表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亀に転生しました  作者: よっけ
6/50

第6話 たった一匹の生き残り

 俺は倒した狼を見る。既に虫が湧いていて失礼な話、見ていて気持ちのいいものではなかったが、爪を使い肉を引き裂いて魔石を探した。魔石とはどんなものなのか改めて観察がしたい。

 

 狼はもちろん食肉でさえ捌いた経験が無かったのでかなりズタズタになってしまったが、胸あたりを開いてようやく魔石を見つけることができた。せっかく手に入れた魔石を何かの拍子になくしてしまうのは嫌なのですぐに《アイテムボックス》に収納した。

 魔石は俺の目にはまるで自分の大好物の食べ物であるかのように映り、見ているだけでよだれが止まらなくなったが、なんとか我慢することができた。

 

 その後、俺は毛皮や骨以外を《アイテムボックス》に収納しようとしたが、地面にはかなり肉の付いたボロボロの黒い毛皮と骨が残った。ある程度なら収納の仕方には融通が利くらしいが、そんなにきれいには別けられないようだ。自分が殺した獲物を無駄にはしたくなかった俺は毛皮や骨から頑張って肉を爪を使って切りわけた。

 狼の肉は危うく《アイテムボックス》の容量を超過しそうになったが、ギリギリ収まってくれた。


 慣れないことをして疲れた俺は癖で汗なんて掻いていない額を右腕で拭っていると、ふと一匹だけ生き残っていた弟亀のことを思い出した。今の今まで全く気にも留めもしていなかったが、ふと気になり始めるとなんとなく落ち着かない気分になったので俺は小走りでそこへ向かった。


 再び生まれたところまで戻ると、そこには周りの卵の殻を全て食べきって俺と同じぐらいの大きさまで成長した弟亀の姿があった。しかもこれから進化する様子だ。


(お、おう、たくましいな……)


 俺は自分のことは棚に上げて、命の危機から脱してすぐにご飯を食べていた弟に少し驚いた。

 命の危機に瀕したことで体が無意識に強さを求めたのかも知れない。《進化把握》が無いと進化先が周りの環境に合わせて勝手に決まるらしいので俺と違って進化する先に迷って時間がかかるということはない。


 体の変化が始まった。どんどんと大きくなっていく。まだ何になるかは分からないが、とりあえず【クロウタートル】には決まらなかったらしい。サイズだけでなく体表面も目に見えて変わり出した。

 皮膚が硬そうな質感になっていく。甲羅も俺のものとは違い、より分厚く頑丈そうに変化した。


(あの見た目は……【ストーンタートル】か)


 石でできたような甲羅を持つ大型犬ぐらいの大きさの大亀だ。

 堅さに特化しているというのも納得の重厚感である。


(おー! 一応《進化把握》で姿は確認してたけどやっぱり実物を見ると迫力が違うなあ)


 脳内で確認しただけでは味わえなかった本物の存在感に感動していると、こっちが見ていることに気付いたらしいく、巨体を揺らしドスドスと走ってきた。

 すごい迫力だが重量分しっかり遅いので軽めに走れば余裕で逃げることができる。しかし(きびす)を返そうとすると、でかくなった弟亀はその無骨な顔を悲しそうに歪ませた。

 まるで行かないでくれと言っているみたいだった。


(そ、そんな顔されたら逃げられないじゃん……お願いだから勢い余って潰してくれるなよ)


 自分よりでかくて重そうなものが迫ってくる恐怖から必死に逃げそうになる体を意思で押さえつけて、弟亀の到着を待った。


 結局、危惧していたことは起こらずきっちり俺の目の前で止まってくれた。

 そして俺の元に着くやいなや犬みたいに頭を擦り付けてきた。

 見上げるような大きな体でそんなことをされると結構怖いのだが、この嬉しそうな顔や雰囲気を見ると敵意は全く感じられない。

 どうやら俺に懐いてくれたようだ。

 助けてくれてありがとうとも言っているような気がする。亀同士だからか表情や顔の特徴、気持ちが何となく分かる。


(コイツ頭いいな)


 一応は命の恩亀ではあるが覚えられているとは思わなかった。

 こいつは俺に律儀にも感謝の行動を示してくれているのだ。

 そう考えるとこいつのごつごつした顔もかわいく……


(や、やっぱちょっと怖いわ)



+ + +



 俺はシールド――俺を慕ってくれている実の弟相手“コイツ”呼ばわりは何なので名前を付けた――の背中に乗ってゆらゆら揺られている。

 シールドはとても力持ちで俺が乗っても全く進むスピードが落ちない。頼もしい限りだ。

 今俺たちは決まった目的地に向かって移動している訳ではないが、ここがどういう場所か分からないでいるので周囲の情報収集も兼ねてブラブラしている。

 もっとも今のところ木、木、茂み、木と単調な物しか見えず、飽き始めてしまっている。


 俺は楽な体勢で狼から取れた宝石のような器官、魔石を眺めた。

 この魔石は今も少しずつ魔素を魔力に《変換》しながら溜め込んでいっている。

 狼との戦闘の後、俺はこの能力を不完全ながら再現した訳だが、


(よく俺咄嗟にそんなことできたな……)


