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湯上がりです

 そよそよと部屋を抜けていく風が湯上がりの火照った体を適度に冷まして行く。

 湯の温度も熱いと言う程でも無かったし、長湯をしたつもりも無かったけど、体は随分と温まっていたみたいだ。


 この露出の少ない輝白竜の着物を着ていても全身で風が涼しく感じるのは特殊効果のおかげなんだろうな。

 体温調節機能・弱、これは私の体温を察知して外気を遮断したり取り入れたりを自動でするんだろう。


 ゲーム内とは言え、この機能があるのは有り難い、この着物は装備品だから1年を通して着る着物だからね。

 しかも自動洗浄に自動修復、汚れほつれ破れを気にしなくて良いなんて……リアルででも欲しい一着だよ。

 色合いとデザインも可愛いし華麗だしさ。


 あっ……駄目だ。

 リアルの私の髪は明るい色、光を反射する方の色だった。

 リアルの私が着ているのをイメージすると、桜色は合わないかも知れない。

 ちょっと残念だ。


「母上の言っていた通りだな」

「ん?」

「髪の色の事だ。母上と対極の無黒ゆえに似合っている」

「むこく? 対極?」

「知らんか? 光はおろか闇すらも吸い込み無きものにする黒だ。対をなすのは輝白、その輝きで全てを塗り替える白の事を言う」


 この世界のオリジナルの色なのは間違い無さそうだけども、なんとも大それた意味があるね。

 

 確かに乾いている時は勿論、濡れ髪になっても光を吸収してエンジェルリングができない。

 水分が髪を覆っているから、その水分が反射するはずなのに一切していないのはドラゴンの言っている通り、髪の色が水分の色? 特性? 良く分からないけど何かしらを吸収しちゃって反射しない様にしているみたい。


 その大それた色が私の髪の色だと……只単により黒くなれと、しつこく設定していただけなんだけどな。

 ……もしかして、この現状は髪の色のせい?

 無黒にしたから開始地点が彼処になってドラゴンと接触させる可能性を上げたとか?

 考え……過ぎだよね。

 気にしないでおこう。


 それで、もう1つ分かった事があるの。

 無黒の対極の色が輝白、その色は輝白竜の色、対極だからって安易な設定がされていて対立したりするとか無いよね?


 対立とか本当に困るから。

 これから暫くの間? もしかしたらずっと? 先の事は分からないけども、最初に拠点とするのは輝白竜の街だし、死に戻りするのも輝白竜の街だしさ。

 

「娘」


 もしそうだったらどうしよう?

 ……輝ってくらいだから夜だったら厄介事を回避できたりするかな?

 いや、でも輝白竜のお膝元だとしたら不夜城の可能性も有りそうだね。


 そうだとしたら詰んでないか?

 対立設定されていたら私は……


「おい! 女っ!」


 でもなぁ、さすがに対立設定は無いかなぁ?

 そんな設定はクソゲー確定だもの。

 待てよ……この着物は対立確定だから貰えたとか……ステータスが運以外はプラス230だもの、防御面の各種耐性も中々の性能だし、対立設定再び浮上?


「おい人間っ!」

「なによ! うるさいな! 私は今忙しいの! 大体、娘とか女とか人間とか呼び方が失礼だ! 私にはアニスベルって名前がある!」

「そんな事はどうでもいい!」


 あったまきた!

 こっちにも考えはあるからね。


「オス! 黙ってろ!」

「なっ! 貴様!」

「オスじゃ不服か? 爬虫類がっ!」

「いい度胸だ、表に出ろ!」

「やだ、めんどくさい。そもそも礼儀知らずなたわけ者の言う事を聞く気がない。礼儀を勉強し直して出直せ!」

「貴様!……」

「なによ!? あんたの母上とやらは今のあんたを見て誉めるのか? 讃えるのか? 諸手を挙げて称賛するのか!?」

「!!………」


 私の台詞を聞いて、思い出した様な驚いた様な表情になったと思ったら項垂うなだれて黙り込んでしまった。

 このドラゴンの母上は間違い無く輝白竜、でなければ輝白竜の着物が置いてある訳が無い。


 その輝白竜は街の名前になる程の存在なんだから畏敬や崇拝をされているはず。

 粗暴であったり唯我独尊であったりする存在では無いはず。

 畏怖されている可能性は高そうだけどね。


 だからこのドラゴンの遣り様を容認するとは思えない、拳骨の一つでも落としそう気がするんだ。


 と言うかさ、いちいち誰かに指摘されないと気が付かないとはどう言う事なの?

