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亀に転生しました  作者: よっけ
22/50

第22話 戦闘の予感

「こりゃあ、控えめに言って珍しいだけのただのゴミだな」


 鑑定屋が年季の入ったレンズを覗き込みながらバッサリと期待を断ち切るような言葉を告げる。


「そこまで丈夫でもないし防具に加工しても役には立たんだろうなあ。ここまで綺麗に形が残っている皮は珍しいからコレクターには売れそうだが、余計な手が加わっているせいで少し価値が落ちてもいる」


 続けられた言葉にバーバラは多少予想していたこととはいえ少々落胆し項垂れた。査定はあくまでついででしかなかったが、買取価格が高いことに越したことはなかった。


「それで、他になにか分かりましたか?」


 初めからそこまで期待していなかった軽装の男ことレイは査定金額の低さなどあっさりと流し、本当の目的である調査の手がかりについての話を促す。

 鑑定屋はレンズと泥を落としてきれいになったペラペラの皮を机の上に置いた。


「これは【クロウタートル】の脱皮した皮だな。補強に使われているものはステアの葉。これがあんたらの言っていた通り本当に動いたのだとしたら魔力で無理矢理動かしていたってだけだろうな。動くための機構が一切刻み込まれていないからかなり非効率だが、でたらめな量の魔力を込めれば動かせないこともない」


 鑑定屋は正直、これが動いていたことなどあまり信じられなかったが鑑定を依頼できるだけの金は積まれたことではあるので、ひとまず疑う心を抑えて鑑定を行った。結果、常識を知らない魔力馬鹿がこの皮を操っていた。それぐらいしか二人が見たという現象を説明できなかった。それほどの魔力を持つ者なら魔法学校が放っておかず、それなりの教養を持っていてもおかしくはないので、なんともチグハグな印象を受けた。


「確かに、アタシがコイツに斬りかかったとき動きも反応も鈍かった。人をこけにしたようなウザい反撃にムカついて忘れてたが、他の二つの気配が動かなかったのも動かなかったんじゃなく動けなかったのかもな」


 一つを動かすのも難しいというのに三つを同時など動かせる訳がないのだ。腕を組みながら納得顔のバーバラ。

 そんなバーバラとは対照的にレイは難しい顔をしていた。


「僕には僕たちが追っていた魔物の“ニヤけ面”と大規模に切断された木々、そして今回の僕たちを逆に罠にはめたやつ。どうにも関わりがあるような気がするんですよね」


 レイはその難しい顔のまま確信には至れていない自らの直感を話す。レイ自身も荒唐無稽な話だとは思ったが、ここまで変なことが続くと嫌でもなにか関係があるのでは? と思うのが人間だ。ここは“ニヤけ面”が森に住み着くまでは何の変哲もない普通の町だったのだ。例えそれらがなんの関連性もない出来事だったとしても脳内で共通項が勝手に結びついてしまう。


「“ニヤけ面”、この皮に一手間加えたやつ、穴を掘って穴とその真上に小細工したやつ、森にあんな跡を残したのやらが全部同じ存在って言いたいのか?」

「そうとまでは言いません。ただ僕の罠を壊した跡と切られた森の木の断面が規模は違えどそっくりでしたし、馬鹿にはしても命を取ることに執着してないっていうところと罠に殺意を感じないってところも……」


 バーバラは何言ってんだコイツと言わんばかりの目をレイに向ける。レイの方もなんとなく引っかかるといったレベルでの話なので自信などあるわけもなくバーバラの視線に負け、どんどん尻すぼみになっていった。

 

「可能性は低いがこういう話を聞いたことがある」


 どんどん小さくなるレイを見て可哀想になってきた鑑定屋はレイに助け船を出すべく、話を切り出した。


 長く生きた魔物の中には下手をすれば人の言葉を理解するほどの知能、知性を持つようになる個体すら存在するという。

 ある魔物は危険な場所にしか生息しない貴重な動植物を採ってきて人と物々交換を行い、噂を聞きつけたそれなりに頭の回る商人が言葉巧みにその魔物を騙そうとしたところ、逆に返り討ちに遭ったらしい。それも武力ではなく知力で。

 そこまでいくと話に尾鰭がついたのではと思わないでもないが、魔物にはまだまだ隠されている謎も多く、絶対に有り得ないとは言い切れないのが現状だった。ましてや“ニヤけ面”は二つ名持ちの突然変異個体だ。普段から異常な行動を繰り返しているので通常の凶暴で見境の無い魔物と同じように考えるべきではないかもしれない。


「魔物について知られていることなんてごく一部。別の国には小さい頃から一緒に育ってパートナーにまでなった魔物だっているらしいし、ちょっと器用で人間かってぐらい嫌らしい魔物が居てもおかしくは……ないかも」


 鑑定屋は話し終わりになってようやくバーバラの様子がおかしいことに気付いた。うつむき、僅かに震えている。まるで大好物を目にし主人に待ったをかけられた犬のようだ。明らかになにかを抑え込むようにしてウズウズしていた。


「ってことはなにか? “ニヤけ面”のヤロウがアタシを落とし穴に落として変な粉浴びせた後、この皮人形をけしかけてきたってこともあり得るってことだよなぁ?」


 バーバラの方から人形の元に襲いかかっていったのでけしかけられたと言うには微妙に違う気がしたレイだったが、変なことを言って自分に注意が向いても嫌なので口には出さなかった。普段は気のいいバーバラだが獣人の血が騒ぐのか、たまに危険な雰囲気を放ち出すのでそういうときは触れない方が賢明なのだとレイはこの短い期間で悟っていた。


「また会うのが楽しみになってきたなぁ!」


 内心に渦巻くのが中々尻尾を掴ませず現在進行形で手こずらせてくれていることへの怒りか、知能が高い魔物という滅多に闘えないような標的と闘えるということで湧き上がる闘争心か、周りの二人には分からないがこれだけは確信できた。“ニヤけ面”が見つかればバーバラは即座に襲い掛かっていくということが。

 そこに至るための手伝いをしているレイ自身がそう思うのもどうかとは思ったがこの状態のバーバラに完全にロックオンされているまだ見ぬ“ニヤけ面”に少し同情してしまいそうになった。



+ + +



「ッ!?」


 何故だか分からないが今背筋がゾワッとした。周りに危険なものが近づいてきたのかと焦って辺りを探ってみるも特にそういったことでもなさそうだ。

 俺の野生の勘がおかしくなってしまったのだろうか? 年老いてそういうセンサーが馬鹿になってしまったというなら分かるが、俺はまだそこまで長く生きていない。この若さでボケが入り始めるなど信じたくない。断固として認めたくない。

 たまたま今は身の危険について敏感になっているのかもしれない。しかし、それが自然界に生きる生物として当たり前なのだ。ここは一部の人間以外脅威にならず気候も穏やかなのでついだらけてしまう。もしかすると勘が正しく本当に脅威が迫っているというのもあるかもしれないので一応この場から離れよう。

 そしてそれがもし本当だったなら自分の目や魔力感知が脅威を見逃したということなので今一度、索敵を練習し直したい。

誤字とか見つけたら誤字報告機能で教えて下さると助かります。

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