表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界でもう一人の俺が暴れすぎてキチガ○と呼ばれている件について  作者: 浅き夢見む氏
第五部:かつて交わした約束は曖昧なままで心に残る<王国編>
104/183

第3章我儘少年part3

バタバタと慌ただしく人々が行き来する。

本格的に帝国が進軍を始めたことにより王国も臨戦態勢に入っていた。

各地の地司、分主にも挙兵を促し、王宮中が軍の配備を本格的に進めていた。


「・・・・・・どうだ?」


本当なら忙しいだろうにわざわざ医師をとっ捕まえて、サクラを改めて診せていることに若干申し訳なさを感じてはいたが・・・仕方ない。

戦争はまだ猶予があるとはいえこっちの方は明日の朝までしか余裕がない。

医師は丁寧にいろいろ調べていたが首を左右に振った。


「・・・・外傷は眠りとは関係がありません。敢えていうならかなり深い眠りとしか」

「こうなったサクラは簡単には目覚めませんよ?」


アリアが経験で語る・・・今はそれどころじゃない。

何でもいいからサクラを起こさなきゃいけない。


「トツカ・・・魔力枯渇だよな?」

「まあ、、、、基本はそうだけど・・・・サクラ自身がなんか起きようとしてないな」


同時並行で紅い眼を光らせていたトツカが『鑑定』を改めて深く行い結論を下す。

・・・やっぱり。

あの時の声は勘違いじゃなった。

サクラは今『何か』しているんだ。


「・・・それならサクラが早く起きるようにするには魔力を回復させるしかないな」

「シノン、、、本当にやるんですか?」

「・・・・・本当ならしたくない。」


病室のベッドの上で眠り続けるサクラを見下ろす私とアリアとトツカ。

サクラにあれだけ無茶しないでくれと言っておきながら・・・私がこれからすることはそれに反してる。


眠り続けているということはそれが『自然』だということだ。

体が自分の最も回復しやすい状態になっているということだ。

つまり無理矢理起こすということは回復が不完全なまま起こすということ。

仮に『今』は起こせても、、、『いずれ』彼の身体に何か不調を引き起こすかもしれない。


「だが、今起きてもらわないと・・・サクラに後悔させることになる。」

「そうです・・・ねっ!」


病室の扉が開かれツバキが自分の体よりも大きな荷物を担いでやって来た。

どすんと大きな音をたてそれをサクラの枕元に降ろす。

トツカがまだ風呂敷に覆われたデカい物体を見て首を傾げる。


「ミルさんに言われたもの持って来ました!」

「んだそれ?」

「サクラが寝てて経口摂取できないから、直接体に魔力を流し込むんだ。」

「魔力って、、、どうやって?魔力は個々人で違うものなんですから私たちの魔力を供給してもサクラの中には届きませんよ?」

「それを解決するのが・・・これだよ」


ツバキに遅れるようにして入って来たのはミルだった。

ツバキにおいてかれたせいか少々息を切らした彼は自分で持ってきた小袋の方を取り敢えず机に置き、ベールを取り払う。

不謹慎なほど髑髏で彩られた奇怪な機械からは何本も管が伸びている。


「君も手伝って・・・点滴と同じ要領だ」

「は、はい!」


所在無げに唖然としていた医者はミルの言葉に慌てて手伝い始める。

トツカはもしかして・・・と私たちの行動を見て気付く。


「溜魔石から抽出した魔力を注ぐつもりか?」

「・・・溜魔石?」

「その通りだ・・・ん?溜魔石のこと知らなかったのか?」

「はい」


アリアが知らなかったと素直に頷くが・・・・違和感が。

じゃあどういう考えでサクラがあの山に登ると思ってたんだ、待ち伏せしてたくせに?

