第8話:父たち、絆の最終奥義
【1】
アリーナには沈黙だけが満ちていた。
四人は膝をつき、荒い息を吐く。
ホビーを喰らう怪物"ガイオトナ"だけが、無表情のまま光の渦をゆらめかせていた。
――もう、何も残っていない。
――もう、帰れない。
――もう、家族には、我が子には会えない。
そんな絶望が、四人の胸に広がっていく。
⸻
【2】
絶望が場を呑み込むその時。
『… … …? …!』
最初に聞こえてきたのは、か細い声だった。
『……お父さん……?』
幼い女の子の声だ。
イオリが反応する。
「……?今の声……コトハ………!?」
次に——
『父ちゃん……!聞こえるか!!父ちゃん!!』
『ツムギだよ!パパ——返事して!!』
『フェンリス………父さん……!』
子供たちの声が、次々とアリーナの外から響いてくる。
四人の目が、驚くように見開かれた。
「……これは……!?」
「……サクヤ……?」
「ッ…ツムギ…!ツムギの声か…!?」
“ガイオトナ”の渦が揺れる。
まるで外からの声に反応したように。
ショウヤの胸元。
ゴウイチの手のひら。
ジュウサクのペンダント。
イオリの折り紙ケース。
そこに残っていた“微かな光”が、一斉に脈動し始めた。
「これは……魂核じゃない……」
ジュウサクが呟く。
「……子供との…“絆”か……!」
ショウヤの目に炎が宿る。
ゴウイチは拳を強く握った。
「ツムギが……呼んでる……ぜってー……帰るぜ!!」
イオリの瞳に涙が滲む。
「……娘が……呼んでくれているんですね……」
砕かれた魂核の破片が、
子供たちの声に呼応して輝き出す。
『父ちゃん……また一緒にデュエルしよう!!!』
『パパ……帰ってきて!!!』
『父さん……生きてるって、信じてるよ……!』
『お父さんは……世界一強いんだから!』
その声が、父たちの胸を貫いた。
⸻
【3】
ショウヤの前に、再び炎の粒子が集まる。
「……一度砕かれたくらいでは……」
ゴウイチの掌には、雷霊の影がちらつく。
「俺たちの“魂”は……折れねぇんだよッ!!」
ジュウサクのデバイスに、白氷の紋章が浮かび上がる。
「親子の絆は……壊れない」
イオリの紙は、まるで自ら形を取り戻すように揺れた。
「“親”の覚悟を、舐めないでいただきたいですね」
砕け散ったはずの魂核は、子供たちの声に応え、
“新たな形で再構築”されていく。
——四人は再び、立った。
逆巻く迅風。
光り輝く圧倒的なオーラが場を包み込んだ。
ショウヤが天高くカードを掲げる。
「レガシアシフト!!
蒼焔よ、遠き継承の血潮よ。宿りし帝を呼び覚ませ——
《真焔帝アグニス・レガシア》!!」
砕けたカードの残骸から、焔帝アグニスの“真の姿”が蘇る。
紅き焔と、蒼き継承の焔を纏い輝く。
紅と蒼、背に二重の炎輪を抱え、巨大な炎陣を描いた。
ゴウイチが地面を震わせるほどに踏み締め、
大地を砕かんとメンコを叩きつける。
「轟く魂——爆進・轟雷・超覚醒!!
《雷帝スラッグ・ドミネートバースト》じゃあ!!!」
爆音が轟く。
砕けたメンコの破片が雷の奔流に変わり、
雷霊スラッグが“実体を超えた雷帝”として吼えた。
ジュウサクが《ビースケッチ》をオーバーロードさせる。
それは彼が辿り着いた、彼にしかできない獣紋合成の極地。
「氷の限界突破、雷の絶対速度、そして死を纏う影……
三重紋章最終式——
《究極獣紋合成・白雷氷迅フェンリス・ノヴァ》!!」
フェンリスが氷・雷・影を同時に宿し、
神々しい光を帯びて、三属性合成の究極形態で現界する。
イオリが舞うように、かつ光速で、神を宿した手が鮮やかに紙を折り上げる。
これこそ、神を折り成す伝説の“神折”。
「神折・終式——《天鋼聖・零煌》!」
紙とフレームとギアが幾重にも重なって光の翼となり、
“折る前の可能性そのもの”が解き放たれる。
フレームに包まれた鋼鉄の神隼は、翼を広げ、光の軌跡を描いた。
⸻
【4】
四人が同時に最終奥義を叩き込む。
紅蒼焔——爆ぜる太陽のように。
轟雷陣——天空を貫く猛き咆哮とともに。
白雷氷——極光の牙をまとい。
神折翼——音を置き去りに加速する光の鋼翼として。
四つの“世界最強の魂”が束ねられ、
音すら追いつけない速度で“ガイオトナ”の中心核へ突き刺さった。
——瞬間、世界がひっくり返る。
アリーナが白昼のように染まり、
重力が裏返ったかのように空気そのものが震える。
“ガイオトナ”の渦が悲鳴めいた振動を発し、
自身の中へ吸い込まれるように崩れ始めた。
光の浸食は止まらない。
怪物の身体は形を保てず、無数の破片となって砕け散り、
最後は細かな光の砂となって舞い上がる。
そして——
眩い閃光の余韻だけを残し、
“ガイオトナ”は完全に消滅した。
静かになったアリーナに、父たちの荒い呼吸だけが残った。
だが四人の姿は——
誇りと絆に満ちていた。
「……やった、のか……?」
「へへ……当然よ……!」
「子供たちの…おかげですね」
「本当に……ありがとう」
砕けた魂核——
父から子供たちへ託した物。
その残骸に宿った親子の“絆”が、父たちに最後の力を与えたのだった。




