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亀に転生しました  作者: よっけ
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第2話 転生

 神様らしきお爺さんと問答をすることになった俺は、高校受験で面接を受けたときのこと思い出した。そのまま何も考えずに問答を受けられれば良かったのだが、余計なものも思い出してしまったせいで当時のプレッシャーも蘇らせることになり、急に緊張し始めてしまった。

 先ほどまでは突然の状況に気が動転していて無駄なことを考える余裕がなかったのだが、改めてこの状況を考えてしまうともうダメだった。今から始まる問答で決まるのは正真正銘この先の未来で、吐きそうなほど緊張してしまうのも仕方がないと思う。

 俺が緊張で体がガチガチになっていると、


「そう堅くなることはない。安心せい、よっぽど酷くない限り転生は認めておる。まあよっぽど酷い場合は地獄に叩き落とすんじゃが」


 最後の言葉のせいで全く安心出来なくなった。

 何で上げてから落とすのだろうか。

 駄目だった場合どうなるかを説明してくれるのは親切なのかも知れないが、気持ち的には全くありがたくなかった。


 それから俺は神様からの質問をどもりながらも消化していった。

 別に答え方も含めて採用、不採用を決める面接ではないのだからはきはきとする必要はないはずなのでそこだけは気が楽だった。

 普通の面接と違って自分を良く見せようと嘘を交えて話すことはできない。

 というかやっても意味がない。

 口で嘘をついても心の読める神様に対しては全くの無意味、それどころか質問によっては嘘をつく方が不誠実であるとしてマイナス評価に繋がりそうだ。

 神様が出す質問は心理テストに似ていて、正直これに答えて何が分かるのかと考えてしまうようなものもあった。


 最後の質問を答え終わると、少し間が空く。


(なんだこの間は……あぁ、俺の出した答えを精査する時間か。でも、死ぬほど心臓に悪いぞ。早く何か言ってくれ!)

 

 体感ではものすごく長い時間を経て、おもむろに神様が口を開く。

 

「うむ、合格じゃ」


 俺は重い荷が肩から降ろされた様に息を吐いた。

 

「オッシ!!」


 そして、普段から見た目の感情の起伏が少ない俺にしては珍しく、小さくガッツポーズをしてしまうほど喜んだ。そんな俺を見て神様は労うような表情を見せた。


「お疲れさん。さて、早速で悪いが転生の準備を始めるとするかの」


 俺は静かに喜んでいる時、感情が顔に出る。具体的に言うと少しニヤついてしまうのだ。いつもはできるだけこの表情をしないように心がけているのだが、不運なことに今回は感情を抑えきれなかったようだ。

 その顔のまま神様の方を向いてしまったので、


「うわっキモっ……コホンコホン失礼」


 思わずといった様子で神様は優しげな顔を歪め俺の心をえぐった。正直、自分が死んだのだと聞かされたときよりショックだった。


「そんなことはどうでもいいから続きをお願いします!」


 本当はどうでも良くはなかったが、ニヤけ面をキモがられた悲しさと恥ずかしさをごまかすようにすぐさま、神様に続きを促した。


「そ、そうか……ではまずはあっちの世界の常識からじゃ」


 神様は俺の様子を見て、そのことにはもう触れない方がいいと判断したのか淡々と話し始めた。


 この世界には人間以外にも人種が存在する。

 エルフ、ドワーフ、獣人、魔人が例に挙がる。

 一応種族固有の言語は存在するそうだが、共通語が存在するので異種族であったとしても問題なく言葉は通じる。共通語が広まってからは固有の言語を使える人がかなり減ったらしい。

 

 そして、この世界には魔法や魔素、魔力がある。

 魔素は空気中に含まれていて魔力の元となるもので、普通は魔素をそのままの状態で扱えない。なので体の中にある魔石という器官で比較的扱いやすい魔力に変換し、それを魔法や魔法等に使用する。ちなみに魔石が発達している生物やアンデッドといった超常の存在をまとめた魔物と呼ばれるものもいるらしい。ホラーは苦手なのだが……。


 他にはスキルや加護といったものが存在する。スキルはその技術を使うことができるぐらいに練度が高まると発現するもので、加護は複数居る神様が興味を持ったり、認めるに値すると判断した対象に与えることがあるものらしい。


「転生特典で色々教えたが、大体は現地で育てば自然と学べることばかりじゃ。まあこれである程度異世界のことは説明したつもりじゃが、転生するにあたって何か聞きたいことはあるか?」


