かち割れ頭部
俺は天才だった。
俺の名前は「豪壮 希優」
物心ついたときから野球に魅せられた俺は、それにのめり込んだ。
そんな俺に野球の女神は微笑んだ。
幼少の頃から神童と呼ばれた俺は、その才能と努力の甲斐もあり高校に上がる頃には、すでにドラフト一位は確実と称賛されるほどの実力者だった。
高校に入ってからも絶え間ない努力を続け一年生の時からエースとして甲子園を沸かせるスターに登り詰めた。
誰もが、そして自分すらもこれから先の栄光を信じて疑わなかった。
だが、破滅の時は突然訪れた。
三年生の最後の大会を前に、俺の肩は突如悲鳴をあげた。
「落ち着いて聞いて下さい。きみの肩はもうこれまでと同じようにはボールを投げられない。」
診断してくれた医者から告げられた言葉はこれまで野球に人生を捧げてきた俺には到底理解できないものだった。
周りの大人達の助力も受け、沢山の医者の元を訪れたが返ってくる答えに違いはなかった。
華々しい生活は途端に色を失った。
生活は一変した。これまでうざったいと思えるほど周りにいた大人たちは途端に俺の周りから消えた。
いつもいい顔をしていた監督やコーチ、あんなに苦楽を共にし、勝利のときは笑い合い、負けたときは悔しさを共有したチームメイト達すら俺の元を離れていった。
そうしてやっと気づいた自分の価値。
一人空虚な気持ちを抱えながら、野球部員たちが忙しなく走り回るグラウンドを見下ろしながら独りごちる。
「結局、俺はただの凡人だったんだな…」
そんなセンチメンタルな気持ちを無視するかの様な、ガララっという音と共に教室の扉が開く。
「なんだ?またそこにいたのか?」
声を掛けてきたのは友達の飯田友貴、野球部員でもなければ同じクラスでもない、そもそもスポーツ推薦の俺とは別コースの一般クラスの友達だ。
「なんだよ相変わらず湿気た面してんなあ」
「うるせえ。俺はもうあのグラウンドに…」
「その割には毎日眺めちゃってるんだよな」
ハハハと、友貴が軽薄そうに笑う。
投げれなくなった当初は誰よりも心配し、いつも励ましてくれていたコイツもいつからかこうしてからかうようになってきた。まだすべて飲み込むことはできないがコイツのそういうところには救われているところもある。
「それで?お前がこの教室来るなんてどうしたんだ?」
「いやあ、そうやって毎日グラウンド見てるのも暇かなと思ってさ、遊びのお誘い」
「おまえっ!別にグラウンドみてなん」
「まあまあ、たまには付き合ってよ!」
「んー……まあお前がそう言うなら」
「でしょ!?じゃあ俺の家行こうぜ!」
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「適当に上がって」
「お邪魔します」
「あぁ、姉ちゃんは仕事行ってるから気にするなよ」
友貴はお姉さんと二人暮らしをしている。ご両親も健在だがなぜかうちの高校に来たくて近くで働いていたお姉さんを巻き込んで無理矢理こっちに来たらしい。
「それでお前の家で何するんだ?」
「希優はさゲームってやったことないでしょ?」
「いや、俺も昔は野球ゲームとかして遊んだことはあるぞ」
「ハハハ、希優らしいけどそういうのじゃなくて。
最近はねVR技術ってのが進歩しててさ、こう仮想空間で自分の体を好きに動かせるやつがあるんだ」
「あー聞いたことはあるな。
野球の練習にも導入してる高校もあるとか確か…」
「まーた野球の話
まあ今日はとりあえず一緒にゲームやってみようよ」
「いや、俺持ってないし」
「それがなんと!いま人気のフロンティアオンラインをさ絶対欲しくて俺と姉ちゃんにも抽選してもらったら両方当たってさ!姉ちゃんはやらないって言ってたんだけど勿体ないから買ってもらったんだよね」
「やらないのに勿体ないって…」
「まあそんなことより、姉ちゃんのVR使っていいから一緒にやろうよ!」
「ま、まあ一回ぐらいなら…」