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いつかまたどこかで

 村の東側、小高い山の上。いつもの場所で、ノエルとかずさは最後の稽古をしていた。

 夕陽が西の山に沈み、二人を赤く照らす。カラスの鳴き声に交じって刀を交える音が周囲に響く。

 かずさはノエルに果敢に攻めるも、有効打にはならない。ノエルは防戦、かずさは攻撃しかしていないのに全て塞がれ、一発も当てられていないのだ。

 力も、速さも、技術も、経験もこの男にはまったく及ばない。

 ――それでも最後くらい、自分は大丈夫なんだってこと、証明したい!

 かずさは草履を脱ぎ裸足になる。

 ノエルはその行動を疑問に思いながらも関係ないと大刀を持ち、待ち構える。

 かずさは何回目なのかわからない突撃をする。逆手に持った右の小刀で首を狙うが容易く避けられる。そのまま空中で右回りに一回転しながら、もう一度右手の小刀で今度は腕を狙う。ノエルはすかさず刀で防御する、が、その時、かずさは飛ぶ直前に右足の指で掴んだ砂をノエルの顔面に当てた。一瞬ノエルの目がつぶれる。

 瞬間、回転で遠心力をかけた左足をそのままノエルの横顔目掛けて蹴っ飛ばす。

 蹴りの威力でノエルは20メートルほど横に飛ばされた。しかし、尚も土埃の中ノエルは立っている。

 これでもダメか、とかずさは落ち込んで下を向く。

「強くなったな」

 ノエルの突然の誉め言葉に思わず顔をあげるかずさ。見るとノエルの右頬に一線の切り傷ができている。かずさはノエルに一発当てることができたのだ。

「戦場ではあらゆるものを使って戦わねばならない。状況、環境、武器、相手との戦力。お前は周囲にあるものを使って私に一発入れた。……お前はもう十分強い…」

 今まで、戦闘においてノエルから褒めて貰えたことはほとんどなかった。これまでにない賛辞にかずさの胸が熱くなると同時に切なさも込み上げてくる。

「あっ…ありがとっ、ござい…ます…っ」

 泣きたくないのに。嗚咽が止まらない。

 ノエルの言葉が、二人の生活の終わりを意味するようで。

 泣きながら、やはり寂しいと思った。自分の決断なのに、こんな気持ちになるのは筋違いだとわかっているのに。

 何でもないこの村での日々が終わってしまうことが、こんなにも悲しいなんて。この村での毎日がかけがえのないものだったことを今、ようやく知った。

 ノエルはそれ以上言葉をかけず、夕陽に染まる村を見る。橙色の空の下、上から見た村は、いつにも増して綺麗だ。

 夕陽に照らされよくは見えないが、ノエルは笑っているように見えた。

 ススキが揺れる音、冷たい風、家々から立ち上る煙、草と土の匂い、燃えるような夕陽。美しいこの景色をかずさは五感を通して心に刻んだ。


 


 明朝、かずさはいつもより早く起きて身支度を済ませた。昨日のうちに必要なものはすべて揃えておいた。あとはノエルに別れを言うだけだ。

 一階に降りてきたが、ノエルの姿はない。どこに行ったのだろうと荷物を持ったまま、外に出る。少しだけ白んだ空にはまだ月と星々が輝いている。

 朝はやはり寒い。悴む(かじか)手に息を掛けながら、外に出ると、ノエルが井戸で顔を洗っていた。

「おはようございます」

「ああ」

 いつもの返事。かずさは一瞬最後に何か言おうかと考えたが、これ以上何を話しても離れがたくなってしまうと思い、早々に別れを切り出す事にした。

「では――」

「待て」

 ノエルがかずさの声を遮り、家に戻って行く。

 どういうつもりなのだろう。まさか自分も行くなんて言わないよな、と内心ハラハラしていたかずさは戻ってきたノエルが手にした物に驚く。

「持ってけ。必要になるかもしれん」

 手には積雪の際に履く藁ぐつを持っている。受け取ったかずさは思わず笑ってしまう。

「これ、親父様が?」

「そうだ」

 いつの間に(こしら)えたんだろう。自分のために編んでくれたのかと思い、これまた初めてのことに嬉しくて笑ってしまう。

「ふふ…ふはっ…ははははっ」

 笑いすぎて涙が出てきた。

「親父様っ。ふふ、嬉しいです。ほんっとーにっ、ありがとうございますっ。では、行ってまいりますっ!!」

「…ああ、行ってこい」

 ノエルはいつもの調子で声をかける。

 かずさは藁ぐつを背負っている荷物入れに括り付け、山へと足を向ける。

 笑って旅立つことになるとは思ってもみなかった。

 一年後自分がどうなるかわからない。もう村の皆には会えない、覚悟はしている。でも、やっぱりさよならは言いたくない。一年後、今の私がいなくなったとしても、さよならは最期の最後までとっておく。

 大好きなこの村をこうして笑って、去ることができて、本当に良かった。

 かずさは振り返らない。振り返ったらきっと泣いてしまう。笑顔のまま去ろう。この村の温かな思い出とともに。


 一度も振り返らないかずさを、ノエルはいつまでも、いつまでも見送っていた。いつかまた会える日を願いながら。


初めて書いたので、文章も、キャラ設定もかなり、多くの点で至らない部分が多い作品だったかと思います。にもかかわらず、最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。

次は、主人公は変わりまして、かずさがヒロインに西洋チック(ドイツ風)の街を舞台にボーイミーツガールなお話を予定しております。最初からこのお話が書きたかったんです笑 ですので、プロローグ、でした。

準備に何週間かかかりますが、こちらもお付き合いいただけると光栄です。ではまた!

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