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日常③ 幼馴染

平和な日常です


 ユズハとの勉強会の後、かずさは幼なじみとの待ち合わせ場所を目指し、村の西側にある小高い丘を登っていた。

 この丘はかずさ達の訓練場とは村を挟んで反対側に位置する場所で日中は子供たちで賑わっているが、日が傾く今時分には人っ子一人いない。大人たちも仕事を終え帰宅するため、この場所に来ることはない。

 既に待ち合わせ時間は過ぎてしまっている。ユズハと話をしていたらつい長引いてしまった。 

 両腕をツツジにくすぐられながら丘を登りきると開けた土地が広がる。西日に照らされた中央の欅の下に二人、少年と少女がいた。

 立ったまま木にもたれ掛かっている少年は楽し気に少女に向かって話している。

 少女は上品な敷物を地面に敷き、足を横にして座っている。手で編み物をしながら少年の話を聞いてはいるが、少年の方を向いてないあたり、傾聴しているようには見えない。

 当の少年は気にしていないようだ。

 少年がかずさに気づいたとたん大声で叫んだ。

「おっせーよバカずさ。どんだけ待たせんだ」

 その声に少女の方も顔を上げ、かずさの方を見る。 ひらひらと笑顔で手を振る親友の少女にかずさも大きく手を振り返す。

 しかし、先ほどの少年の態度はいささか気に入らない。大声で返事を返す。

「え~待たせてごめんなー。でも私が気を使ってあげたの気づかなかった?よかったな、めぐみ子と二人で話せて。すんごい鼻の下伸びてたよ」

 「気を使った」のはもちろん出まかせだが、少年の鼻の下が伸びっていたのは大方間違いではない。

 それを自覚しているのか、知られたくないのか、少年は顔を真っ赤にした。

「なっ!」

 急に耳まで赤くなった少年に、してやったりと意地悪く笑うかずさ。

 そのすぐそばで少女は優しいまなざしで少年を見つめていた。この場面だけ見るとお似合いなんだよな、とかずさは内心ニヤつきながら二人の傍に駆け寄った。

 紺色の甚平を着ている少年は名をナオトという。黒髪の短髪でぱっちりした目はいかにも活発そうな少年だ。少しつり目の瞳には夕陽の色が燃えている。この少年も能力者特有の色付きの瞳を持っている。能力は、第五感の探知能力だ。村では獲物の探知や、災害防止など、何かと重宝されている。かずさとは能力者同士で共に狩りに出かけたりと一緒に仕事する機会も多いが、性格上合わないのか、会うたびに口論が尽きない。

 因みにまだ幼い頃のこと、殴り合いにまで発展したことがあったが、結果がかずさの圧勝とナオトの大けがで終わった。けがをさせたかずさはノエルから大目玉をくらったため、この事件は二人の記憶にトラウマとして残った。その後は「喧嘩しても口論まで」が、二人の暗黙の了解となった。

 もう一人の少女は長い艶やかな黒髪を肩に流し、髪色に映える赤いリボンで結んでいる美人である。彼女は名をめぐみ子といい、かずさの幼馴染みであり、唯一の親友である。

 おっとりとした雰囲気を醸し出している彼女の瞳は綺麗な黄蘗(きはだ)色をしている。藤色の着物をまとった女性らしい身体と上品な雰囲気は同い年のかずさとは比較にならないほどの色気を出している。彼女もまたかずさたちと同じ能力者だが、家族以外誰もその能力を知らない。

 この村では能力を明かさなければならない掟は無く、本人から明かさない限り聞かないのが暗黙のルールだ。過去には発現条件が能力者自身の命に係わる事例もあったそうだが、それが所以ではないかといわれている。

