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日常①

これはある少女の別れの物語。

一人、読んでいただけたら十分です。

アドバイスください。

*初作品なので大目に見てください。

 この世界にはいくつかの島と一つの大陸しかない。故に人々はより良い土地をと資源を求め、日々争いを繰り返している。

 しかし、唯一世界から隔絶され、外界の争いとは無縁の土地がある。大陸の東の最果て。見渡す限り広大な山脈は雲よりも高く、誰もが畏れを抱く絶壁となって外界とを遮断する。そのおよそ中心に開けた土地がある。ここは険しい山々もなく、高度も低い。山脈の雪解け水が川に流れ、肥沃な大地を持つ森は、あらゆる生命に恵みをもたらす。

 その豊かな土地に一つの小さな村がある。外界から意図的に隔絶したこの村は外部との接触はほとんどない。訪れる者と言えば、まれに遭難し行き倒れた旅人くらいだ。運よく訪れた者は皆口をそろえて美しい村だという。しかし一度村を離れると二度とたどり着けない。まるで幻のような村だが、この村は確かに存在している。そう〝隠れながら“ーー。


 人口は五百人ほど。大陸中央や西側など外界の世界では機械工業化が進んでいるが、この村に機械のようなものは一切なく、前時代的生活で成り立っている。農業を中心とした自給自足が生活の基盤で、各々が役割を持ち、村のくらしを担っている。貨幣も無いため物々交換が主流だ。

 周囲を森と小高い山に囲われた村の中心には広い広場があり、その周囲に住居である茅葺き屋根の木造建築が点在している。その外側には広い田園風景が広がり、牛を連れた農家達が畑を耕している。

 秋が深まり、黄金色に染まった稲は収穫の時期を迎えている。人々は小袖の着物を襷で括り、せっせと稲刈りを始めている。村には華美なものなど一切無く質素だが、人々は豊かな暮らしを送っている。

 他の農家たちとは少し離れた畑で一人、少女が鍬を振り下ろしている。小高い山一個分の土地、人一人が、とても耕しきれないほどの広い畑だが、既にほとんど耕してしまっている。十四、五歳ほどの細身な少女は成人男性すら振るうのが難しいであろう大きな鍬を易々と持ち上げ、振り下ろしている。

 少女は一見地味な格好をしている。紐で襷掛けした藍色の小袖の着物にえんじ色の帯を巻き、下には同じく紺色のふともも程の短さの半股引、そして脚絆を着用し、藁草履を履いている。全くもって年頃の少女が着るような服装でない。汗や飛び散る泥汚れを気にせず畑作業に打ち込む姿からもあまり見た目を気にしない性格なのが伺える。

 暗い配色の服を纏う少女だが、若干幼さは残るものの容貌はかなり整っている。顎下に切り揃えた艶やかな黒髪。快活そうな大きな瞳に伏せがちな長いまつげの下には陽光に当たれば本物の海の様に輝く深い蒼色瞳がある。肌は健康的に焼けていて、袖からチラチラと見える肌は雪のように白い。桜色の薄い唇と頬は少女に可憐な雰囲気を演出している。女性らしい恰好をすれば、だれもが美少女だと認めるだろう。

 少女は額にいっぱいの汗をかき、その容姿に似つかわしくない作業をことも無さげに続けている。

 秋も深まり気温も下がってきた今、生き物もまもなく冬眠の季節に入る。すぐにこの村にも雪が降りてくる。村人達は秋の収穫を行いつつ冬支度をせっせと進めている。

 少女は腰に巻いた巾着から種を出し、慣れた手つきでぱらぱらと巻いていく。これから冬に育つ作物の準備をするのだ。

 畝に沿って何往復も畑を歩き、最後の畝を巻き終えた少女は、大きく伸びをした。

 すると、ふと畑の畦道で男が手を振っていることに気付いた。

「お~い!かずさ!今日も頑張ってるな!頑張ってるとこ悪いんだが、残念な知らせだ。今日の狩りは中止になったってよ~!ナオトが熱出しちまってよ~!おやじさんに伝えといてくれ~」

 かずさと呼ばれた少女は背伸びした状態からガクーッと全力で前にうなだれた。知らせが相当ショックだったようで弱々しく右手を挙げ、ハイよー……という声にも元気は無い。

あからさまに残念がる少女を見て男は、また今度があるって。そう気落ちしなすんなっ!と豪快に笑いながら次の目的地へと行ってしまった。

 そう、かずさは残念でならないのだ。今日は久々の狩りのはずだった。久しく食べていない肉が食べられると思ったのに。

 叶わぬ要因となった幼なじみへの苛立ちを募らせながらテキパキと片づけを済ませる。

 時刻は昼過ぎだ。遅めになるが昼食を用意しなければならない。かずさは畑から芋を適当に二、三個ほど取り家路についた。


「親父様~いま帰りました~」

 鍬を肩にかけ、もう片方の手で勢いよく引き戸を開けようとしたかずさだったが、戸はほんの少し開いたまま止まってしまった。

 茅葺き屋根の二階建木造建築のこの家は建ててからかなりの年月が経っていた。玄関の引き戸は歪んでいて、スムーズに開いてくれない。半ば強引に戸を開けると戸は勢いよく端まで飛んでいった。もう少し力が強ければサッシから外れていたに違いない。

