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第五話

 第三ラウンドようのホログラムパネルが、ゆっくりと立ち上がる。


 ステージ中央。

 天城ルカと折木カイが、その前に並んで立つ。

 さっきまでの軽い雰囲気は鳴りを潜め、二人とも、ほんの少しだけ表情が硬い。


(そりゃそうだよな)


 今、累計誤差はこっち7%、向こう18%。

 第三ラウンドの誤差は“2倍”で加算される。


 つまり──


 こっちがそこそこ当てて、向こうがド派手に外したら、そのまま終わる。

 逆に、こっちが思い切り読み間違えて、向こうがドンピシャで当ててきたら、簡単に逆転される。

 ジョーカー1枚で全部ひっくり返るラウンド。こっちに質問権がない分、なおさら厄介だ。


「……さて」


 折木カイが、入力パネルに指を置いた。


「第一ラウンドで、“自分より下を見て安心する感情”の割合が見えた」


 彼は、客席ではなく、あくまでパネルとスクリーンを見て話す。


「第二ラウンドで、“努力しない人に支援はいらない”という考えに賛成する層の厚さが見えた」


 静かな声が、会場のざわめきにじわりと染み込む。


「第三ラウンドで問うべきなのは、その二つの感情を──“自分自身”に向けられるかどうか、だ」


 そう言って、Enterキーに指を落とした。

 スクリーンに、新しい問いが浮かび上がる。


『質問3:あなたは、もし将来の自分が“スコア100未満”になったとしても、この街で“生きる価値がある”と思える自信がありますか?』


 ……。

 会場が、息を呑んだみたいに静かになった。


「おいおい」


 俺は、思わず口の中で呟く。


(エグいところ突いてきたな)


 今までは、“他人”の話だった。


「自分より下を見たことがあるか」

「努力しない人に支援がいるか」


 全て、“自分の外側の誰か”の話。

 でも、第三ラウンドは違う。


 「自分が底辺になったとしても、その自分に生きる価値があると思えるか」。


 YESと言うのはある意味、勇気のいる告白だ。

 NOと言うのはある意味、自殺願望にも聞こえる。


(……どっちにしても、ボタンを押しづらい)


 質問文のえげつなさに、ちょっとだけ笑いそうになった。


「最後くらい、綺麗事抜きで聞いてみたくてさ」


 天城ルカが、マイクを持って一歩前に出る。


「ボクらさっき、“努力してる人にリソースは守りたいよね”って話をしたけど」


 空気をあえて和らげるように、笑いを混ぜながら。


「でも、誰だって事故ったり、病気になったり、家族のことで仕事辞めなきゃいけなくなったりする可能性がある」


 観客席の何人かが、顔をゆがめる。


「そのとき、“スコア100未満”まで落ちた自分を、“まだこの街に居ていい”って思えるか。それとも、“もうこの街にいる資格ないな”って思っちゃうか」


 ルカは、少しだけ真剣な顔になる。


「ボク個人の意見を言えば……“ボクは、どんなにスコアが落ちても、まだ生きてていいって思いたい”」


 会場に、わずかなざわめき。


「でも、実際にその状況になったらどうかは分かんない。だからこそ、今のうちに、みんながどっち側の感覚持ってるのか聞いてみたいなって」


 うまい。

 自分の弱さも混ぜることで、“きれいごと”の嫌味を削っている。


 続いて、フォロワー代表が簡単にコメントを挟み、「下がっても生きてていいって思いたい」「でも自信はない」みたいなニュアンスを重ねていく。


 質問側の三人のコメントが終わる頃には、会場の空気はなんとも言えない重さで満たされていた。


(……さて)

