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春咲菜花のエッセイ

出先で人に出会う時

作者: 春咲菜花

私、春咲菜花が出先で知り合いに会ったらどうするか。

それは二択だ。

挨拶をするか、隠れるか。

いや、そもそも私からそのような行動をすることがめったにないのだ。

それはなぜか。

私が気づかないからである。

覚えている範囲で一番古い記憶は小五の時だ。

その日は少し遠くのホームセンターへ家族で買い物に行っていた。

私は特に見ることがなくてペットショップにへばりついていた。

ガラス張りのケースの中にいる子も可愛かったけど、ゲージに入っている子も可愛かった。

ゲージの子はすごく構って欲しそうだったから少し遊んであげていた。

遊んであげたと言っても、指を行ったり来たりさせたくらいだ。

でも犬は楽しそうだった。

気づくと、ゲージを挟んだ反対側の通路に人が立っていることに気がついた。

顔を上げると、少し身長の大きい三十代くらいの男の人と、その人の腕の中にいる三歳くらいの女の子がいた。


「誰?」


その人達は私を見下ろしていた。

動きもせずにずっと。

だから思わず声が出てしまった。

でも、その言葉は男の人の耳には届かなかったらしい。

男の人は何も言わずに立っている。

何なんだろう。

知り合いかな。

でもこんな人いたかな。


「何でなっちゃんがここにいるの?」


男の人は"なっちゃん"という私のあだ名を呼んだ。

そのことから知り合いだということは分かった。

が、全然思い出せない。

誰だ?

本当に誰だ?

私は頭を巡らせた。


「ん?」


あれ?

