2.執行
忘れた物は無くならない。壊れた物は?
何かが蒸発する音がした。魔方陣は煙を上げ、崩れた。しかし破片は1つたりとも残らなかった。リーシャは既にくるぶしより上が無くなったライアだったモノを見つめていた。ただ平然と。するとそのモノから一本、また一本と細い糸の様なものが出てきた。リーシャはいつも愛用している整備の行き届いた剣を引きずりそれに近付いた。糸は複雑に絡み合い、いつの間にか太く頑丈な縄の様なものがいくつも生えていた。勿論、リーシャには簡単に切れる存在だ。しかしリーシャは剣を振り上げようともしなかった。ライアは女神によって選ばれた存在。臆病だけど優しくて、人思いで、誰にだって温かく接してくれる者。リーシャはこの縄を切ることでライアを失いたく無かった。リーシャはそれでも剣を離そうとしない。リーシャは心の準備を終えた。その頃には素人には切ることの出来ない様な太い縄が生えていた。その縄は切り落とされた。その瞬間、断面から言葉には表しがたい、とてつもない怪物が姿を表した。それを見上げたリーシャは900年ぶりに圧倒的恐怖を覚えた。様々な目玉の様なモノがリーシャを見つめている。リーシャは剣を固く握りしめた。ゐぬい様そのものであるそれはリーシャを包み込むように襲いにかかった。リーシャは反撃をしようともせず、ただ自分の剣を握っていた。
「これは、駄目だ。」
リーシャは死への恐怖を押さえ込むことしかできなかった。剣を持つ腕が震えない様に強い力で握り、最後まで捨てたはずのプライドからそれから目を反らそうとはしなかった。するとゐぬい様は簡単にリーシャから剣を奪い取った。リーシャが逃げ出さないように自身のナカミで囲い、真っ暗になった。リーシャはあと少しの所で死の覚悟を決めることができなかった。あと少し…あと少しで覚悟が…
しかし、ゐぬい様はリーシャを待たなかった。リーシャの胴から彼岸花の様に鮮やかで力強い赤色が飛び散った。
「嫌…!死にたくない!もっと!もっとやりたいことがあったのに!」
そんな感情がリーシャの脳から溢れんばかりに流れ込んだ。
ー裏話ー
前書き考えるのむっちゃムズいお