「では、質問側ではないチャレンジャー陣営から、代表者一名コメントを」


 司会がマイクを向けてくる。

 今度は、俺じゃない。


「ここは、私に行かせて」


 アイリスが囁き、前へ出た。



 偽りようがないプライム層の立ち姿。

 そのままでも観客をイラッとさせかねないのに、アイリスはあえてまっすぐ正面を見た。


「神崎アイリス、スコア981です」


 数字を告げた瞬間、ざわっとした視線が集まる。


「私は、みなさんとは違う“上”の場所から、長い間この街を見てきました」


 自分で「上」と言い切るあたり、逃げる気はないらしい。


「プライム層の中にも、“スコアが落ちることなどあり得ない”と信じ込んでる人がたくさんいます。事故も病気も、家族の破綻も、自分には関係ないと思っている」


 軽く右手を持ち上げる。


「でも──“突然落ちた”側から見る景色は、全然違いました」


 会場の空気が、少し変わる。


「私は、あるマッチをきっかけに、スコアを一瞬で“ほぼ底辺”まで落とされました。その時に最初に浮かんだ感情は、“生きる価値がない”ではありません」


 アイリスはわずかに笑う。


「“この数字を決めている誰かを、ゲームでぶん殴ってやりたい“です」


 客席から、小さく笑いが漏れた。


「もちろん、あくまで比喩です。私は暴力より、テーブルの上のゲームの方が得意なので」


 アイリスは、ステージの中央を指先で示す。


「この街がどれだけスコアで人生を区切っても、“自分の価値”を数字に明け渡さない人がいるなら──。その人は、まだこの街でゲームを続ける権利があると思います」


 彼女の目が、一瞬だけ俺の方を見る。


「“将来自分がスコア100未満になっても、生きる価値があると思える自信がありますか?”──私は、“自信はないけれど、そう思い続ける努力を放棄したくはない”派です」


 観客の表情が、どこかほぐれた。


「だから、この質問にYESと答える人が多ければ多いほど、私は、メトリカという街にまだ希望があると信じられます」


 アイリスは、深く頭を下げた。


「それだけです」


 拍手が、さっきより自然に起こった。

 司会が、タイミングを見計らって声を張る。


「ありがとうございます。では、第三ラウンド──最後のクロスジャッジの回答に移ります!」



 観客席のパネルが、再び青と赤に光る。

 YESは「生きる価値があると思える」

 NOは「そう思える自信はない」


 どっちを選んでも、何かを告白させられる構造だ。


「シン」


 アイリスが、足元の端末を見下ろしながら囁く。


「予測の前に、“大まかな方向”だけ、今のうちにすり合わせておきたい」

「ああ」

「まず、この質問で“直感的にYESを押したい人”って、どういう層?」

「……若い奴」


 俺は、客席の制服姿や、派手なパーカーの集団をチラッと見やる。


「まだ“将来の自分”が具体的じゃない。だから、“どんな自分になっても生きていたい”って言葉を、素直に選びやすい」

「逆に、NOを押しやすいのは?」

「ある程度歳くってて、“他人に迷惑かけたくない”ってブレーキ強いやつ。あと、“今もぎりぎりで、これ以上落ちた自分を想像したくない”ってやつ」


 第二ラウンドの“支援いらない派”と、部分的に重なる。


「南七ブロックの年齢分布は──」

「二十代と三十代が厚い。さっきのグラフ通りならな」


 アイリスが、すぐに頷く。


「とすると、“自分の将来をまだ諦めてない層”が多数派。質問文が暗い分だけ、逆に“希望側”に反応する人も多い」

「だけど、さっきの二問で、“自己責任”と“自分いらない派”の地盤も見えてる」


 俺は、スクリーンに小さく表示されている過去のラウンドの結果を目でなぞる。


 第一問:イラッ7割。

 第二問:支援いらない6割5分。


「“自分が底辺になっても生きていい”ってYESは、イラッとするの7割の中の一部と、“支援いらない派”の一部にとっては、ちょっと言いづらい本音だ」

「それでも、押したい人は押す」

「……そうだな」


 自分の腹の中を覗き込むような、変な感覚になる。


「シン、あなたは?」

「俺?」

「将来スコア100未満になっても、“まだこの街で生きていていい”と思える?」

「……“この街で”って限定なら、正直あんま自信ねぇな」


 思わず、本音が口をついた。


「でも、“街ごと変えてやる”ってゲームの途中なら、降りるのは逆にダサい気もする」

「なるほど、“ダサいかどうか”基準」

「大事だろ」


 アイリスがくすっと笑う。


「じゃあ、その“ダサい基準”で街全体を読んでみて」

「はいはい」


 俺は、観客席をもう一度見渡した。

 ルカのフォロワーっぽい、中層志向の若者たち。

 コンビニ帰りの、目の下にクマを抱えたサラリーマン。

 子どもを抱いたままパネルを見てる母親。

 杖に寄りかかる老人。


(“生きる価値がある”って言い切るの、気恥ずかしいよな)