よく見たらこの顔見覚えが……。


「あー、(体育教師の名前)先生?」

「おう」

「こんにちは」


私が挨拶すると、先生の腕の中にいる女の子は犬に向かって手を伸ばした。

犬が気になるのだろう。


「わんわん!」

「うん、わんわんはいいけど、俺はなっちゃんがここにいることが驚きなんだけど」


何でと言われてもなぁ。

親がここにしかないものを欲してたからしか言いようがない。


「買い物ですよ」

「そうか」

「先生は(地区名)に住んでいるんですか?」

「まぁ、(社会担当の名前)先生も(地区名)に住んでるぞ」

「へぇ」


私と先生がそんな会話をしていたら、家族からメールが来た。

私はそこで退散した。

確か、先生と会ったのはそれが初めてだったような気がする。

割と気まずくて、学校以外で会うと全然分かんないんだなと言うことを実感した。

その次はショッピングモールで友人に会った。

これも小五の出来事だ。

ショッピングモールの中にあるスーパーのセルフレジにいた友人に話しかけた。


「うおっ!なんだ菜花か」


話しかけたらそんな反応をされた。

”うおっ!”とは失礼だなと思いながらも、私は友人と話した。


「服ギラギラの知らないおばあちゃんが話しかけてきたのかと思った」

「何でだよ」


確かに服はギラギラだ。

指をすべらせると色や柄が変わる服だから、ギラギラしているのは仕方ない。

だが、なぜおばあちゃんと間違われたのか。


「なんでいるの?」

「買い物。(友人の名前)は?」

「買い物。お前親は?」

「え?そこの店に……」


私が指さした方向に親はいなかった。

親は五十メートルほど離れたところにいたから、私はそこで会話を切り上げて親の元へ行った。

今のところ全員が”なんでいるの?”ということを聞いてきている。

次は中学生だ。

一年生のときはとにかく出先で人に会った。

まずは夏休みのスーパーだ。

家の近くで非常に行きやすく、よく行っている。

その日は親が仕事で疲れていて、お昼を作れそうになかったからスーパーの弁当を私が買いに行くことになった。

弁当を何にするか悩みに悩んでいたら、先輩に話しかけられたのだ。


「菜花ちゃん?」

「え?」

「やっぱり菜花ちゃんだ」


知らない人が私の名前を読んでいる。

そんな認識をした。


「…………あっ、(先輩の名前)先輩!こんにちは!」


そして、長い沈黙の末先輩であることに気がついた。

挨拶をすると先輩は笑顔で返してくれた。

「おつかい?偉いね。何を買ってるの?」


「今日、親が疲れ果ててしまってお弁当を買うことになったんですが、なかなか決めることができなくて」


スーパーのお弁当は種類が豊富で、魚から肉までの色んな料理がある。

サラダは絶対に買うけどお弁当が決まらない。


「何がいいと思いますか?」

「うーん、お母さんは何が好き?」

「お肉ですかね」

「菜花ちゃんは?」

「特にありません。美味しければ何でも好きですよ」


先輩は少し悩んで、生姜焼き弁当と酒弁当を手に取った。

そして、それを私に差し出した。


「これとかどう?」


私はそれを受け取ってお母さんに生姜焼きとかどうかと訊いた。

それでいいと返信がすぐに来たから、先輩にお礼を言って家に帰った。

翌日、私は外食をした。

サラダバーの付いているパスタのお店に行った。

そこで見覚えのある店員さんを見かけた。

どこで見た人だったかは思い出せない。

少し待たされてその店員さんに席に通された。

席に付いてから説明を受けたけど、なんかジロジロ見られているような気がした。

そして、説明が終わったあとに店員さんが口を開いた。


「あの、春咲菜花さんですか?」

「え?あ、はい」

「やっぱり!私(後輩の名前)の母です!」

「え?あぁ!!お久しぶりです!」


私が挨拶すると後輩の母親は笑顔でお辞儀した。

ここで働いてることを初めて知った。

後輩の母親はお母さん達に挨拶をして仕事に戻った。

多分友達の母親に出先で会ったのは初めてだったはずだ。

そもそも二日連続、出先で人に会う時点で私の運はおかしいのかもしれない。

そもそもこういうのは運なんだろうか。

私は運ということにしている。

次は中二の夏休みの話。

隣の県に家の用事で行った時、飲食店で転校したはずの男子と会った。

実は言うとその男子は私の黒歴史を持っている人物で、元好きだった人でもある。

本人はそれを分かっていたのでなお気まずい。

残念なことに席は私の席の左斜め後ろ。

しかも、その飲食店は食べ物を頼んだらドリンクバーが無料でつくため、私はドリンクバーを取りに行って戻るときに目が合うのだ。

それは相手も同じだ。

私は顔を逸らして戻るのに対し、奴は私を凝視して通り過ぎていくのだ。

そして、私はそんな奴と目を合わせないように窓を見続けた。


「菜花、どこ向いてるの?」


様子のおかしい私に母が訊いてきた。


「ん?空」

「何で?」

「き、綺麗だなぁと」


否、曇天である。

私の家は全員食べるのが早いため、さっさと店から出て行った。

店から出る時、ちらりと振り向いて男子を見た。

ガン見されている。

車で両親になぜ様子がおかしかったのか改めて聞かれて、理由を説明したら爆笑された。

こっちがどれだけ気まずかったかも知らないくせに呑気な。

解せぬ。

次は中二の秋頃だ。

塾の近くの薬局で母親を待っている時、担任に会った。

担任は私を見るなり近づいてきた。


「ついに遭遇しちゃったね」


苦笑しながら言う担任は、元々薬局の前の道路で私を見かけることが多々あった。

だからいつか薬局で会うのではと睨んでいたらしい。

流石にその発言には私も苦笑した。

先生の持っているカゴの中を見ると、冷凍餃子と食パン、ヨーグルトが入っていた。


「これ、朝ごはんですか?」

「うん。冷凍餃子は今日の晩御飯」

「ちゃんと作ってください」

「手を抜いたっていいでしょ」


先生は私のジョークに笑って応えた。

先生はもう会計をするだけだったようで、レジに行って袋詰めをしてから、私に向かって手を振った。


「また学校でね」


今までの私が相手から話しかけられた展開だと、”あれ?””この人誰?”としかならなかったから、ある意味珍しい展開だった。

次は中二の冬。

ホームセンターで同じ部活のそんなに仲良くない男子に会った。

私はすぐさま隠れた。

その男子は私の見たい棚の前から動かない。

後でまた見に来ようかと思ったが、私の中でいたずら心というか、チャレンジ精神が燃えた。

私は普段ポニーテールだ。

それを解き、髪を下ろした。

少し前、髪を下ろした姿で友達に会ったら”誰か分からなかった”と言われたことがあった。

試しに他の人に通じるか試してみたかったところだったのだ。

私はその姿で男子の横に行き、目的の物を探して棚から取った。

すぐに立ち去ったが、男子は私を”あれ?”というような表情で見ていた。

バレたかと思ったが翌日、学校で何も言われなかったから平気だったみたいだ。

以上が私が実際に体験した出先で人と会ったときの体験談だ。

回数でまとめる。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

話しかけられた回数は四回。

話しかけた回数は一回。

隠れた回数は二回。

合計七回。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

多分。

ここまで綴ってきた話から分かるように、私は隠れるか話しかけるかの選択ができないのだ。

私でなく相手が先に気づいてしまうからである。

そして、目上の人に会うことが多い私は話しかけられやすいのだ。

先に気づかれてしまったらもう逃げ道はないのだ。

でも、思い出せないままに話しかけられてもなんとかなる。

笑って返せば、大体何とかなる。

多分。

そういう意味では、私はきっと”挨拶をする派”なのかもしれない。

正直、どこかで誰かに会って、”あれ?”と戸惑うのも意外と楽しい。

分かったときが勉強で理解したときのようにスッキリするからだ。

そんなちょっとした偶然の出会いも、私にとっては大切な日常の一部なのだ。

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