 このドラゴンの人型はどう見ても私よりずっと年上、少なくとも一回りは上に見えるんだけどな。


 まぁ一人称が俺様な時点で中身はお子様なのは私の中じゃほぼ決まりだったけど、もしかしたらがあるかと思って保留にしておいたんだ。

 結局、もしかしなかったけどね。


 あ、そう言えば。


「あんた名前は? ドラゴンじゃ呼び難いから、名前があるなら教えて」

「……俺様に名は無い」

「え?」

「名が貰える程長く生きてないからな」


 誰に?

 と聞きたいところではあるけども、それは些細な事だからスルーしよう。

 今重要なのは呼び方をどうするか、だからね。


 どうするかな?

 私が命名していいならしちゃうけど、よくあるパターンだと人以外の生き物にとって名前はとても重要な事が多い、この世界も同じだったりする?

 

「名前って私が命名したら駄目なのかな? 問題あったりする?」

「問題等は無い。あるとすれば、若輩の俺様が名を持つ事に少しばかり抵抗があるくらいだ」

「ふ~ん、なら私が決めちゃうよ」

「うむ。だが俺様が気に入らなければ却下する!」


 そりゃそうだ。

 で、なんてしようかな?

 古民家に住んでるんだし漢字でいってみよう。

 火……炎……赤……朱……紅……焔……

 火炎……紅蓮……烈火……業火……怪火……炬火……熾火……鬼火……

 どれもなんか違うな。


 朱雀……鳥じゃないか!

 朱鷺……も鳥だよ!

 あっ!

 不知火!

 いいかも♪


「不知火なんてどう?」

「しらぬい? 意味はなんだ?」

「……忘れた! 格好いい響きだから決めた」

「ふむ……どの文字を使い、どう書くのだ?……北方文字か……悪くないな……うむ! 俺様はこれから不知火を名乗る」


 気に入ってもらえた様だ。

 

 それで、漢字は北方文字と言うんだ。

 他にも何種類かはある事を示唆してるね。

 真っ先に浮かぶのはローマ字、平仮名片仮名は北方文字に含まれるのかな?

 含まれないなら、どっかの文字になっているんだろう。

 後はギリシャ文字・ロシア文字・アラビア文字・ハングルとかかな、この辺りを使われると読めないな。

 ギリシャ文字は単体でなら読めるのは少しは有るけども、他の文字はお手上げ、まるで読めない。


 でも、普通に遊んでいる限りなら出会でくわさないと思う。

 国内のみのサービスだし、読める人がどれだけ居るのか未知数な文字を使わないと思うから。

 使われるとしたら古代文字の範疇でじゃないかな。


「アニスベル! 用事はまだ掛かるか?」

「ん? いや、もういいよ」

「では聞こう、転移者が如何程居るのか分かるか?」

「今の所、最大で1万人。この先は間違い無く増えるはずだよ」

「多いな……武装は……見知らぬ武装をしている者は居ると思うか?」

「使う物はこの世界の物だけだよ」


 それを聞いて少しは安堵したのか表情や雰囲気からピリピリしたのが消えた。

 そして考え始めた。


 考えるのも分からないではない、1万人もの人が縄張り近くに突如として出現するんだもの、驚愕や不安があって当然、無い方が可笑しい。


 だから気休め程度の事を言っておく方がいいかな。


「この着物の上昇数値って不知火さんのステータスより高い?」

「いや」

「なら問題ないよ。転移者達のステータスはほぼ一桁だし、手に入る装備なんかは四等級が殆んどだろうから、暫くの間は脅威にはならないはずだよ。気を付けた方がいい事は徒党を組んで来る人達位かな」

「ふむ……アニスベルはどの武装を使う気だ?」


 唐突だね。

 しかし武器か……見た目重視するなら剣が格好いいだろうけど、在り来たりなんだよね。

 かといって槍や斧ってのも扱い方が今一分からないし、短剣短刀の二刀流も扱える自信がない。


 とすると打撃?

