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亀に転生しました  作者: よっけ
50/50

第50話 覚醒

『今日はよく威勢のいい小僧と会う日だ』


 フンッと鼻息をひとつ吐く白龍に対してシールドはさっと身構える。白龍の一挙一動に精神を張り巡らせていた。格上と対峙しているのだ、敵の気まぐれひとつで命が吹き飛びかねない。


『なに、もう取って食おうとは思っていないさ。そんなに大事ならそいつを連れてとっとと立ち去ったらいい。……それともお前も私とやりたいのか? ん?』


 とてつもない圧が肌を叩く。しかし、シールドの両の目は真っ直ぐと揺らぐことなく白龍を見据えていた。

 この程度の圧なら既に受けてきた、恐ろしくはあっても怯えてやる必要はないと。

 ましてや今の自らの背にはこの世で唯一の兄がいる。弱いところなど滅多に見せず、本当にヤバい時ほど兄は前に出た。強くなった今ならば少しだけ分かる。思えば自分は守られてばかりだった。

 今度は自分の番だと思えば、やる気は最高潮である。

 しかし、当の敵は兄共々見逃すと言っている。戦闘の真っ最中にやり合う気満々で割り込んできたつもりでいたシールドは状況が掴めず困惑していた。

 

 シールドは知らなかった。元々何故この戦いが起こったのかを。何が原因で兄がはるばる白龍の縄張りにまで足を運び、わざわざ危険を冒してまで侵入しないといけないハメになったのかを。そしてなにより度重なるストレスにより兄のイライラが最高潮に達しつつあったことを。

 シールドはいつの間にか周囲の気温が急激に上昇していっていることに気付いた。明らかに自然ではない肌を焼くような熱。吸い込んだ空気も熱されており、少しだけ息苦しい。マグマでも目の前に流れていればこのような感覚になったのかも知れない。

 無論シールドはマグマの存在すら知らないので兄がよく起こしていた焚き火のことを思い出していた。

 しかし、眼前の白龍を含め、視界の中にそれらしい原因は存在しなかった。よくよく感じてみると前というより背中の方に熱源を感じる気がする。後ろには派手に吹き飛んで倒れている兄ぐらいしかと考えたところでまさかとシールドは勢いよく振り返った。


『まだこんな力を隠していたか!』


 白龍がまだまだ楽しめそうだと嬉しそうに吠える。



+ + + + +



(……いてぇ)


 全身を襲う痛みによって目が覚めた。どうやら少しの間気絶していたようだ。頭も腕も全身がズキズキと痛む。そして、痛みとともに直前まで何をしていたかを思い出してきた。


(確か白龍の隙をついて一撃を入れられて……それからどうなった?)


 反動を受けて吹き飛ばされたところで記憶は途切れている。頭がぼんやりとする。魔力を急に使い過ぎた倦怠感も痛みも全身を包む無機質な圧迫感も何もかもが不快だった。

 俺は石、ではなく砕けた岩の下敷きになっているようだった。吹き飛ばされたときに大きな岩かなにかに衝突して崩れたのだろう。大小不揃いの岩が身体を埋めており、自由に身動きが取れない。

 目を凝らしてよく見ると少しだけ岩の隙間から外の景色が見える。

 隙間から丁度白龍の全身、とまではいかないものの一撃を入れた場所ぐらいは見えそうだった。

 そうして俺が見たものはーー


(嘘、だろ……? あれだけやって傷一つつけられないのか!?)


 一切傷を負っていない、戦闘が始まる前とほとんど変わらない白龍の姿だった。

 完全に不意を突いた会心の一撃だと思った。魔力だって一撃に込める量としては馬鹿みたいな量を込めた。並の魔物相手なら半分の量だって必要ない。それが無防備な状態だったのにも関わらず、受け切られてしまったのだ。

 なんだかんだ言って格上でもまともに攻撃が当たりさえすれば多少は通用すると思っていた。そんな奢りが打ち砕かれる。


(なんだよあの化け物……反則じゃねーか)


 次元が違い過ぎて笑ってしまいそうだった。ここまで勝てる気がしないと思わされた相手は産まれて初めてだ。

 そして同時に沸々と湧き上がってくるのは何故俺がこんな怪物と戦うハメになっているのかという怒りだった。

 束の間の平和をぶち壊され、街に居難くされ、仕返しとして一発逆転を狙いこの地までやってきた。

 俺ならなんとかなるだろうと今思えば何の根拠もない自信や奢りがなかったと言えば嘘になる。確かにそのような軽々しい気持ちで来ていいような場所ではなかった。そこは認めよう。

