第44話 ワンサイドゲーム
お久しぶりです。ちょっと書いたのでちょっとずつ投稿していきます。
「おい、アタシ抜きで随分とお楽しみだったみたいじゃないか。アタシも混ぜろよ」
『混ぜろよじゃねー! 遅いぞバーバラ! 今回の依頼の言い出しっぺの癖して眠り呆けてんじゃねーよ』
奥の手である獣化を既に済ませて登場したバーバラは大剣を肩に担ぎ、不敵な笑みを浮かべていた。本当についさっきまで船酔いでダウンしていたとは思えない。面の皮が厚いというか、ついイラッとしてしまった。
「悪い、悪い。で、今どんな状態だ?」
『ったく……鱗が硬過ぎて絶賛苦戦中』
「大体分かった。つまり、こいつを試すのにピッタリの相手だってことだな」
そう言ってバーバラが眺める先には、片手で掲げていられるのが不思議な程、馬鹿でかい大剣がある。それは剣というにはあまりにも大きすぎた。大きく、分厚く、重……(以下略)。
確かにあれならあいつの鱗がいくら硬くても、刃が通りそうだ。あと、最初から獣化していたのは、そうしなければ重量でまともに動けなかったからだろう。あんなのは人がぶん回していい代物ではない。
まあ、普段通りの小回りの効く動きはできないだろうが、俺が隙を作り出せば問題ない。
「グルゥ……」
龍が新しく現れた敵に警戒している。頭のいいやつだ。あの大きさの鉄の塊を軽々と振り回すバーバラが自らの脅威となることをすぐに見抜いている。かと言って視界の端をうろちょろする俺も無視はできない。戦況はこちらに傾きそうだ。
+ + + + +
(なんだこれは)
先程までは、久方ぶりの勝ち負けの分からない戦いを経験し、恐怖を感じつつも歯応えのある宿敵を相手にどこか心が踊っていた。力も大きさも、劣っているはずなのにスピードと魔力でその差を埋めるどころか自分を圧倒してくる。そんな今まで戦ってきた強敵達の中でも飛び抜けてよく分からない存在。これに勝つことができればどんなに心が満たされるだろうかと思う。
だが、それが今はどうだ。龍たる己がたかがニンゲン1人増えただけで一方的に狩られようとしている。
非力なはずのニンゲンが身の丈程の鉄の塊を振り回し、鱗の上から軽々とダメージを与えてくる。ニンゲンが何十匹が武装し束になってこようとも全てを弾き返し、傷一つつかなかった鱗が今は血が滲みボロボロだ。小さいやつが注意を引き、その隙に毛玉が大ダメージを与えてくる。かと言って毛玉の攻撃を受けないように立ち回れば、細かい傷が多数増える。鱗が削れている以上、浅い攻撃でも肉に到達するので激しく痛み、出血が増す。どちらか、できれば弱い方を集中して先に潰すべきなのは承知しているが、どちらも簡単に落ちる気配はない。どう考えてもこの状況は詰んでいた。
(こんなのは私が求めていたものでは……)
『いいかい、勝ち目の無い相手からは逃げるんだよ? 別にそいつと戦うなと言っている訳じゃ無い。君は若い時の母さんに似て好戦的だからね。でも、そこはぐっと堪えて強くなって少しでも勝てる見込みができてから挑むんだ。じゃないと、いい戦いにする前に犬死にするだけだ』
その時、脳裏によぎるのは最初の超えられない壁として立ちはだかった父龍の言葉だ。父は未だ強大な壁として健在だが、勝てない敵は勝てるようになるまで避けろと言った。自分には時間さえあれば誰にだって勝てる可能性があるとも。その時は父、母以外に絶対に勝てない敵に出会うことなんてある訳ないと思っていたが、あれはこういう状況になることを見越しての言葉だったのだ。
自分はまだまだ強くなる。そして何故だか小さいやつからも似た気配を感じていた。ここで死んだら先の景色が見えなくなる。もっと強くなりたい。そしてもっと強い敵と、強くなった敵と戦いたい。そう考えると自然と体が動いた。
「すぅぅぅ……グアァァァッ!!」
大きく息を吸い込むと次の瞬間、薙ぎ払うように広範囲に炎のブレスを放つ。
それに対する敵の動きは素早く、即座に安全圏まで下がっており小さいやつの方に至ってはダメージを受けるどころか煤がつくことすらなかった。
少しぐらい喰らってくれても良いではないかと思わないでもないでもなかったがしかし、それでよかった。被弾覚悟で突っ込んでくるのが今されて一番困る行動だったのだから。
十分な距離が取れたと感じた瞬間に魔法、皮翼、手足、全ての力を総動員させて空高くまで飛び上がる。後は風を掴み、遠くまで逃げ……戦略的撤退をするだけだ。飛び上がる直前、敵もただ見ているだけではなく妨害を仕掛けようとしていたが、地面で燃え続ける炎が行手を阻んだ。それもそのはず、あのブレスは単なるこけおどしではなく、本気で魔力を込めて放ったものだ。並大抵の耐性では耐えられはしないし、耐性があっても突っ込むにはそれ相応の覚悟が必要である。
(覚えていろ。今に誰にも負けないぐらい強くなってやるからな)
龍は頭の中でそう吐き捨てると、ひとまずどこか体を休められそうな地を探し、飛び去って行った。
+ + + + +
「逃げたか……」
風圧とそれに押し寄せられた炎を防ぐため、顔を覆っていた左手をどけると、もうそこに龍の姿は無かった。足止めを食らっている間にまんまと空へと逃げられてしまった。おそらく今の凄まじい風圧はあの巨体を急激に持ち上げるための副産物だったのだろう。
ふと、バーバラの様子が気になった。強敵にいいところで逃げ去られ、不貞腐れてはいないかと見てみる。
バーバラは大剣を見つめながらも全く気を落としていなかった。むしろ少しだけ嬉しそうな……。
「今回は手負いで2人がかりだったからな。今度は1人で戦いたいもんだ。今よりもっと腕を磨かないと戦いにならないだろうが」
どうやら消化不良感より仕切り直せる喜びが勝ったようだ。どうやら2対1のワンサイドゲームが少し気に食わなかったらしい。どこまでも強さと戦いに貪欲な奴だ。
『馬鹿なこと言ってないで早く、本来の目標を回収して帰るぞ』
「そうだな。あと、帰ったら修行だ。付き合……」
『今日はやだ。流石に疲れた』
「ぐっ……分かった。じゃあ明日からな」
何を譲歩してやったとばかりの顔をしているのか。本来なら明日でも嫌だというのに……まあ、いいか。とにかく今日は本当に疲れた。今日ぐらいはゆっくりと休んでもバチは当たらないだろう。




