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銀翼の空  作者: 脱色ナス
1章
4/18

緊急事態

第4話です。

お待たせしました。感想、ご指摘、質問等はいつでもお待ちしております。

 警戒警報はまだ甲高い悲鳴にも似た音で鳴り続けている。学校に息も絶え絶えに着いたテネル、カリエ、ミナ、カナコ、シンの5人は急いで宿舎へ駆け込んだ。すると宿舎内は学友達が半ばパニック状態に成りながら制服や装備品を身につけていた。なかには靴を左右逆に履いている者や、廊下を裸足で走りまわっている者がいた。テネル、カリエ、ミナの3人は飛行服に、カナコとシンは作業服に鉄帽を身に着けた。そこへ放送がかかった。

 「全学生は、直ちに営庭に集合せよ。繰り返す、直ちに営庭に集合せよ」

 学生達は急いで営庭へと飛び出していった。5人もまた押し出される様に営庭へ出ていった。そして各科ごとに集合整列した。

 朝礼台に学校長が立ち、その下には主だった教官が並んでいる。よく見ればいつの間に帰ってきていたのかトマが汗1つ掻かずに立っている。学校長が口を開いた。

 「先ほど王都の陸軍参謀本部より連絡が入り、君達を緊急招集した。連絡によれば東の大国、帝政ビーブリアより弩級艦を含む40隻ほどの艦隊が、我が国とウェファリア自由連邦に向けて北大洋を航行中だとのことだ」

 生徒達に戸惑いの声があちこちから漏れ出てきた。

 「そこで参謀本部より本校に特別警戒任務が発令された。内容は艦隊の詳細な情報収集と警戒、必要ならば邀撃任務を行うのがその任務である。防空科は対空砲の設置、整備科と飛行科は格納庫にて別命があるまで待機せよ」

 生徒達の間には、喜びと不安が入り混じっていた。トマはそのことを痛切に感じ取っていた。記憶の底から何時の日かの不吉の記憶が呼びさまされる様な気がした。

 「それでは、解散とする。防空科は第2主倉庫前へ集合せよ。飛行科及び整備科は格納庫で待機せよ」

 生徒達は興奮と緊張を顔に張り付け、自分の行くべき場所へ赴いていった。トマは校長室へ歩をすすめた。

 「トマ・グロースです。失礼します」

 校長室前の扉でそう言うと返事も聞かずに部屋に入りこむ。当然学校長は嫌そうな顔して、

 「会議中です。後にしなさい」

 「誰かと思ったらトマじゃないですか」

 見れば学校長の前に陸軍制服を隙なく着込み、軍帽を深くかぶった1人の男が座っていた。

 「誰だ? あんたは」

 すると学校長が忌々しげに、

 「こら、言葉を正しなさい! この方は王都の陸軍参謀本部からお越し頂いた参謀でらっしゃるのだぞ」

 すると参謀は、「まあまあ、いいですよ」と涼しげに言った。

 「久々に戦友に会えましたし、ここで辛気臭い空気を吸って話を進めるよりずっといい」

 「戦友?」

 訝しげにトマが聞いた。

 「やれやれ、相変わらず物分かりが悪い。戦友の顔ぐらい覚えておいて欲しい」

 そう言うと参謀はかぶっていた軍帽を脱いだ。

 「お前! へルムートか!? 出世したとは聞いたが、まさか参謀になってようとはな」

 「そちらも元陸軍航空隊のエースが学校の先生とはな」

 「フン! 昔話しに来たのか?」

 「まさか、この学校に発令された特別警戒任務の陣頭指揮を執りに来たんですよ」

 学校長が話について行けずオロオロしている。

 「あのー参謀殿?」

 「ああ! 申し訳ありません。戦友との話についつい……」

 「いえ、グロース教官も立ってないで座りたまえ」

 「はい」

 トマが席に着くと再び任務についての会話が再開された。

 「ですからビーブリア艦隊はアーヘンの町から北に800キロメートルの所を航過すると思われます。よってその海域に学生機を飛ばし、艦隊の全容を掴んでいただきたい」

 すぐにトマが突っ込みを入れる。

 「なぜ正規軍部隊でなく学生が行わなければならないのか? それに艦隊なら海軍が対処すべきではないのか?」

 「海軍の北部第4艦隊はウェファリア海軍との合同軍事演習に参加中で、当海域への到着は1週間かかる。また、アーヘン周辺には正規軍部隊が配備されていない」

 「では、空軍高等学校も任務に参加するのか?」

 「空軍高等学校は本土の防空任務にあたる」

 「なぜ! 陸軍ばかりなのだ! それになぜ艦隊相手に防空任務が必要なのだ!?」

 「知らないのか? ビーブリア艦隊には航空母艦が配備されている可能性がある」

 「なに! 航空母艦だと!?」

 「ああ、ことの発端は4日前に海軍の哨戒艦が艦隊を発見したことに始まる。報告によると弩級艦のなかに1隻だけ平たい艦を確認したらしい。ビーブリアは以前から航空母艦の研究に邁進していることは知っていたが、海軍はじめ陸軍、空軍も実用可能なレベルに達するまであと数十年かかる、というのが見解だった」

