岩塩
当店の足湯はお客様の状態に合わせまして、香りとミネラル豊富な岩塩を使っております。
「いらっしゃいませ、鈴木様」
朝起きたら、凄く怠かったから、ドゥムンに行くことにした。
「今日はどこか、調子の方が?」
「怠いって、感じ」
「季節の変わり目もありますからね」
昨日から、そう、冬なんだなって思う寒さが始まっている。
「そういう症状はありますか?」
「そうだね、無理しないで三日ぐらいは睡眠時間を多目に取って、乗り切ってる」
「そうですか…」
オーナーは少し考えて。
「今日は足を洗うのを長めにしましょう」
このサロンでは、どこかのマッサージとは違って、オーナーご自ら洗ってくれる。
衛生のことを考えて、スポンジは使い捨だ。
「こういったスポンジは、サイズがマチマチのはお買い得なんですよ」
今、流行の訳ありという奴か。
「サロンの経営は難しいんですよ」
「そうでしょうね」
少なくとも、鈴木には見当もつかない。
「腕がとてもいい人でも、経営があまり上手ではなくて、惜しいこともあります」
「それは惜しいですね」
オーナーが誉めるだけの、腕を持つ人がまだまだこの世には多いと言うことか。
「私も、まだまだです」
「いやいや、オーナーでまだまだっていうなら、駅前のあの店なんかは!…いや、あっ、うん、ゴメンナサイ」
失言でした。
「どういう考え方で、サロンを経営しているかはわかりませんが、目の前のお客さんを癒やす、心地よくするのが一番だとは思います、そのために必要な場所の確保、維持も、大事です」
強い人なんだなと、思う笑顔。
「さて、この辺でよろしいですね」
足湯がやってきた。
「どうぞ、こちらに」
営業で働きっぱなしの足が、靴と靴下から解放される。
ぽちゃり
いい匂いがする、これはゼラニウムという香りだ。どうも俺にはゼラニウムが合うらしい。
「少し気分転換も兼ねて、ゼラニウムに柑橘系の香りと思いましたが、鈴木様はあまり新しい物を好まれないようです」
「疲れているとね、どうしてもね」
慣れたもの、馴染んだものが好きだ。新しいもの、うるさいものは遠慮したい。
そんな鈴木が精一杯の勇気で、見つけたサロンが当たりなのだ、ここに全てを任せたい。
「たまたまとても良い塩、岩塩が手に入りました。足湯の中に入れております」
「ぽかぽかする」
「今日は長めに足湯に入っていただいてから、マッサージをします」
「してください!」
「はい、しかし…」
足を見て。
「少々失礼します」
オーナーの指が、鈴木の左足の指に絡みつく。
(はう!)
言葉にならず。
そのままオーナーの指が左足よ指をもみほぐしていく、前にグイッ!後ろにグイッ!
するとどうだろう、今まで足が凝っているという事を感じなかった足の、血流が良くなっていく。自分で動いているというのがわかるのだ。
「ここもですかね」
親指が、足の指の付け根、その下にある肩こりのツボをグリグリ。
とても良いと足の指がピクピクと動いて、答えるのだ。
「胃もちょっと…くるぶしも」
軽くつもりが、結構マッサージされて。
「これで五分ほど、お湯に使っていただきます」
えっ?これでまだマッサージは始まってませんよ、ドゥムンはこんなもんじゃありませんよ、そんなサロン、サロン・ドゥムンは今日もほぼ常連によっていっぱいです。




