出撃
滑走路には爆撃機が引き出され、爆装が行われている。
胴体下には350キロ爆弾が一発、翼には90キロ爆弾が二発ずつ搭載される。また、機首、後部旋回機銃には7.7ミリ機銃が装填された。整備兵は爆装、給油、計器点検を同時進行で行い、発動機を始動させて操縦士を待つのだ。
「テネルさん、カリエさん! 離陸準備完了しました!」
シンが2人に報告をする。
「計器、機銃、機体外形に異常ありません。しかし、先ほどの爆撃で目に見えない異常が有るかもしれません。その時は無理せず還ってきてください」
「ありがとう。シン……必ず敵艦を轟沈させてみせるよ」
「はい! ご武運を!」
テネルはシンに敬礼をすると機体に乗り込んで行った。
「カリエさん……」
「何ですか?」
「テネルさんの背中をしっかり守ってあげて下さい!」
「うん……」
「大丈夫ですよ。テネルさんもきっと……」
「?」
「なんでもありません! さあ! 出撃ですよ!」
「あ、はい! 整備御苦労様です!」
カリエも敬礼すると、機体の後部座席に乗り込んだ。
「発進準備よし!」
編隊長が大声で叫ぶと、滑走路脇に立っている整備兵が白旗を上げる。すると指揮所の上にも白旗が上がる。少しして探照灯が発光信号を発する。
「離陸許可!」
編隊長は右手を回し、前へ突き出した。滑走路脇の整備兵が白旗を振り降ろすと、編隊長機は滑走を始めた。その尻に2番機、3番機が続く。
滑走路脇には整備兵、防空兵が整列し敬礼で見送る。爆撃機は腹に抱えた必殺の爆弾でふらつきながらも離陸し、バンクを振って応える。
「テネルー! カリエー! 怪我しないでよー!」
ミナも手を振った。
テネルとカリエは敬礼で応えると、爆弾の重さで滑走路ぎりぎりのところで上昇していった。
飛行指揮所では教官トマの怒声が再び響き渡っていた。
「なんで支援戦闘機を出さんのだ! ヘルムート! 貴様、気でも違ったのか!?」
「私は参謀本部の指示を伝えただけだ。直ちに攻撃しろとな」
「参謀とはいえ、お前も戦闘機乗りだった人間だろ! 支援戦闘機無しの爆撃がどれだけ危険か、お前自身がよく知ってるはずだろ!」
「安心しろ、トマ。敵空母に搭載されている艦載機は、多くて50機程だ。先ほどの空襲で敵は45パーセントの損耗率だ。よって敵には僅かな直掩戦闘機しかいないことになる」
「そういう問題じゃねえ! 俺は死地に教え子を出したくないと言ってるんだ!」
「随分甘くなったな? 彼等は兵士であり、ただの子供じゃない。有事においてその身を挺して国家に報いるのは当然の義務だ」
「正規軍がやるべき仕事を、教育中の子供を無理やり兵士して……!」
ふと窓に目をやると、編隊を組み終えた部隊が北へ向けて飛んで行った。
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