『雪崩の狩人』を先に討伐して待ち伏せたりと、とても念入りな計画だったと聞いていたが・・・

そこらへんを聞くと彼女はあっけらかんとした表情で答えた。


「全部ティアラに任せてたので」

「「「「「・・・・・(ダメ人間だ)」」」」」

「私がしたいっていうとさっさと何でも先にやっちゃってくれちゃって・・・最近では私の財布まで彼女に管理してもらってますし」

「「「「「・・・・・(ダメ人間だ)」」」」」

「何ででしょうね?私が何かしようとするたびに私に任せてって笑顔で言うからつい任せちゃうんですよね~~」

「「「「「・・・・・・(想像以上のダメ人間だ)」」」」」

「そういえばティアラ知りません?探しに行こうとすると迷子になっちゃうのでここから動けないから帰ってくるの待ってるんですけどもう夜になっても帰って来ないし・・・ブリジットさんも帰って来ないから部屋にも戻れません」

「「「「「・・・・・(救いようのないダメ人間だぁ!!?)」」」」」


ひ、人には必ず欠点があるということか。

なにもいわずに皆作業を再開する。

良い大人のくせに幼児に世話をして貰ってて、しかもそれに一切の違和感を抱いていない根っからのダメ人間にどうして私は嫉妬していたのか・・・・・

今になってでは遅いかもしれないがこれからは彼女に優しくなれそうな気がする。


「て、てか!魔力回復しただけで起きるのか!?」

「多分、、、、起きると思う」

「・・・・?」

「サクラの体は本来寝て起きれば使った量がどれだけだろうと魔力が完全回復する。なのに何で『完全な』魔力枯渇になっただけで魔力の回復が『人より何日も遅くなったり』、『こう何日も眠ることになるのか』・・・今まで特殊体質の一環かと疑問にも思ってこなかったんだが・・・」


皆が私を見てくるので自分の考えを話す。


「サクラは恵まれている。周りの人間にも自分の体からも愛されている。」

「・・・・愛され・・・・」

「・・・アリア、そういう話は今してないから」


赤面した彼女をみてると自分まで顔が赤くなる。

やめろ、、、思い出すだろう。


「と、とにかく!『魔力枯渇』は本来体の調子が悪くなり暴走魔力程じゃないが処置が間に合わないと死の危険もある危険な状態だ。その状態にしょっちゅうなってるバカが今のコイツだが、、、こうも眠ったり回復が遅れたりというのはもしかしたらサクラが魔力枯渇を繰り返さないためのブレーキなんじゃないかと思ったんだ。」

「・・・・・・・確かにサクラにもしそういうストッパーがなかったら寝れば回復するからって、毎日魔力枯渇起こしてそうですもんね。」


何度も魔力枯渇の症状を起こせば、身体への負担は尋常じゃないものになる。

サクラへの体からの思いやり・・・・ということだろう。

つまり逆を言えば・・・・・


「魔力枯渇を感知してストッパーが働いているとしたら、強引に魔力を回復させ続ければストッパーが外れるかもってことですか?」

「・・・そうだ」


魔術に詳しいアリアが一番最初に私の意図に気付いてくれた。

本当に魔術に関しては頭の回転が速い。

自分でも自覚してるほど口下手な私はさっきミルに説明した時はかなり時間が掛かった。

・・・というのに彼女はあっさりと理解してくれた。

そういうことならと彼女は白い結晶をじゃらりと懐から取り出した。


「曇の魔術師にとってはこれが一番馴染むでしょう、溜魔石と一緒に使ってください。」

「・・・・これは?」

「曇の種です。」


白いクリスタルのように澄んだ結晶・・・・綺麗だが飲めば災害と言われるだけの力を手に入れる品物。

それがこうも・・・・・じゃらじゃらと

思わず皆が息を呑んでしまうのを見てアリアが慌てたように説明する。


「くれぐれも飲もうとか思わないでくださいね!?サクラとティアラ以外は『皆』死んじゃってますから!それにこれは何年も時間をかけて作ってきたからこその量ですよ、無駄にしないでくださいね!?」

