第1話「戦場」
ようこそ
異世界に転生してはや10年。
孤児として彷徨っていた俺は
流浪の大賢者ことルシス・オラワに助けられた。
ルシス爺さんは権力者達に居場所を知られるとすぐに引っ越した。
結果、俺は10年の間に地図に記された大陸の大半を
制覇した。
帝国の王族に恨まれていたルシスは
首都そばの草原で
最後の時を迎えようとしている。
「すまんのう、ネマや。
お前さんをここまで巻き込んでしまうとは思っておらんかった」
俺とルシス爺さんを囲む騎士団、魔法師団、貴族達は
皇帝の一言を待っている。
「構わねえよ、爺さん。
俺の人生はあんたのおかげでここまで生きてこられた」
俺は偽聖剣ロンドミルを構える。
(攻撃力+80%、守備力+90%、敵体力20%奪取)
脳内でバフの内容が読み上げられる。
貴族の集団から獅子を象った甲冑を纏う男が
前に出た。
(さあ、俺の最後の晴れ舞台、こいつの首まで
届いてくれよ)
俺は柄を握り締める。
帝国皇帝 ドルラ・ルヒ。
「ルシスよ、貴様に命じる。
もう一度、朕に仕えよ」
爺さんは杖を握りしめる。
「ネマ、よいな」
聞かれるまでもない。
「ああ、覚悟は決まってるよ」
爺さんは叫んだ。
「貴様に仕えて何があった!
我が故郷を焼き、
私の大事な家族を見捨てた貴様に仕えるなど御免被る!」
瞬間、俺達は殺意と怒りの波動を全身で浴びた。
(いいねぇ、異世界転生ってのはこうでなくちゃ!)
昔、なんかの小説で知ったいくさ人という言葉を思い出す。
(今なら俺も立派ないくさ人だな……)
ドルファラは手を上げるとすぐに下ろした。
「あの痴れ者に死を与えよ!」
俺と爺さんのみてる世界を無限とも思える
鉄の矢、銃弾、大石、雷、炎、水、毒。光の刃が覆い尽くす。
「ルシス・オラワ!」
「ネマ・オラワ!」
「「推して参る!!」」
俺達の最初で最後の戦争はこうして幕を開けて、
静かに幕を閉じた。
残ったのは舌すらまともに残っていない殆ど死体に近い俺と
首のないルシス爺さんだけだった。
また会える日を楽しみにしております!