はじまりの朝。
朝。清々しい朝。太陽が世界に明かりを灯し、街は再び目を覚ます―ひどくありがちな詩的表現がすこぶる似合う、そんな朝。
僕は自転車に乗り、坂を駆け上がった。猛スピードで移り変わる、両脇の住宅達と木々。頂上に近づくにつれてあらわになる、目の前の景色。僕は胸を躍らせた。
頂上へ着く。自転車を漕ぐ足を止め、ゆっくりと降りた。正面に目を向けると、視界に映るのは、広大に広がる快晴の空と、朝の街並みだった。
一日の始まりを迎えて未だ間もないこの街。行きかう人々はさまざまだ。
急ぎ足で駆けていくサラリーマン、楽しそうに会話をしながら歩く女子高生達、犬を連れ散歩をしているお爺さん、ひたすら全力疾走で学校へ向かう小学生――。すべての人間が平等に与えられ、平等に過ぎていく時間という存在。しかし、その使い方は、人それぞれのようだった。
あのサラリーマンは、どうやら寝坊でもしたのだろう、その失った分を取り戻すのに必死だし、女子高生達は、友達との朝のひと時を大切にしている。あのお爺さんは、余生をゆったりと楽しんでるし、小学生は…、まあ一番乗りで教室にでも行きたいのだろう。……、たぶん無理だよ。
と、大変に失礼で勝手な考察とはいえ、そう考えてみると、人間観察というのもなかなか面白い。時間の使い方という点では、僕もまた、こういったことに時間を費やすことによってなにかしらを感じとる事が出来たのだから、きっと有効な時間を過ごせたんだろう。そんなことを思いながら、再び、ぼーっと街を見下ろす。
ふと、何処からか、学校のチャイムの音が聞こえた。街に淡く響き渡り、風によって小さく揺れる木々の音に交ざり合い聞こえるそれは、なかなか心地がよかった。
と、そこでやっと、僕は重大な事に気づいた。
「やべ、遅刻だ…。」
僕は焦ってすぐさま自転車に乗り、すぐさま坂を駆け下りた。
読んでいただきありがとうございました。
一話目なのに展開という展開もないですが、序章ってことで、勘弁してください。(苦笑)