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亀に転生しました  作者: よっけ
36/50

第36話 初めての依頼

 数日が経ち、俺の左腕はすっかり良くなった。筋肉に力を込めても全く痛まない。仮に、魔力を込めて本気で体を動かすことになったとしても問題なさそうだ。

 俺は怪我を治すまでの数日間、ずっと宿で留守番をさせられていた。怪我を負った原因が原因だったので多少の遠慮というものがあったのかもしれない。たった数日間という短い期間でも屋内で怪我の治癒に集中しているのは少し気が滅入った。しかし、全治にかかった時間はこれでもあり得ない程早い方だろう。骨折などしたことがなかったので正確なところはわからないが、普通なら一ヶ月は余裕でかかる怪我だったはずだ。魔物の治癒力は偉大である。


 そして俺が怪我を治したと知るやいなや早速バーバラ達は俺を冒険者ギルドへと連れ出した。今バーバラ、レイ、メリーが相談しながら掲示板に貼り付けられた依頼を選んでいる。どうやら俺が怪我を治すまでの間、3人はパーティとして活動をしていたらしい。


『どんな依頼を選んでるんだ?』

(他の冒険者が嫌がるような依頼を優先して受けると受付のやつと約束したから、ある程度厄介な依頼だな)


 そんな面倒なことなんで約束したんだ? と思ったが、仕事である以上、何か対価として厄介な依頼を受けることになったのだろう。これがもしただの善意ならお金が無いにも関わらずお人好し過ぎるだろうと思ってしまった。


『厄介なのにするのは分かったけど、達成するのに何かの知識が要るようなやつは何も貢献できないぞ?』

(そんなのは端から当てにしていない。アタシ達がやるのは他の冒険者では戦力的に達成不可能な魔物の駆除依頼、それが無ければトイレとか排水溝みたいな汚い所の掃除の依頼、それすらも無かったら草むしりとかの面倒な依頼だ。基本的には魔物の駆除依頼が主な仕事内容になるんだから問題ないだろ?)


 戦力が必要なのと草むしりの依頼なら上手くやれそうだ。特に草むしりに関しては俺の《アイテムボックス》が火を吹くだろう。まあ、今挙げられた草むしりはあくまで依頼が無かったときの最終手段でしかないらしいが。


(うし、これでいいか)


 バーバラが手にしたのは蜘蛛の絵が描かれた羊皮紙だった。年季が入っていて大分使い回されていそうだ。羊皮紙なんて貴重そうだし使い回せる物を一々作り直すのは確かに勿体ないと思う。


『討伐依頼か?』

(おぉ、よく分かったな。そうだ、これは【ビッグスパイダー】と呼ばれる魔物の討伐依頼だ。名前のまんま馬鹿でかい蜘蛛で、結構手強いぞ)


 蜘蛛か。俺の中の蜘蛛への印象はアシダカ軍曹のように一部を除いて益虫という印象だったのだが、こいつは討伐依頼が出されるぐらいなのでやっぱり害虫なのだろうか。


『蜘蛛は自分より小さい獲物……例えば、蝿みたいな虫を食べてくれる益虫なんだぜ。そいつも実は益虫だったりしないのか?』

(ほう、そうだったのか。これからは家に湧いた蜘蛛は出来るだけ殺さないようにしよう。しかし、そいつはアタシよりデカいぞ。お前の言う自分より小さいという括りにはアタシたちも含まれてしまうな)


 あっはっはっはとバーバラは笑うが、笑っている場合ではない。バーバラの言葉は蜘蛛は益虫と思っていた俺の考えを180度裏返らせた。蜘蛛のサイズを完全に失念してしまっていた。そこまでデカいのなら俺など余裕で餌認定だ。蜘蛛の食事方法を知る俺としては余計に恐怖を感じてしまう。黒く、てかてかしているイニシャルG等の害虫にその牙が向いている内はニコニコしていられたがそれが自分に向くことになるなど考えたくもない。


(そいつの腹の中にある糸の元は金になる。面倒ではあるが美味しい依頼だ。こいつを狩るに足る実力さえあれば中々当たりな部類だぞ?)


 それはそうかもしれないが……まあ、気が進まなくても俺の立場としては付いて行くしかない。こいつらを見ていても全く悲観的な様子を見せないので勝算はかなり高いのだろう。間違ってもこのパーティに俺を入れてギリギリ狩れるなんて強さの魔物ではないことを祈る。



+ + + + +



 斥候役のレイが索敵をしながら先頭を歩く。少々距離を置いて俺、メリー、バーバラの順に続く形で森の中を探索していた。なんの進展も無くかれこれ2時間近く歩き続けていたが、ここでレイが何かに気付いたようでハンドサインをしている。まだ完全に覚えきれていないが、確かあれは「止まれ」だった気がする。


(あれ? 「後退」だったか? やばい。どっちがどっちだか忘れた!)