 そういうタイプほど、投票をギリギリまで迷う。

 反対に、「自分はどうなってもいい」と本気で思ってる奴は、多分この場に来ない。

 来る余力がない。


(──60は超える)


 感覚的に、YESが半分を割ることはまずない、と分かる。

 第二ラウンドとは向いてるベクトルが違う。

 でも、“7割”まで残るかと言われると、何かが引っ掛かる。


 あんまり高く見積もりすぎると、「希望的観測派」になる。かといって、低く見積もると、今度は「自己否定を前提にした街」だと決めつけることになる。


(……中間じゃない)


 俺は、数字を絞る。


「YES63、NO37」


 63。

 さっきの65と72より若干少ない。

 「そうであってほしい」と「多分このくらい」の妥協点。


「──これで行く」


 端末に数字を打ち込む。


『YES:63%/NO:37%』


「了解」


 アイリスが、同じ値を確認して送信する。


「天城側は?」

「YES55〜58のレンジで固めてくる」

「理由は?」

「“自分が落ちた時の恐怖”を、あいつらもさっきの自分のコメントで思い出しちゃってるから。“思ったよりNO側多いかも”って逆に見積もる」

「メンタル要素まで読むのね」

「相手が人間である以上、そこも盤面だろ」


 それを聞くと、アイリスが満足そうに目を細めた。



「それでは──回答タイム終了まで、残り10秒!」


 司会がカウントを始める。

 舞台から見下ろすと、まだパネルに指を置いたまま固まってる人たちが何人もいる。

 迷いながら、それでも最後にはどちらかを押さなければならない。

 押さなかった人は“無回答”としてカウントから外される。


「3、2、1──タイムアップ!」


 パネルの光が消えた。


「第三ラウンド、“クロスジャッジ”──観客の答えは、こちら!」


 天井スクリーンに、棒グラフが現れる。


 青いバーが伸びる。

 垢も、さっきよりわずかに高い。


『YES:67%

 NO:33%』


「おおおお……」

「思ったより高いな」


 会場からは、安堵とともに驚きともつかない声が上がる。


 YES67。俺の63より、4ポイント高い。


(……まぁ、そうだよな)


 心のどこかで、こうあってほしいと思っていた数字に、ほんの少し手が届かなかった感覚。


「では──久城・神崎ペアの予測は?」


 スクリーン下部。


『久城・神崎ペア予測:

 YES:63%

 NO:37%

 誤差:4%』


 4%。第二ラウンドと同じだけのズレ。

 そしてすぐに、天城側の予測が表示される。


『天城・折木ペア予測:

 YES:58%

 NO:42%

 誤差:9%』


 誤差9。

 第三ラウンドの誤差は2倍で計算されるから──18。


「というわけで!」


 司会が、盛大に両手を広げた。


「第三ラウンド、“クロスジャッジ”──勝者は、久城・神崎ペア!!」


 観客席から、拍手と歓声が一斉に上がった。


「総合結果を見てみましょう!」


 スクリーン右端に、累計誤差の欄が更新される。


『ROUND1:

 久城・神崎:3%

 天城・折木:15%』


『ROUND2:

 久城・神崎:4%

 天城・折木:3%』


『ROUND3:

 久城・神崎:8%

 天城・折木:18%』


『TOTAL:

