突入す!
「教官! 教官!」
テネルとカリエは大手を振った。戦闘中を暫し忘れる程だった。
「馬鹿者騒ぐな! 良いか、よく聞け。 こいつらは俺に任せろ。まっすぐ敵艦隊へ針路をとり、50キロ手前で僚機と合流せよ!」
「了解」
テネル達が機首を上げると同時にトマは旋回し、残った敵機に挑んで行く。
トマは防弾ガラスの風防を全開にして白いマフラーを棚引かせながら、敵機に対して腹から潜り込む様に背後をとる。そして短連射。数発に銃弾は的確に発動機を仕留める。そしてもう1機。
「ハッハッハッハッ! 温いわ!」
テネル達は既に生き残った僚機達と集合しようとしていた。ひたすらに逃げ回っていたが、意外と艦隊に近づいていたようだ。
生き残った機は全部で7機それとなぜか陸軍戦闘機が1機のみ直掩についていた。
「編隊長より各機へ。編隊を再編し、敵艦隊へ突入す」
「了解」
7機と1機はくの字形の編隊を組むとさらに北進する。1つ目のの雲を越えた瞬間、目の前に爆煙の花がさいた。
敵艦隊である。
蒼い海に白い航跡をたなびかせ、最大速力で北に向かって領海から脱出しようとしている。
「発:陸軍航空学校攻撃隊 宛:陸軍参謀本部 我、敵艦載機の迎撃を突破し敵艦隊上空に到達せり。敵新型艦を含む軽巡2、駆逐艦9を認む。これより全機突入し、これを破砕す」
4機がまず低空で艦隊に接近し、テネルを含め3機が急上昇していく。
オリンプト王国陸軍航空隊では低空で飛行する機が先ず敵の対空砲火を潰し、次に上空から急降下爆撃で以って標的を一発で仕留めるというのが基本である。
駆逐艦を狙い低空で駆けていく。艦隊型駆逐艦の対空砲は脆弱である。侵入した4機は艦隊中心から見て8時の方向の2隻に狙いを定める。
------投弾
2隻の内1隻は艦体中央部に被弾。真っ白な閃光とその直後にオレンジに火柱が上がり轟沈する。もう1隻は大破した。
あとは急降下爆撃で仕留めるのみ。
「カリエ……行くよ!」
「うん!」
4機は一斉に天に向けて機体の腹を見せ、そして渾身の力を込めて操縦桿を引きつける。いわゆる背面逆落としである。
体が座席に叩き付けられる様なGがかかる。テネルはダイブブレーキを作動させ、急降下制限速度を越えないように注意する。制限速度を越えた瞬間に機体は空中分解を起こすからだ。
敵の新鋭艦もとい航空母艦からはさながら豪雨の様な機銃弾の嵐が襲う。風防を開け、手を伸ばせば死がすぐそこにある。
テネルは射爆撃照準機を覗きこんだ。十字のレチクルの真ん中に敵艦を捉える。
「高度1200!」
「テネル君、この海域は南西に向かって風が吹いてるよ! ……風速3ノット」
「わかった!」
カリエの情報を基に照準を修正する。
「高度900!」
「照準良し!」
「高度700!」
「投弾ーーーッ!」
カリエによって爆弾投下レバーが引かれ4発の90キロ爆弾が、他の機も350キロ爆弾を含め全弾を投下する。機体から切り離された爆弾は甲高い風切り音を発しながら落下していく。
投下と同時に全機は鞭の如き鋭さで機体を引き起こす。
機体は海面ギリギリを超低空で飛行し、離脱をはかる。その直後、
敵艦の周囲に無数に水柱が上がる。その中に火柱がそそり立つ。
「敵艦に命中弾!」
「やった!」
飛行甲板に命中させれば最早その艦は役立たずである。敵艦はうなりをあげて鯰の様に艦体を震わせる。
あとは離脱するのみ。
「テネル君、左40度変針。学校への針路をとって」
「わかった」
機体を針路に向けたその時、機体に大きな衝撃がかかった。
金属をハンマーで叩くような音がすぐ近くでした。
「がっ……!」
変な声が出てしまったが、そんな事が気にならないの程の痛みが左足を襲った。まるで焼きごてを押しつけられるような。被弾したとすぐ分かった。左の太ももから血が吹き出していた。
「カリエ……状況報告……」
ふと足元を見ると血が後ろから流れてきた。
「テネル君、被弾しちゃった……」
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