飼い主と喋る。
「ふぎゅッ」
腹の辺りに妙な圧迫を感じ、目を開けた。
するとそこには、ニヤニヤしてる弟の顔。
それを見たとたん中途半端にさっきまでの出来事を思い出し、急に恥ずかしくなって慌てて飛び起きた。
「うふふ、兄さんってホント怖がりだよねえ。あんなことで気絶しちゃうなんて」
相変わらず笑顔だが、どことなく〝S〟を感じさせる。いや、確実に今のコイツは〝S〟モードに入ってしまっている。
弟は普段は温和な癖に、俺がちょっとでも弱みを見せちまうとすぐに腹黒Sモードスイッチが入るのだ。
黒い笑顔でねちねちと言葉で攻めてくる。ついでに暴力も振るう。そんな大した暴力ではないが。
しばらくはこれをネタにいじられるんだろうな…そう思うと自然に溜息が出た。
「ほら、ボケっとしてたらまた踏んじゃうよ?」
ニコリと笑い、ちょこんと首を傾げた。
さっきの腹の圧迫は、コイツの所為で間違い無いようだ。何でわざわざ腹なんか踏むんだ。
それにしても俺、なんで気絶なんかしたんだっけ?
「もう忘れたの?それはね…」
弟が腹黒笑顔のまま、口を開いたその時。
『きりーつ!』
頭がモノを考える前に体が動き、俺にしては素早い動作で立ち上がる。弟も同じく、目を丸くして直立になっていた。どうでもいい所で息が合う。
『れい!』
俺と弟はくるりと声のする方を向き、ぺこりと体をおよそ九十度に折り曲げた。
『せいざーッ!』
聞き慣れない号令だったが、頭がまだ追いつかない俺達は、言われるがままにそれに倣い、「気をつけ」に戻った後に足を折り曲げ、ぺたんと床に座った。自分で言うのも何だがまるで事前に打ち合わせでもしてたんじゃないかと疑いたくなるほどに息ぴったり。なんか恥ずかしい。
『さァ、まずは手始めに名前から教えてもらおうか』
上の方から、渋い(風に装ってる感じの)声がした。
だるそうな、しかししっかりとした声だったので、思わず昼ドラの刑事を連想してしまった。…それがいけなかった。
「あ、兄の瀬崎亮太です…」
背中を丸めて卑屈っぽくそう言えば、
「弟の瀬崎洸太です…」
弟――洸太もそんな雰囲気で名乗る。
『亮太さんに洸太さん。何であんな事をしたのかね?』
上からの声も、完全に刑事になりきっている。このままいくとカツ丼が登場しそうな勢いだ。
相変わらず体を丸めて俯いていると、隣からすすり泣く声がする。その声はだんだん大きくなり、しまいには――
「ごめんなさい、つい我慢出来なくッて…!」
洸太が悲痛な声で言い切ると、手で顔を覆い大声で泣き始めてしまった。もちろん芝居なのだろう。
で、俺はというと。
どうすればいいのか、分からない。
何だよ「我慢できなかった」って。一体俺らがどんな罪を犯したというんだ。というか俺ってどういう立場なんだ。隣が主犯みたいなノリだが、それなら俺は犯人の協力者的なアレなのだろうか。そうなのか。
もうそれでいこう。
もう何もかも吹っ切って、俺は声の方へ顔を上げた。
そして、真っ先に俺の目に入ったのは――猫。
あの、風呂場にいた訳の分からん生意気な――猫。
いつの間にやらぱっつんぱっつんになっていたらしい俺の堪忍袋の緒が、ぷつりとあっけない音をたて切れた。
「って何じゃいこの低レベルな茶番はァァァアアアアァァァッッ!!!」
本当に久しぶりの更新です;;
やっと兄と弟の名前が出ました。
兄・・・瀬崎 亮太 (せざき りょうた)
弟・・・瀬崎 洸太 (せざき こうた)
に決定しました!
考えて下さったのは霧太さんです!
素敵な名前をありがとうございました!!