「ゲ・・・」


ちょっと飲もうかなと考えていたのかトツカは慌てた様子で口を押える。

ミルやツバキや医師も口を押え後ずさる・・・・そもそもお前たちは魔術使わないだろ。

私は本質能力で父様の力を受け継いだから・・・種自体は初めて見る。


死ぬという言葉が絡むだけで白い光の綺麗な結晶が妖しく見える。

ゆらゆらと揺らめくその光。

・・・・力の代償

それを暗示してるかのようだ。


「サクラには、、、影響ないんだよな?」

「ええ、、、もう適合してますから」

「じゃあ、、、、ミル」

「うん」


ミルがアリアから受け取った種と溜魔石を容器に詰め込みそれを大型魔道具に設置する。


「サクラのお蔭で何とかなった・・・・次は僕の番だね」


ミルがスイッチを押した。







黒沼丘陵

そう名付けられたのはいつだろうか?

十年前の戦の時、父様の魔法陣級魔術で大量に流された人々の体液が今でもそこに残っている。

十年前の戦の時、雷の勇者の魔術で穿たれたあちこちの窪みに。

強い魔力によって形成されたその沼は本来地に浸みこんで消えてなくなるはずなのに今でもそこに残っている。

魔力によってか不思議現象か詳しい仕組みは知らないが臭いはそれ程しない。

・・・・が、血の沼がそこらじゅうにあるのだと考えるだけで気分が悪くなる。


「・・・来たか」

「・・・・・・」


その丘陵の一画。

魔術によって沼も窪みも丘陵も何もかも綺麗にまさしく『薙ぎ払われた(蒸発させられた)』場所が出来ていた。

父様はその中心で腕を組み黙して待っていた、顔は昨日見た怒りが消えていた。

その地の熱はまだ消えてはいないが耐え切れない程じゃない。

おそらく、、、昨日怒り狂ってここで暴れ回ったのだろう。


「王国民に見せられるものにはならんと思ったから王国民も滅多に訪れないここにした。問題はあるか?」

「見届け人は?」

「女王陛下ひとりだ、、、聖女様は部屋に引きこもられているそうでな」

「こちらは、、、、いません」

「・・・・意外と薄情な者達だな」

「いえ、私に出来ないことをして貰ってますから」

「まさか、、、、今更私と女王陛下がいないからと聖女様を再び王国の外に連れ出すつもりじゃないだろうな?言っておくがゼノンが聖女様の護衛に入っているからな?」

「いえ、、、、そんなことはもうしません。」

「なら問題ない・・・・始めるか。」


改めて勇者の力は偉大だと思い知らされる。

種の力は恐ろしいと思う。

吹けば飛ぶような私では想像もつかないようなことを引き起こす。


改めて自分が向き合う者の大きさに手が震える。

まるでお守りのように彼からもらった剣の柄に手を伸ばしてしまう。

ニ、三度握っては離してはを繰り返し息を整える。


・・・・サクラが目覚めるまでの時間稼ぎだ。

血色も良くなってたし、少しずつ身じろぎも増えていた。

少し、、、少しでもアイツが目覚めるまでの悪あがきを続けるんだ。

それがサニアを救うことに繋がるんだから。


「・・・・戦争前なのだからお互い戦力を削り過ぎるな、熱くなりすぎるな。」

「はい」

「ええ」


女王陛下がいつの間にか私たちの間に立っていた。

彼女も昨日のうちにあらかた整理を済ませたのか、今さら何を言っても無駄と思ったのか特に口出しはしなかった。

しかしその顔は笑いもせず怒りもせず、、、、苦虫を噛み潰したような顔だった。


「見届けはする・・・それも私が担う責任の一つだ。」


何を言いたいかはよく分からないが決闘を認めてくれるなら助かる。

・・・問題はあとどれだけの時間を稼げるかだが。


「では合図をお願いします。」

「・・・・・ああ」


父様はまだ何もしていない。