 だが、あいつがあの街に来なければ、あの店ででかい態度を取らなければ、そして執拗に喧嘩を売ってくるような真似をしてこなければ、俺はこんな無謀な戦いをしなくて済んだのだ。

 そう考えるとムカムカとしてきた。あんな身分だけ立派な小物のせいで死ぬことになるのは絶対に我慢ならない。どうしても生きて、いかなる方法でも構わないからあいつをしばき倒したい。

 あいつへの怒りが諦めることを許さない。

 俺は白龍に一撃をくれてやったときの状況を思い出す。


(俺はあの時本気で白龍に攻撃を仕掛けたつもりだった。だが、本当に全力を出せていたか? どこか日和って、これ以上は無理だと決めつけて魔力を制限してしまってはいなかったか?)


 俺は再び魔力を周囲から集めて練り直す。そうして集めたそばから全身に魔力を巡らせてゆく。あっという間に白龍と対峙していた状態のレベルまで身体の強化が完了する。


(これが、今まで限界と思っていたレベルの強化。正直今のままでも恐怖は感じてるし、これ以上はやっぱり……)


 本能的な部分がこれ以上魔力を込めるのは危険だと警鐘を鳴らしている。現状でも身体がみしみしと軋んでいるような感覚があり、割と無理をしている自覚がある。これ以上はどうなるのかなど怖くて試すことすらしていない。というか別にわざわざ試す必要性がなかった。

 しかし、白龍に傷をつけられる可能性があるとしたら、リスクを承知で限界の更新を狙うしかない。


(覚悟を決めろ、俺!)


 現時点で暴れ狂いそうな肉体にさらに魔力を上乗せしていく。手足が負荷に震え、凄まじい熱を帯びてくる。リソースを全て魔力の収集と魔力制御に割いているのでいつものように魔法で水を生み出し、気休め程度の冷却をする余裕もない。身体が保ってくれることを信じてひたすらに耐える。


(もっとだ、もっと込めろ! こんなんじゃ白龍の硬さを突破できる訳がない。制御できるかできないかの瀬戸際を狙え)


 恐怖から勝手にブレーキをかけようとする意識を必死にねじ伏せる。中途半端な強化ではさっきの二番煎じだ。やるなら徹底的に、言い訳の余地を残さない。

 度を過ぎた魔力の影響のせいか深緑だった体色は黒く変色していき、体内に留め切れなかった魔力が体表にまで浮き出てマグマのようなオレンジ色に光り輝く血管じみたものを描く。


(ははっ、これ、なんとかなってる……のか?)

 

 今まで限界だと思っていたものは確かに限界ではなかった。正確にはこれまでの過酷な環境のせいで限界でなくなった、のかもしれない。

 だが、これは絶対健全な状態ではない。これまでの身体の軋みが悲鳴だとすれば、今の状態は死のちょっと手前ぐらいの断末魔といったところか。制御をトチればこの広大な森ですら大半を消し飛ばせそうだ。まあ、仮にそうなった場合俺はチリ一つ残らないだろう。

 気付けば身体を覆っていた岩が融解しだしてマグマと化していた。一体俺の身体はどれだけ熱を発しているのかと考えただけで恐ろしくなった。

 俺は手足を折りたたむようにして縮めて力を溜めると、一気に伸ばして解放する。その動作だけで周りの邪魔な岩石が弾け飛んだ。狭かった視界が一気に開ける。


 そうして見えたのは白龍、と何故か居てこちらを見ているシールド。何故こんなところにという疑問や久々に会えた懐かしさや嬉しさが出てきそうになったが、今の俺にそんなことに意識を割いていられるような余裕は一切ない。


 俺は疑問も何もかもを置き去りにして白龍に突撃した。地面が大きく抉れ、瞬きをする間もなく白龍の元まで到達する。遅れて移動の余波で木々が次々にへし折れていく。

 驚くことに小細工なしに真正面から突撃したにも関わらず、明らかに白龍の反応が遅れている。それほどに今の俺は速い。


『速ッ……!?』

(またガラ空きだな! 今度こそは!)


 今までの経験、爆発させた怒りの感情、正真正銘全てをこの一撃に乗せる。インパクトの際俺と白龍の魔力が衝突したが、見事に打ち破り白龍を深く抉った。致命傷には程遠いが、俺は無謀な挑戦を成し遂げたのだ。


『う、ぐぅ……』

(どう、だ。まいった……か……)


 今度は吹き飛ばされることなく、ぼとりと力なく地面へと落ちた俺は満足気に意識を手放した。

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― 新着の感想 ―
[一言] 黒い体にマグマの様な模様って、お前もう亀じゃないだろw 進化したらミララースにでもなりそうw
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