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亀に転生しました  作者: よっけ
49/50

第49話 龍の秘境

 足が地面を叩く度、どんどんと景色が流れてゆく。森も、川も、山も、谷も、荒野も、悪路なんて何のその、どのような障害物や高低差があろうともお構い無しに踏破していく。遠くに見えた小さな岩山があっという間に大きくなりそして小さくなる。俺は今、身体を魔力で強化しつつ減った魔力を大気から補充することで半永久的に魔力を枯渇させずに高スピードを保ち続ける謎の物体と化していた。

 また、地形的な障害物はもちろんのこと、道中に出くわす厄介な魔物も一瞬で突破し追従を許さなかった。

 例えばいつもの森を抜ける際、途中で見覚えのある灰色の龍に気付かれ喧嘩を売られそうになった。ギルドで話題になっていた龍はお前だったのかと驚きつつも、即座にスピードを上げて抜き去りそのまま飛んで追いかけてくる龍を振り切った。一瞬だけ振り返って見た俺が更に速度を上げた際の龍の絶望した顔は少しばかり見ものだった。

 流石にあの速度を常に維持するのは魔力の回復が追いつかないし、ミスって転んだときに紅葉おろしより酷いことになりそうなのでやめているが、本気を出して走ればあの龍でさえ追いつけないというのは朗報だ。しかも、あの龍は以前戦ったときよりパワーアップしている様に見えた。あいつから逃げられたのなら大概の魔物からは逃げられるだろう。

 バーバラとの地獄の日々もこう考えれば無駄では無かったと感謝……いや、確かに無駄ではなかったが、いくらなんでもそれだけは絶対に感謝したくない。強くならざるを得ない、それだけの地獄だった。

 なにはともあれ、更に上達したこの魔力操作と体捌きならば目的地まで大して時間はかからない。


(待っていろ龍血草。すぐ採りに行ってやるからな)



+ + + + +



 定期的に休みを摂りつつ2日が経過し、やっとこさ目的地周辺までやってこれた。まだ龍の棲家という訳でもないのに少しずつ景色の様相が変わり始め、得も言われぬ不気味な雰囲気を感じるようになってきた。得体の知れない化け物がこの先に潜んでいる実感がびんびんとする。もうそろそろ今までのように派手に動くのはやめておいた方がいいだろう。


 小走り程度での移動を始めてからさらに1日が経過したところで完全に景色が現実離れしたものに切り替わった。

 幻想的で美しい白い森に時折り紫色の結晶が混じる。龍から溢れ出る強大な魔力が結晶として析出する龍石だ。

 貰ってきた資料によると龍の棲家に近づくにつれこの龍石を見る頻度が上がっていくらしい。ついでに言うと周りの白い木々も充満する魔力に適応して残った種類らしく普通の木では空気中の魔力が濃すぎてすぐに枯れてしまうようだ。

 そして龍血草は長い間龍の魔力を浴び続けた薬草が突然変異して生まれるらしい。つまりこの龍石を多く見掛ける方向に進んでいけば龍血草は見つかる可能性が高い。

 龍の縄張りに入るだけではなく、わざわざその中枢にまで踏み込まないとお目にかかれないとは流石Bランクの採取依頼なだけはある。ただ、よくよく考えると必ずしも龍と対峙する必要はないとはいえ龍と遭遇する可能性の高さを考慮すればもっと上のランクでも不思議ではない気もする。


 ここからは更に慎重に進んでいこう。何せこの白い森を縄張りとしている龍は確認されている中でもっとも強い魔物の1匹、白龍である。気付かれたが最後ただでは済まないと思った方がいい。逃げ足においては自他共に定評のある俺だが、本気で逃げて逃げ切れる保証も無い。できるだけ気配を殺して移動するのが賢明だ。


 魔力感知もここまで魔力の濃度が濃いと効きが悪い。こんなことは初めてだ。必然的に目や耳に頼るしかないので風が吹いて木々や茂みが揺れる度に木々の向こうから龍が飛び出てくるのではないかと考えてしまう。その度に足がすくみそうになるが、その度にあのクソ神官に目にものを見せてやるという気概が足をつき動かす。


(おっもしかしてあれか!? 資料で見るより随分と赤いな。そんでもって希少な薬草ってイメージだったのに引く程大量に生えてる……。まあ、一つの棲家につき一株って感じよりかは全然嬉しいんだけども)


 そうして探していると念願の龍血草は案外と簡単に見つかった。鮮血をぶちまけたようなやたらと赤い草だ。普段こんな草を見かけたら絶対に毒草だと判断する自信がある。それが引く程大量に群生している。これなら目を凝らしていなくても見逃す方が難しい。