自然体で私の前に相対している。

私が少しでも動けば攻撃出来るようにとほぼ構えているのに父様は自然体で立ったままだ。

女王陛下は私たち双方が準備が出来ていると判断したのか、後ろへ歩いていく。

そして私たちから十分な距離をとると、風を通して声を運んできた。


「・・・・・はじめ」


どちらも動かなかった。

女王陛下の言葉が聞こえたはずなのに体を動かそうとしなかった。

その代りに口が体の代わりに動いていた。

そしてほぼ同時だった。


「「『熱刃鎖』!」」


太く強大な禍々しい鎖数本と対して細いが数の多い鎖の群れ。

切り裂き合い、切断しあい、無効化しあう。

当たり前だが同じ『獄炎の魔術師』

まともに戦えば決着が着かない。


「それで終わりか?」

「っ!!」


父様が一歩踏み込んで来る。

それに対して私は何歩も後ろへと・・・

父様の一本を無効化するだけで苦しいのに父様が一歩進んだだけで鎖の速さが増しているように感じる。

いや、増している・・・少しずつ馴らしていくように。

徐々に徐々に・・・・速く。


「一つ教えてやろう」

「・・・?」

「お前と私の差について講義してやる」


鎖を鎖で捌く中、父様が余裕そうな顔でいきなり話し出す。

・・・今更何の講釈をするつもりだ?

鎖の数をさらに増やそうと魔力を込めた瞬間その鎖が破壊される。


「鎖は絞れ・・・獄炎魔術の一番のメリットは威力だ。わざわざ数を増やして分散させる必要はない。」

「!?」


考えが読まれてる?

いや、、、自分の策が分かりやすかっただけだ。

鎖の魔操技術がまだ甘いため数で命中率をカバーしていたのがばれるのは当然だ。

いや、もしかしたら、、、、


「迷いか・・・私の前で」

「!?」


寒気を感じ、剣を抜いて構えた。

そこに叩きこまれる重い重い拳。

そして受けながら剣を伝い奔る熱。


暴れ回る鎖の群れの中を走って来たのか!?

頑丈と言うレベルじゃないだろう!?

剣に叩きつけられた父様の鎖を纏った拳が一瞬で私の腕を使い物にならなくした・・・弾き飛ばされる。


「そもそも種の『親』と『子』には差がある。分かりやすく二つ挙げてやる。」

「くっ!・・・一体さっきから何を・・・・」


『貫熱』で駄目にされた右腕を氷魔術で中和しながら後退する。

鎖を引き戻す暇さえ与えずに振り回される父様の拳。

掠るだけでも伝わる熱で消される・・・必死で避けながら魔術を・・・


「とっさに出るのが氷魔術か・・・だから成長しないんだ。」


!?

雪のスモークを張ろうとした腕が捕えられる。

父様の力と熱が奔り腕の痺れが強烈に・・・そして何も感じなくなる。

う、動かない・・・指先すら。

腕が・・・・・表面は無事なのに・・・・内側だけ焼かれた。

熱さを感じないくらい一瞬で焦がされた。

そして父様の腕が左腕にも・・・・焼かれる!?


「『熱鎖弾』!」

「ふん・・・まあいいだろう」


鎖の丸めた弾を連続で飛ばす。

父様は避けるために私の腕を解放し、そして後退した。

・・・・・取り敢えずしのいだか、、、けど。


「もう剣は握れないな・・・・」


私の氷魔術は『霜葉』による氷剣が中心だ・・・・意地でも獄炎魔術で闘うしかないらしい。

だらりと垂れる右腕を左腕で抑えながら、父様の方を見ると彼は懐から一つの紅い結晶を取り出していた。

・・・・・あれは、確か。


「ほう、知ってるか・・・・そう『獄炎の種』だ」

「・・・・・何故それを今?」

「使うからな」

「?」


父様は『獄炎の種』をぎっと力を全て込めるように握りこむ。

そして周囲の魔力をそこに込め始め・・・・・何をしてるんだ?


