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かずさとノエル⑥

かずさは気になったことを尋ねる。自分の胸にしまってある飴色鉱石のネックレス。これはノエルの妻のものだ。

 胸からネックレスを取り出しながらかずさは言う。

「すみません、これ、訓練中とはいえ手荒く扱ってしまいました。親父様の奥様が大切にしてたものなのに…。これ、返します」

 かずさは首からネックレスを外そうとした。

「お前が持っていろ。大事にするならそれで構わん」

 ノエルはぶっきらぼうにそう言い、片付けを始める。

 不愛想な物言いだが、自身の大切なものを自分に託してくれたことがかずさにはうれしかった。

 はい、とかずさも胸元にしまう。囲炉裏の火は消えかけている。今日は今までで一番、たくさん話をした。


 ノエルはかずさにこれまで何も強いたことはことは無かった。畑仕事も食事の準備も、幼いころからの戦闘訓練も全部かずさが自分からお願いしたことだ。その都度教え、導き、自身の成長を助けてくれたことをかずさは心から感謝している。

 けれども、今回に限っては何か言ってほしかった。生まれて初めて、かずさは選択の苦しさを味わっている。

 かずさが村に残れば、ノエルはいつものように最期まで一緒に過ごしてくれるだろう。村を出る選択をすれば何も言わず送り出してもくれるはずだ。

 せめて何か言ってくれれば、こんなにも迷わないのに。

 少し恨めしく思う。

 ノエルはただ一人の家族である自分の発言がかずさの選択肢に影響を与えることを理解しているからこそ何も言わないのだろう。

 自分の運命を左右する決断だ、自分の意志で決めるべきだ。理解はしているが、ただ一人の家族だからこそ道しるべになる、言葉が欲しかった。

 とはいえ、自身のつらい過去を踏まえて昔話をしてくれたのは、自分が外界の人間だと教えることで、かずさの生きる道を広げてあげたいという心遣いだったのかもしれない。その優しさには深く感謝している。食べ終えた食器を炊事場で片付けているのノエルを見ながら胸にあるネックレスに手を当て、小さくつぶやいた。

「ありがとう」




 ノエルは桶で食器を洗いながら、久しぶりに家族とのことを思い出す。息子と釣りに行ったこと、妻の焼くキッシュがいつも絶品だったこと、家族で祭りに行ったこともあった。どうして今まで思い出せなかったのだろう。家族を思えばあの最期の瞬間ばかりで思い出すのもつらかった。

 けれど今、かずさとの15年の時間を通して、ようやく見つめ直せるようになったのかもしれない。あの日、あの時。かずさと出会わなければ自分はとっくに野垂れ死んでいただろう。

 だが、かずさと出会い、過ごすことで自分は生かされ、こうして家族との優しい思い出も思い出せるようになった。だから、かずさには自由に、幸せに生きてもらいたい。たとえ自分と離れることになっても。

 儀式の時、なぜ自分はあの場にいなかったのだろうか。自分がこの村の住民でないことの引け目なんていう詰まらないもので、ただ一人の家族さえ守れなかった。――また、守れなかった…!

 無意識に腕に力が入り、握る鍋が歪んでいく。ノエルは一人後悔の念に(さいな)まれる。


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