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亀に転生しました  作者: よっけ
34/50

第34話 賢いだけの穀潰し

「いや〜バーバラさん、お見それしました。まさか一番難易度の高く、魔物との信頼関係が試される項目までやって頂けるとは」


 受付の人が拍手をしながらニッコニコで近付いてきた。これは文句無しの合格の顔だろう。自分では全ての試験の内容をこなすことができたと思っているが、こういう反応を見ると改めて安心ができる。


「ん? これに書いてあることは全部やらなければならないんじゃなかったのか?」

「えっと、試験の内容が書かれた紙には難易度別の試験の項目が設けられていた筈なのですが」

「あーすまん。しっかり読んでなくて、上から順に全部やっていってしまっていた。いけなかったか?」


 バーバラが受付の人に尋ねている。俺かバーバラに何か不備でもあったのだろうかと少し不安になる。


「いえいえ、項目を多くこなしてもらう分には全く問題ありません! 目的の難易度のものだけ挑戦される人も居ますが、むしろ最初の項目から順にやって頂くことで意思疎通や信頼関係の構築が高い水準でなされていることが分かったのでこちらとしては助かったぐらいです」


 どうやら大丈夫だったみたいだ。全く、焦らせてくれる。全問解くことができたのにマークシートを一個ずらしで書いてしまったみたいな気分になった。


「それは良かった」

「それにしても短い期間でしたでしょうに、良くその関係を築けましたね。その秘訣を売ってもらいたいぐらいです」

「悪いが、無理だな。これはたまたまコイツが物分かりが良くて、頭がいい例外中の例外だっただけだ。他の魔物でアタシが同じ方法を試しても上手くいかないだろうよ」


 受付の人とバーバラが俺の方を見る。なんだ? まさか悪口なんかは言ってないだろうな? そんなことをしていたら、あれだ。あれをああやってああするぞ?


「それは残念です。魔物を上手く使役できるようになる方法があるのなら教えて貰えると助かるのですが」

「それは地道に卵の孵化からスタートするとか、小さい頃から育てるとかするのが一番だろうな」

「やっぱりそれが一番ですか。魔物を簡単に使役できるようになる方法があるとかそんな上手い話ないですよね。とりあえず試験合格おめでとうございます。その子の正式な首輪……を着けるのは無理そうですね。ですので腕輪は後日お渡しするとして、彫る名前はどうされますか?」

「アタシ的には"ニヤけ面"でもいいんだが、そうすると本人が怒るんでな。クインスにしといてくれ」


 バーバラのそのニヤニヤ顔は見ていて不安になる。悪巧みなんかせず、ちゃんとした手続きはしているんだろうな。


「へー、その子付けられて嬉しくない名前っていうのが分かるんですね。かしこまりました。クインスさんですね。正式な腕輪ができるまではこの仮の腕章を町の中では付けさせておいて下さい。よっぽどの魔物禁止の場所でなければ、お渡しした腕章を見せれば通じる筈です」


 受付の人が俺の腕に布でできた腕章を着けてくれた。これが目印になって俺は自由に動くことができるのだろう。物をよく無くす俺だが、これだけは絶対に無くさないようにしなくては。


「分かった。こんな飛び入りで試験をしてくれてありがとう。お礼と言ってはなんだが、厄介そうな依頼を見つけたら優先して受けてみるよ」

「冒険者さんたちが受けたがらない依頼が少し溜まってきているので、本当に助かります!」

「コイツに冒険者の仕事を体験してもらいたいってのもあってな。色々な経験を積んで組み手し甲斐のあるやつに育ってもらわないと。なあ、クインス?」


 受付の人が喜んでいる。バーバラも機嫌が良さそうなのでお互いの得になる取引ができたようだ。しかし、急に俺に同意を求めてくるように話しかけてきたバーバラからは何故か俺にとっては望ましくないものが未来に待っている。そんな予感がした。



+ + +



 バーバラが取っていた宿で俺は眠りについた。住処を転々としていた俺にとって寝床が変わることなど日常茶飯事。寝床が木の床になったところで睡眠にはなんの支障も無かった。

 ぐっすりと眠れた俺は清々しい朝を迎えた。乾いている甲羅を水魔法で軽く湿らせると爪を引っ込めて壁をよじ登り窓をなんとかして開けて降り注ぐ太陽の光を甲羅でたっぷりと浴びる。これをやると今日という日を気持ち良く迎えることができるのだ。


「うぅ、眩しい」


 おっと、同じ部屋でまだバーバラが寝ているのを忘れていた。俺はそっと窓を閉じてこれまたなんとか鍵の付いた扉を開けて部屋の外に出た。バーバラが起きるまでの間は外で引き続き太陽の光を浴びていようと思う。


(あっ、ちょっと待てよ。流石に鍵を掛けずに外に出るのは無用心か?)


 俺は部屋の中に戻り机の上に置いてあった鍵を持ち出すと、再び部屋を出て扉を引っ張って閉める。それからドアノブに跳び乗ると鍵穴に鍵を差し込んで施錠した。内側からなら鍵が無くても開け閉めできる構造になっているのでバーバラが閉じ込められることはない。


(まあバーバラなら窓から飛び降りても無事に済みそうだけど。えっと、出口はどっちだったか?)


