第39話 休日とは?
(ふぅ危ない危ない。目が俺の方を追ってたからやられるかと思った。相変わらず目がいいな……)
振り下ろされる剣をすり抜けてバーバラの後ろを取れたが、避けている最中はまるで生きた心地がしなかった。
180度方向転換し、地面に爪を立ててガガガッという音を立てながら無理やり減速した後、今度は俺の番だとばかりに地面を思い切り蹴って一瞬で距離を詰める。バーバラはまだ剣を振り下ろした直後の状態なので剣をこちらに向ける時間はない。
(この勝負、貰った!)
「ふんっ!」
そう思って突撃したはずなのだが、バーバラは勝利を確信していた俺に対して剣から右手だけを離し、振り返りザマに顔面へ裏拳を叩き込んできた。
予想外の衝撃に思わず目を白黒させながら吹き飛んでしまう。身体中に漲る魔力によってダメージはほとんどないが、反撃など来るはずがないと鷹を括っていたせいで文字通り面食らってしまった。
「チャンスと見て焦ったな? 見えていなくても動きが丸分かりだったぞ」
どうにも俺の動きが単純過ぎて、攻撃を置かれてしまっていたようだ。飛ばされながら見たバーバラのドヤ顔からは意味は分からずとも何を言っているかの大体の想像はついた。物凄く悔しい。
(く、くそぉ。もう少しだったのに……。最後まで気を抜かず、か。きちんと意識しないとな)
俺が正気を取り戻し、体勢を立て直して足から地面に落ちるのとバーバラが獣化を完了させるのはほとんど同じタイミングだった。
「がぁぁぁっ!」
バーバラが獣のように声を荒げながら距離を詰めてくる。いつもより動きの精彩さを欠く代わりに素早さが上昇していた。理性を獣性に多少持っていかれるようで動きがかなり荒々しい。
(や、やっぱ、つえぇ。……でも前も思ったけど、戦闘力の上がり幅は俺の方が上みたいだな。これでほぼ互角になるし)
俺の魔力による身体能力向上とバーバラの獣化による身体能力向上と技術力の低下は差し引きすると……少しだけ俺が不利といった状況だ。その代わり長期戦は魔力を多少なりとも補給しながら戦える俺に分がありそうな感じである。
俺とバーバラは相手の急所に己の武器が直撃するなどして致命傷を与えたとお互いが判断すると仕切り直して戦うのを繰り返した。結局10戦ぐらいやって勝てたのはバーバラが疲れ始めた最後の3戦だけだった。魔力による強化状態も、獣化も疲労によりとっくの昔に解除されてしまっていた。
俺とバーバラは息も絶え絶えの状態となり立っていることさえ出来ず、その場で寝転がった。こうしていると地面がひんやりとしていて気持ちがいい。
「はぁ、はぁ、はぁ。お前、タフだなぁ。アタシだってスタミナには自信があったってのに」
バーバラが何かを言っているが気にしている余裕などない。大気中から肺は空気を、魔石は魔力を全力で得ようと暴れている。低い位置にあった太陽が今では頂点近くまで登っているので大体6時間ぐらい戦っていたことになるだろう。ムキになってお互いが限界になるまで戦うなど我ながらアホだったと思う。こうなる前に切り上げていればよかったものを。もう動きたくない。
(でも、なんだろう? 割とスカッとした気分だな。たまにはこういうのも悪くないかも?)
へとへとになり精も魂も使い果たして妙な爽快感に浸っていると、横から静かな呼吸音が聞こえてきた。
「すー、すー……」
そっちの方を見ると、バーバラが胸を上下させて眠っていた。朝が早かったのと疲れと満足感やら色々なものが重なったからだろう。さっきの好戦的な顔が嘘であったかのような安らかな寝顔だ。こうして見るとバーバラの顔は細かい傷はあるものの、割と整っている。
まあ、俺が人とかけ離れた種だからなのかそれに対して何かを感じるということもないのだが。
(ふぁ〜。なんか俺も眠くなってきたな。なんか近づいてきたら俺もバーバラも起きるだろうし、俺も昼寝しようかな?)
バーバラがあまりにも気持ち良さそうに寝ているので眠気に襲われてしまった。俺も朝が早かったのは一緒だし、疲れに疲れ切っていたので瞼を閉じるとすぐに微睡みの中で意識が溶けていった。
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そしてなんやかんやあって次の日、流石のバーバラと言えど、アタシと戦えとは言ってこなかった。というか、バーバラと俺は筋肉痛でまともに動くことができなかったと言う方が正しいか。
(く、くそぅ。筋肉を酷使しては治すのを短時間に繰り返したせいか魔力を集中させても中々治らねぇ。もう実戦訓練なんてこりごりだ!)
バーバラとの模擬戦終了後の晴れやかな気持ちはどこへやら。結局、俺はせっかくの休みだというのにご飯と水浴び以外の時間は、ほとんどを寝たままの状態でいることに浪費してしまった。ほぼ強制的に連れてこられたので行かないという選択肢は取れなかったが、できるならもう2度と行きたくないなとぼろぼろになった身体を休めながら俺は思った。
しかし、この時の俺は知らない。バーバラがこれから先も、ことあるごとに俺を実戦訓練に無理やり巻き込んでくるようになるということを。