「『種の魔術師』は核を形成しそこの周囲の魔力を纏わせる・・・・知ってるな?」

「・・・・・ええ」

「なら、、、『種』を核にすると魔術が強化されることは知ってたか?」

「・・・・は?」

「だろうな、、、レイディウスは『子』のようだからな。知らないと思っていた。」


父様の腕からするすると・・・・紅い結晶がつながったような鎖が生み出される。

数は一本、今までの巨大な鎖と比べるとあまりに見た目は頼りない・・・・なのに今までより強い熱を発していた。

離れているはずなのに目を開いていられなくなるほどの高熱。

・・・・・ここまでだと使えようが使えまいが氷魔術は効きもしないだろうな。


「さあ、、、、来い。」

「・・・・・・・・」


怒れば・・・・・もう少しだけ威力を上げられる。

もっと違和感なく戦える。

けども、、、、格上過ぎて父様相手にそんなことしても付け焼刃にしかならない。

一度は父様の脚を止めたが、、、あの時は私が獄炎魔術を使ったことに驚いていただけで、、、前のようにはいかないだろう。


「来ないのか?なら・・・『縛熱鎖』」

「ちっ!」


紅い透き通るような鎖がいつの間にか私の周囲を囲み、縛り上げるように範囲を狭めてくる。

魔術とも呼べない鎖を足場にし空へと逃げる。

しかし私を灼き斬ろうと迫る輪はずっと私を追ってくる。

・・・・まるでサクラの超キチガイモードの時並の操作速度だ。

まさか、種は魔術操作の負担を軽くしその分威力などを底上げさせるってことか?


「遅いな」

「・・・・・ぐうっ!」


逃げきれないと分かり自分を守るように鎖を張り巡らせ、そこに父様の鎖が食いこんで来る。

・・・・・・何で同じ種の魔術師なのにこんなにも差が出る。

種を核に使っているだけで私の鎖がよりによって熱で溶かされそうになってるとか・・・・


「・・・・・『親』は『子』に勝てない。」

「!?」


また、、、、考えを読まれている?

