異世界に来てまでイチャつくな!!
「たっくん、あーん♡」
「あー……ん♡」
川縁で二人仲良く座り込み、甘ったるい悪臭漂うお手製の弁当を頬張る姿を対岸でボーッと見つめる女性が一人居た。
「……はぁ」
わざと聞こえるように大きくついた溜息も、二人の世界に届くことは無かった。
「人選……間違えたかしら?」
危機に瀕した世界を救って貰うべく、現世より転生させた勇者候補の二人は今正しく……ラブラブの真っ最中である!!
二人の転生を担当した女神は痺れを切らし、川の上を歩き二人の目の前へと歩み寄った。
「あの……そろそろ世界を救って貰っても?」
その問い掛けに二人は一瞬だけ女神を見るも、直ぐに自分達の世界へと戻ってしまった。
「あーん♡」
「美味しいね♡」
「ゴラァァ!!!!」
「ヒャッ!」
「うおっ!」
女神の野太い一喝に二人は手にしていた弁当を落としそうになる。そして目を大きく見開きお互い手を繋いだまま女神を見た。
「さっさと世界を救ってこい!!」
「えーっ」
「面倒ッス」
「トラックに轢かれる瞬間に戻そうか? あ?」
「たっくんファイト!」
「はーい♡」
二人は手を繋いだまま立ち上がり、川縁を歩き始めた……が、直ぐに立ち止まり女神の方を振り向いた。
「で……何すればいいんスか?」
「私分かんなーい♪」
女神はこめかみにカチンとくる何かを必死で抑えながら、優しい口調で説明を始めた。
「これで七回目になるけれど……! 貴方達には世界を脅かす魔王を倒して貰います!!!!」
最後には強い口調を抑えきれず、女神はワナワナと怒りを露わにした。
「じゃあ魔王連れてきてよ」
「あ、たっくん頭いい♪」
「魔王城にはバリアが張ってあって歩いて行くしかないんだす!!」
「『だす!』だってwww」
「『だす!』『だす!』www」
―――ベキッ!
女神は静かにキレ、思わず手にしていた杖をへし折った。そしてへたり込むように崩れ涙を溢した。
「頼むから……頼むから魔王とその配下達を倒して下さい……ウウッ!」
「たっくんやってあげなよー?」
「えーっ! でもゆりっぺのお願いならやっちゃおうかな!?」
キャッキャウフフな二人だが、女神は二人に縋るしか無い現実に頭を悩ませた。既に現世から勇者候補を転生させるだけの力を女神は使い切ってしまったからだ―――!!
「世界を救ったらぁ?」
「たっくんが王子様♡」
「ゆりっぺはお姫様♡」
「きゃー♡」
容赦無くイチャつく二人の背後に、ゴブリンが三匹現れ…………
「ゴブッ! お前ら金を置いていくゴブ!」
「置いてくゴブ!」
「ゴブッ!」
「たっくんが王子様で~?」
「ゆりっぺがお姫様~♡」
「「きゃ~~♡♡♡」」
ゴブリンの問い掛けにお構いなしの二人。女神はその二人を見て絶望した。
(この世界も終わりか……!!)
「聞いてるゴブか―――」
「今俺達がイチャついてるだろうが!!!!」
―――グチョ……
素早く振り下ろした男の手にはゴブリンの首が握られていた。
「……あれ? オイラの体が見えるゴブ?」
「あ、アニキの首が!!」
「ゴブッ!?」
男は手にした首を別のゴブリンへと投げ付けた!!
「ゴブゥゥ!!!!」
それは強烈な弾丸と化しゴブリンの体を貫通する! そして怯むもう一匹のゴブリンの胴体を手刀で大きく斜めに切り裂いた!!
「ゆりっぺ見てるか!!」
「やだぁ~、たっくん残虐~♡」
ゴブリン達がバタバタと地面に平伏し音が消えると、男は最高のスマイルで女を見た。
「どう!? どう!?」
「やだ~、王子様~♡♡♡」
スマホで記念撮影を始めるバカップルを、女神は呆然と眺めていた。
(……あれ? もしかして……いける?)
女神の表情は一気に明るくなり、二人の元へ駆け寄ると腰に下げた全財産を二人に手渡した。
「いける! 二人ならいける!! これで次のショッペ村で装備を整えて魔王討伐頑張って下さい!! また後で来ます!!」
そう言い残し、女神は使い切った力を取り戻すため髪の泉へと消えた―――
そして半年後…………
力を取り戻した女神は二人の元へと現れた。
「……あれ? まだショッペ村に居たのですか!?」
女神サーチで二人を見ても以前ゴブリンと闘ったままレベルは変わっておらず、女神はベッドに横たわる女と女のお腹を摩る男を見て何か嫌な予感がした。よく見ると女のお腹はやや膨れており、女神サーチで更に覗くとお腹の中からは小さな生命活動が感じられた。
「…………もしかして」
「へへ♪」
「ニシシ♪」
その時女神の視界がグニャリと緩やかに歪みだす。
「たっくんと―――」
「ゆりっぺの―――」
「「愛の結晶♡」」
女神の意識はそこで途絶えた…………
読んで頂きましてありがとうございました(*'ω'*)