第1話 闇に覆われた世界
企画用に作った話が没ったので、小説風にして投稿していこうと思っています
――はるか昔、この世界は光に満ちていた。
太陽は昇り、夜は星で輝き、大地は緑と水で潤っていた。人々は街を築き、互いに寄り添い、歌い、笑い、夢を語り合って未来を信じていた。それは誰もが永遠に続くものだと思っていた。
だが、人の心には光と同じだけ深い闇が潜んでいる。希望と優しさがあれば、同時に憎悪や嫉妬、絶望もまた存在する。その負の感情が限界を超えたとき、闇は世界に形を得て現れる。
――災魔。
それは人間自身が生み落とした災厄だった。最初は影のように寄生するだけの存在。だが恐怖と憎悪を糧に膨れあがり、やがて牙を持ち、瘴気を吐き、世界を喰らう怪物となる。
争いが絶えぬ戦場で、飢えに呻く民衆の中で、裏切りに泣き叫ぶ夜に――必ず災魔は現れた。人の苦しみが深ければ深いほど、その姿は醜悪に肥大し、誰にも止められぬほどの力を得る。つまり、人が存在する限り、災魔は絶えることがない。
数十年前、ついにその闇は臨界を超えた。無数の災魔が世界を覆い、空は黒い霧で閉ざされ、太陽は消えた。昼も夜も区別なく、ただ暗黒が支配する。人々は震えながら、その日を「終末の夜」と呼んだ。
剣を持った戦士たちが立ち向かい、法術師が結界を張った。だが、災魔の肉体は異常なまでに硬質で、人の力では刃も術も届かない。都市は滅び、王国は崩壊し、人々は絶望に沈んだ。
だが、その絶望の中でひとつの発見があった。
――災魔を討ったあと、黒い霧の中に必ず結晶が残る。
それは霊鋼と呼ばれる鉱石だった。光を吸うように黒く、血管のように赤い脈が走るその結晶は、災魔そのものの心臓のように脈動していた。強靭さと莫大な魔力を秘め、人の世界には存在しない異質の物質。
錬金術師たちは結論に至った。
――「災魔は、人間には倒せない。ならば、災魔の力で対抗するしかない」。
霊鋼を鍛え、鎧を作った。その鎧を纏う者は、魂を代償に災魔と渡り合える力を得る。
彼らは守護者と呼ばれた。
守護者の存在は、人々にとって救いであり、同時に恐怖だった。鎧は装着者の魂を燃やし、戦うたびに命を削り尽くす。守護者は必ず死ぬ。だが戦わなければ人類は滅ぶ。
霊鋼は災魔を倒せば新たに得られる。霊鋼で鎧を作れば、新たな守護者が生まれる。だが戦えば戦うほど人は憎み、嘆き、恐怖し、その負の感情が災魔を生み続ける。
――災魔と守護者。闇と闇の両輪が回り続ける、終わりなき地獄の連鎖。
やがて、守護者は人々から「希望」と「畏怖」の象徴として語られるようになった。闇を用いて闇を祓い生きる者。伝説と呪いの名を持つ存在。
しかし今、その伝説も尽きかけている。
災魔の数は増え続け、守護者は全盛期から激減した。太陽は戻らず、闇に沈んだ世界に人々は災魔に怯えくらしていた。
その夜、森の奥に赤い光が瞬いた。災魔の群れが集落を襲う。人々の前に立ちはだかるのは漆黒の鎧を纏った守護者。
闇を帯びた剣が振るわれ、災魔の肉を裂く。だが同時に、守護者自身の命が削れていく。退路はなく、彼らはただ進むしかなかった。
そしてその戦いから遠く離れた、小さな村に一人の青年がいた。
――名は、アシェル。
誰も知らなかった。
やがて彼が、人と災魔、光と闇の狭間に立ち、永遠に続く連鎖を断ち切る存在となることを。
その戦いが後に「旭光」と呼ばれ、人々に伝説として語られることを――。
書いていくうちに設定が固まってきたので、修正しました。