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光の冒険者〜セカンドライフはなにをする?〜  作者: 樋原けい
プロローグ
3/4

第三話 マジかよ

「なつのひ〜、かえでちゃんが迎えに来たわよぉ。早く行ってあげなさぁい」



「え、楓が迎えに来たの?もうちょいゆっくりしてからいこうと思ってたのに」



「早く生きなさい、女の子を待たせるのは良くないわ」



「え、うん、はい、行って来ます」



そう言って俺はカバンを持ち玄関を出る。

昨日の失敗を活かし俺は7時半には身支度を整え家を出れる状態にしていた。 

ついでに声も治った。のど飴舐めたおかげかな。



「行ってきまーす」



「いってらっしゃい!かえでちゃ〜ん!」



「はーい!行ってきまーす!」



楓が元気いっぱいに母さんに手を振る。

母さんもそれに応え手を振り返す。



「で、なんで迎えにきたんだ?」



俺は楓に尋ねた。



「なんでって、そんなの決まってるでしょ。遅刻しないためよ」



当然とばかりに答えた。



「いや、昨日のはたまたまで、普段遅刻とかしないから、昨日もギリ間に合ってたし」



「そうだったの?じゃあこれからは迎えに来なくてもいいのね?」



「来なくていいけど」



そう答えると楓がとてもさびしそうな顔をする。



「あぁ、でも、また小学校の時みたいに一緒に行くのもいいかもなー」



俺がそう言うと

ぱっ!と明るくなって「そうでしょ!」と口にする。

まぁ、これはこれでありかもな。



「そういえば、お父さん大丈夫だったの?」

楓が俺に聞いてきた。



「全然大丈夫だった。二日酔いだったよ。今日帰ってくる」



「なぁんだ!お父さんと一緒か!」



「え、楓の親父さんも二日酔いしてたの?」



「そうなんだよ、なんでも帰る前にゆーちゃんのお父さんと飲んで帰るって言っててね。結局その日は帰れなくて昨日帰ったの、ほんとは昨日から一緒に行きたかったんだけどね」



親父の二日酔いの原因、楓の親父かい。

心の中で一人呟く。

今更だけど二日酔いで入院するうちの親父ってさすがに酒に弱すぎないか。

そう思った。



話しながら歩いていたら登校時間なんて一瞬であった。





「それじゃ何か連絡のある人いるかー?」



ガラッ!

ホームルームも終わりに近づいた頃、急に教室の扉が開いた。

そこには人影が見える。

その人影は徐々に鮮明になっていく。

推定身長190センチ。右手には刃渡り20センチの柳刃包丁。

右頬に5センチ程度の傷と龍の刺青が彫られている。

龍の刺青なんて顔に入れるかね普通、などと考えている暇はなさそうだ。

筋肉質な体、ここにいる誰よりも強い。そう直感する。



「マジかよ…」


俺が呟く。

周りを見ると皆固まって動けないようだ。それとも刺激しないよう意図して動かないのか。多くは前者だろう。



「おい!誰か俺と勝負しようぜ!負けた方が死、な!」



出ましたー!

俺が妄想してた時と同じシチュエーション!

現実で起きちゃいましたー!



