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亀に転生しました  作者: よっけ
42/50

第42話 残りの2割

お久しぶりです。

「ッ!? グオォォ!!」


 チャプチャプと顔を叩く波によって灰色の鱗を持つ龍は目覚めた。一瞬惚けていたが、すぐに気絶する前に起きたことを思い出し、聞く者が震え上がるような恐ろしい怒りの咆哮を上げた。


 その龍は自らが持つ縄張りに居続けるのにも飽き、気まぐれに海上を飛んでいた。まだまだ落ち着きを得ていない若き龍にとって争いなどほとんど起こらない平和な場所に留まっているのは退屈で仕方がなかった。

 何か刺激を求めて飛び続けているとなんと数ヶ月前に突然不意打ち受けたときに感じた魔力と寸分違わぬ魔力反応を感知した。

 あの時、卑怯にも姿を見せず攻撃を仕掛けてきた者はそれっきりなんのアクションも取ってこなかった。

 それゆえ反撃をすることもできず、怒りの矛先を失った龍は怒りが収まるまでただ暴れることしかできなかった。

 龍はプライドの高い種族である。しかもこの龍は人一倍、いや、その特徴が顕著な個体であった。そのような龍が事情はどうあれ、いいようにやられたままで終わるはずもなく、怒りのまま翼膜をはためかせ全速力でその反応の発生源へと向かった。

 

 そして龍はついに不届き者の姿をその金色の目に捉えた。そいつはニンゲンが造った船と呼ばれているらしいものに乗っていた。身体は、まだ成熟していない自分と比べてもかなり小さく、見た目だけならまだそこら辺にいる人間共の方が強そうなぐらいだ。

 しかし、本当に見た目通りの戦闘力しか持っていないのなら、そもそも強大な力を持つ龍の眼中に入っていないし、これ程必死になって排除しようともしていない。

 生来から備わっている鋭敏な感覚と本能は、見た目にそぐわぬ、おぞましい程の魔力の波動から危険性をビリビリと感じ取っていた。

 それを用いた攻撃をまともに受ければ、いくら頑丈な鱗と皮膚を持つ自分とてタダでは済むまい。


 幸いなのはそいつの意識は全て白くてデカいやつに向けられており、自分の存在には全く気付いている様子がないことだ。

 所詮そいつが己に勝っているところなど魔力の量とそのコントロール力ぐらいでしかない。どれだけ恐ろしい力を持っていようともその力を発揮させる前に自らの強大な質量を意識外から高速でぶつけてしまえば、あのような小さい存在など簡単に始末できる。

 そう考えてほくそ笑んだ龍は一度上昇した後、縦にループして勢いを付け、そのまま船目掛けて急降下した。


 その身は重力を味方につけ、どんどんと加速していく。その上、これはただの落下攻撃ではなく、僅かながらも風の魔法を纏うことで空気抵抗をも減らしたダイブである。


 仮に狙われている本人がこのことを知ることがあれば、きっとこう言うことだろう。

「そこまでしなくても、踏み潰されただけで普通に死ぬわ」と。


 そして、あとほんの少しすれば奇襲が成功するというその時だった。

 なんとそいつと目が合ったのだ。そいつは目の前の標的以外に意識を割く余裕は無く、その馬鹿みたいに集められた魔力もそのまま白い奴に向けて放たれるはずだった。それがどういうことか、よりにもよってそれを放つ直前に自分の存在を捕捉されてしまったのだ。

 しかし、龍は考えた。強大な魔力はそこに留めておくだけで多大な集中力や制御力を必要とする。ましてや、あの小さい奴は龍すら恐怖させる量の魔力をその小さな腕に乗せて飛ばそうとしているのだ。標的を変えたくとも、そう簡単に狙いを変えられるはずがない。

 つまりそのまま突っ込めばいい、そう理性は判断を下した。

 であるはずなのだが、いくら大丈夫な理屈を考え出しても心の奥底にこびり付いた悪寒が拭い去れない。母譲りの勘が危険はまだ去っていないぞと警告している。杞憂に終わることもままあるが、この勘には助けられたことも多い。

 頭では奴が船ごと海の藻屑となることを疑いすらしていなかったが、念のため何かが起こることも心の奥底に置いておくことにした。


 どんどんと大きくなる標的の姿だったが、途中でなにやらそいつは片足を上げたまま器用にこっちの方に向き直るのが見えた。そしてその足がフルスイングされることでその莫大な魔力はついに解き放たれる。

 冗談のように簡単に自分の方へと狙いが変わり、真っ直ぐ飛んでくる魔力の塊には驚かされたが、あらかじめ心構えをしていたことと早い段階で放たれたことが功を奏し、距離的には余裕を持って避けることができた。

 とは言え、今は全速力での飛行中である。そんな中で不自然な体重移動など行えば、結果は火を見るまでもない。当たれば死ぬかも知れないという恐れも相まって無意識に動きが大きくなってしまったことも体勢を崩した要因の一つであろう。

 眼前を埋め尽くす白い巨体が猛烈な勢いで迫ってきて……そこで龍の記憶は途絶えていた。


「グオオオアアア!」


 龍は一度ならず、二度までも遅れをとることになった。それも(同族)ではなく、本来ならば取るに足らない存在であるはずの別種の生物相手にである。

 これが龍ならばまだ経験や成長を言い訳にできただろうが、恐らく敵は格下と思われる魔物である。そのような存在に苦渋を舐めさせられるのは初めての経験だった。


 この若き龍は知らなかった。個体能力は低くとも数や技能、知恵などでそれを補い、格上の存在であっても渡り合うことができるニンゲンという種がいることを。

 あるいはその能力ですらも、最強と呼ばれる種である龍に届き得る突然変異(イレギュラー)個体という理不尽が存在することを。


 龍は大きな水飛沫を上げ、空中に舞い上がる。そして、キョロギョロと辺りを見回すと遠くに見覚えのある船を再び補足した。



+ + + + +



「ハァ、今日は体力的にも精神的にも疲れた。バーバラさんたちは船酔いでダウンするわ、突然龍が襲ってくるわ……散々だったなぁ」


 普段、爽やかイケメンで飄々と物事をこなすレイが溜息など吐いて、くたびれた顔をしている。一瞬そのことを珍しく思った気もしたが、なまじ有能なため事態の収拾に動かないといけないことも多く、最近ではこうなっているのは別に珍しいことでもなんでもなかったなと思い直した。

 俺はサンキューな! これからもよろしく頼むぜ。という(ねぎら)いの念をレイへと送っていると、何故か無言の睨みが帰ってきた。


(そんなに怒らないでも……厄介ごとのほとんどはバーバラが原因じゃん。俺は精々残りの2割ぐらいだから! むしろ俺もトラブルを起こす側じゃなくてトラブルに巻き込まれてる側だから!)


 そんなことを考えていると更に突き刺さる視線が強くなった。俺ってそんなに考えてること分かりやすいかな、と前足で自分の顔をペタペタと触っているとレイが呆れたように視線を落とし再び溜息を吐いた。

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