父様の鎖が私が気を取られた一瞬の隙に更に攻勢を強めてくる。

何とか体を抜け出させ、地に降りる。

脱出したと思えた瞬間父様の拳がもう目の前に。

回避しつつも鎖を飛ばすが父様の体を覆う紅き鎖があっけなくはじき返す。


「『種の魔術師』にとって最も重要な『種』を生み出せる『親』と生み出せない『子』。その差はこうも歴然だ。」

「・・・・・・っ!」


父様の前進を一度たりとも止められない。

回避すらままならない。

防御なんて考えることもできない。

まだサクラが起きてない・・・まだまだ時間を稼がなきゃいけないのに・・・

主導権を常に握られ・・・・・何もできない。


剣を振るうことも

鎖で貫くことも

何も、、、何も。


「哀れだな、、、、お前は」

「・・・・ハア・・・ハア・・・」

「仲間も見守りに来ない、勝てる保証もないこんな場所で勝てもしない相手と戦わされてる・・・これだけでもお涙頂戴だ。」

「・・・・ハア・・・ハア・・・」


吸う息が熱い。

肺が痛くなる、喉が火傷しそうになる。

目の前をまさに『死』の概念を纏った代物が通り過ぎていく。


触れれば死

掠れば死

防げば死


何もかもただ時間を稼ぐしかない・・・つまり避けるしかない。

何分でも、、、、何時間でも、、、サクラが目覚めるまで。


「それどころか『叶いもしない』希望を今でも信じている。」

「・・・・・・・・!?」

「そんなにレイディウスは輝いて見えたか?」

「・・・・・何を・・・・」

「お前もアイツも私から見れば同じだ。未熟で未完成・・・そして惨めだ。」

「・・・・・・・・・・・・・は?」


ぶつんと何かが切れた。

左腕が震え、鎖が山のように生み出されていく。

・・・・・・しかもそれが少しも負担じゃない。

紅い鎖を一時的とはいえはじき返し、父様の首を狙い飛んでいく。


「努力とは、犠牲とは、、、目的を守れてこそ初めて認められる。」

「黙れ、、、、」


父様は迫る鎖の山々を難なく弾いて言葉を続ける。


「守れなかった時点でそれは既に惨めだ。」

「・・・黙れ」

「その努力がその犠牲が血みどろでいくら美談であっても、、、得られなければただの間抜けだ。」

「黙れ!」


いくら鎖を伸ばしても、いくら鎖に魔力を込めても

あの口を閉じることが出来ないっ・・・・

父様の言葉を否定できないっ・・・・


「ただでさえ世の摂理はそうなのに・・・お前たちは更に自分たちを惨めに貶めている。」

「黙れと言っている!」

「無理矢理に精神を昂ぶらせ身分不相応の力を得て、、、身体を壊しながらそれを振るう。しかも得ようとするのはまさに空の雲ほどに高くにあるもの。周囲から見てその哀れさが・・・・『見てられなさ』が分からないのか?」

「うるさい!黙れ、黙れ!」

「・・・・・・そしてまた怒りでより不相応の力を得ようとするか?」

「なっ!?」


紅い鎖が巻き付いた父様の腕が私の全ての鎖を巻き込んで封じる。

・・・・少しも動かせない。

気を抜いた瞬間に・・・・引きづりこまれる。


グッ、、、、ザザ、、、、ズズッ、、、、


まるで百対一の綱引きのように・・・・ズズリズズリとまるで氷の上で踏ん張っているかのようにあっさりと引きずられていく。

鎖を出し過ぎた・・・・鎖の幾つかを干渉されたのか消してこの綱引きを回避が出来ない・・・

父様が指を握りこみ拳を作りながら鎖を引きこみ、私を自分の懐へ・・・・


「さあ、、、、終わらせるか」

「終わるか!」


避けられないなら・・・・立ち向かうしかないだろう。

私の大切な人を・・・惨めだの哀れだの言われて・・・・私が怒らないとでも思っているのか!?

足元の剣を蹴り弾き『右手』で受け止める。


「ほう、、、そろそろ治っているかと思ってたが・・・だがそんな剣一本で何が出来る?」

「・・・・目的は時間を稼ぐことでした。」

「?」

「この剣は・・・・消費が激しい。」


『霜葉・無唱』

その能力はいたって簡単。

詠唱を省略させる『だけ』。






「詠唱短縮省略式の劣悪化だよ、それ・・・・」


ミルが呆れたようにそう言う。

『霜葉』にどんな魔装加工を施すかと聞かれたので型はいらないから詠唱省略できる形だけ残してくれと

言ったら呆れたようにそう返された。


「そうか?」

「そもそもゼノンが編み出した型は全て魔道具学的にも魔法学的にも最も合理的な型なんだよ?どの型も次の詠唱級の負担を極力減らすようにされ、その結果大きな威力を生み出しながら全体的な負担は時間をかけて一つ一つの詠唱級を詠んだ時よりも少なく・・・それが可能になってる。」

「・・・・負担はかかっても構わない」

「そうかな?」

「王国の聖十剣には型が割れてしまってるから、、、出来れば次にどの詠唱級魔術が出来るかとかばれるのは困る。」

「けどもそういうこというなら、『氷剣』の段階で大体の技は見られてるでしょ?一旦負担の話は置いておくとして、、、いくら詠唱省略で瞬時に繰り出せたとしても技の内容が分かってれば対処は容易い・・・それなら避けれないくらい大きな威力規模でせめた方が得策じゃないかい?」