 中には六十過ぎに見える屈強な体つきをした白髪の男がいた。少しくらい室内でもらんらんと光る銀の瞳。男は火のない囲炉裏の前で片膝を立て座っているがその姿からも村の男たちとは比にならない高身長であることがわかる。着物からはよく鍛えられた足が見えるが、恥じる様子も無い。男は手元の作業に集中していたが、戸を開けた音にしかめっ面で顔を上げた。 

「…お前は力の加減をしっかりしろと言っているだろう…」

 男は雪駄を編んでいた手を止め、おかえりの代わりに説教を返した。大きな身体に似合わない繊細な作業だが、なかなかにうまい。

 かずさはへへッと笑いながら玄関を入り、そのまま広い土間に鍬を立てかけ、同じ空間にある台所に芋を置いた。

「だってここの引き戸歪みがひどすぎて、こんぐらい力いれなきゃ――」

「言い訳するな。他の奴はもっと静かに開けている」

「……」

 食い気味に説き伏せられた。

 かずさは不満げに口をとがらせながら、ハイハイと昼食の支度を始める。

 育ての親であるこの男にはやはり頭が上がらない。かずさや他の村人たちとは違い凹凸がはっきりした顔立ちのこの男の名は”ノエル“。長い白髪を後ろで結び、薄暗い屋内で銀色に光る鋭い眼光は圧倒的強者の威厳を持つ。それだけでなく屈強な身体と歴戦を物語る無数の傷が男をより恐ろしく見せていた。

「あ、親父様。さっきマヒトさんが来て、今日の狩りは中止になったって言ってたよ」

 ノエルは手を止め、理由を促すようにかずさを見る。

「なんでもナオトの奴が熱出したんだって」

 はぁ、とノエルはため息交じりにやれやれと首を横に振りながら肩をすくめ呆れた素振りをみせる。あまりにもしょうもない理由過ぎたのだろう。そのまま再び雪駄を編み始めた。

 偶にノエルはこの村ではしないようなしぐさをする。同じ服は着ているが、顔立ちも髪の色も、体格も違う。どう見てもこの村の出身ではない。

 幼いころからその違いに気づいてはいたが、なぜ血も繋がっていない自分を育ててきたのか、聞く必要も、聞くつもりもない。自分には親父様がいる。血縁関係が無くとも幼いころから育ててくれた唯一の家族だ。その事実だけで十分だった。




 芋粥に芋みそ汁という素朴な昼食を食べながらこの後の予定を話す。

「親父様。昼の狩りが無くなったってことは、今日は稽古していただけますよね?」

 かずさを一瞥した後みそ汁をすする。

「……ああ」

「やった!今日こそ一本いれてやりますからね!」

 しばらくの沈黙の後の応答。もったいぶって返事しなくてもいいのに、と思わないことも無いが、とりあえず今日は稽古をつけてもらえることを喜んだ。

 かずさはノエルと四歳のころからずっと戦闘訓練をしていた。

 この村で暮らす者は男女問わず、ある程度の年齢になると基礎的な戦闘訓練を受けるため、誰もが最低限戦える。山奥にあり人通りがほとんどない村とはいえ、いつ何時盗賊や山賊などの外部の勢力や危険な生き物と闘うことになるかわからない。この村の”特殊性”を鑑みれば、村人が戦闘力を持つことは必須である。

 しかし、かずさは普通なら七歳頃から訓練し始めるところを、四歳から訓練を受けていた。理由は彼女自身の特殊能力にある。


「では…いきますっ!」

かずさは両手の小刀を勢いよく振りかぶり、勢いよくノエルに飛び掛かった。大人の足で十歩ほどの距離を跳躍で一気に詰める。ノエルは自分の体ほどある大刀を構える。

 村の東に位置する小高い山の山頂に開けた土地がある。通常歩いて半日はかかるため村人もめったに来ないこの場所が二人の訓練場である。

 かずさの小刀がノエルの首元を捉えたかに見えた。――が、ノエルは表情を変えないままかずさの腹に超人的な速さで回し蹴りを当てた。

 腕で受け身を取ったものの蹴りへの対応が遅れたかずさは、大きく横へ飛ばされる。なんとか着地時の受け身を取り、地面に転がった勢いを利用し立ち上がる。

 すかさずノエルへ向かうかずさ。彼女は容赦なく首元を狙うが、狙いはノエルの命ではなく首にかけているネックレスだ。銀のチェーンに銀のどんぐりの実ほどの黄金に輝く飴色の鉱石がノエルの胸で揺れる。