 久城・神崎:15%

 天城・折木:36%』


「トータル誤差──久城・神崎ペア15%、天城・折木ペア36%!」


 司会が高らかに宣言する。


「よって、このPublic Score Match #2211-C “クロスジャッジ”、勝者は、底辺ストリート代表の久城シン&神崎アイリスペア!!」


 ステージ足元のスコアカウンターが、一斉に光った。


『久城シン Score:14→21』

『神崎アイリス Score:981→989』

『柏木ユナ Score:230→240』

『鳴海タクト Score:190→196』

『白河ミレイ Score:835→838』


 数字としては、ほんの数ポイント。

 でも、ノーカットの俺にとっては、今まで見たことがないぐらい一気に増えた感覚だった。


 ざわざわと、客席から「結構上がるんだな」「あのノーカット、ちょっと見直したわ」といった声が聞こえる。


 ……悪くない。



 表向きの表彰とインタビューが終わると、選手たちは再び控室に戻された。


 天城ルカは、ソファにどさっと座り込んで「いや〜負けちゃったね〜」と笑っているが、その目には少しだけ悔しさが滲んでいた。


「やられたわ」


 折木は、素直にそう言った。


「第三ラウンドの質問は、我々のプラン通りだった。“自分自身を底辺に置いたときの感情”は、もっとNO側が多いと思っていた」

「俺もそこ、最後まで迷ったよ」


 正直に返す。


「“生きる価値がある“ってYES押すの、なんか照れくさいしな」

「そうですね」


 ミレイが静かに頷いた。


「それでも、67%がYESを押した──その事実は、私としては嬉しいですけれど」

「読み違えたのは、君の第一ラウンドのコメントのせいでもある」


 折木が、少しだけ皮肉気味にミレイを見る。


「”そんな世界の方が救いやすい“なんて言われたら、医者に甘えたい人間はYESを押したくなる」

「お医者様を便利道具みたいにしないでください」


 ミレイが、さらっと返す。


「でもまぁ、そうならそうで、私は救いやすくなりますから、悪くはありません」


 この人、やっぱり怖い。


「にしてもさー」


 天城ルカがこちらを見た。


「久城くんだっけ?ノーカットの」

「そうだ」

「第一ラウンドの数字、マジでビビったわ。あれ、感覚だけで当ててるんでしょ?」

「感覚だけっつーか……お前の配信のコメント欄、たまに覗いてたからな」

「え、マジ?」


 ルカが目を丸くする。


「“努力足りてない奴は〜”みたいなコメントの比率と、“まあでもしゃーないよね”ってコメントの比率をなんとなく覚えてた」

「うわ、リスナーの空気読むのボクより上手いじゃん」

「お前よりはな」

「そこ即答する?」


 ルカが苦笑する。


「でも、“底辺ストリート代表”って看板、結構おいしいよ?」

「いらねぇよそんな看板」


 思わず即答したら、周りが笑った。


「──折木さん」


 そこで、アイリスが真面目な声で口を開いた。


「一つだけ、聞いてもいいですか」

「なんだ」

「今回のマッチ、“ルールの外側”で妙な介入は、ありませんでしたよね」


 折木は、少しだけ目を細めた。


「……少なくとも、我々の陣営からは、何もしていない」

「“少なくとも”ね」

「そういうところだぞ折木」


 天城が横から茶々を入れる。


「でもまぁ、今回のはクリーンだったよ。スコア庁も、“このブロックの空気”を観察したい意図が強かったみたいだし」

「スコア庁が?」


 俺が眉をひそめると、折木が補足した。


「このマッチの開催許可を出したのは、南七支所ではなく、本町直轄だ」

「マジかよ」

「“底辺ブロック”の住人が、“底辺の存在価値”についてどう考えているか。定量的なデータを取りたかったのだろう」


 ぞわっと、背中に嫌な感覚が走る。


「俺たち、モルモットってわけか」

「言い方を変えれば、サンプルだ」


 折木は平然としている。


「怒るか?」

「別に。今に始まったことじゃねぇし」


 俺は肩をすくめる。


「ただ──」

「ただ?」

「モルモット側が、“監視してるやつの癖”を観察し返してるってこと、そっちも理解しとけよ」


 俺の言葉に、折木は一瞬だけ目を丸くして、それからふっと笑った。