 その2つの違いはかなり大きいが、どちらにせよ少しならなら止まっていても大丈夫だろうと思い、歩くのを止める。焦って様子見に徹している俺を余所にレイは屈んで地面をゴソゴソし始めた。後ろを見るとバーバラたちも止まっているのでどうやら「止まれ」の方であっていたらしい。よくよく見上げてみると白い糸が所々に見受けられる。とうとうやつがどこに潜んでいてもおかしくない場所にまで来てしまったようだ。

 【ビッグスパイダー】は木の上からの奇襲と糸の罠を得意とするようで頭上と足元には特に注意しろと言われていた。両方を警戒しながら歩くのは中々に辛いが、レイが先頭を進んでくれているおかげで足元の方の警戒は最小限で済んでいる。斥候役様々である。


 痕跡を調べ終わったのかレイが音も無く近づいてきた。動きの一つ一つがプロっぽいなぁ、と何とも語彙力の欠けた感想が浮かぶ。


(しな)びた鳥の魔物の死骸を見つけた。まだ日が経って間もない。近くに潜んでいる可能性が高いよ」


 そう言われてレイが指を指す方を見ると、カラカラになった鳥らしきものが放置されていた。爪や嘴が鋭く、体も大きくていかにも強そうだが、【ビッグスパイダー】の方が食物連鎖のピラミッドにおいて上位の存在だったらしい。鳥と蜘蛛の力関係が逆転していて、違和感がすごい。

 なんにせよ並の冒険者が依頼を受けようとしないのも納得である。


 レイはそれからも【ビッグスパイダー】が残した痕跡を次々と見つけていった。目立つ痕跡、どうしてそんなのが見つかるのかなんていう些細な痕跡、どちらも当然のように探し当ててしまう。少し前、レイたちに追いかけ回されていた身としては若干同情してしまいそうである。そしてこんなのを見せられると逆に、俺がしばらく森で隠れられられていたことが不思議に思えてきた。

 数ヶ月前、天敵が近場に住み着いてきたことに気付いた俺は精神を張り詰めさせて生活していた。悠々と過ごせていたそれまでと違い、気が抜けない生活を余儀なくされた。


(分かるよその気持ち。天敵なんてどこにもいないのに一々警戒をする必要はないって思うよな……ん?)


 俺も昔はそうだったよなんて、心の中でカッコつけながらたった数ヶ月前の心境を思い出して感傷に浸っていると右後ろ足に何かが巻き付いた感覚がした。頭を伸ばして股下から自分の足元を覗き見てみると感じた通りに白いロープのようなものが巻き付いている。巻き付いたロープの先は上であり、目だけでおそるおそるその先を辿っていくと木の葉っぱの隙間からそれが伸びているのが確認できた。生い茂る分厚い葉っぱの向こう側に何が潜んでいるかなど考えるまでもなく……。


(……やっべ、うわぁぁぁ!!)


 俺はそいつに糸で吊り上げられた。


「っ! 気を抜き過ぎだ!」


 ジタバタ暴れながら吊り上げられる俺を見たバーバラは咄嗟にナイフを投げた。ナイフは狙いも定めずに投げられたとは思えないほど綺麗に飛び、糸を掠めたが、流石に掠めただけでは切断するまでには至らずほつれを作るだけに終わった。

 一瞬遅れてメリーも俺の危機に気付き、魔法で助けようとはしてくれたが、杖から放たれた風の刃はどう考えても俺の方へ飛んできていて、


(あぶな!)


 足の筋肉、魔力のジェット噴射を駆使し体を上に押し上げることで間一髪甲羅の下を通過していった。


「ご、ごめんなさーーーい!」


 糸がたわんでビヨンビヨンと上下運動を繰り返しながら上に登っていく俺の元にメリーの申し訳なさそうに叫ぶ声がうっすらと届く。


(多分助けようとしてくれてのミスだからまあいいか。糸を引っかけられたのは俺が悪いし)


 むしろ俺の危機を目にして行動を起こしてくれたことが少しだけ嬉しくさえあった。


 視点がどんどんと高くまで上がって行く。そして、葉の壁に突入した辺りで段々と敵の全容が見えてきた。

 黒くテカテカとした硬そうな甲殻に聞いていた通りでかい身体。2本の前脚で器用に糸をくるくると巻いて糸を手繰り寄せている。


(あー、油断してたー。よくよく集中してみれば、こっちにも1体居るけどあっちにも1体居るじゃん)


 味方と一緒に行動できるなんて随分、久しぶりだったから気が抜けていたようだ。警戒さえしていればギリギリかも知れないが避けることはできただろう。


(あっちは3人も居るし負ける要素はなさそうだな。問題は1対1で対面してる俺の方か)


 逃げてしまった方が安全ではあるのだろうが、さっきは随分と無様を晒してしまった。バーバラからの戦力的評価はもしかするとかなり下がったかも知れない。

 

(仕方ない。失望されでもして見限られるのは嫌だし、手土産でも持って帰るか)


 俺は爪に魔力を纏わせてリーチを伸ばし、バーバラが作ったほつれから糸を断ち切った。空中で体制を立て直して太い枝にしっかりと4つ足で着地を決める。

 そのまま蜘蛛を睨め付けるとあちらも糸を簡単に切られて脅威を感じたのか脚を上げて威嚇してくる。簡単に切れたのはバーバラのおかげだが、変な体制からでも苦戦はするだろうが自力で切れないこともないのでその警戒は間違ってはいない。


(改めて見るとやっぱでかいな。まあ、俺から見ると自分よりでかいやつの方が多いんだけども)


 敵が自分よりでかいなんて慣れっこだ。

こいついつも油断してんな。

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