それぞれの戦い
随分投稿が遅れてしまいました。スミマセン……
さあ第5話です。
感想、誤字脱字の指摘、質問など何時でもお待ちしております!
テネルとカリエは先ほど指示を受けた空域に向けて飛び続けていた。機内には正午の太陽の日差しが容赦なく照りつけるが現在高度3000メートル、むしろ寒いくらいである。
「そういえばお昼食べ損なったな」
テネルが今更のように呟いた。今思えば5人で休暇を楽しむつもりが、熱血教官とビーブリア艦隊のせいで無茶苦茶にされたようなものだ。
「あの……一応学校の主計部の方から機内食頂きましたが、たべますか」
カリエが座席の下から小さな箱を取り出した。
「中身は?」
「えっと……サンドイッチが6つですね」
「じゃあ、くれ」
カリエは箱からサンドイッチを3つ取り出すとテネルに手渡した。テネルは操縦桿から手を離し食べ始めた。
「お前は食わないの?」
「私は航法をしなくちゃいけないので、この計算が終わったら食べます」
「ふーん」
ちなみに航法は高い能力が必要である。観測員は「何時何分にどれくらい旋回して何秒くらい飛行したか」を正確に記録し、必要ならば天測を行い自機の位置を正確に割り出すのである。当然のことだが自機の位置が分からないと偵察や爆撃は出来ないのである。カリエは航法については学校トップクラスの実力を持っているのだ。
テネルはさっさと食べ終わると周囲の警戒を再開した。すると後ろから、
「あのー、お店ではなんか変なことになって、すみませんでした」
「別にいいよ。教官が勝手に勘違いしただけだし……」
そこでまた沈黙がおとずれた。お互いなんと言えばよいか分からなくなっていた。テネルは下方の海を睨みつけて、カリエは後方の海を睨みつけていた。
「今の位置どこか分かる!?」
「あっ!? はい! アーヘンより98度方向に600キロです!」
任務の話しでお互い誤魔化した。
「あの! それじゃ私食事始めるので」
「ああ」
カリエはサンドイッチを口に頬張りながらも、周囲の警戒は怠らない。真っ青な海に目をこらしながら、次々とサンドイッチを口にねじ込む。悠長に楽しみながら食べてる暇は無いのだ。
堅牢なコンクリートで固められた飛行指揮所では学生機から送られてくる情報に座っていたヘルムートは苛立ちを覚えていた。艦隊らしきものを確認したと通信が入ったと思ったら実は漁船の船団だったとか、飛行ルートを間違えていた等どれも笑えない間違いばかりだった。これでは王都の参謀本部にちゃんとした報告ができない。
「何を苛立ってんだ?」
「トマか……」
「所詮未熟なガキどもだ。余計な期待はしない方がいい」
「期待は最初からしていない。あくまで正規軍部隊の代わり駒だからな」
「正規軍部隊がさっさと来てくれればいいんだよ。だいたいお前が正規軍に指示を出す立場の人間だろ」
「正規軍はまだ準備が出来ていない。学生とはいえこの町の盾にはなるだろ? お前が先生をやっていたんだからな」
「あいつ等に死ねって言えってか? あいつ等は前途有為な人材だ。未来の陸軍航空隊を担うな……。あいつ等がみんな戦死したら、それこそ航空隊の存在意義が問われるぞ。操縦士のいない航空隊は要らないってな」
「死なないようにお前が教えてきたんじゃないのか? それともお前も平和ボケしちまったのか?」
「ふん! お前等、参謀本部の連中の方がボケてんじゃないのか? 俺達の時代じゃあんな無茶苦茶な命令出すような事は許されなかったはずだ。北部の守りを手薄にしたのはお前等の責任だ」
「……もういい。止めにしよう。今は艦隊を見つけ出すのが最優先事項だ」
「艦隊ねえ……その情報すら怪しいじゃねえか?」
「なぜだ? この情報は哨戒艦が……」
「4日前に艦隊を確認をしたのなら、その前に残ってる艦艇で艦隊を編成して対応することも、正規軍部隊を北部へ派遣することも可能だったはずだ」
「それは情報をよく確認して……」
「それでも万一に備えて部隊を送り込むことはそれほど難しいことじゃなかったはずだ。どうみても厄介事を陸軍、しかも航空学校に押しつけている様にしか見えない」
「それ以上言うな! 言えば反逆罪で処分ものだぞ!」
「……」
「とにかく今は偵察に専念してもらえばそれでよい」
トマは無機質なコンクリートにはめられたガラス窓から外を見渡す。防空科の学生が滑走路の周りに対空砲を据え付けているのが見えた。
滑走路の周辺では防空科の学生と手伝いで飛行科の残留組の学生が対空砲を設置している。普段は座学ばかりしていた防空科の学生は目を輝かせながら作業を進める。その中で1人不安そうな顔をしながらカナコはスコップで土を掘り返す。鉄帽は正規軍のお下がりのため顎紐がユルユルにくたびれているせいで下を向くと、ずり落ちてくる。周りを見渡せばほとんどの対空砲は設置を完了し、あとは自分が掘っている砲と砲を繋ぐ連絡壕のみである。
彼女が心配している理由、それは自分達が敵機を落とせるかどうかである。別に技量が無い訳ではない。今まで伊達に座学をやっているわけでもないし、撃ってはいないが実際の砲を使ってイメージトレーニングを散々やってきた。だが積極的に落とせるという自信もないのだ。
「敵機は一秒間に160メートルの速さで突っ込んでくる。一秒でも反撃が遅れたらお前達全員戦死だ」
ふと教官が座学で言っていた言葉が思い出された。一秒間で自分の生死が決まると思うと逃げ出したくなる。このままではいけないと思い思考を変更する。
今一番危ない所にいるのは、偵察に出て行ったテネルを始めとする飛行科の学友達だ。
そう思えば本土にいる自分は大したことないと思えた。それよりも飛び立って行った彼らは広い北大洋で艦隊を見つけなければならないのだ。しかも攻撃を受ければひとたまりもない。そう考えているとミナが近づいてきた。
「こんな土木作業は実家に居た時以来よ!」
そんなこと言いながら近づいてくるミナの顔にもやはり心配の色が滲み出ていた。どこか肩肘張ってそれを悟られない様にしている様に見えた。
「やっぱり心配なの?」
カナコの単刀直入な質問にやや驚きながらもミナは答えた。
「全然心配してない……と言うと嘘になるかな? やっぱりテネルはあんな性格でペアは犬猿の仲のカリエだからさ……でもいざっていう時はカリエが制御装置になってくれるよ」
「そうだよね……カリエは頭良いし、落ち着いてるからテネル君の助けになってくれるよ。それにテネル君だって操縦うまいし……」
「そうそう! それに本土にいる私達が心配したって今は、どうしようもないしさ!」
ヘルメットを直すミナとカナコは背伸びをひとつして再び作業を再開した。日は西に傾き始めていた。
飛行指揮所ではヘルムートが落胆した顔を隠しきれずにいた。結局どの機も艦隊を見つけることが出来なかったのだ。まだ警戒水域を艦隊が突破するのに今日を入れて4日しかない。4日間のうちに艦隊を発見して、必要ならば攻撃を加えなければ王国と連邦の平和は保たれない。その上参謀本部にどう報告するかも問題だ。
「まあ、まだ時間はあるか?」
そのまま外を見れば滑走路上では整備科の学生が出て偵察機を迎える用意をしている。そのわきには北の空に砲口を向け対空砲が鎮座している。太陽は西に傾き、雲が出てきている。どうやら北部地方特有の嵐が来るのかもしれない。
どうでしたか?
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