「・・・・確かに一理ある。けども威力規模なら『獄炎魔術』がある。『霜葉』に求めるのは威力じゃないんだ。」

「・・・・・・・いろいろ試したかったけど君がそこまで言うならそうしよう。けども聞いておくよ?君は『霜葉』に・・・氷魔術に求める役割は何なんだい?」

「それは」







「『無詠氷剣・大雪崩』」

「今更・・・詠唱省略程度で戦況が変わるとでも思ってるのか間抜けめ」

「思ってますよ」

「!?」


剣から溢れ出るように次々と溢れる雪の雪崩が脚を縛り、膝を封じ、腰を歪め、脇を埋め、頭上まで積まれていく。

そして一瞬で溶かされる。

父様の顔が、、、、ようやく変わる。


「『無詠氷剣・氷停』」

「・・・速い!?」


雪で奪われた一瞬が命とりだ。

確かに最も効率的な型をなぞらないから威力もないし、負担も重い。

けどもその戦場に最も適した型を瞬時に選び発動できるから、、、、最も奔く発動できる。

父様の鎖が伸び切る前に剣が奔り、裂傷を創り出す。


「・・・・がそこまでか」

「・・・・・・でしょうね。」


これで倒せれば最初から使っている。

非効率な型を使っているせいか魔力の消費でくらくらしながらも迫る鎖を避けながら後退する。

父様の全身を覆う鎧・・・・・鎖の鎧。

サクラの『曇震伝波≪ドンシン・クロッシング≫』でもまともにダメージを与えられない


僅かの切り傷、僅かな氷の拘束。


動けないのはほんの一瞬。

今の私の氷魔術は父様に対してそれぐらいしか出来ない。

けども、、、それが私が氷魔術に求めるもの。

『大技の為の一瞬を稼ぐ』為に。


「『これは獣を獄ぐ』『焔の鎖』」

「なるほど・・・・それがお前か」


受けるつもりなのか・・・大技を

紅き鎖を烈しい音をたてながら地に打ち付けそして大蛇のように鎌首を持ち上げる。

たった一本の鎖なのにまるで父様の強い心を示すようで、とても強大に見える。


「『これは獣を堕とす』『呪いの鎖』」

「なら・・・この選択しかないな」

「・・・・ガル?」


なら、、、最大限の、、、底の底まで絞り尽くして、、、最後の最後まで抗うしかない。

視界に見えるのは一本の鎖。

父様の強大な鎖。

もうそれ以外何も聞こえないし何も見えない。


「『これは獣を殺す』『私の鎖』」

「・・・・・・・」


鎖が鎖を呼び作り上げるのは幾ら溶かされても問題ないくらい大きな鎖で作られた鎖。

大きな鎖。

とても大きな鎖。


「『大獄鎖』」

「・・・・・・・」


鎖が奔る。

父様の鎖に叩きつけられ、、、そして父様の鎖を弾く。

そして父様の肉体へと何の抵抗もなく迫る・・・・・?


待て

いくらなんでも抵抗が無さ過ぎる。

・・・・おかしい・・・・何が何でもおかしい。

何かが・・・・・・・おかしい。


父様の口元が笑っているように見えた。

そして目が・・・私を見る目が優しかった。

何で?・・・・何で?

私は一度は国を裏切り、父様に反し、こんなに最後まで抗って

なのに何で笑っている?

最後の最後に笑っている?


何故無抵抗で私の魔術を受けようとしているんだ?

何故?何故だ?何故なんだ?

殺す必要なんてない、時間さえ稼げればサクラが何とかしてくれたんだ。


抵抗してくれ、父様。

そんな目で私を見ないでくれ。

まるで今生の別れかのように、、、まるで愛しい娘の顔を最後に見れて良かったかのように笑わないでくれ。

私が理想とした・・・・強いあなたのままでいてください。

そんな簡単に死を・・・・・・何故選ぼうとしているのですか?