 早速駆け寄ってプチプチと千切っては異空間に放り込んでいく。


(こんだけあるんだ。そこそこの量を持って帰ってもバレはしないだろ。回収、回収っと)


 千切っても千切っても減っている気がしない。本当にこんなに大量に生えるものが貴重品なのだろうかと疑問には思ったが、場所が場所だから出回らないのも無理はない。

 さて、ある程度は集まったのでそろそろ帰るか。


『あまり詳しくはないが、そういうのは根から採った方がいいんじゃないのか?』


 背後から声が聞こえた瞬間に一瞬でその場を飛び退く。


(バカな。警戒はしていたのに音も気配もなく)

『おー、中々速い。私の縄張りに堂々と入り込むだけのことはある。ん、どうしたんだ? それが欲しいのだろう、もっと採らないのか?』


 転がるようにして距離を取ると俺が龍血草を採取していた辺りの丁度真後ろ、少し離れたところに寝そべるようにして奴はいた。あのデカい灰龍よりも一回りも二回りも大きく、この白い森においても尚、より白い鱗を持つ純白の龍。

 あまりのプレッシャーに目を離すことができない。


『あぁ、別に怒っている訳ではないのだ。ただ私の縄張りにノコノコと入ってくる馬鹿は久しぶりなのでな』


 軽口を叩く龍だが張り詰めた雰囲気が気を抜くことを許さない。ただあの口振りを信じるとすると龍血草は龍にとってそれ程重要なものではないらしい。こちらは圧倒的弱者だ、嘘をつく理由もない。

 俺は言われた通り龍血草を根ごと採取する。もう見つかってしまったのだ。どうせならと依頼された量よりさらに多めに採る。


『それだけでいいのか。そんなものはいくらでも勝手に生えてくるから本当に良いのだが、まあいい。

 ただな、私の縄張りに入り込んだやつをただで帰すというのも面白くない。……そうだな、どこでもいい私に傷を付けてみろ。そうしたら見逃してやる』

『……本当にそれで見逃してくれるんだろうな』

『驚いた、魔物にしては知性が高いと思っていたが念話まで使えるとはな。そうだ、約束は守る。丁度退屈していたところだ精々私を楽しませてみろ』


 白龍はそう言うとゆっくり立ち上がり翼と腕を広げる。まるでどこからでも掛かってこいと言わんばかりだ。

 ああ言っておきながら俺が傷をつけられるとは露とも思っていない気がする。完全に舐められているのは歯痒く思うが、そう思われても仕方のない戦力差であることは認めざるを得ない。

 舐められてはいるが、反撃自体はしてくるだろう。この状態のまま突撃してもあの鋭利な爪で両断されるかパワーで叩き潰される未来しか見えない。

 様子見無しで初手から全力の強化をする必要がある。

 全身の血管に隈なく魔力が行き渡るようなイメージで魔力を流す。次第に力が漲る感覚と共に皮膚が熱を帯びてくるようになり、魔法で出した水を体に薄く纏わせるとすぐさま蒸発していく。集中していないと体が爆散しかねない魔力が流れてようやく強化を止めた。

 俺は地面を爆ぜる程蹴飛ばし一瞬で白龍の間合いへと入る。当然のように反応され、爪同士がぶつかり合う。


『おぉ、その小さな体でなんという魔力か。思ったよりやるな』


 この反応、やはり俺が傷を付けられるとはこれっぽっちも思っていないな。悔しいが、確かにそれだけの力の差を感じる。頼みの綱であるスピードすらも果たしてどこまで通用するか。そして何とか潜り抜けたとしてあの強靭な鱗に攻撃が通るのだろうか。


(やってみないと分からんよな!)


『ほらほらどうした、この程度か? もっとやれるだろう!?』


 幹や枝を蹴って四方八方から突撃するも全て防がれる。正面からはもちろんのこと後ろから行っても翼や尻尾でといったように死角がない。むしろこちらの攻撃にカウンターを合わせてくる始末だ。この程度では戦いにもなっていない。

 意識を更に集中させ、もっと、もっと魔力が全身に込める。ただその場に在るだけで壊れてもおかしくない程に。制御できるかできないかのギリギリのラインを攻める。


『いいぞ、その調子だ』

(くそ、軽くあしらいやがって。こっちは下手しなくても爆散しそうなんだぞ!? 少しは堪えろよ)


