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亀に転生しました  作者: よっけ
25/50

第25話  予想外の敵

(そういえばいつもコイツとはお近づきになりたくない一心で行動してたから、面と向かって睨み合いになるのは初めてだな)


 遠くから覗いているだけで視線を感じるなど意味不明なこと言って俺の位置を察知してくるような気がしたのでしっかり観察することができなかった。だから猫耳女についての情報はほとんど無い。知ってることといえば弓と剣を使えるということぐらいだ。

 弓は俺自身が狙い撃たれたし、剣はゴブリンたちが血祭りに上げられているのを見ていた。弓の技量が優れているというのは身を持って知っているが、剣は敵の数が多かったものの所詮ゴブリンだ。一度に一対多を難なくこなす視野の広さや技術は正直すごいと思ったが一対一の強さはやっぱりわからない。

 結局、接近戦での猫耳女は漠然と強いということしか分からないのだ。足りない情報は足で稼がなければならない。


(まずは慎重に一歩引いた動きで試してみるか)


 相手をよく知らないうちに身の入った突っ込みを仕掛け、躱されて避ける余裕のないまま剣でバッサリなどごめん被る。


 俺は猫耳女の元へ軽くダッシュする。しかし軽くと言っても足に自信のある俺のダッシュだ。相手の動きに対応できる余裕を保つため多少スピードを落としているとはいえそれでもかなり速いはずなのだが、当然のように目がジグザグと走る俺の姿を捉えている。間違いなくガードなどの何かしらのアクションは取られるだろう。それは覚悟の上で仕掛ける。


(うらぁ!)


 まずは挨拶がわりの爪での切り裂き攻撃。収納されていた爪がにゅっと飛び出しリーチが変化する。届くはずがないとタカを括った相手なら不意をつけるのだが、爪は簡単に剣で受けられてしまう。ギリリッと刃物同士が擦れ合ったような音がして俺の腕があらぬ方向へ逸らされた。本腰を入れていなかったとはいえ予想外のいなし。自分の攻撃がまともに受けられたことすらほとんどないのに受け流された経験などあるはずもない。来るであろうと身構えていた硬いものに硬いものをぶつけたとき特有の衝撃や反発が思いの外小さかったため、前のめりになり体制が崩れてしまう。

 そんな隙を晒した俺を敵が見逃すはずもなく、即座に剣の振り下ろしがくる。


(ヤッバ!)


 反射的に剣を受ける甲羅に魔力を込めて硬化した直後、上からきた強い衝撃に宙に浮いていた俺は叩き落とされる。背中に感じたあまりの衝撃に怯みそうになるが、なんとか気を強く保ち、迫りくる地面を魔力で強化した足で蹴って距離を取る。結果、なぎ払いによる追撃はギリギリで免れることができた。あれほどの衝撃、魔力で強化した甲羅であっても何度も受けたいものではない。

 無事に安全圏にまで引き、バッと後ろを振り向くと剣を振り下ろした状態の猫耳女と目があった。一瞬目が点になっていたが、すぐに不敵な笑みを浮かべてくる。大方今ので勝負を決めた気でいたのだろう。


(まだなんもしていないのに、こんな簡単に終わってたまるかい!)


 どんな攻撃にも対処できるように余裕を持って突っ込んでいったはずなのに危うくそのままやられてしまうところだった。心臓がバクバクと激しく鳴っているのを感じる。

 気持ちを落ち着かせるとフンっと鼻から息を吹き出し、気合を入れ直す。気が焦ったまま戦えば今度こそ本当に命はない。

 俺が精神を立て直すと猫耳女もいつの間にか俺が突っ込む前の構えに戻っていた。


「はっ、そうこなくっちゃあ面白くねぇ!」

(ほんと何言ってるかさっぱりだなぁ)


 そこそこ長い期間学んできた言語ですら正確に聞き取れない俺だ。数回しか聞いたことのない言葉を聞き分けられるはずもない。しかし目の前の敵は言葉こそ分からないものの、表情の方は雄弁だった。


(俺が一瞬でやられそうになり落胆、その後の動きで見直したという感じか? 敵に歯応えがあって喜ぶとかやっぱ戦闘狂だわ。普通簡単に倒せる方が危険も少ないし楽でいいだろ。ん? ということはまさか、こいつらが最近俺をつけ狙っているのって俺が人にとって害獣だからって訳じゃなくて……)

