出撃 -2-
太陽が一番高い角度に昇り、操縦席を真後ろから照らしている。
12機の爆撃機は3機ずつ編隊を組み、ひたすら北へ向かって飛ぶ。飛行指揮所から定期的に無線が入り、針路修正をしていく。
「右に5度変針」
後ろから清らかな声が届く。
「5度変針。了解」
フットバーをそっと踏み込み機体を若干右に向ける。
周りを見渡せば、僚機の翼に光が反射して銀色に輝いて見えた。
銀翼の空……と頭の中でその光景が反射した。
「テネル君?」
後席からの声で再び意識がはっきりしてきた。
「大丈夫? 疲れて……いるよね? あんな後だし……」
「別に……。問題ないよ。いいから! 見張りをしろよ」
「ごめん……」
なんだか苛立ちと高揚が織り交ざった気持がした。
「離せ! 馬鹿野郎!」
飛行指揮所ではトマが新兵5人に取り押さえられていた。
「ダメですよ! 参謀の許可が無いと!」
トマは突然、「俺も出撃する!」と叫ぶと格納庫へ行こうとしたので、慌てて新兵が止めに入ったのである。
「うるせえ! このまま生徒を見殺しにするくらいなら、軍法会議でも、懲罰房でも行ってやる! その代わり俺も出せ!」
「うるさいぞ。トマ」
そこへ陸軍参謀ヘルムートがやってきた。
「君の出撃は認められていない」
「ただそれだけを言いに来たのか!? でもなそんなんじゃ俺は止まらないぜ!」
トマはヘルムートを見据えると、
「俺は死人を育てていたわけじゃねぇ! 上から言われたことを淡々とこなせば出世できる仕事をしているお前には分からないだろうがな!」
「上意下達は軍の大原則だろうが、それだけですまない事もあんだよ!」
それだけ言うとトマは新兵の押さえ込みを振りほどくと、格納庫へ踵を返そうとした。
「待て!」
ヘルムートは被っていた制帽を掴むと床に叩きつけた。
「すまない事が有るのは分かっている! 俺だって死人を出したい訳じゃねえ!!」
今まで丁寧な口調だった彼が言葉を荒げたため、その場にいた全員が凍りついた。
「俺だって本部の何も分かってない奴らの電話の内容を伝えるだけなんて嫌に決まってるだろうが!!」
「じゃ、じゃあ……。何なんだよ」
「お前と一緒だ!!」
ヘルムートは突然制服の上着を脱ぎ去った。
「「「なっ!!!」」」
なんと上着の下には、飛行服を着込んでいた!
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