 折角の機会なので俺は色々と聞いてみることにした。


「俺の他に転生者は居ますか?」

「大量に、とは言わんがそこそこ()るぞ。若くして死んだ者の中から一部を抜き取って転生させておるからな」


 それなら同郷の人にも会うこともあるかもしれないな。まあそのことを隠しているかもだが。


「転生者には特別な力は授けているのですか?」

「気に入った者にはスキルを授けることもあるが、それにしたって多少人生を便利にする程度のものしか渡さん。問題のあるやつは極力省いているつもりじゃが、どんな人格者でも強大な力を手に入れてしまうことで変わってしまうこともある」


 それを聞いて特別な力をもらえないことを残念にも思ったが、少し安心もした。行き過ぎた正義感や力に溺れることによって道を踏み外してしまうことは創作物ではよく目にする話だ。仮に俺が特別な力を授けられるとして自分だったら大丈夫とは考えはするが、そんなことは調子に乗ってしまった人も含めて誰しもが考えていることだろうから当てにはならない。心理学の授業で習ったあるグループを看守役と囚人役に分けて生活をさせた実験からも人間の精神は周りの環境に引っ張られて変化することが分かる。

 

「転生する種族は選べますか?」

「転生者側から選ぶことは出来ぬ。人類のどれになるかはお楽しみじゃ」


 もし選べていたら、優柔不断な俺はとても時間をかけてしまうだろうからそれはかえって良かった。

 

 人生で最後かもしれない神様への疑問解消のチャンスなので頭をフル回転させているつもりなのだが、いかんせん焦っているせいか質問が全く出てこない。分からないことは往々にして困ったときに初めて分かるものだと思う。それでも必死に考えるのを止めないでいると、自分が語学の勉強が大の苦手であったことを思い出した。

 たらーと額に汗が流れた。

 生前、英語や中国語といった語学に何度苦しめられたことか。大学ではまだ簡単そうだと中国語を選んで危うく単位を落とすところだった。グローバル化が進み外国語が話せて当たり前の社会になると小耳に挟んで絶望したこともある。このままいくと赤ちゃんの状態で転生し、たった一つしか無いとは言え異世界言語を一から学び直す事になる。俺は思わずそんな苦行をこなす全赤ちゃんに敬意を表したくなった。


 そのことに思い至るまでは魔法とか剣とか楽しみだなあとのほほんとしていたが、今の考えはそんな軽い気持ちを軽々と打ち砕いた。


「い、異世界言語を覚えないで済む方法はありますか?」

「あるにはある、のだが……」


 含みを持った言い方だった。

 何かデメリットがあるのかも知れない。

 俺はそれでも必死に食らいつく。


「それはどんな方法ですか?」

「お主の記憶をある程度言葉を扱える年まで封印するという方法じゃが……そんなに覚えるのいy――」

「言語を一から覚えるのは嫌です!!」


 俺は思わず食い気味にそう答えた。

 神様は重いため息をつき、いかにその方法が面倒なのかを話し出した。


「まず、封印の魔法はとても難しい。本当ならその筋で一流の魔法使いが五人は必要なところじゃ。

そして、記憶はデリケートでのう。ただでさえ難しい封印の魔法を記憶に対して使うのはものすごく神経を削られる。最後に、言葉が“ある程度”使えるようになるという条件が曖昧なせいでいつまで封印が続くかの条件付けがかなり面倒なのじゃ」


 デメリットは全て神様のものだった。

 神様は嫌そうな顔でそれでも頼むのか? と言外に語りかけてきた。


「よろしくお願いします」


 少し申し訳なく思ったが、語学の勉強が嫌いな俺は一蹴してしまった。

 これで転生の前段階は終了したのか、神様は少し不満そうな顔でブツブツ言いながらも魔法陣っぽいものを準備し始めた。


 そうして神様は露骨に嫌な顔を継続させたままだったが、俺は転生の儀を迎えた。


「お主がこの魔法陣に乗ってワシが最後の仕上げをしつつ念じれば、転生は終了じゃ」


 俺はドキドキしながらそっと魔方陣の上に飛び乗った。

 神様は俺が魔法陣に乗ったことを確認するとスッと目を閉じ、集中し始めると俺の体を幻想的な青い光が包んでいく。ふと神様の方を見ると体の周囲に黄金の輝きが満ち、威厳ある神様の真剣な表情ときれいな光はとても絵になっていた。

 輝きが少しずつ強まり目を開けているのも難しくなったとき、全身を強い衝撃が襲った。

 

「手がすべったー」


 意識が途切れ始めた俺の耳に土壇場では絶対聞きたくないような言葉がかすかに入り込んだ。

 そして次の瞬間、俺はその言葉の意味も聞くこともできず、意識を手放した。

誤字とか見つけたら誤字報告機能で教えて下さると助かります。

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