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亀に転生しました  作者: よっけ
14/50

第14話 行ってきます

『私はね、背中の上で子がある程度育ったと判断すると名を付け、世界のどこかに転移させるということを大体百年周期で行っているんだ』


 百年毎になど気が遠くなるような話だった。二十年程しか生きていない俺にとってそんな長い時間に実感など湧くはずもない。


(……なにかそういう使命を負っているのですか?)


 俺は重い訳があるのかも知れないと思いつつも好奇心からそう尋ねられずにはいられなかった。


『いや? 私が卵を産むのが百年周期なだけで名を付けるのはただの趣味だけど?』


 重い事実を告げられるかもと構えていた俺を余所に母はあっけらかんと言う。使命とかそういうのだったら少しかっこいいなと思っていたので心の中であまりの羞恥心に悶えてしまう。


『長いこと生きてると暇で暇でしょうがなくてね。我が子の成長を楽しみ、一人前になったら名を付ける。その子の性格やら性質を考えてぴったりの名前を付けれたときの快感ときたら……。名前を既に考えていたぐらい期待してた子が死んじゃったりするとちょっと悲しいけどね』


 俺の考えていた重さのベクトルは違うが、長い時を生きてきた苦悩を感じさせるような言葉だった。


(じゃあ、子供が初っ端から二匹だけになったのはビックリしたんじゃないですか?)

『ああ、ビックリしたね。しばらくして全滅した世代はあっても生まれて間もなく数匹だけになることなんてなかったから悪いけどもうダメかと思ったよ。でも、おまえたちは珍しく協力することで生存する(すべ)を覚えた世代だった。しかも片方は一年も経たないうちに【ハングリーベア】を倒すまで成長するときた。おまえたちが生まれてからは退屈する暇も無かったよ』


 一瞬【ハングリーベア】とはなんだ? となった俺だったが、すぐに冬の間襲ってきた大熊のことを思い出す。俺が戦ってきた魔物の中で間違いなくそいつが一番強かったし印象に残っている相手だった。


(【ハングリーベア】って洞穴を襲ってきた大熊のことですか?)

『そうだよ。【ハングリーベア】はその名の通り常に腹を空かした好戦的なやつでな。結構強いからそいつを倒すことが一人前と判断する()()()基準としている』


 母の口ぶりからして本当はもっと成長してから挑むべき相手だったらしい。状況が状況だったから戦うことになったが、普段なら即座に逃げを選んでいただろう相手だった。しかもここにはあれと同等の存在が他にもいるようだ。個体数は少ないだろうからそこまで頻繁には出会わないはずだが、それでも冬になるまで出くわさなくて本当に良かったと思う。


(……シールドはそいつらにどれぐらいで勝てるようになるでしょうか?)

『シールドしだいだな。まぁ、精神的に自立できるようになればそれほど時間はかからないだろう。シールドも年の割に強い。信頼してやるといいさ』


 俺より抜け目なく意外としっかりしていたシールドだ。それにシールドの強さは一緒に戦ってきた俺が誰よりも知っている。心配するだけ野暮だったかも知れない。


(それもそうですね。では、改めてシールドをよろしくお願いします)

『了解した。それじゃあ転移させる前におまえに名を付けよう。我ながら今回もこれ以上無いってぐらい、ぴったりの名を考えついたよ』


 期待が否応にも高まる。思えばシールドには俺が名前を付けたが、俺自身には名前が無かった。それで困ることなんて無かったから意識さえしていなかった。格好いい名前だと嬉しい。


『今日からおまえの名は“クインス”だ。意味は……知りたければ頑張って調べるといい』

(……どうやって調べろと?)


 人間だったならいざ知らず魔物が言葉の意味をどうやって調べようというのか。


『あっはっはっは。長く生きればそんな機会もあるかも知れないぞ? 私のようにな』


 確かに母は物知りに見える。その長い生の中には人や他の知性を持った魔物と交流を持ったこともあるのかも知れない。


 俺はシールドの方を向き《念話》を使用する。全く抵抗(レジスト)されずにすんなり通った《念話》に少し苦笑いする。それだけ俺に心を開いてくれている証拠だった。


『シールド、しばらくお別れだな』

(うん。でもすぐに兄ちゃんに追い着くからね! 僕が行くまで死なないでよ!)

『お、おう。頑張るよ』


 なにか台詞が一部、言う方が逆な気がして釈然としなかったが取り敢えず頷いておく。


『生き方はそれぞれだ。どんな生き方をするにしても、とにかく楽しんでこいよ!』


 母の魔力が高まりなにやら緻密な動きをしているのを感じる。転移魔法の発動の前準備だろうというのは分かったがやっていることが高度過ぎて流石に真似できる気がしない。


『分かった。じゃあ、シールド、()()()、行ってくる』


 そう《念話》で言いながら俺は契約書を《アイテムボックス》から取り出して破り捨てる。破かれた契約書は熱さを感じない不思議で幻想的な炎に包まれ、灰も残らず燃え切った。


『えっ? 今母さんって――』


 少し気恥ずかしくて言えていなかった言葉に母が耳ざとく反応したところで魔法が発動し、俺はどこか知らない場所に転移させられた。

誤字とか見つけたら誤字報告機能で教えて下さると助かります。

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