苛立ち
一か月ぶりの投稿ですね。皆さんお待たせしました、スミマセン。
感想、指摘、お待ちしてます。
営庭はちょっとしたお祭り騒ぎになっていた。当然である。つい昨日まで学生として扱われていた彼等が、軍人になったと言われれば昂揚せずにはいられないのだろう。
ヘルムートは続けた。
「君達には今まで体験したことのない、軍人としての苦難に直面するかもしれない。だが、今日のこの日の為に訓練に訓練を重ねた君達は乗り越えられるものと思っている。一層奮励努力せよ! 以上!」
「気をつけー! 参謀殿に対し、敬礼!」
新兵達はまだあどけなさの残る挙手の礼をした。ヘルムートは朝礼台から降りるとそのまま飛行指揮所へ戻って行った。
「ヘルムート! 貴様!」
指揮所ではトマが声を荒げた。
「話が違うぞ!」
ヘルムートは制帽を外しながら、
「何が違うんだ? お前の心配事を取り除いてやったじゃないか」
「俺は生徒を死地に送るような事は許さんと言っただろう!」
「だから生徒でなく『兵隊』を用意してやっただろ? 何か問題か?」
平然と言ってのけるヘルムートにとうとうトマは手をあげた。
「がっ!?」
「いい加減にしやがれ!」
ヘルムートは膝をつきながらトマを見上げた。
「そんな言葉遊びはどうでもいい! 生徒は絶対に死なせん!」
そこへ校長が飛び込んで来た。
「参謀殿! これはいったい! 撤回してください!」
ヘルムートは怒れる2人に対して大きなため息をすると、
「まだ分からないのか? これはもう決定事項であるし、彼等は『生徒』でなく『兵隊』になった。つまり、教員の貴方達に『兵隊達』を指揮する力は無い」
そう言うとヘルムートは制帽を被り直し、踵を返した。
「それでは私は兵隊達を指揮して来ます」
残された2人は唇を噛みしめた。
滑走路脇の対空砲陣地ではカナコとシンが話していた。カナコは高射機関砲の砲座に座り、シンは近くにあった弾薬箱に腰をおろしていた。
「最近カナコ忙しそうだったけど、元気そうで良かったよ」
「まあね~、結構きついよ。夜間警戒の時は、お風呂も入れないし」
「そっか。体に気をつけてね」
「うん。ありがと。ところでテネルやミナ、カリエはどう? 元気にしてる?」
「うん。皆元気だよ。 テネルは艦隊を見つけられなくて、悔しそうだったけど」
「そっか。テネルらしい」
「今は飛行科内で順番に偵察飛行だから、しばらくテネルの番は来なさそうだけど」
「へ~」
そこでカナコは陣地の隅に置いてある小型ラジオのスイッチを入れた。
〈……時ニュースをお伝えします。臨時ニュースをお伝えします〉
「ん?」
〈王都、外交省及び陸海空軍合同参謀本部発表! 今月はじめ帝政ビーブリア政府がウェファリア政府に対し、北大洋の一部漁業権と沿岸部の島々の租借を求めたことが発表されました。これに対しウェファリア政府は全面拒否の姿勢をあらわし……〉
「ニュースだ。これって……」
「まさか……」
〈それによりビーブリア海軍は新型艦を含む艦隊を出動させました。これに対し我が国海軍及びウェファリア海軍は海上に警備線を配し警戒にあたっております。また外交省は『ビーブリアが挑発行為を行うならば、我が国は断固たる措置を決行する』との声明を発表しました〉
「なんかヤバそうだね」
「戦争になるのかな。『断固たる措置』って」
「……」
格納庫ではテネルとカリエが操縦席に座り模擬演習をしていた。
「前方! 敵新型艦、距離900!」
テネルの声が格納庫に響く。
「爆弾投下準備よし! ヨーソロ!」
カリエがその声に続く、そして
「ヨーイ! 射!」
テネルの合図でカリエは爆弾投下レバーを引いた。当然爆弾は搭載していないので静寂が格納庫を包む、
「……」
「……」
「命中! 敵艦轟沈!」
カリエが報告をする。
と、このようなはた目は間抜けた訓練だがこういった訓練の積み重ねが、実戦での勝利につながるのだ。
「まあ、こんなトコかな? 計器、照準器ともに異常なし」
テネルは機体のあちこちを点検しながら言った。飛行後はシンが責任を持って整備をしているので、当たり前と言えばそうなのだが。
「次の飛行は早くても3日後だよね? 大丈夫かな?」
カリエも機体後部にある無線機と旋回機銃を点検しながら言った。
「大丈夫って……何が?」
「あの艦隊が北大洋を通過しちゃうんじゃないかと思って……」
テネルは大きくため息をすると、不機嫌そうに言った。
「そうならない様に僕らがいるんだろ。お前自分の立場わかってる?」
「ごめん……でも、心配だよ……ミナやカナコ、シン……勿論テネルの事が……」
テネルは驚きながらも、
「何言ってんだよ!? 僕はお前に心配される筋合いは無い!」
「でも! 心配だよ!」
珍しく食い下がってきたカリエに驚いたが、テネルもムッとして操縦席から降りてカリエに詰め寄りながら言い返す。
「うるさい! 今は非常時なんだよ! 戦いになれば人が、死ぬのは当たり前だ!」
「そうなった時! 人が死ぬのが当たり前になった時が心配だって言ってるんだよ!」
「なんだよ! お前軍人のくせに、死ぬのが怖いのか!?」
カリエは目じりに溜まった涙を懸命に堪えながらさらに言う。
「そうだよ! 人が死ぬは怖いよ! だから心配してるんだよ!?」
テネルは顔を真っ赤にして言ってしまった。
「この臆病者! そんなにビビッているなら、操縦士も、航空学生総代も辞めちまえよ!」
言った瞬間、カリエは目に溜めていた涙を落した。テネルは言いすぎたと思ったが、謝ったら負けだと思ってそのまま後ろ向いた。するとカリエは後席から飛び降りるとそのまま格納庫から飛び出して行った。
「あ~ッ!」
テネルも頭を掻き乱すと逃げる様に格納庫をあとにした。
どうでしたか?
感想等何時でもお待ちしてます!