「……そういうところだ。“要監視タグ”をつけられるだけのことはある」

「褒め言葉かそれは」

「半分は」


 折木は、腕を組み直す。


「もう半分は、スコア庁の管理担当が頭を抱えているという意味で」

「そっちはどうでもいいな」



 控室の外から、スタッフの声が聞こえてくる。


「久城さん、神崎さん、サポーターの皆さん。最後に会場外でワンカット撮らせてくださいー!」


 どうやら、配信用のエンドロールらしい。

 俺たちが立ちあがろうとしたとき、折木がふとこちらに声をかけた。


「久城シン」

「なんだよ」

「君は、自分のスコアが100を超えたら、何か変わると思うか」


 唐突な質問だ。


「……弁当の味は変わらないだろ」

「それ以外は?」

「“ノーカット”の肩書きは外れる。仕事紹介の候補も増える。大家の仕事も、ほんの少しマシになる」


 指を折りながら言う。


「でも、多分一番変わるのは──“数字を理由に諦めなくていいこと”が、ちょっと増えるぐらいだ」

「なるほど」


 折木は、小さく頷いた。


「ではその時は──もう一度、別のルールでゲームをしよう」

「指名かよ」

「君のようなプレイヤーを、放っておくのは惜しい」


 その言い方が、妙にスコア庁の人間らしくて、少しだけ笑えた。


「検討しとくよ」


 そう言って、俺は控室の扉を開ける。



 コンビニの前。

 マッチルームからあふれ出した観客たちが、夜の底辺ストリートを埋めていた。


「お疲れ様でしたー!」

「おー、勝った方の人だ!」

「ノーカットなのに、あの読みはやべぇわ」


 冷やかしと称賛と、興味本位の視線がごちゃ混ぜになって飛んでくる。

 ユナが小さく手を振り、タクトは「いやいや」とか言いながらピースをしている。

 ミレイは、すでに何人かに囲まれて、健康相談みたいなことをされていた。


「おつかれ、久城くん」


 ユナが、横に並ぶ。


「どうよ、“底辺ストリート代表”」

「代表やめろ」

「でもさ」


 ユナは、少しだけ空を見上げた。


「ちょっとだけ、空気変わった感じしない?」


 確かに、さっきまでこの通りに漂っていた「諦め」と「自嘲」の濃度が、ほんの少しだけ、薄くなったような気がする。

 もちろん、気のせいかもしれない。

 スコア庁の統計にも、今日のマッチのログにも、そんな差は出ないかもしれない。


 でも──



「まあ、“底辺は何も考えてねぇ”って思ってた奴らの誤差は、少しだけちょっとだけ修正できたかもな」

「それそれ」


 ユナが笑う。


「そういうの、大事だと思うよ」

「シン」


 少し離れたところで、アイリスが手を振っている。


「これからしばらく、スコア庁やらスポンサーやらから、色々とコンタクトが来ると思う」

「めんどくせぇな」

「めんどくさいです」


 即答。


「でも、そのめんどくささを、ゲームの駒に変えられるなら──悪くないと思わない?」

「……まだクロスジャッジ終わったばっかなんだけどな」

「ゲームはいつも、次のラウンドの準備が始まっているものよ」


 アイリスの視点は、もうコンビニの先──さらに大きなテーブルの方を見ているようだった。


「今日はひとまず、勝ち逃げして寝ましょう。続きは、また明日から考えればいい」

「そうだな」


 俺は、コンビニの自動ドアに視線を向ける。


 あのセルフレジまだ小さく「損失補填アルゴリズム試験運用中」の文字が残っていた。

 本庁の許可でテストが止まっている今も、それは消えていない。


(──次のラウンドは、こいつとだな)


 スコア社会そのもの。

 数字を決めるアルゴリズム。

 俺に“要監視タグ”を貼り続けてるどこかの誰か。


 クロスジャッジは、ただの最初のゲームにすぎない。


「行くか、相棒」

「ええ、相棒」


 アイリスと並んで歩き出す。

 その少し後ろで、ユナとタクトとミレイが、わいわいと話しながらついてくる。


 スコア13から始まったゲームは、いつの間にか21になっていた。


 たった8ポイント。

 だけど、その8ポイント分だけ──。

 俺は、明日のテーブルに指をかける権利を、少しだけ強く握れた気がした。

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