「うん、間に合った。」







「・・・・・・・ふぇ?」







「何故、、、、、邪魔をした。」







鎖の前にサクラが立っていた。

そして『私の』鎖を弾き飛ばした。

・・・・・・『父様を』守った。


「何故・・・・邪魔をした?」

「俺の好きな人を泣かせないためだ。」


サクラを見た瞬間、そして父様が生きていると分かった瞬間。

力が抜けた・・・そして意識がすうっと遠くなった。

そして誰かに抱き留められた。


「頑張ったね」

「サニ、、、ア?」


サニアの腕の中に私はいた。

・・・・・・・謝らないとな

まずそう思った私の口は彼女の手でふさがれた。


「謝らないで・・・・悪いのは皆を最後まで信じ切れなかった私の方。」

「・・・・え?」


獄炎魔術の使い過ぎで真っ白になりかけの頭、感情。

疲労が溜まり過ぎて、心が疲れ果てていた。

それでもサニアがどんな顔をしてるか、そしてどういう気持ちを抱いてるかは分かる。

まっすぐで、、、希望を持っていた。


私と父様が

そしてこれから父様とサクラが

大事な人が殺し合い、殺し合うのに彼女は希望を持っていた。


「シノン、、、後はサクラおにいさんに任せよう。」

「・・・・・え?」


サニアは今までどんなに運命に流されようとも最後の選択だけは自分で選んでいた。

でも今、、、、彼女はサクラに任せると言った。

自分の最後の選択まで全部の全部を・・・・任せると。


「ぜえ、、、ぜえ、、、、あんにゃろおいてきやがって・・・・」

「たく、、、バカ弟子め」


気づけば私の周りにはサニアだけじゃなかった。

後ろを振り返れば『みんな』いた。

トツカもアリアもミルもミミアンもティアラも

ブリジットさんにボボルノさんにジョージさんまで

しかもゼノン兄様もウルフォンまで・・・・ていうか聖十剣までなんで?

ウルフォンはしかめっ面で頬を掻く。

そして顔を背けながら言った。


「シノン、、、、お前強いな」

「へ?」

「あの時は弱いとか言って悪かったよ・・・俺は将軍の前に立ってまで大事な人を守れないから」


ウルフォンが・・・・私を認めた?

そのこと自体に驚く前にゼノン兄様が私の頭を撫でる。


「少しお休み、、、、色々戸惑うかもしれないけど、、、今はね。」

「兄様、、、、私は、、、、今、、、、」

「うん、、、、だけど、、、、誰も君を責めないよ」

「でも、、、、」


ゼノン兄様は優しい笑顔だった。

・・・・・私がしようとしてたこと全部知ってるはずなのに。

ゼノン兄様は首を横に振った。


「本当なら僕がシノンの役割を・・・サクラの役割を・・・お父さんの役割をしなきゃいけなかった。でも、、、、『また』出来なかった。だから僕は君を責める権利なんてないんだ。駄目な兄でごめんと、、、それ以外言っちゃ駄目なんだ。」

「でも、、、、、」

「シノンの強さも優しさも・・・みんな分かってる。全部ね・・・・」

「でも、、、、」

「シノン!」


サクラの声がした。

歪む視界の中でも何故か彼の姿だけはハッキリと見えた。

眼帯に包帯・・・ボロボロの姿なのに彼は笑顔だった。


私がしようとしてたことを見ていたはずなのに、まるで今までと同じように私に笑いかけていた。

これから戦いが始まるはずなのに・・・いつも通り笑っていた。


「後は任せろ!」


かつてサニアを守れるのは私だけだと何もかも諦めた日があった。

同じ日に私は一人の人に出会った。

むちゃくちゃでキチガイでスケベで・・・・けれどもその人は私をいつも守ってくれた。

私だけじゃなくサニアまで


それだけじゃない・・・・・守ってくれただけじゃない。


私の今だけじゃなく私の今までまで全部まとめて肯定してくれる。

弱さも醜さも罪まで嘘まで

全部まとめて好きだと言ってくれる

重い重い運命を私の重みを遂には背負ってくれた。


それだけじゃない・・・・本当に大事なのは。


私の周りの優しさに気付かせてくれた。

私の周りは優しい人たちばかりだと気付かせてくれた。

惨酷で苦しいと思って、、、希望も何もないと耳を目を塞いできたこんな私を

見たくもない現実を怒りで埋め尽くしてついには父まで手に掛けようとした私を受け入れてくれる人たちが周りにこんなにいることを教えてくれた。


「サクラ!」

「ん?」


叫べばすぐに振り返ってくれ、いつもと同じ笑顔を返してくれる。

そんなあなたのことが私は『』『』『』

次章『昇って来た階段が崩れていく音がする』

・・・・久しぶりの現実編なんすけど書くの久しぶりすぎて感覚がやう゛ぁい。

少し遅くなるかもですがよく考えたらいつものことだよね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