 かずさが幼い頃、このネックレスがほしいとねだり、自分の手で取れたら譲ろうと約束した日から、訓練の勝利条件となった。

 もちろん、ノエルには渡す気など毛頭なく、良いハンデであると判断し申し出を了承した。かずさは未だにこのネックレスに手が届いたことが無い。

「まだまだぁ!」

 両手の小刀を駆使し、ノエルに多彩な体術と剣さばきで挑むかずさ。すでに常人の体術をはるかに上回る動きをする彼女は、生まれた場所が違えば国で三本の指に入れるほどの実力者に違いない。

 しかし、その攻撃を軽々と受け止め、切り返すノエルもまた超人的な戦闘力を持つ。二人の動きはおおよそ人間が持つ運動能力を明らかに超越している。

 身体能力の異常な向上。それがこの二人が持つ能力であった。

 この村の特殊性。それは超能力を持つ者が多く生まれることである。十人に一人ほどの割合だが、それは外界で一千万に一人の確立で現れる現象を考えるとその特殊性は異常だ。

 この村の成り立ちはそもそも偏見や差別から逃れてきた能力者たちの集まりである。能力者たちの子孫は超能力を発現しやすいため、この村には能力者が異様に多い。

 能力の種類も様々である。それは思うだけで物を動かすことができたり、人や生き物の心に干渉したり、物質を変形させたり、と多種多様である。そういった者たちは「神の子」と呼ばれ、村の神から加護を受けた者とみなされる。

 「神」は比喩的な表現ではなく、事実この村に神は存在している。いつから存在しているか、実体は何なのか未だ明らかにされていない存在である。

 しかし、神には感情が存在し、怒りを買うと天災を起こすこともあるという。そのため、村への被害を抑え、神の要望を聞き届け村人に伝える存在、「巫子」が存在する。

 巫子は五十年に一度、神の子の中から選定の儀式を経て選ばれる。村の神と唯一交信できる存在として巫古は次の巫子が現れるまで、人と神との橋渡し役を担う。

 気まぐれな神への対処として巫子の存在は村にとって非常に重要である。

 ちょうど後半月ほどで、前回の巫子決定から五十年である。巫子には若い者が選ばれるため、かずさも巫子候補として期待されている。


 何度目になるだろうか。かずさは挑んではノエルに転がされ続けていた。

「お前は決まったと思うとすぐに油断する。自分の攻撃が入ると確信しても常にあらゆる次の手を考えながら動け。その隙が命取りだ」

 かずさは恨めしそうにノエルを見ながら蹴られた腹をさすりながら立ち上がった。少し落ち込みながら返事をする。

「はぁい…」

 やる気のない返事に何か言いたげなノエルだったが、後ろ腰に下げている鞘に刀を収めると、帰るぞ、と踵を返した。

 ――その瞬間。今までのどの攻撃より速い速度でノエルの後ろに回ったかずさはまた首筋を狙い小刀を差し入れる。しかし、ノエルはそれを予測していたのか、すぐさま後ろ手で刀を抜き防いだ。が、かずさはこれすら読んでいた。ノエルの肩で跳躍し、太陽を背に右手の小刀をノエルの首に投げた。一瞬目がくらんだノエルは防げず首を避けるだけで精一杯だった。

 ノエルのネックレスのチェーンがスパッと切れ、美しい黄金の鉱石が宙を舞った。すかさずかずさはそれを掴み取る。

「やった…。やりました!親父様っ!とうとう親父様から一本とりましたぁ!」

 しばらく呆けていたノエルだが、ひと呼吸ついて苦い笑顔を浮かべた。

「……悪くはなかったな」

 嬉しさのあまり飛び跳ねていたかずさにそのつぶやきは聞こえない。

「え?親父様なんか言いました?これ、返しませんからね!約束しましたもんね!」

 「……帰るぞ。遅かった方が夕餉の支度担当だからな」

 瞬間、大人げなく全力で山を下っていくノエル。

「えっ!ちょっ!ひどいです!待ってくださーい!」

 慌てて追いかけながら後を追うかずさの胸には結び直した黄金色のネックレスが夕陽を映し、燃えている。

これが私の処女作になります。こんなに長い駄文を読んでくださりありがとうございます!!気になる方は続けて読んでくださるととっても嬉しいです!


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