「ひぃ!」



男が大声を出したせいで担任の山野先生が尻もちをつく。

そりゃそうだ。目の前に現れた男が自分よりもデカくてそれでいて武器まで持っていたら誰だってそうなる。



「おいおい!誰かいねぇのか!あぁ!?」



男の問いに答えるものはいない。

ここで下手に発言すれば標的にされるのは自分だと誰もが理解している。

じゃあ仕方ない。俺がいきますか。



「俺が相手になってやる」



俺が立ち上がろうとしたその瞬間。僅かに早く横の席の神津がそう言った。


皆一斉に神津の方を向く。

しかしその行動すらも危険だと考えた人たちは微動だにせず、ただ下を見て動かない。



楓は大丈夫かな?あーもう固まっちゃってるわ。



暫しの沈黙の後

男がニヤッと笑い、ズカズカと歩いて神津の前まで来て口を開く。



「おっもしれぇ!お前死ぬのが怖くないのか?!」



「怖いに決まってるだろ。ただ何もしないで死ぬのが嫌なだけだ。それに…ここで誰も立ち上がらなかったらみんな殺すんだろ?」


「そりゃそうだろ!?勇気のねぇゴミに価値はねぇ!死んで当然だ!その点お前は違う!お前は半殺しですましてやる!」


「そりゃどうも。で、どうやって戦うんだ?」


「この教室の机でリングを作る!その枠の中で殺し合う!そこから出ればお前の負け!俺を倒せたらお前の勝ちだ!希望もねぇと楽しくねぇだろ!俺に勝ったらここにいる奴らは死なずに済むんだぜ?!負けたらお前以外死ぬけどなぁ?負けたらお前は一生このことを後悔して死んでいくんだろうな?!」


「なら、死んだ方がマシだ」


「もう遅いぜ。…おいてめーら!この教室から逃げたらどうなるかわかるよなぁ?サツにでもチクってみろ、ここにいる奴らだけじゃすまねぇぞ!わかったか!?」



男の発言に皆無言で答えた。


やべぇ。先越された。神津のやつカッコつけちゃってさ。

でもまぁ、ここにいる誰よりもお前が男だったってことか。認めるぜお前がヒーロだ。



「ぼけっとしてねぇでさっさと俺らのリングを作れ!」



そう言われ俺たちは机でリングを作った。

俺たちはその外でただ神津の勝利を願うばかり。

一人だと心細いのだろう。皆、仲のいいもの同士で固まっている。



楓も女子たちと一緒だしオッケーだな。

地味に西園寺君がそのグループに混じっている。ほんとに守る気でいるんだな。

やるやん。



ダッダッダッ!廊下から足音が聞こえる。

騒ぎに気づいたのか数人の教員たちが教室に入ってきたが、男の姿を見ると一目散に逃げていった。


通報よろしく!なんて思ってます。



「ケッ!あいつらの顔は覚えた。後で殺るか」


男がそう口にする。

皆それを黙って聞くしかない。


「よぉし!それじゃ始めようか!」


そう言って男は手に持っていた包丁を床に突き刺す。


「それは使わないんだな」


神津が聞いて


「あぁ!俺はこいゆう戦いはフェアなんだよ!」


男が答えた。


神津が暫しの沈黙の後口を開く。



「俺の名前は神津陣、あんたは?」


「馬鹿かてめーは?こんなとこで名を明かすわけねぇだろ?!

はっはっは!だがおもしれぇ、いいぜ教えてやる。俺の名は()()()()!聞いたことあんだろ?」



()()()()その名前はよく知っていた。全国指名手配。これまでに俺らと同じ学生10人の命を奪った男。しかしポスターの顔と一致しない。



「臥龍十蔵?あの殺人犯か?だとしたら顔が違うようだが?」

俺と同じ疑問を抱いた神津が聞いた。


「そりゃそうだろ!顔を変えねぇでどうすんだよ!」

臥龍という男が答えた。


「俺の顔を変えたのは俺の仲間だ!裏のやつだからサツも下手に手を出せねえんだよ!」


「だから警察も行方がつかめないってことか」


「いいや、違うね!あいつらは俺が顔を変えてるなんてこと、とっくに気づいてんだよ!ただビビってんだよ!気づいてないふりをしてんだ!そりゃそうだろ?!指名手配と同じ顔じゃなきゃ愚民共も通報できない!そうすりゃサツも動かずに済む!あいつらは正義の味方気取りで、ただビビって動けねぇ腰抜け野郎共だ!」


臥龍が食い気味に語る。


「そうか、もしかして今まで殺した人たちっていうのは…」


臥龍は笑った。


「そうだ!お前と同じように勝負をして負けちまった奴らだ!はっはっは!!だが今日は違う!今度はお前()()を殺す!あの日は1日で10人だったが今度はそれを遥かに上回る予定だ!」


