!めでたしめでたし!・・・・なんやこれは」
清廉君が取り敢えず終わりを宣言するが、マイクを切り忘れたのか本音を口走る。
親御さんたちの視線が痛い・・・・・これはクレーム殺到しそうだ・・・・・とか思ったが意外と親御さんたちも楽しんでいたらしく苦情は来なかった。
鷺ノ宮市の住人ってどいつもこいつもっ・・・・・・・!
「あれが、、、、、如峰月桜か」
桜によく似た外見。
しかし彼よりもより美形。
上位互換だと評す人もいれば、寧ろ劣化と評す人もいるかもしれない。
如峰月空木は大盛況のチャリティーを陰ながら見ていた。
その目は冷たく感情が無かった。
なのに口元は少し笑っていた。
「・・・・・面白そうなやつだ」
まるで従兄に対して使う言葉とは思えない言葉を吐いて彼はその場を去った。
彼と桜が会うまでそれほど時間はかからない。