 それはものすごく神経を使う作業であり、焦っていれば全く上手くいかない。

 あのときから魔素や魔力を知覚できるようになったが、《変換》はスムーズに行うことがなかなかできない。

 もし狼との戦闘時の戦い方を俺のスタイルにしたければ、ただでさえできない作業を激しく動きながらもこなせるようになる必要がある。


 まあそんなことは一朝一夕で身につくものではない。地道に特訓あるのみだ。死にたくなければ普段から少しずつ練習していくしかない。

 当面の目標は動いていない状態での《変換》を完璧にこなせるようになることでいいだろう。

 そうして俺は善は急げとばかりに早速訓練を始めようとしたが、


「キシャー!」


 そういうときに限って邪魔が入る。

 明らかに毒を持っていそうな感じの蛇が現れた。

 しかし、あの狼と比べてしまうとまるで威圧感が違う。それに加えこっちが一匹でないことも合わせてあまり怖くない。

 恐怖を感じるどころか、「ラッキー! 今日の晩ご飯が一品増えるぜ!」といった心境である。


 俺がヒャッハー! と、どこぞの世紀末のような声を上げそうな勢いで飛び出そうとした直前、真下から魔力の動きを感じた。

 慌てて踏み留まり、シールドの口元を見ると口の前に結構な量の魔力が集まっていく。そしてその魔力が尖った石に変わっていき勢いよく発射された。石は空気を切り裂くような音をさせて蛇目掛けて真っ直ぐ飛んでいったが、蛇は体をくねらせてぎりぎり避けたのですぐ側の地面に着弾することになった。


(何その技!? カッケー!)


 残念ながら今のは外れてしまったが、シールドは魔法が使えるらしい。

 魔力を結構消耗することやチャージ時間が長いことで連射は無理だろうが、牽制にはなる。

 今回は見とれてしまっていたせいで無意味な攻撃にしてしまったが、避けて体制を崩したところで俺が特攻するという使い方もできそうだ。


(俺もそういうの使えるのかな? 後で試したい!)


 練習したいことや試したいことが増えた。そうと決まれば……。


(悪いな蛇君そういうことだから早く倒されてくれ!)


 そうして今度こそシールドの背を軽く蹴って蛇に向かって飛びかかった。


(えっ?)


 俺は蛇に攻撃を加えた後、勢い余って地面をすっ転がっていった。

 一瞬何が起こったのか分からなかった。何しろ跳んだと思ったときにはもう既に地面は目の前だったのだ。俺はむくりと土や草にまみれた体を起こして頭を振った。

 思ったより手足に力が入ってしまっていたみたいだ。明らかに前より力が増している。

 成長前と同じ力加減で動いたせいで目測を誤ったのだ。

 原因は格上と戦ったことか、魔力の使いすぎで死にかけた状態から復活したことぐらいしか思い当たる節は無いが……。


 俺は手で届く範囲の体に着いた土や草をはたき落とすと蛇の方を見た。そこには四分割に切断された頭と胴体が地面に転がっている。その鮮やかな切断面からは我ながらそれを切断したものの鋭さが窺える。

 最後はギャグみたいに顔から着地してしまい格好はつかなかったが、倒せてはいたようだ。

 その奥には若干おろおろしているシールドの姿が見えた。盛大に自爆したせいで心配をかけてしまった。

 俺は無事なことをアピールするためにシールドに向かって手を振った。


 その後しばらく散策した俺たちは、薄暗くなってきたので拠点を探すことにした。

 散々歩き回った甲斐あって何とか暗くなる前に川を見つけることができた。

 水深のそこまで深くはない流れの緩やかな川だ。開けた場所にあるので、日中は日向ぼっこに最適そうである。


 ここでやっとご飯タイムだ。俺は《アイテムボックス》から狼肉を取り出してシールドの背中に乗っけて運んでいた蛇と並べた。

 するとシールドが突然バタバタし始めた。多分おねだりだろう。


(だ、大丈夫だって。そんなに騒がなくても独り占めなんてしないから)


 両方とも一応俺が仕留めたものだが、独り占めするなんてケチなことはしない。シールドにはこれから頑張ってもらいたいので多めに取り分けた。

 シールドは体が大きいので栄養を俺より多く必要としているではないかという思いもある。


(あっ蛇から魔石抜くの忘れてた)


 俺の分の蛇肉には魔石が入っていなかったのでシールドに上げた方にあったのだろう。

 観察用の魔石はもう確保しているので、少し残念だが今回はシールドに譲ることにした。


(一度上げたものを取り上げるのはちょっと大人げないしな。せめて食べたらどうなるかぐらいは観察しておこう)


 シールドの方を見ると狼肉を食べ終わり、蛇に口を付けるところだった。

 早速魔石を見つけ目をキラキラさせている。しきりにこっちを見て本当に食べていいの? という表情をしている。そんなに喜んでくれているのなら譲った甲斐があるというものだ。

 俺が律儀に許可を待つシールドにいいから食えと合図すると、シールドはすぐさま魔石をガリガリと美味しそうに食べる。すると魔力量が少しだが増加したのを感じた。


(なるほど、魔物にとって魔石はご馳走でもあり、パワーアップアイテムでもあるのか……)


 一つ、魔石の効能を知ることできた。

 

 用意したものを全て食べきった頃には辺りは暗くなっていた。しかし、不思議と暗闇の中でも目が見える。完全に暗くなったら移動は難しいと考えていたからこれは便利だ。


 満腹になったからかすごく眠くなってきた。シールドに至っては半分寝ているような状態だ。

 寝ている最中に襲われると危険だと思った俺は陸地で眠るより水中で眠る方が安全だと考えた。

 なので俺は今にも眠ってしまいそうなシールドを頑張って川の方に誘導した。するとシールドは川に潜るやいなや何故か手足や首をだらんとさせて眠り始めてしまった。俺は一瞬ギョッとしたが、特に問題は無さそうだったので俺もすぐに(まぶた)を閉じた。

誤字とか見つけたら誤字報告機能で教えて下さると助かります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