部活。
放課後の教室。室内窓側、後方角の席。つまりは自らの席に僕は一人ぽつんと座っていた。昼間のそれまでの生徒等の賑わいは何処へやら消え、いくつもの机と椅子だけがただ閑散と並ぶ風景が、そこにあった。
教室一帯を覆う、何ともいえぬ寂しさ。特別思うところがあったわけではないが、僕は室内から、空へ続く窓の方へと視線を変えた。
外には、夕焼空に照らされる、校庭と、部活動に励む生徒等の姿があった。この学校は、特別部活動の盛んではないため、生徒の数はけして多くない。しかし、それでもひたむきに部活動に励む彼らの姿は、とても美しく見えた。
--青春だなあ。
と、今迄の描写を片っ端からぶち壊すほど呑気すぎる感想が、僕の口から洩れたその時。
バタバタバタバタバタバタ--、ガラッ!!
恐ろしい程の勢いで床が蹴られる音。がしたと思うと、その音が止むを待つことなく、凄まじい轟音が、本当に戸が開いた音かというほどの轟音が、閑散とした教室に鳴り響いた。
ええぇ、何事ぉーッ!?
僕は動揺の余り、椅子から飛び上がりながら音のした方へ振り向いた。身体ごと。なんと器用な。
視線の先に立っていたのは、背が高い割に合わない、華奢な印象を受ける、黒髪の美少女であった。ら、良いのだが、その顔はよく知るものであった。つまりは、柊木アンナであった。
「やっと見つけた!」
僕を見つけるなり、僕めがけ猛突進。いやいや怖い、怖すぎる…!
「ス、ストップ!ストッップ!!」
決死のストップコール。が、おそらく効いたのか、目の前の猛獣は僕に追突する一寸手前で、動きを止めた。
「なな、何がどどどどうしたっていうんだ、いきなり。死ぬかと思ったぞ!」
当たっていたら確実に死んでいた……いや、気持ち的に一回死にました。
「ああいや、せっかく再会を果たしたのだし、久しぶりに一緒に帰ろうかなと思って。けどなかなか見つからなくって、本当に探したよ!」
ええ、知らんがな…。そんな事で危うく冥土行きになることだったのか、僕は…。
「そんな事とはなんだ!こちとら校舎を駆けずりまわっていたというのに。」
「いやいや、まあ、落ち着こう。とりあえず、どうぞ座って。」
「あ、どうも。」
落ち着いた。……、順応早っ。
「そういえば、結局聞きそびれていたから聞き直すけれど、その全身の傷はどうしたの?」
話すと面倒くさいのだが…。と言いつつも、僕は今朝の出来事を、事細かに説明した。
「はあ、そんな事か。もとい、そんな事が。」
「濁点がないだけでえらい違いだ!ひどい!」
「いやほら、人間観察のくだりは面白かったよ。」
なんか下手にフォローされてしまった。年下に。しかし会話の主導権も取られ気味だ。負けてたまるか。
「しかしあれだ、部活動というのは、いかにも青春だよなあ。」
ふと窓の外に視線を向け、我ながら苦し紛れな話題を振ってみる。
「真は部活入っていないの?」
「入ってないよ。面倒だし。」
くっそー!なんて切り返しだ、うまい!
「そうなんだ。もったいないなあ。」
ん、もったいない?いくらなんでも大袈裟だ、たかが部活動に入っていないだけだというのに。
「いやほら、さっきの話ではないけれど、時間の使い方という意味では、部活動に入っていた方が良いんじゃない?きっと今後の高校生活も充実するよ。」
「ううむ、確かに充実はするかもしれないが、必ずしも部活じゃなくても良いと思うけどなあ。」
「確かにそうかもしれないけれど、さっき真が言っていた通り、部活動というのはいかにも青春だし、青春を謳歌する対象としては、部活動はわかりやすいし良いと思うんだよ。」
確かにその通りだが、しかしなあ…。僕は充分に青春を謳歌している。だってほら、ほら…、して……。
………てあっれえー!?全然見当たらない、あれ、僕、全っ然謳歌していないーっ!!?
嘘だろ、まじか…。し、しかし、よく考えてみればそうだ…、僕は部活に入っていなければ、特別打ち込んでいるものもない。このままでは、この状態では、高校生生活なんてすぐさま終わってしまうじゃあないか……っ!!!
ここへきて、ひょんなことで再会した柊木アンナのひょんな一言によって、僕は僕の今迄の人生における、最大にして重大の問題に、まんまと直面した--。
読んでいただきありがとうございました。