エピローグ:父たちの後ろ姿、その手のぬくもりへ
【1】
“ガイオトナ”が消滅したアリーナには、白く柔らかな光だけが残っていた。
四人の父親は、膝をつきながら静かに息を整える。
彼らの手にあるホビーは、どれも魂核が砕けてしまっている。
ただの紙。ただのメンコ。ただのチップ。ただのプラフレーム。
“ガイオトナ”を倒した今でも、それは変わらない。
しかし彼らの胸には、確かな光が宿っていた。
子供たちが届けた声、絆——
あれこそが、彼らを再び立ち上がらせた“本当の魂核”だった。
そのとき、空が震えた。
『見事だ。
だが、汝らの魂核は砕けたまま。
このまま元の世界へ帰れば、ホビーは再びただの玩具だ』
《ホビスフィア》の声は淡々としている。
『ここで戦いをやり直せば、
勝者だけは魂核の完全な力を取り戻せる。
——選べ。
帰還か、再戦か』
そして四人は、全く迷わずに——同時に首を振った。
「帰る。カイの……家族のところへな」
「はっ。力なんて、もういらねえよ」
「研究者としては少し寂しいですが……。
父としての誇りは、それ以上です」
「……子供の横顔を見れるなら、それだけで十分ですね」
『……ならば行け。
汝らの魂核の在処は、我ではなく……
子らの中にあるのだろう』
四人の父親は互いに目を合わせ、
そして天高く、拳を掲げた。
互いの名も、功績も、終ぞ知ることはなく。
だが、もはや交わす言葉も必要ない。
戦いを通じて、彼らにもまた絆が芽生えていた。
父としてだけではなく、ホビーの道を極めた者として。
——ありがとう。
その想いだけを胸に。
視界が白に染まり、元の世界へと送り返される。
——着地した場所は、子供たちの物語の中だった。
⸻
【2】
「……と、と、と、父ちゃん!?」
烈堂家のインターホンが鳴る。
カイが出迎え、泣き笑いのような顔で駆け寄った。
ショウヤは、何も言わずにその頭を撫でる。
「ただいま。……帰ってきた」
妻も涙目で出迎えた。
「おかえりなさい…ショウヤさん……」
「ああ。本当にすまなかったな……ただいま」
カードは、ただの紙のまま。
だが、それ以上に。
「父ちゃん!俺のデッキ見てくれよ!!
父ちゃんがいない間に俺、超強くなったんだぜ!」
⸻
【3】
「パパぁぁぁぁ!!」
ツムギが全速力で飛びつき、ゴウイチは受け止めた。
世界最強のメンカーであるゴウイチも、娘の前ではただの父だ。
「泣くな、泣くな!ほら、帰ってきたぞ!」
「パパの!!バカーーー!!!」
タンコブができそうなほど頭をポカポカ殴られる。
「いでー!!!
メンコ作ってやっから!勘弁しろぉ!」
メンコはもう光らない。
でもツムギは泣いて、怒って、笑って、出迎えてくれた。
父としては、もうそれだけで十分だ。
⸻
【4】
闇の獣紋結社との最終決戦。
サクヤは“ドクター黒闇”に追い詰められていた。
「くっ……!」
「クハハハ…!やはり私は間違っていなかった!!
ジュウサクへの復讐、お前を消して果たさせてもらおう!」
その背後に、静かな足音。
「……そこまでだ」
忘れることなどできない、宿敵の声。
「……な!……なにぃぃ!!?
き、貴様!!研究の事故で死んだはずではっ!!」
《《ただの》》白い狼と共に、ジュウサクは微笑んでいた。
「遅れてすまない。
サクヤ——君の進化、私に見せてくれ」
涙を堪えたサクヤは頷き、
喜びに震える手で、《ビースケッチ・ネクサス》を構え直す。
「……はい!!父さん!」
⸻
【5】
「……お父さん」
いなかったはずの父の部屋。
コトハは、ずっと握りしめていた鶴を胸に抱えていた。
イオリは静かに微笑む。
「ただいま。コトハ。
……帰ってきたよ」
コトハは涙を浮かべて、
ずっと言いたかったことを素直に伝える。
「……折ろ?一緒に」
「ああ…。
ああ…!いくらでも折ろう」
ギアは動かない。
どの折式も光らない。
それでもイオリは、コトハと向き合って紙を折った。
共に過ごせなかった時間を、折るように、埋めていく。
⸻
【6】
父たちは守護者にはならなかった。
力も失った。
ホビーの魂核も砕けた。
——だが、彼らの世界におけるホビーの力自体は消えなかった。
その理由はただ一つ。
真にホビーに魂を宿すのは、
《ホビスフィア》ではなく——遊ぶ“人間”だから。
カードを信じる心。
メンコを叩く興奮。
獣紋と向き合う情熱。
紙を折りながら語り合う時間。
そのすべてが“魂”になり、ホビーに奇跡を刻むのだ。
これは、ホビーを愛した父と子の物語。
そして、かつて子供だった“今の君”へ送る物語。
父たちは帰るべき場所に帰った。
ホビーもまた、いつもの日常へと戻っていく。
——今も、明日も、きっと誰かがホビーを手に取る。
遊ぶ興奮に目を輝かせ、箱の説明を見てワクワクしながら。
そうやって、家路につくのだ。
〜完〜
親子ものって、とっても良いですよね




