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青色の記憶

作者: アキラ

 小さい頃の僕は、自分の周りにあまり波風がたたぬように人と接してきた。友達はもちろん、親に対しても非常に気を使っていた覚えがある。

 小学校ぐらいのころだったと思う。当時は、親と親戚との間があまりよくなくて、彼らはしょっちゅう家で喧嘩をしていた。

 僕には上に兄が二人いて、僕ら兄弟は男のくせにあまり気が強くなかった。だから、彼らが喧嘩をしているときも止めることはせず、ただ見ているだけだったと思う。けれど、一番うえの兄だけはひとりで彼らの間に入っていって「まあまあ、落ち着いて」なんて子供らしかぬことをいって両手を胸の前で申し訳なさそうにひろげて、止まってくれのポーズをしていた。本当はそんなに和やかな止め方では止まらないほどの喧嘩が、兄の頭上すれすれでかわされていたのだけれども。


 そんなことが影響したのかはよくわからないが、子供の僕は「とてもいい子」になることを基準に生活をおくるようになった。だから、何をするにもその基準が僕の感情や、思いつき、言動までもを抑制した。周りの大人からは、静かでいい子ね、とよく言われるようになった。


 だから、あの時も。あの人にあんなこと言われたあの時も、僕は心の奥そこで気づかないうちにそういうようなことをしていたから、あんなにも平常心でいれたのかもしれない。

 僕は目を合わせないようにしていたから、そのとき親戚の人がどんな顔でその言葉をを言ったのかは分からない。けど、その黒々とした言葉が子供の僕にむけられたとき僕はとっさに、僕の中に出てきた感情とその言葉を紙くずのようにくしゃっとまるめて捨てたんだ。

 僕は親戚の人に向かって「うん、そうだね」といったかもしれない。または、ただ黙っていただけかもしれない。とにかく、そのときの情景は今でもはっきりと思い出せるのに、僕がなんと言ったかは思い出せなかった。



 小学校の最後の年だったか、あるいはその前だったような気がする。とにかく、そのぐらいの時期にある事件がおこった。

 僕は飼育委員に入っていたから、友達と一緒ににわとり小屋とうさぎ小屋の掃除をしていた。そんなに好きではなかったのだが、確か愛着ぐらいはあったはずだ。その日も、放課後のこって掃除をすませて、暗くなってきたので僕らは帰ることにした。友達と職員室に小屋のかぎをかえしにいって、先生にさよならをして、いつもどうりに家に帰った。


 次の日は曇りだったような気がする。少し肌寒くて、朝だというのに学校内もうす暗かった。教室にはいって、飼育係の友達におはようをしたとき、その友達は泣いていて、僕がどうしたのかと聞くと、今から集会が開かれるのだと涙声で言う。僕がそれはなぜかと聞く前に、友達は飼育小屋のにわとりが、誰かに殺されたのだと、泣きながら言った。


 僕は一瞬なにがなんだか分からなくなって、昨日のことを必死に頭で思い返そうとした。でも、できないんだよ。

 僕の脳はそれをうけつけずに、それから何故かあのとき、くしゃくしゃにして捨てたはずの感情をひらいて、じいっと見つめてしまったんだ。

 僕はなんだか、涙がでてきて、叫びたくなって、泣いて、泣いて、何日も夜中にふと思い出しては泣いて、泣いて、泣いた。

 僕は悲しかったんだ。あの時、あの人にあんなこと言われて何も言い返せなかった自分が、感情を抑制してしまった自分に、喧嘩を止めようとしなかった自分に、腹が立ってしかたなかった。

 それと、同時ににわとりが殺されたことがとても悲しかった。にわとりを殺した人のことなんかどうでもよくて、もうあの小屋を、何世代にも渡って小学校の片隅でひっそりとただずんでいたあの小屋を使わなくなってしまうのかと思うと悲しかった。


 いま思えばいろんなことがあって、行き場をなくした僕の感情が、ぐるぐるさまよってあのときの事件がきっかけで、僕のところへ戻ってきたのかもしれない。


 あれから二十年がたって、僕はいまだにその記憶を思い出すことがある。それに対してうっとおしく思うこともある。でも、どんなに歳をとっても、どんどん記憶をなくしていったとしても、あの記憶は絶対になくしてはいけないものなのかもしれない。

 今、教師という職業についた僕にとっては絶対に、理由はわからないけど、言葉じゃ言いあらわせられない感情がたくさん交じり合って僕にいうんだ。


 忘れてはいけない、と。 

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