第35話 置いてけぼり
俺とバーバラは朝食を終えた後、3人がいつも待ち合わせに使っているという冒険者ギルドの近くにある広場にやってきた。他の人にとってもこの広場は待ち合わせに使いやすいらしく、一目で冒険者と分かる人だけではなく色々な格好をした人が居た。
広場の中心には強大で凶暴そうな亀の魔物を様々な種族の人が抑えつけている様子のとんでもない存在感を放つ銅像が建っている。この広場が待ち合わせによく使われている理由は間違いなくこの目立つ銅像があるからだろう。
銅像を見て、もしやこの町の住民は亀の魔物を忌避しているのかと思ったが、俺の姿を見ても腕章ですぐに納得したように目を逸らすのでどうもそうではないらしい。
きっとここにあるのは過去に猛威を振るっていた魔物を人間が協力して倒したとかそういう話を元にして作られた銅像なのだろう。今を生きる人には忘れられる程遠い過去で起きたことなのか、それとも俺の姿が小さくて銅像の亀の魔物とは似ても似つかず、脅威として認識されないからなのか、そもそも真偽が定かではなくあまり信じられていない昔話だからなのかは分からない。しかし、こんな亀の魔物は悪者とでも言うような銅像があっても俺を理由もなく迫害する気がないなら特に気にする必要はなかった。
気にする必要はないのだが、妙にストーリー性を感じさせられる銅像だったので思わず、色々と考えてしまった。
そしてそんな銅像の周りにあるベンチには、既にレイとメリーが居た。
「もう来てたか。いつも待たせて悪いな」
「バーバラさん、おはようございます! いえ、私たちも今来たところです。ね、レイさん」
「うん。今日はそんなに待ってないね。せいぜい数分くらいかな」
バーバラが2人へ軽く謝っている。この様子では遅刻は常習犯と見た。この世界の常識は知らないが、時間にはルーズか厳格なのかどちらの方が主流なのだろうか。今のところ宿の食堂しかり、レイとメリーしかり、秤は時間にはある程度厳格という方に傾いている。
ちなみに俺はたまに大事なときに時間を破ってしまうことがあるので常習犯という程ではないが、バーバラに「遅刻は信用をなくすぞ」などとあまり偉そうなことを言える立場にはなかった。
「クインスの腕に着けているのは……へー、首輪でも腕輪でもないんですね」
「ほんとだ、昨日まで何も身に着けてなかったのに今日は腕章を着けてる。これが試験合格の証なんですか?」
「ああ、試験には無事合格できた。腕輪は色々な情報を彫るために時間がかかるらしい。それができるまではこの腕章が代替品だ」
バーバラが俺の脇の下を持ち上げて腕章をよく見えるようにする。まるでペットの犬にでもなった気分だ。しかし、俺はその扱いに対して特に何も思わなかった。どうやら俺は二足歩行をしようとして後ろに転ぶなどアホっぽい動きやポーズを取らされたりしなければ屈辱的には思わないようだ。
「この腕章や腕輪を見るだけで色々な情報が分かるんですね〜。存在は聞いてましたけど初めて見ました」
「こういうのを着けている魔物は少ないからね。移動や物を運ぶのに使われてるよく見る魔物は気性が大人しいことが周知されていて、しかもあまり自由が許されていないから、手に入れるのに細かい手続きが必要な首輪や腕輪は一々要らないんだよね」
「なるほど」
レイとメリーが俺、というより腕章を見てなにやら話している。昨日から見ていたが、メリーは冒険者として新人らしくレイやバーバラから色々と教わっている感じだ。人間社会は覚えることが多くて大変だねぇ。と、そういう風に本来なら高みの見物と洒落込めるはずだったのだが、俺も人間に関わることになった以上、ある程度の常識は身に付けていかなければならないので少し憂鬱だ。
「それでレイ、話ってのはなんなんだ?」
バーバラが頃合を見計らって話を切り出した。バーバラがここに来たのは試験の結果をメリーに話す目的もあったが、一番の目的はレイの話したいということ聞くためだった。
そしてレイは姿勢を正し真面目な表情を見せるとバーバラに語り始める。メリーも同様にバーバラな方に体を向けた。
「ああ、そうでしたね。メリーとも話したんですけど、この一月近く、バーバラさんと一緒に行動していてとても大変でしたが、同時にすごく楽しくもありました。ですので僕たちをバーバラさんのパーティメンバーに加えて欲しいと思いまして」
「私も一緒に居たのはレイさんよりかなり短い期間でしたが、それでもお二人から学んだことは多くて楽しかったです。まだまだ未熟者ですが、今度はお二人のパーティメンバーとして頑張りたいんです」
「お、おう。アタシは助かるが、お前たちも知っているようにアタシはちょっと無茶をするぞ? それに付き合うことになってもいいのか?」
「はい、僕はそれで構いません」
「ちょっと……? い、いえ、それでも私はお二人に付いて行ってみたいです」
「わかった! 2人とも、これからよろしく頼む!」
(あれ? もしかしなくても今重要な話とかしてたりする? くそ、何を話してるか気になるんだけど)
バーバラがレイ、メリーそれぞれと固く握手をしている。やっぱり表情と動きだけで言っていることを全て想像するのは無理がある。誰、彼構わず、そして常に《念話》を使っている訳にもいかないので苦手でも少しずつヒアリングができるようにならなければ、色々置いていかれる。そうなると俺の肩身が……。
そんなことを考えているとメリーに背中をトントンと叩かれた。《念話》を使用する合図だ。俺はメリーだけへと繋ぐのも後々面倒になることを思い出し、他の2人へも魔力を飛ばす。3人と《念話》を繋ぐと俺を経由して、伝えようと考えた言葉がそれぞれに伝わり、グループチャットのようになる。3人ぐらいならこの状態でもギリギリなんとかなるが、これ以上の人数で繋いだり、3人がすごい勢いで話をしたりすると俺のキャパオーバーとなる。
(話し合った結果、私とレイさんがバーバラさんのパーティに加わることになりました。クインスさんよろしくお願いしますね!)
(よろしく頼むよ、クインス)
『……よろしく』
早速話を理解できていないせいで置いてけぼりを食らってしまった。メリーが簡潔に言ってくれたので話の結果はすごくわかりやすかったが、経緯が行方不明だ。しかし、経緯を聞きたくてもこれは一旦終わった話っぽいので流れ的に改めて聞けるような雰囲気でもなく、俺はただそう答えるしかなかった。
誤字とか見つけたら誤字報告機能で教えて下さると助かります。