そう宣言した。


場は静寂に包まれた。


「あんたはなんの恨みがあってこんなことをするんだ?」


神津が聞いた。

臥龍は不思議そうな顔をして口を開く。



「なんだ、そんなことが気になるのか。俺にはなぁ…恨みなんてもんは…なんもねぇ。…ただ、人が!人が絶望してる顔を見るのが好きなんだ!それだけだ!俺と同じ奴らとそれを楽しむだけだ!」


楽しそうな顔でそう叫ぶ。

皆が絶望しただろう。神津が静かに口を開く。


「もういい、さっさと始めよう」


やべー、黙って聞いてりゃとんでもないことになってきてるぞ。神津の身長が175。で相手は190、どう考えても勝てる見込みがない。

10人て、とんでもないよ。なんで警察様はこんな男を野放しにしてるんだよ。裏って言ったってそんなに手に負えないぐらい面倒な組織なのか?



半年前、一日で十人の学生の命が奪われた。

悲劇が起きたのは桜春野第一高等学校。

犯人は現在も逃走中。指名手配として全国にその顔が晒されてなお逮捕には至らない。

警察も行方がつかめないとのこと。

その犯人が今、目の前にいる。姿を変え、強烈な殺意を持ってそこに佇む。

この場にいるものは戦慄しただろう。

逃げれば殺される。目の前の男にどれだけの力と権力があるのかはわからないが、男の言葉に嘘がないであろうことは誰もが直感した。



「じゃあ、いくぜ!」


最初に動いたのは臥龍だった。右手を力一杯に突き出す。

それに合わせて神津も動き出す。

が、一瞬反応が遅れたせいでその攻撃が頰を掠める。


「…っち、やばいな…」


「はっ!もう弱音か!まだ10秒も経ってねぇぜ!」


「うっせぇ!」


そう言って神津を攻撃を仕掛ける。

右ストレートからの空中跳び膝蹴り。からの回し蹴り。

普通の高校生とは思えない身体能力。このクラスで一番運動ができる奴。それが神津だ。


「…ふっ、なるほどな。お前は今まで殺した奴よりかは多少骨があるようだな。だがな、攻撃の数と威力が比例してねぇ奴は俺には勝てねぇぜ!あぁ!もっとかかってこいよ!!!」


「言われなくともいってやらぁ!」


攻防による攻防。

誰もが神津の勝利を願った。

しかし確実に臥龍には余裕があった。


「が、がんばれー!」


誰かがそう言った。

その時、神津の打撃が臥龍の顔に入った。


「ぐっ…」


臥龍がその場にかがみ込む。それを逃すまいと神津が攻撃を仕掛ける。


「がんばれ!がんばれー!」


「そうだ!もっとやれー!」


「いけんぞ!そのまま畳み掛けろー!」



皆口々に応援する。形勢逆転。誰もがそう思った。或いは願ったのかもしれない。


「あめーんだよなぁ!」


そう言ってかがみ込んでいた臥龍が神津の足を掴み立ち上がる。


えぇ。まじで?片手で持ち上げる?普通…。



「へっ!調子に乗らせるとすぐこれだ!やる気あんのかてめぇはよぉ!攻めに集中しすぎて防御が甘くなんのは素人がすることだぜ!所詮お前も素人、俺には勝てねぇってこったぁ!はっはっは!」


「ちっ!うりゃぁ!」


「おっとっと!暴れんなよ!殴りづらくなんだろ!」



そう言って思いっきり神津の顔面を殴った。

鼻血が出ている。それに今の一撃で気絶してしまったようだ。



「なんだよ。もう終わりかよ。……そうだ!こいつが起きた時全員死んでりゃあ一体はどんな顔すんだろうなぁ!」



そう口にしてこちらを見る。

不適な笑み。心から楽しんでいる。そんな顔だった。



「そうだなぁ。あぁ!まずお前がいい!」



そう言って楓を指差す。


よりによって楓かよ!