 鍵を《アイテムボックス》にしまい、のそのそと通路を進むと下へと降りられる階段を見つけた。確かこの階段の近くに受付があった筈なので出口は階段を降りればすぐだ。ぴょんぴょんっと階段を何段かずつ飛ばして降りるとすぐに1階に着いた。


(おっ、出口見っけ)


 ホールまで出ると思った通りあっさりと出口は見つかった。俺は真っ直ぐ出口まで向かう。


「まぁ! 大きい亀が歩いてる!?」


 すると、もう出口は目の前というところで後ろから驚く声が聞こえてきた。すぐさま声の方を振り返ると恰幅のいいおばちゃんが俺を見て驚きの表情を浮かべていた。そういえば、夜も遅かったので入居者や管理人の人も寝ているだろうと俺が居ることは誰にも伝えていないんだった。格好から見ると宿屋を経営している女将さんだろうか? しかし、このまま騒がれるとまずいことになりそうだ。とにかく俺が無害であることを示さなければ。俺は右腕に巻いた腕章をおばちゃんに精一杯アピールした。


「ああ、冒険者さんが使役している魔物さんだったのね! 昨日まで居なかったものだからびっくりしちゃったわ。やーね、もう!」

(おお、すごい! 効果的面だ! すぐに理解してもらえたっぽいぞ!)


 落ち着いたかと思えば、恥ずかしそうに口を軽く左手で覆い、右手をパタパタさせている。典型的なおばちゃんといった感じだ。


「丁度よかったわ。その腕章に書いてある名前は……バーバラさんね。クインス君、朝食ができたからバーバラさんを呼んできて欲しいんだけど……そうね、どうしたら伝わるかしら」


 おばちゃんが俺に何かを伝えようとしている。俺の腕章を指差すと今度はその指を上に向ける。そして両腕を使って引き込むような動作を見せた。


(腕章には俺の種族と名前、そして飼い主であるバーバラの名前が書いてあるらしいけど、指を指しているのはバーバラの名前か? となると上に指を指したのはバーバラが居る場所で……ここに連れて来いってことか?)


 何とかそれらしい解釈はできたが、果たして合っているのだろうか。


(まぁ、間違えていたら仕方ない。《念話》は出来れば事情を知っている人以外には使いたくないし、バーバラを起こして来よう)


 バーバラが寝ていることをいいことに、俺も日光浴をしてダラダラしようとしていたが、本当はもうそれなりの時間だろう。いい大人ならいい加減起きるべきだ。俺は解釈を間違えていたときの言い訳を考えながら階段の方へ走っていく。


「多分伝わってくれたみたいね。あれだけの動きで理解してくれるとは流石、賢いわぁ。冒険者ギルドに認められただけはあるわね。あっと感心してる場合じゃない。朝食の準備を終わらせなくちゃ!」


 たったったったと階段を何段も飛ばして駆け上がり、2階の通路を進んでバーバラの居る部屋まで戻ってきた。鍵を取り出してドアを開けて部屋の中を見るとまだバーバラは寝ているようだ。俺は窓を全開にしてからベッドの上に居るバーバラの肩を揺する。念のため頭を魔力で守っておくのは忘れない。


「ん〜〜〜! うっとぉしい!」


 俺の頭にバーバラの裏拳が炸裂した。予想通りというか、見てわかる通りバーバラは寝起きが悪かった。しかし、俺はそれを予見して頭を硬化していたのだ。だからダメージを負うのは、硬い頭を殴ったバーバラだけである。


「いってぇ!? なんだ!?」


 バーバラが不意の痛みで跳ね起きた。ベッドの上に居る筈なのに石のような物を殴り付けてしまったら誰だって驚くだろう。これで二度寝はできない筈だ。


『女将さんが呼んでたから起こしにきた』

「もう朝食の時間だったか。ふあ〜」


 大きなあくびだ。だがまた寝に入ろうとはしない。おばちゃんが呼んでいる理由を知っているのだろう。俺の勘違いではなく本当に用事があって良かった。


 バーバラと共にホールまでくるといい匂いが漂ってきた。呼んでいたのは食事の準備ができそうだったからか。個室で食事付きとは結構上等な宿なんじゃないか。

 そのまま食堂まで来るとおばちゃんが食事を長机に並べているのが見えた。他の入居者はその周りで既に食べ始めている。中にはもう食事を終えそうな人も居た。バーバラは多分、来るのがかなり遅い方そうだ


「あら、本当に呼んできてくれたわ」

「悪い、少し遅れた」

「これぐらいは全然大丈夫よ。それにしてもあなたのクインス君、本当に賢いわねぇ。起こしに行く手間が省けちゃった」

「コイツは特別頭がいいからな。ある程度のジェスチャーがあれば、大体は伝わるから用があるときはガンガン命令してやってくれ」


 バーバラがまたなんか無茶を言っている気がする。付き合いは短い筈なのになんとなく伝わるのは何故だろう。バーバラがわかり易いだけか? バーバラが席についたので俺は何故だかわからないままその席の足元で腹を地面に付けるようにして横たわった。


(今日はレイとメリーと話し合いをする。朝食を食べたら冒険者ギルドに行くぞ)

『了解』


 繋いだままの《念話》でバーバラが思念を飛ばしてきた。内容は今日のとりあえずの予定だ。そしてバーバラがどこにいつ集まるのかを説明していると大皿に魚や野菜が乗った物をおばちゃんが持ってきた。


「これ、クインス君の分ね」


 俺の目の前にその大皿がドンと置かれた。


「すまんが、今持ち合わせが無い。コイツの分の朝食代は後でまとめて払う」

「ああ、そうだったの。なら勝手に用意しちゃって悪かったわね。もう少しでダメになっちゃいそうな余り物を持って来たから、今回は安くしとくわ」

「助かる」


 食事を用意されてしまったなら頑張るしかない。怪我が治り次第自分の食い扶持ぐらいは余裕で稼げるようにならなければ、情けなくて仕方がなくなってしまう。

誤字とか見つけたら誤字報告機能で教えて下さると助かります。

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