 器量も良く女性らしい雰囲気を持つこの娘は村で一番の人気者だ。つまり、モテる。

 しかしかずさは知っている。一見おしとやかに見えるが、笑顔で毒を吐くことがままある。その毒でこの親友は既に何人もの男たちの心をバッキバッキと折ってきたのだ。

「ってか、ナオト!君のせいでこの間は肉を食いっぱぐれたわ!どうしてくれるのさ」

「あん?別に俺のせいじゃねーだろ。誰だって風邪はひくし熱は出る」

 風邪ひいてたのか、とあきれながらかずさはため息をつく。

 いつも通り言い争う二人にめぐみ子はカバンから竹で作られた水筒と笹に包まれたまんじゅうを取り出した。

「まあまあ二人とも。今日は甘いお菓子とお茶を作ってきたの。良かったら食べない?」

 めぐみ子が持参した湯呑に注ぎ分けたジャスミン茶がほのかに香る。つやつやしたまんじゅうを見た二人は途端に瞳を輝かせた。

「いつもありがとう、めぐみ子~。めぐみ子のお菓子だーい好き!」

 と調子の良いことを言いながら、差し出されたまんじゅうをさっそく頬張るかずさ。

「いつも悪ぃな。ありがとう。いただくわ」

 ナオトはかずさには決して言わないであろう律義な感謝を述べ、嬉しそうに受け取り茶をすすった。

 めぐみ子はそんな二人を笑顔で見ながら、二人の間に座りまんじゅうを食べた。



 秋の夕暮れ。陽も傾き始め辺りが夕焼けに染まっていく。広場を囲うススキが風に揺られさわさわと音を立て、そこかしこでキリギリスやコオロギの鳴き声が聞こえる。

 まんじゅうを食べ終わった三人はしばらくぼーと景色を見ていた。

 ナオトが寝転がり、話し始めた。

「お前らは将来の事とか考えてるのか」

 かずさは偶然にも自分がユズハにした同じ質問をされたことに驚いた。

 しかし、この幼なじみの意図がいまいち分からず、 ぽかんとした表情でかずさはナオトを見た。

「だから、この村を将来出たりするのかって聞いてるんだよ」

「ああ…」

 この村は巫子を除いて外出を禁じられていない。一人前になれば村を出る者も少なからずいる。しかし、この村の血筋は能力者、無能力者問わず、かずさたちのような能力者が生まれやすい。能力者は良くも悪くも外の世界では利用されたり、忌み嫌われることも少なくない。

 村で育った能力者にとって外界は生きづらく、また無能力者にとっても外で生まれた我が子が能力者だった場合、人攫いなどの危険も多い。そのため多くの住民は村を出ず、一生村で暮らす選択をする。

 例外として外部の情報や技術を手に入れる村の勤めもあるが、だいたいは諜報活動に適した能力を持つ者がなる。

 かずさは少し考えた後答える。

「ううん......。私はできれば巫子になりたいな。巫子になったらお役目を精一杯果たして、この村を守っていきたい。まあ、もし巫子になれなくても、私は村に残る…かな。親父様もいるし、私の能力ちからは防衛にも役立つし、力仕事にも向いてるし…うん。村の皆の助けになりたい」

「かーっ。お前は昔からそうだよなー。ど真面目。まあ、村の皆の役に立ちたいってんなら悪くはないんだけどさー。オレは巫子にはなりたくねーな」

 かずさは自分とは違う答えを出したナオトの返答に興味を持った。

「じゃあ、ナオトは巫子にならなかったらどうすんのさー」

「オレ?オレは情報屋になるさ。オレの能力(ちから)があればある程度の危険は回避できるから、旅にも安全にいける。世界中のいろんな情報や技術を集めて村を発展させてやるんだぜ。まあ巫子にはなりたくねーけど、選ばれたらもちろんお役目は果たすぜ」

「へー。意外と考えてんだね。あ、めぐみ子はどうなの。巫子にならなかったらこの村出たりするの」

「オイ、なんだその反応は、ちゃんと聞けっ」

 語るドヤ顔がなんとなく鼻についたので、わちゃわちゃ言っているナオトを無視し、めぐみ子へと話を移す。

 聞かれためぐみ子は一瞬、こわばった表情に見えたが、すぐにいつものおっとりした口調で答えた。

「そうね。私は針子としてもっといろんな服が作れるようになりたいかしら。時々迎え入れる行商の人の服なんて、いつか作ってみたいわね」

 にこやかに答えるめぐみ子に先ほどの表情は勘違いだったかとかずさは思い直した。

「そっかー。きっとめぐみ子なら良い針子になれるよ。今だって手提げとか首巻とかたくさん素敵なもの作ってるし!その新しい服ができたら私にも着せてね」

 ええ、と笑顔でかずさに返事をするめぐみ子はいつも通りの優しい表情をしているが、声にどことなく覇気がない。

「かずさの言う通りだぜ。あ、オレも!オレにも作ってくれ!」

 元気に声を上げるナオトだけは相も変わらず元気そうである。


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