 死力を尽くしたとて単調に攻めるだけでは奴の守りを突破できないことはこの短い攻防でよくわかった。こっちは命を削ってこの速度を出しているので長くは保たない。何か変化が要る。そしてできた隙を使って、この速度でかつ最大出力の一撃、魔力の刃をゼロ距離でぶつけるしか勝機は無い。チャンスは一度きり。そこに全てをかける。

 俺は魔法で大量の水を生み出し、一気にそれを蒸発させる。


『……ッ! 目眩しか! だが、お前の魔力はまだそこに感じるぞ!』


 そう言いながら掬い上げるようにして右腕で切り裂いたのは限界まで魔力を込めた後に射出した俺を模った人形だ。魔力を込めた時点で今にも爆発しそうだったがなんとか耐えてくれたようだ。切り裂かれた衝撃で人形が炸裂し一時的に俺の魔力がこの場を上書きする。ついでに中身は刺激物入りである。どこまで効くかは不明だが、匂いぐらいは誤魔化してくれるだろう。

 俺はここぞとばかりにストックしていた人形を四方八方から同時射出する。魔力は込めていないがこの状況では最高のデコイだ。俺はデコイに紛れてやつに突撃を敢行する。

 正直こんなに数は必要は無いだろうとは思ったが、保険に保険をかけて白龍に向けて飛ばした10体がいったいどこで感知しているというのか、おそらく7体ぐらいが奴にぶつかる前に消し飛んだ。

 しかし、おかげで俺は奴の懐に潜り込んだ。


(これが俺の最速、最大の……一撃だァ!!)


 荒れ狂う魔力を右の爪に押し留め、即座に解放する。インパクトの瞬間、圧縮された魔力が制御から離れたことで解放されて凄まじい衝撃が広がる。

 ぶっ放したことはあるもののこんなものを特定の何かにぶつけたことなどないので想定外な反動に右腕の感覚が消し飛び、風圧で体もどこかに吹き飛ばされる。

 俺はやってやったぞと達成感を得る間も無く気絶した。



+ + + + +



 凄まじい一撃の余波で周りの地面は抉れ木々は吹き飛び、モクモクと土煙が蔓延していた。

 土煙の中の何かが大きな翼を広げ、羽ばたかせると土煙が一気に払われた。するとそこにはなんと()()()

白龍が居た。


『グゥ、今のは流石に冷やっとしたぞ。クックック、どこから来るか最後まで分からなかったから思わず、大人気なく全身を本気で固めてしまったわ。全く恐ろしいことをする奴だ』

 

 口振りとは裏腹に白龍はひどく上機嫌だった。真っ向から挑んでも通用しないと分かるや否や、目眩しやら囮等の見事な機転。そこまでされれば本当は一発ぐらいもらってやるかぐらいの気持ちでいたのだが、尋常ではない攻撃の予感がし、思わず魔力を用いた全力の防御体制を取らされてしまった。

 調子に乗ってここまで侵入してきた若造にお灸を据えてやるか程度の面持ちでいたはずが、今では僅かながら身の危険すら感じさせられている。これを愉快と言わずしてなんと言うのか。

 白龍は小さい奴が景気良く吹き飛んでいった方向を見る。

 小さい奴は体躯に似合わない自らの一撃の反動で吹き飛ばされ、余波で崩れた岩の下敷きになっていた。


『息があるのは当然だとして五体満足でいるとは頑丈だな。流石にアレを打った右腕は無事ではなさそうだが……どれ、楽しませてもらった礼だ治してやろう』


 爆心地から悠々と歩を進める白龍。

 将来有望な若者だ。別に放っておいても死にはしないだろうが、後遺症でも残ったら勿体無い。


『あの子は……まだコイツに勝てないな。伸びきった天狗の鼻をポッキリ折ってやってくれると嬉しいんだが、その勢いのまま殺されかねないのが難しいところだ』


 白龍がむーんと悩みながら歩いていると突如として大きな影が眼前に割り込んできた。まるで背にいる誰かを守ろうとするように。

 そいつは敵意丸出しで白龍のこと睨みつけている。

 白龍は魔物の頂点とも言える存在だ。一目見ただけで普通の魔物であれば蜘蛛の子を散らしたように逃げていき、一度意識が自身に向いていると分かってしまえば絶望して動けなくなる。

 白龍の縄張りに自ら入ってくる命知らずなど死ぬほど鈍い馬鹿か覚悟の決まった馬鹿ぐらいしか居ない。

 そしてそこにはそんな覚悟の決まった馬鹿、シールドの姿が在った。


『今日はよく威勢のいい小僧と会う日だ』

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