 「それが思ったよりも早く実用化させたというわけだな」

 すると学校長があわてた様子で、

 「待って頂きたい! つまりビーブリア艦隊に接近すれば敵機の攻撃を受けることもあり得るということですかな!?」

 ヘルムートは落ち着いた様子で、「そうです」と答えた。

 「偵察機だけでないだろ! もしかしたら、このアーヘンの町が空襲を受けることだって……!」

 「その通りだ。だからこの非常事態に学生も動いてもらわなければならない」

 ヘルムートはあくまで落ち着いた言葉で返した。

 「ふざけるな! お前も知ってるはずだ! 空戦はそんなに甘いものじゃないってことぐらい!」

 「ああ、だが俺もお前も初陣の前の夜は楽しみでしょうがなかったじゃないか? さきほど窓から学生達の様子を見ていたが、皆喜んでいたじゃないか」

 「あの時は、何も知らない馬鹿だったからな! 結局みんな死んじまっただろ! 俺の愛しい教え子にあんな糞みたいな体験はさせてやりたくはない!」

 ヘルムートは肩をすくめて、「変わってないな」とだけ呟いた。

 「ヘルムートお前も分かっているはずだ……初出撃の操縦士は全体の3割しか帰還できない」

 「もちろんだ。だがこれは参謀本部の命令だ。拒否することは出来ない。まあそれに宣戦布告なしに攻撃してくる様なことは無いだろう。外交省が今ビーブリアに直ちに艦隊を撤収させることを要求している。俺達は外交で解決すること祈るだけだ」

 ヘルムートは立ち上がり、軍帽をまた深くかぶると部屋を出て行った。トマは怒りで震えていた。そしてその矛先は学校長へと向いた。

 「学校長! あんたはどうしてあの任務を引き受けた!? 学校長なら生徒の命を考えろ!」

 学校長は震えていた。そして、

 「分かっとる!」

 普段もの静かで声を荒げることは滅多にない学校長がさけんだ。

 「ただの1人の学生も、無駄に死なせてなるものか!」




 そのころ格納庫ではテネル、カリエ、ミナ、シンの4人が興奮冷めやらぬ状態で顔を突き合わせて話し合っていた。

 「特別警戒任務だって! 凄いなぁ!」

 「僕達もいよいよ1人前ってことですかね!」

 歓喜の声をあげているのはテネルとシンだった。

 「何はしゃいでんの? 馬鹿みたいだからやめなよ」

 「大丈夫なのかな?」

 そこにミナとカリエの心配そうな声がはいる。

 「邀撃するって、大丈夫なのかな? それって戦争になるてことだよね」

 「ミナはいつも強気なくせにこういう時はだめだねえ」

 「うっさい! テネルなんかそのうちビビッて使いものになんなくなるよ」

 「カナコさんは大丈夫かな? 対空砲の設置で忙しそうだけど……」

 テネルは心配顔のカリエを一瞥すると、

 「お前がいって何になるんだ?」

 すかさずミナがテネルの頭を叩き飛ばした。そこへ教官が入ってきた。

 「気をつけ!」

 飛行科首席の号令がかかる。

 「諸君にはこれから防空と偵察を行ってもらう。ビーブリア艦隊のいる詳細海域が分からない現在手探りで探しだす他ない。よって5機の軽爆を偵察の為飛ばす。1番機は……」

 教官が偵察機に乗るペアを発表していく。

 「3番機、テネル・シャルマン、カリエ・ノーブル!」

 自分の名前があがった瞬間テネルは言い知れぬ喜びを味わっていた。一方カリエは不安顔であった。

 「以上の者は直ちに出発準備せよ! 整備科は機体の準備を急げ!」

 「はっ!」

 格納庫内は騒がしくなった。選ばれた者は嬉しそうにはしゃぎ、選ばれなかった者は恨めしそうに見つめるが「がんばれよ」と声をかける。整備科の学生は機体にとりつき準備を始める。

 「じゃあミナ、艦隊見つけてくるよ」

 ミナは不満そうに鼻をならすと、

 「はしゃぎすぎで墜ちないようにね!」

 機体が格納庫から引き出され、滑走路に一列に並べられる。これから偵察を行う者はいったん集められ、打ち合わせを行う。誰がどの方向に向かって飛び、どれくらい飛んだら戻ってくるのか。また北大洋の雲量が伝えられる。それが終わるといよいよ軽爆撃機に乗りこむ。

 「各機、出発準備よし! 飛行指揮所より信号! 離陸許可す! チョーク外せ!」

 整備科の生徒はチョーク、車輪止めを外していく、テネルは機体の横に立つシンをみた。

 「行ってくるよ! 機体の整備ありがとう!」

 「テネルさん! カリエさん! お気をつけて!」

 シンはテネルに敬礼した。テネルとカリエも返礼する。

 「離陸!」

 首席の乗る機体から号令が下り、滑走路を1機また1機と飛び立って行く。滑走路脇には整備科の生徒と残留組の飛行科生徒が、そして防空科の生徒も対空砲の設置作業を中断して帽子や鉄帽を振っている。

 3番機のテネルとカリエも2番機が飛び立つと、後を追う様に飛び立って行った。

 テネルとカリエが飛び立った空をミナが心配そうに見上げていた。

 「テネルも……カリエも……気をつけてね」

 飛び立った5機は12時の太陽の日を受け光っていた。

 


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