楓は恐怖の表情で固まっている。もう少し転校するのが遅ければ、モデルにならなければ、スカウトされなければ、そんな思いでいっぱいだろう。



だが安心しろ!君には立派な西園寺太郎(ナイト)がいるじゃないか!

どんなことがあっても守ってくれる!



……冗談はさておき。このままだとほんとに楓が殺される。

そんなことがあっては明日の俺が笑えない。神津はまだ生きてる。この場をなんとかできればまだ修正が効く。



「おい!てめぇだよ!こっちこい!」


そう怒鳴ると楓が静かに立ち上がり臥龍の元へ歩いていく。


あぁ、まずいな、恐怖から完全に相手の言いなりになってる。

このままだと誰も止めることができない。



しょうがない。俺の出番ってことね。

俺は口一杯に空気を取り込む。

そして、


「楓!」


大声で彼女の名を呼ぶ。

その声に反応して一瞬、楓がはっ!とした。


続けざまに俺が口を開く。



「こっちに来い!そんな奴の言うことは聞かなくていい!」



そう言うと楓が踵を返しこちらに走ってくる。

そして俺の胸に飛び込んだ。


「ぅ、ぅ、ごわがっだよぉ…」


「大丈夫だ。みんなのとこに行ってろ。あとはなんとかする」



楓が頷いてみんなのもとに戻る。

皆泣きながら迎え入れる。



「ヒューヒュー!カッコいいことしてかれるじゃねぇか!お前みたいな男は嫌いじゃねぇ。だがな、それをやっていいのは俺に勝てる自信がある奴だけだ。見たところお前はこいつより弱そうだ。そんな奴がよぉ、なんでイキッちまったんだぁ!あぁ!」



臥龍がそう口にする。



「そうだなぁ、確かに俺じゃお前には勝てない。それにそこの親友が殺されたらもう誰もお前に勝てない」


「はっ!こいつは殺さねぇよ!死ぬのはお前ら全員だ!こいつが目ぇ覚した時の顔がみてぇんだよ俺は!」


「何言ってんだ?…ここにいるみんなは誰も死なない。死ぬ人間がいるとしたら俺かお前のどちらかだ」


「何言ってやがる。お前ら全員だ!」



「みんな聞いてくれ。俺がこいつと戦ってる間に逃げるんだ。なるべく遠くへ。あと神津を運んでくれ、誰でもいい担いで行ってくれ。あともう一つ、放送室で全校に連絡を、まぁさっき他のクラスの先生が来たから大丈夫だとは思うけどね」



俺が臥龍の言葉を無視して皆にこれからの計画を伝える。

計画っていうか俺の願いなんだけどね。



「おい!何ベラベラ喋ってんだ!もう待ってやんねぇぞ!」


「結城!先生は、先生は、お前のことを守るのが…」


「黙ってろ腰抜け!殺すぞ?!」


臥龍の威圧に先生は黙り込んでしまった。

涙が頬を濡らす。先生とはいえ一人の人間。恐怖もすれば畏怖もする。



「安心してください。それより俺以外のみんなを頼みます」


というか、俺はここで死んでも問題ない。

俺は今、この状況が最高に楽しい。だってさ、殺人犯が目の前にいるんだぜ?こんなの二度と訪れないだろ。

今カッコつけないで、いつつけるんだよ!?

人間は一生に十数人の殺人鬼とすれ違うらしい。そういう雑学的なもんがある。


でもさ、そんなの俺たちが気づかないと意味なくね?

すれ違ったかどうかを知る手段がないんだからさぁ、ワクワクもしないし楽しくもない。


こいつに勝ったら俺はヒーロー。負けても数日はニュースに取り上げられるだろう。



面白いじゃん。


母さん。親父。婆さんに爺さん。面白いよ。








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