 ハンマーとかメイス?

 イメージとしては振り回すだけってのが有るから意外と簡単かもね。

 でもなぁ……


「直ぐには決められない、どれも一長一短があるからね。でも、あんまり難しくないのにすると思う」

「ふむ……ならば付いて来い」

 

 不知火さんが何を考え、どんな思惑があるのかは分からないけども、武器についてなんかしらを教えてくれるはずだから大人しく従う事にする。


 どうやら向かう先は玄関とは反対、母屋の裏側みたいだ。

 裏側と言っても、この屋敷を囲むかきへいは無いから、ここを訪れる人からしたら全方位が表であり裏でもあると言えそう。

 

 それで、裏口で突っ掛けを借りて履き外へ出て見ると縄を巻いた棒が1本地面に突き刺さっていた。

 太さは30センチくらい、高さは2メートルくらい、縄が全体に巻いてあるから芯になっている物が何なのかは分からない。


「アニスベル、攻撃までの手順が最もすくない武装はなんだと思う?」


 手順?

 ……なんだろう? 

 どの武器も手にして構えて攻撃する。

 構えるのは省略するのか出来るのも有るけども、最も少ないとまで言える程に差は無いと思う。


「分からんか?」

「分からないってより、差が微々たるものだから、これって決めれない」

「ふむ……言い方が悪かったかも知れん。答えはこれだ」


 と言った次の瞬間、視界を何が遮った。

 眼前に突如として現れた何かは、私の顔に強めの風を吹き付け前髪を上に跳ね上げ髪全体を靡かせて通り過ぎて行った。


 当然と言って良いのかは分からないけども、瞬く間に起こった事を理解するには少々の時間を有した。


 そして眼前に有る物が何だかはっきり分かった時に不知火さんが何をしたのか理解できた。


 不知火さんはこぶしを突き出し寸止めをしていたのだ。


「なるほどね。確かにそれが一番手順が少ないね」

「であろう」


 ニヤリと笑った不知火さんは悪戯っ子の印象があった。

 中身は限り無く子供に近いだろうから然もあらん、かな。


「更に他には無い利点もあるのだ。先ず……」


 地面に突き刺さった棒に向き直りギリギリ目で追えるスピードで移動して直ぐ。


 ガン


「普通に殴れば打撃貫通」


 ザン


「手刀で薙げば斬撃」


 ドン


「掌底を加えれば浸透打撃、簡単に言えば内部破壊だな」


 なるほどね、手の形を変えるだけで撃性が変わるんだ。

 他の武器でも出来るだろうけど、こぶし程の柔軟性は無いだろう。


 でも懸念もあるんだよ。

 まずは、殴るは良いとしても手刀や掌底を繰り出して与える効果は、ステータス値や熟練度が高くないと表れないんじゃないの?

 初っ端からできたらチート並みにヤバい気がするもの。


 そうなってくると、最初はとんでもなく弱い。

 ソロ活動をするのは無理に近くなるんじゃ?


 次の懸念は、格闘術って他の武器よりリーチが短いから、より接近しないと駄目って事だよ。

 リアルで言うところの猛獣が撫でれる位に近付く事になる。

 そこまで接近するって事は当然向こうも私を触る事が出来る距離になる。


「母上が言っていた。武装を手にしている輩よりも無手の者の方が予測できなくて厄介だと」


 てのひらの形状を変えるだけで撃性が変わるからだろうね。

 攻撃中の途中変更も達人レベルになれば可能かもしれないし厄介だろう。

 

 でも、私から言わせると其処へ至るのが大変なんだよ。


「暫し考えると良い。だが、部屋へ戻ってからにせい」

「うん」


 

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