「今度はこっちから行くぞ!」


 猫耳女と不愉快な仲間たちが執拗に俺を狙い続ける理由に思い至りそうになったところで猫耳女が急に距離を詰めてきた。俺が仕掛けてこないのを見て焦れてしまったようだ。時間にして数秒も経っていなかったはずだがこういう状況で時間が長く感じるというのは不本意ながら分からなくもない。


(この場所でやるのは不利そうだな。いつも通りに得意なところに引き込むか)


 遮蔽物の無いひらけた場所で体格、パワー、技術で完璧に負けていると分かった敵を相手にしたくはない。俺は迫ってくる猫耳女と付かず離れずの距離を保つことで木が密集している所にまで猫耳女を誘い込むことにする。


「おいこら、待て! 逃げんな!」


 思惑通り俺が逃げると思ったのか猫耳女が追いかけてきた。逃げたいのは山々だが、ある程度距離が離れると弓が飛んでくるだろうし、例え逃げ切れてもまたこいつの仲間に居場所を特定され一生追いかけ回される未来が見える。


(そんな未来は断じて認めない! こうなったら二度と俺を狙いたいと思えない体にしてやる!)


 自分でも自覚するぐらい邪悪な笑みを浮かべながら走っているとようやく木々が乱立しているところまで来れたので一際立派な木を目掛けて一息に跳ぶ。跳んでいる最中、空中で溜め込んでいた魔力を全身に限界まで巡らせる。すると体の周りを高熱の物体の周りにできるような蜃気楼のようなモヤがかかり、普段とは比べものにならない力が身体中に漲る。

 そのまま木まで到達すると側面を思い切り蹴り、反転する。ギチギチと体が嫌な音を立てているが、代わりにさっきの速度の想定のままでは絶対防げないであろう速度にまで一気に達した。


(うおりゃっ!)

「くっ!? これはあのときアタシから逃げた状態か。流石に速いな!」


 猫耳女は急な俺の反転攻撃に足を止め、ギリギリで躱して見せた。これに反応できるとはとんでもない動体視力と反射神経だ。しかし、俺の攻撃はこれだけでは終わらない。


「なっ!? うっ、ぐぅ、クソっ!」


 魔力で強化された身体能力にあかせてめちゃくちゃな軌跡をこの狭い空間内に描く。木を蹴り、減速しないようわざと爪を掠らせてそのまま別の木まで跳び、再び木を蹴るのを繰り返す。相手は俺の姿をまともに視認できないまま掠り傷を増やしていき恐怖と出血からどんどん弱っていくという自分で言うのもなんだが、かなり惨い技である。

 しかし、猫耳女はこれまでの敵と違い、目だけは俺の姿をかろうじて捉えている。それでも目に体が追いついていないといった様子だ。現に数回に一度しか攻撃は躱されていない。


(よかった。これは流石に完全には見切れないようだな。けど、俺としてもこの状態で在り続けるのは負担が大きい。このまま粘られると正直辛いな)


 莫大な魔力と魔力による回復力でこの無茶苦茶な強化状態であってもそれなりの持久力を手に入れた俺だが、それでも無茶をしていることに変わりはないので戦闘が早く終わることに越したことはない。俺はなるべく早く相手の戦意を挫かなければならない。相手にもう戦いたくないと思わせることができたなら俺の勝ちである。



+ + +



 しばらくの間周りを跳び回っているのだが、猫耳女は痛々しい切り傷でいっぱいになっているというのに一向に倒れる気配がない。


(どうなってる!? 痛いだろ!? 怖いだろ!? なんでまだ折れないっ!?)


 猫耳女のタフネスと集中力は俺の想定を遥かに上回っていた。肉体のダメージ量では無茶な動きの反動を含めても遥かに猫耳女の方が上回っているというのに俺の方が精神的に参りそうである。それに、魔力は少しずつ新たに取り入れながら戦っていたのもあってある程度は残っているがこれ以上連続でこの動きを続けるとしばらく動けなくなる。少しでもインターバルを挟み身体を休めなければならない。俺は一旦地面に降り立ち、すぐさま痛む箇所に魔力を集中させる。


「ハァ、ハァ、ようやく途切れたか。一生続くんじゃないかと焦ってぜ」


 猫耳女は息も絶え絶えの様子だ。あれだけ苦しめたのだ。一瞬で復活してきたら俺の苦労が報われない。

 しかし、何故だろうこのままいけば間違いなく先に倒れるのは猫耳女であるはずなのに目から諦めを感じられない。仲間の増援を期待しているという訳でもない気がする。何かここから自力で巻き返す方法でもあるのか。

誤字とか見つけたら誤字報告機能で教えて下さると助かります。

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