第8話 デザートは別腹ですよね?!
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ホフマンさんの持ってきてくれたオークの肉は、こちらの世界ではかなりポピュラーで魔物だが肉としてはかなり高級な部類に入るそうだ。
普段はヤギっぽい獣や鳥などが、庶民の通常の食卓に上がるみたい。
「うーん。美味しそうなお肉! これなら美味しいポークカレーが作れそう♡」
売った胡椒の一部を入金して、オレのスキル『百均』でパンを買う。
とりあえずバターロールと奥さんから頼まれた物もいくつか購入した。
「材料は朝のスープとほぼ同じですね。お肉が入るのは嬉しいですが、これで別の食べ物になるんですか?」
「そうだよー。すっごく美味しいから、楽しみにしててね!」
奥さんとニャミーさんは楽しそうに準備をしている。
オレも水を汲んできたり、何気にやる事は多い。
ギムルさんはポンプの絵を見ながらあれこれホフマンさんと楽しそうに話をしていた。
「チョコを入れるとコクが出るよね! ケチャップも隠し味で入れて……ニャミーちゃん、あーんして」
「えっ、えっ、……あーん」
チョコをひとかけら口に入れてあげると、目をパチクリさせながら、頬に両手を当てて悶えている。
「こっ、こっ、これ何ですか!もっっっのすごく美味しいです!!」
「チョコだよ〜。さっきイヤなことがあったから、美味しいもの食べないとね。みんなには内緒だよ♡」
ニャミーさんの奥さんを見る目がどんどんキラキラしていく。餌づけされちゃってるなぁ。
しばらくすると美味しそうなカレーの匂いがしてきた。
「この引き寄せられるような香りはなんじゃ……ヨダレがとまらん!」
「これは香辛料が多く使われている香りがする。しかし何の香辛料なのか全くわからない……」
ギムルさんもホフマンさんも興味津々! カレーには特別な力がある。
カレーは正義だ。
子供たちも目を爛々とさせながらしっぽをちぎれるくらいに振っている。
「出来たよーー!!」
奥さんから嬉しそうな声が上がった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
カレーが次々と配られていき、子供たちは器に突っ込むのでは無いかと思うくらい顔を近づけている。
ホフマンさんもギムルさんも未知の味にワクワクしているようだ。
そして、シスターイザベラの目が光ったような……
「「「「「美味しいーーー!」」」」」
「パンもフワフワ!!」
「パンとカレーを一緒に食べると最高!!」
子供たちの合唱のような声が響き、口と器がくっつきそうな距離のままガムシャラに食べている。
ホフマンさんとギムルさんは『なんて美味さだ!』なんて言っている。
シスターイザベラはキレイな姿勢のままだが、スプーンを持つ手と口の動きが見えない……本当に高齢なの?というかスゴいんだけど!
「この後はデザートがあるから、お腹を少し空けておいてね〜」
「「「「「でざーと???」」」」」
奥さんが言うと、一瞬だけ全員の手が止まった。
いや、シスターイザベラはこちらを向いたが、手と口が早過ぎて見えないだけだ……
カレーを作りながら、デザートも作る奥さんはさすがとしか言いようがありません。
しばらくしてみんなの食事が落ち着いた頃、デザートとして出てきたのは……『チョコレートケーキ』だった。
「いつも作ってくれるチョコレートケーキは卵を使ってなかった?」
「うん。卵は和馬の『百均』で無いみたいだから、ホットケーキミックスとチョコと牛乳で作ってみたんだ♡ホットケーキミックスは万能だよ」
「スゴいね!さすが美鈴ちゃん!!」
「ふふっ、バターも入れてあるからしっとりしてるはずだよ」
みんなの目が輝いている。奥さんの作った物は全て美味しい。そうインプットされてしまったのだ。
少しだけ香ばしく、甘さのある香り。食べる前から美味しいのがわかる。
カレーの時とは真逆に皆ゆっくりと口に含む。
「「「「「ふぁ〜〜〜♡」」」」」
『幸せとはこういう事だ』
言葉に出さなくても美味しいと言うことが伝わる。
しっかりと味覚を集中させるように余韻を楽しんでいる。
シスターイザベラは涙を流しながら『うん、うん』と頷いている。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「これは商品化したら売れますよ!特に貴族はこぞってこのレシピを欲しがるでしょう!!」
「確かに美味かった! あんなうまい物初めて食ったぞ」
ホフマンさんもギムルさんも、チョコレートケーキの素晴らしさに舌鼓を打つが今回はこの話では無い。
「私の料理を褒めて頂いてありがとうございます。ですが、ポンプの話を進めましょう」
「「そうでした!」」
2人とも本題を思い出してくれたようだ。
「ポンプは鋳造で造れば量産が可能だ。まずは原型を作るのに5日くれ。ウチの鍛冶場をフル回転して最高の物を作ってみせる!」
「私は販売ルートの確保ですね。先ずは領主様に献上して、そこから伝手を広げていきます。おそらく王都まで伝わるのには一月とかからないでしょう」
ギムルさんもホフマンさんも目に闘志が漲っている。
もちろんポンプを作ってもらう事は最優先だが、それと同時にやらなければいけない事がある。
「ロンド商会の嫌がらせをどうにかしないといけません」
「そうね。ニャミーちゃんがあんなにがんばっているのにかわいそうすぎるよ」
奥さんもだいぶ砕けた口調で話すようになり、2人とも表情が明るくなっている。
「しかし領主様とロンド商会は裏で繋がっているので、一筋縄ではいきません。ポンプは素晴らしいですが、もう一押し欲しいですね」
「ワシらはポンプに手一杯になる。もしも他にも何かあるのなら、申し訳ないが別を当たってくれ。中途半端になっちまう」
確かに一つヒット商品を出しても、それだけではいずれ打ち止めになる。もう何個か元の世界の物を出そう。鍛冶屋と被らない商品……木工品だとすると……
「チェスとリバーシなんてどうでしょう?」
「ちぇす? りばーし?」
ホフマンさんに伝えたけど、やはりこの世界には娯楽はほとんど無いようだ。
チェスのルールを伝えるのは苦労したが、これから大工の所に行くらしい。
今後も定期的に発明などを伝えて行こう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
日が落ちて、辺りは真っ暗だ。
雲に覆われて、二つの月は全く見えないけど子供たちはお腹いっぱいで幸せそうにくっついて眠っている。
オレたちも教会に泊めてもらう事になった。
「狭くて申し訳ありません」
「私たちは全然大丈夫だよ!ねっ和馬」
「もちろん! 泊めてもらってありがとうございます」
大部屋に毛布が敷き詰められているのは、捨てられてしまったり親を亡くした子供たちが、寂しく無いようにこうして全員で眠る事にしているそうだ。
ニャミーさんは奥さんの隣にいる。
「眠れないの?」
「すみません。昼間の事を思い出してしまって……」
奥さんとニャミーさんの声が聞こえる。
「ニャミーちゃん手を出して!」
「はっ、はい」
「こうして手を繋いでいれば、ちょっとは落ち着くかも。和馬は私の右手を繋いでね! みんな一緒に眠っちゃおう」
しばらくすると2人の寝息が聞こえた。奥さんには敵わないな。オレも意識を手放した……
翌朝、大きな声で目が覚める。
「ここはどこ?!」
また転移してしまったらしい。ニャミーさんも一緒に……
奥さんのアイディアはスゴいですね。
個人的にはシスターイザベラがお気に入りです。