アンナ。
きみは一体誰だ――?
そう答えるのが、きっと妥当だったのだろう。しかし僕の焦りきった頭は、相手が何者か分からなければ声をかけにくい、と、そんな風に働き、目の前の人物を観察していた。
制服から見るに、この学校の生徒ということは間違いない。そして、女子だ。何故分かるかって、それは勿論、スカートを履いているからだ。いや、絶対に女子だと言い切る事は出来ないが、しかし逆に、男子とは、絶対思いたくはない。絶対に。
背丈は、僕と同じくらいだろうか。女子にしてはなかなか高い部類だ。しかし、それにしては華奢な印象を受ける、黒髪の美少女だった――ら良いのだが、幸か不幸か、彼女は僕に対し背を向けているためその顔を窺い知ることは出来ない。…、これでもしも男であろうものなら、本当にもう僕は助けを呼ばなければならないだろう。「あ、お巡りさんこっちです!!」
んー、しかしなんだろう。このシルエット、どこか見覚えがあるような――。
と、ここまで約5秒。僕の脳内スーパーフル回転でめぐらせた、真剣な観察も空しく、目の前の人物はすっと振り返り、僕と目が合った。そして、
「あれ、真?」
「あ……。」
結局先手は彼女に取られた挙句、僕の第一声は、なんとも残念な結果となった。
彼女の名は柊木アンナ。平たく言うと、僕の幼馴染である。
学年は一つ下だが、親同士が仲が良く、幼い頃は度々一緒に遊んでいたりした。しかし中学に上がると、さすがに思春期に入り、関係も疎遠になっていたのだが、まさかのこんな処で再会である。
「アンナ、お前なんでこんな所にいる。」
「それよりどうしたのその傷ーーッ!?」
ええ、無視かこいつ…。
人の話を聞かないこの性格は、どうやら今も健在のようだった。
「失礼な、ちゃんと聞いてるよ!この学校に入学してきたんだよ。おばさんから聞いてない?」
むう、そういえばそんな話もしていたような…。いやいやだからといって、この僕しか立ち入るはずのない屋上に、アンナが居る理由にはならない。
「そんなの簡単なことだよ。屋上といえば、お昼ご飯に決まってるよ。」
「いや決まってはいないと思うよ…?」
「だってアニメでは定番のシチュエーションだよ!?」
「ここは現実だよ!二次元じゃねえんだよ!!」
「え、ここ、二次元だよ?」
「二次元なのッ!?」
ま、まさかこの世界が二次元…?僕には完全に三次元にしか見えないこの景色も、読者(?)には二次元、つまりは絵に見えているのか!?嘘だろー!?
「嘘だよ!」
「嘘かよッ!!」
「本当は、小説だよ!!」
「もはや絵ですらなかったーッ!!?」
と、延々と茶番を繰り広げつつも、結局仲良く昼飯を食べるという、なんともゆるい再会を僕は果たしたのであった。