軋轢
投稿遅れて申し訳ありません。
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以前にも書いたが、軍人の朝は早い。6時に起床し、飛行服や作業服に着替えて営庭に飛び出す。朝礼を行った後、食事、清掃、課業とこなしていく。今は朝礼が終わり新兵達は食堂へと集まる。
「テネル! カリエ! ご飯一緒に食べよ!」
ミナがいつもと同じ様に席を確保し、2人を呼ぶ。
「頂きまーす!」
そしていつも通りにミナの音頭で食事を始める。そこまではいつも通りだった。
「で? 何かあった?」
テネルとカリエは席の都合上で隣同士で座っているが、微妙に距離が空いている。顔も合わせようとしない。
「「別に何でもない」」
2人は同時に同じことを言った。するとお互い嫌悪感むき出しで睨み合った。
「ならいいけど」
ミナは鈍感にも食事を始めた。
滑走路には陸軍最新鋭戦闘機16機が唸りをあげていた。千馬力の液冷エンジンを搭載し、最高時速は610キロメートルを誇る。両翼に20ミリ、機首に7.7ミリの機銃を2丁ずつ装備している。
「今日は戦闘訓練だから夕方まで帰れないよ」
整備兵のシンはミナの戦闘機の最終調整をしながら、隣のカナコに声をかけた。
「飛行科って大変ね」
カナコは相変わらずサイズの合わない鉄帽を気にしながら言った。
「まあ、テネル君とカリエさんは偵察飛行で飛べてるけど、ミナさん達の戦闘機組は警報発令以来飛んでないからね」
「そっか~」
「防空科も今日は訓練でしょ?」
「そうなんだけどね~。訓練って言って良いのかな? あれ……」
防空科は訓練とはいえ砲を撃つことは無い。やることと言えば素早く配置につき、装填し、仰角をとることぐらいである。
「ミナが出てきた! お~い!」
カナコは手を振って呼んだ。
「カナコ! シン! おはよう」
「おはようございます」
「おはよ!」
ミナは胴体にある踏み台を引き出し、そこに足をかけ操縦席に入った。周囲の機にも続々と新兵達が乗り込んでいく。
「今日は南方上空での模擬空戦です」
そう言ってシンは記録備忘板を手渡した。記録備忘板とは飛行目標や誰と誰が編隊を組み、悪天候時にどう対処するか等、編隊全体で決めた事を、その名の通り忘れたときのために書き留めておく板だ。
「うん。ミーティングはもう済ませたし、ちゃんと頭に叩き込んだから大丈夫よ」
「でも、上空じゃ4割頭になっちゃいますからちゃんと持って下さい」
記録備忘板を受け取ったミナは、左足の脛の部分にあるバンドでそれを挟んだ。ちなみに4割頭とは上空で操縦士に起きる状況で、その名通り4割しか頭が働かないというものだ。原因は酸素が薄い為とか、忙しい為に他に頭が回らない等、諸説ある。
他の機でも新米操縦士達が乗り込み始め、発進準備を整えている。
「じゃあ、もう発進だから……。カナコとシンはこの学校とテネルとカリエを頼んだよ!」
「「はい」」
シンとカナコは千馬力のエンジンの風圧に巻き込まれないように機体から離れる。滑走方向からはちょうど良い季節風が吹いている。
「飛行指揮所より信号! 離陸許可!」
飛行指揮所の屋上では整備兵が赤旗を高く掲げている。
ミナは車輪のブレーキを強く踏み込むと、両手の親指を左右に突き出した。チョーク外せの合図だ。整備兵によってチョークが外される。
指揮所の屋上の整備兵が赤旗を思い切り振りおろした。ミナは右手を上に突き出すと3回ほど回して前へと出す。
ミナはブレーキをそっと緩めると、滑走を始めた。それに2番機、3番機……と続く。シンとカナコはヘルメットを外し手を振る。戦闘機隊は編隊を組む為しばらく上空で旋回していたが、組み終わると南部目指して悠然と飛び立って行った。
テネルとカリエは待機所に居た。2人は部屋に一番はじの所で、一言も会話することなく椅子に座り続けていた。先ほどまでテネル達と同じ偵察兼爆撃隊と戦闘機隊の連中が居たが、戦闘機隊の発進に際して爆撃隊の連中も見送りに出払ってしまったのだ。
いつ艦隊発見の報が入るか分からない為、就寝時以外は常に一緒でなくてはならない。
「見送りに行かないのかよ……」
テネルがついに言葉を発した。カリエはテネルの方を見ずに、
「テネル君だって行けばいいよ」
「べつに出撃じゃないし、いいだろ」
2人はそこで再び黙ったが、カリエは席を立つと入口脇にある棚から2つカップを取り出し、ポットのお茶を注いで戻ってきた。テネルは最初、口をつける気は無かったがカップのお茶を見ていたら喉が、渇き一口飲んだ。
テネルとカリエは次にどうしていいか分からずに、2人ともカップをいつまでも見つめていた。
飛行指揮所では新兵達が集まってちょっとした騒ぎになっていた。
「すげー! これが最新式の2号対空電探かー!」
「マジかよ! すげー! さっき飛び立って行った戦闘機隊がはっきり捉えられてるぜ!」
2号電探はつい先ほど設置作業が終了した、陸軍と海軍そして空軍による共同開発の新型電探である。陸軍が求めた整備のしやすさ、海軍が求めた艦艇に取りつけられるように小型化され、空軍が求めた正確さ、この3つを合わせた理想的な電探である。
これを操作できる新兵は玩具をもらった子供のようにはしゃいでいる。また、今まで防空監視塔に登っていた新兵は楽が出来ると喜んでいた。
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